長編7
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盥廻し -タライマワシ-

こんにちは、初投稿させていただきます、おはぎさんです。

因みに、名前に似合わず甘いものは好きな方ではありません。

今は大学4年生で研究室に通っています。

これからお話しするのは、今から3年前、私がまだ大学2年生だったころの体験談です。

あ、今4年生の私が3年前に2年生だったのは間違いではございません、どうかお察しください…。

それでは始めましょうか。

季節は冬、2月の私の誕生日あたりだったと思うのだがいつだったかどうにも思い出せない。

当時の写真を振り返ってみると2月22日辺りかな?という感じなのだがこの際日にちは気にしないことにしよう、はい。

1年生の時、大学行事のあちこちの実行委員に手を出していた私は、ちょっと自慢できるくらいには顔の広い奴だった。

2月のその日は、前の年の初夏に行われた球技大会の実行委員の仲良しメンバー5人で集まり、私の部屋でタコパ兼ホラー映画鑑賞会をすることになっていた。

私の部屋は6畳一間ロフト付きでさほど広いというわけでもなかったが、何故か皆の溜まり場になっていた。

その時期は後期試験も終わり長い春休み中だったため、みんな夕方の早い時間にはもう私の部屋に集まってきて、買い出しや部屋の片付けなどを手伝ってくれた。

関西出身の友達もいたせいで割と本気のタコ焼きを作ったり、今年の思い出を話したりしながら、壁の薄い私のアパートで夜までみんなでワイワイと飲んでいたのを憶えている。

そしていよいよ腹も膨れた21時頃、本日のメインディッシュのホラー映画鑑賞会が始まったのである。

その日見たのは、日本でも有名になった、ポルターガイストをテーマにしたアメリカのホラーシリーズ「パラなんとか・アクティビティ」。

1、2、第2章という妙な構成の3作品をいっぺんに借りてきて、明かりを落とした部屋でみんなくっつきながら見ていた。

途中のびっくりシーンで飛びあがった私が後ろの壁に後頭部を強打したこと以外は何も起こらず映画鑑賞は終わった。

見終わってみんなが部屋でくつろぎ始めた頃、友人のレンが突然話し始めた。

「そうそう、ポルターガイストと言えばさ、俺の部屋ですンごいこと起きてるんだけど聞いてよ。」

突然の怪談の予感に、皆はレンの周りに集まった。

因みに私は生来の怖がりであるくせに怖い物見たさが強いという何とも自虐的な性格なので、映画を見るとき同様壁に背を付けるようにして話を聞いていた。

――――――

順を追って話すから結構長くなるよ。

去年の11月頃なんだけどさ、ウチで学科の奴らと4人で飲んでたのね。

俺ん家って駅の近くにあるじゃん?

んでね、俺の部屋と道挟んで向かいが実は廃ホテルなんだよ。

結構見た目綺麗だし皆知らんかったでしょ。

まぁそれで、ウチで喋ってる時に4人の中の一人が

「レン、あそこ窓開いてね?」

って言ったんだよ。

あ、そいつはそこが廃ホテルっていうのは知ってたよ。

それでそいつがそんなこと言うから皆で部屋の窓の方に集まって見てみたら、道に面した2階の窓がホントに開いてたんさね。

これは行くしかないってなって、野郎4人で中に入ることにしたんだ。

窓は2階だったけど、脇に電柱あったから結構簡単に入れたよ。

そんでさ、中に入ってみたら廊下の一番端っこの窓だったから、そこから奥に向けてその階の全部の部屋入って探検したんよ。

でも何にもなくってみんなすぐに部屋に戻ってまた飲んだりしてたんだけどさ、しばらくしたら今度は別の奴が

「あれ?また開いてね?」

って。

見たらさ、さっきホテルから出る時にちゃんと閉めてきたはずの窓がまた全開になってたんだよ。

それで皆やべーやべーって言って、写真撮ったら何か写るんじゃね?っていうから俺のスマホで写真撮って見てみたんだよ。

そしたら何も映ってなくてさ、なんだ残念ってなってそっからまた話したりアニメ見たりしてから皆寝たのね。

そんでさ、次の朝起きてみたらテーブルの上に置いてある俺のスマホの画面割れてんの!!

