中編3
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ガラス瓶の金魚・2

此れは、僕が高校2年生の時の話だ。

ガラス瓶の金魚・上の続き。

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・・・・・・・・・。

庇護欲、母性本能、父性本能、

小さいものを護り育てたいと思うのは、人の本能だという。一般的に。

だから、此の感情は可笑しなものじゃないのだと思う。あの小さな鰭も、丸い身体も、僕が護ってやらねば、容易く死んでしまうのだから。

餌も空気も光も必要無くたって、きっと僕は必要だ、なんて。僕がいなければ駄目なんだろう、なんて。

馬鹿げてるとしか、思えないけど。

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・・・・・・・・・。

誰かにユサユサと肩を揺さぶられる。

頭も揺れて、痛みが酷くなった。

「コンソメ。」

名前が呼ばれている。此の呼び方は、薄塩だ。

返事代わりに、頭を軽く振る。

「どうした?」

返事をしようにも、荒くなった息が口から漏れて行くだけだった。

体調が悪いということは、多分伝わっているのだろう。じゃあ、何を聞いているのか。

其れにしても、薄塩しかいないのか?

「・・・・・・ピザポは?」

「保健室行った。もう直ぐ先生来るから。ほら、此れ。飲めるか?」

短い言葉が連なって、額に冷たいものが触った。目を開けると、薄塩の手が何かを押し当てている。

腕を動かし、掴もうとする。しかし、上手くいかない。どうしても震えて、力が入らないのだ。

「無理すんな。」

腕を捕まれ、机の上には下ろされる。

「明日と明後日、休みなんだから。ゆっくり治せ。よく放課後まで耐えた。」

此の間の一件から、薄塩は妙に優しい。負い目を感じているのかどうなのか知らないけれど、何となく、気持ちが悪い。

僕は聞いた。

「・・・親、迎え?」

薄塩は軽く鼻を鳴らした後に、頷く。

「だろうな。自分で呼べるか?」

「自分で帰る。」

「無理だろ。」

「帰れる。」

子供染みた言い方になってしまった。しかし、此処は譲れない。

「今日は両親が遅帰りの日だから。来れない。」

「仕事早退してもらえよ。」

「嫌だ。」

「じゃあどうするんだよ。」

「自分で帰る。」

「だから、無理だろ。」

薄塩が大袈裟に溜め息を吐く。

「お前はもう少し・・・」

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・・・・・・・・・。

ガラガラッ

大きな音を立てて教室の扉が開いた。

「大丈夫コンちゃん?!」

先生方数人とピザポが、担架を持って僕の方を見ていた。

「・・・・・・嗚呼、もう。」

どうやら、僕の選択権は奪われたらしい。

もう一度、机の上に突っ伏した。

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・・・・・・・・・。

其処からは、あれよあれよと言う内に事が運んでしまった。

担架に乗せられ(自慢ではないが、人生初担架である)、僕の意思などお構い無しに母へと連絡が伝えられ、何時の間にやら車の中である。

金魚は勿論ちゃんと持ち帰った。

置きっぱなしは可哀想だ。

後部座席に横たわりながら、中の水が揺れてしまわないように瓶を押さえる。

運転席の母が言った。

「あんたが熱出すなんて、珍しい。小学校以来じゃない?」

「僕だって、まさか高校生にもなって、発熱が原因で親を呼ぶ羽目になるとは思わなかった。・・・仕事、大丈夫なの?」

僕の質問に、母はカラカラと笑う。

「さあね。明日出勤したらデスクが窓際に移動されてるかも。」

「いや、真面目な話で。」

子供の世話にしても、無理矢理先に帰ったら印象が悪かろう。僕の所為で母に悪影響があったなら、申し訳無い。

「無いよ。そんなの。ウチの会社ホワイトだし。」

母の答えに、そっと胸を撫で下ろした。

「それに、普段からあんたのことマメに話してるしね。皆、心配してたから、安心して。」

「・・・・・・分かった。ごめん。」

「何で謝んの。親として当たり前でしょ。」

その一言に、安心して溜め息を吐く。

同じようなタイミングで、金魚が口から泡を吐いた。驚いてじっくり見てみると、今度はパチパチと瞬きする。

何だか無性に可笑しくなった。金魚が可愛らしく見え始めた。

急ブレーキで車が止まる。ちゃぽん、と瓶の中の水が大きく揺れた。

家に帰ったら、此の子をゆっくり休ませてあげなくては、と思った。

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まっしろさんへ
コメントありがとうございます。

そう言えば似てますね。どちらも頭に血が昇るからでしょうか・・・?

あ、単に母の運転が下手なんです。他意はありません。紛らわしいことを書いてごめんなさい。

いえいえ。お安い御用ですよ。
のり姉は確かにストレートですが、そんなに髪は長くないかと。時期にも依りますが、肩より伸ばした所は見たこと無いですから。

紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

あの斎藤ですからねー・・・。

熱に浮かされる、とはよく言ったものです。
脳味噌が仕事を拒否している感覚に陥るんですよね。

手の平サイズですか?!
凄いですね。露店の金魚って直ぐに死んでしまうのが殆どなのに・・・。

我が家には、メスしか居ない筈なのに何故か繁殖する不思議なメダカが居ますよ(笑)

mamiさんへ
コメントありがとうございます。

いえいえ、二年の教室は三階ですから、人が倒れた時は基本的に担架なんですよ。
ですが、恥ずかしかったです。男子が担架を使われることは少ないですし、後輩とか他のクラスの人達がざわざわしてて・・・。

斎藤ですからね(笑)
ええ。育つどころか・・・。
・・・ネタバレですね。自重します。
宜しければ、またお付き合いください。

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担架って…すごいですね(;゚д゚)
それだけ大ごとだったということでしょうね…
さてさて、この金魚さん。あの人から譲り受けたわけですし…ここに載せているわけですし…何事もなく可愛いママ育ちました…ではないのでしょうね。
楽しみにしてますね。

モンスター猫麿呂さんへ
コメントありがとうございます。

初めまして。紺野と申します。

有り難う御座います。グダグダな話ばかりですが、此れからもお付き合い頂けると嬉しいです。

此れからも宜しくお願い申し上げます。

はじめてコメントさせていただきます。
紺野さんの作品はとても読みやすいのと、いろんなキャラクターがいるので毎回楽しみにしています。
大変でしょうが頑張って下さい。