中編3
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ガラス瓶の金魚・1

此れは、僕が高校2年生の時の話だ。

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・・・・・・・・・。

そのガラス瓶を受け取ってしまったのは、きっと寝惚けていたからに違いない。

頭がクラクラして、思考力が低下していたのだ。

徹夜でゲームなどするものではない。

寝不足に加えて頭痛。心做しか発熱もしているらしい。風邪でも引いたか。

伏した机の上で一人後悔する。

嗚呼、全ては自己管理を怠った所為だ。育成がなんだ。ボス戦がなんだ。放って置けばよかったのだ。そんなもの。

息をするのがどんどん辛くなる。肺が圧迫される。

まるで、溺れているみたいだ。

抜けていく力。奪われる体温。霞む視界。

必死に顔を上げると、机の端の小瓶で、赤い色が揺らめいた。

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・・・・・・・・・。

昼休みに斎藤が持ってきたのは、栄養ドリンク程の大きさの、透明なガラス瓶だった。

「ごめん、家で飼ってると猫が狙っちゃって。これ、どうにかして引き取ってくんね?」

「・・・・・・ねこ?」

僕が聞き返すと、斎藤は大きく頷く。

「そう。買ったはいいんだけどさ。ほら。」

差し出されたガラス瓶は水で満たされ、その中で、コロコロとした金魚が一匹、泳いでいた。

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・・・・・・・・・。

重い瞼を抉じ開けながら、斎藤の説明を聞く。

餌はやらなくていいらしい。

蓋は閉めたままで構わないそうだ。

窒息したり餓死してしまわないか、と聞いてみると、斎藤は暫し難しい顔をした後、

「店の人がそう言ってた訳だからな。多分大丈夫なんだと思う。」

「店。」

斎藤は、この瓶入りの金魚を、祭りの夜店で買ったのだという。

「・・・祭り?」

「そう、何か昨日の帰り道やってて。今朝にはもう何も残ってなかったけど。」

この時期に祭り?

そんなもの、なかった。少なくとも、僕や斎藤の住んでいる地域では。

こいつは一体、何処の祭りに立ち寄ったと言うのだろうか。

訝しく思いながら、瓶の中の金魚へと目を移す。

丸い身体に大きな鰭。

自然界では到底生き残れないであろう其れは、何処か飴玉に似ていた。

「池とかに離しても死ぬだけだろ。本当、もう頼りはお前だけなんだよ。」

視界の端では斎藤がずっと頼み倒していて、その間も、金魚はゆらゆらと揺れている。

瓶の口は金魚の体より小さい。

この中で、大きくなって来たからだろう。

無理に逃がそうとすれば、入り口に引っ掛かって水だけがなくなって死ぬに違いない。

何だか可哀想になった僕は、もう何度目か分からない斎藤の「マジで頼む!」に、思わず頷いてしまった。

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・・・・・・・・・。

午後の授業中、金魚の瓶はずっと鞄の中にしまっていた。

昼休みにしっかり仮眠を摂った筈なのに、眠気が消えず、身体もどんどん怠くなっていった。

其の内、頭がグラグラし始めて、悪寒、それでいて熱くなる頭の周辺、辛くなる呼吸、等の症状が出始めた。薄塩やピザポにも、心配された。

移動教室が無かったのが、何よりの救いである。あったら倒れていたかも知れない。

そんな訳で、放課後になる頃には、もう僕は満身創痍だった。

そして、冒頭の後悔へと向かう訳である。

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・・・・・・・・・。

帰る用意を何とかしたものの、帰れる気力が無い。

鞄からゴソゴソと金魚の瓶を取り出し、眺める。

金魚は、相も変わらず、飽きもせず、ゆらゆらと揺れていた。

体調はどんどん悪くなる。

もう起きているのも辛い。

「・・・コンソメ?」

誰かの声が僕を呼んだ。

けれど、もう顔を上げる力は残っていなかった。

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紫音さんへ
コメントありがとうございます。

そう言って頂けると嬉しいです。有り難う御座います。

どうなのでしょう。神社とかではなく、フリーマーケットのような感じだったと言っていましたが・・・。

重くて明るさが無いです。
其れでも、宜しければ、お付き合いください。

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