それっから俺ん家でめっちゃやばいこといっぱい起きるようになったんさね。

例えば…

朝学校行くとき部屋の電気全部消していったのに、帰ってきたら全部電気ついててトイレに鍵がかかってるとか、

トイレ入ってたらいきなり扉バンバン叩かれたりとか、

彼女と部屋で二人でいたら、開けておいたリビングのドアが突然閉まったりとか。

――――――

「ね?何かやばくない!?」

嬉しそうに言うレンに、

「一番やばいのはそれ楽しそうに話すお前やろ!!」

とツッコミが入る。

大阪出身でノリがよく、どこかネジが飛んでいそうなヒロであった。

「そんな話ここでしたらさ、おはぎん家にそいつ置いてってまうで」

と笑いながら話すのである。

…とんでもない。

人のスマホ割るような物騒な奴を私の部屋に残していかないでくれ。

その後は皆の怖いような怖くないような話で盛り上がりながら夜を明かし、次の日の朝帰る友人もいれば、昼まで私の部屋で寝てから帰る友人もいる中、お開きとなった。

その日は私も予定がなかったので、昼までヒロ達と惰眠を貪り、昼過ぎに起き出した彼らを見送ってからは前夜の残骸を片付け半日を過ごした。

妙に視線を感じる気がするのは昨夜の話にヒロの発言、そして私の妄想力の所為だろう。

片付けも終わったその日の夜は、その頃ハマっていたネットカフェに行くことにした。

読みたいマンガがあったのも理由だが、一人で家にいたくないという気持ちが足を運ばせるに至ったのだろう。

予定より少し早めに22時半頃に準備を終え、居間と廊下を繋ぐ扉を開け放した状態で、お気に入りのポスト型の貯金箱をドア止めにする。

玄関で靴を履き、廊下の電気を消すために振り返る。

何かが部屋の中にいた。

肌色をして人くらいの大きさの『それ』は、最初は部屋の壁の陰から半身を乗り出した姿勢で静止し此方を見ているようだった。

見ていると言っても顔はなく、腕もなく全身がのっぺりとした肌色をしていた。

怖いのか怖くないのか、幽霊なのかそうでないのかもわからず私はそれを見ていた。

そしてユラユラと揺れながらこちらに近づいてくる気配を感じた瞬間、消しかけた廊下の電気を消すことも忘れ、部屋から飛び出し鍵をかけた。

ネカフェに行く道中は、さっき見たものを忘れるため、そして余計なことを考えないために歌を歌いながら大通りを通るようにして自転車を漕いだ。

ネカフェに到着し、当時読みたかった漫画を抱えられるだけ抱え込んで、その日は朝まで漫画を読んだりゲームをして過ごした。

朝の6時頃に会計を済ませ冬の刺すような冷気と眩しい日差しの中、家路についた。

朝から寝るなんて贅沢だー、なんて思い上機嫌に歌いながら家に着き、玄関のカギを開ける瞬間、手が止まった。

恥ずかしいことに今まですっかり忘れていたが、昨夜の『あれ』はどうしただろう。

朝だし明るいし怖い物なんかない。

そう自分に言い聞かせ、開錠し、一気にドアを開けた。

絶句した。

部屋への扉が閉じていたのだ。

ドア止めに使っていた、100円玉のぎっしり詰まったポスト貯金箱は足元に転がっていた。

行こうか退こうかか逡巡していると、部屋の中から

「ギッ…ギッ…」

と音が聞こえた。

ロフトへ上る梯子のすぐ近くの床を歩くとその音がする。

昨夜の『あれ』が立っていた場所辺りだ。

…決めた。

迷わず踵を返して、春休み真っ只中の大学へ向かった。

誰もいない部室でうたた寝しながら、廃ホテルからレンの家に行ってその後家に来るなんて、幽霊もとんだ盥回しだな

なんてくだらないことを考えていた。

昼過ぎになっていい加減家に帰らなきゃと思い、寝るため寝るためと自分に言い聞かせながら家に帰った。

自転車で10分の道のりは、ビビりの私が気合いを入れるにはあまりにも短い時間だった。

私の部屋は110号室。

余計なことを考えないように歌いながら玄関を開けると

…やっぱりかぁ。

居間へのドアは閉まっている。

一度閉まったドアが開いてたら開いてたで怖いが、部屋の中が見えないのはもっと怖い。

家の近かったヒロに電話をして事情を話し、一緒に入ってもらうことにした。

アパートのエントランスで待っていると5分くらいでヒロが来てくれ、一緒に部屋を見て回ってもらったが特に何も異変はなく、しばらく一緒にダラダラしながら夕方まで過ごした。

ヒロが帰った後も霊障のようなものは起こらず、『あれ』はもう出てこないかなとビビりながらに安心した。

その予想は半分正解半分はずれだった。

何週間か経ち、その時の怖さもすっかり抜けたある日の2時過ぎ。

ロフトを寝床にしていた私はその日も布団に潜り込み、SNSを見ながらうとうとしていた。

――!!

突然まどろみから叩き起こされ、体が硬直した。

金縛りにかかったのではなく、気配を感じたのだ。

居間を誰かが動き回っている気配。

阿呆な私は死ぬような気持ちになりながらなぜか下を覗いてしまった。

……なんだ誰もいないのか。

ホッとしているのか残念がっているのかよくわからない感想を抱きながら再び布団に潜り込み、もう寝ようと目を閉じた。

直後、衣擦れの音がすぐ枕元で聞こえ、全身に鳥肌が立ち髪の毛が逆立っているような感覚に陥る。

もうこれは見るしかないと自棄になり首を上に向けるが、何も見えず音もしない。

でも目を閉じると聞こえ始める。

最初は怖かったが、目を閉じずに寝ればいいんだと思い立った私は再びSNSを開き、眺めながらいつの間にか眠りに落ちた。

その後春になり部屋を引っ越すまでは幾度か霊障に遭うこともあったが、今住んでいる部屋ではそんなことも起きず悠々自適に暮らしている。

あの時の『あれ』が一体なんだったのか、今もあの部屋にいるのかそれともまた別の場所へ盥回しにされているのかはわからない。

皆さんも、部屋を出る時腰を抜かさないように気を付けてくださいね。

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ユタちゃんさん、アメフトロートルさん、まっしろさん
怖いありがとうございます!
自分で読み返したら全然怖さが伝わらなそうで心配になってきました

アンブレラさん
怖いありがとうございます!
また投稿したらぜひ読んでやってください

ふくべぇさん
SANTAさん
ジャクソンさん
怖いありがとうございます
励みになります!