カネコさん 見たあの日<後日談>

中編4
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カネコさん 見たあの日<後日談>

 夕暮れどきだ、赤く薄れた空は窓際から見えた。

 警察の世話になった後、ぼくらはカネコさんと一緒に家に送ってくれた。

「あの子供どうなるのでしょうか」

 窓際にいたぼくはカネコさんに尋ねた、カネコさんはとくに感情的にもならずに普通に答えた。

「わからない、ただ真実を受け止めることはできなかった…嫌なことはあった」

 最後に嫌なことがあったと付け加えた。ぼくも「そうだ」と、付け足した。

 警察に世話になる2時間前、あのアパートの一室で僕らを出迎えたものはあの子供のお父さんだった。正確には父さんではなく、動かなくなった父さんだったということ。

 子供には理解できなかったようだ。

 子供はしきりに「お父さんは病気だから、動けないから、ぼくが世話をしているんだよ」、「お父さんはこれまで病気で負けたことがないんだよ」と、言っていた。

 死というものを知らない子供にとったら死とは動かない病気のようなものだろうか。

 あのお父さんは死んでいた。

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 もう、どれくらい経ったのかわからないが、ミイラ化していた。もとは目があった位置には穴が開き、歯は見え、服は少し黒ずんでいた。所々に虫がうごめいていた。ウジ虫だ。

 部屋の窓や天井、壁には数えきれないほどのハエがこべりついていた。

「うわああ!」

 ぼくは慌てて尻もちをついた。そこにハエが一気に飛び立っていき、ぼくとカネコさんはその部屋から急いで脱出した。一方で、子供は逃げ出さなかった。

 いや、逃げ出さなかったのではなく理解ができなかった。

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 昔こんな話がある。

 動かなくなったカブトムシを母親に頼んで、電池を入れれば動くだろうという話。

 また、死んだ大切な友人を生きらせるために、死者蘇生だといって、一室の部屋で友人を蘇えようとして騒ぎになった話などがある。

 死を理解していないと、いろいろなことが起きる。

 だけど、理解できていないとは矛盾がある。

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「なんで、お父さんを置いていくの? 手伝ってくれないの!?」

 カネコさんの腕を引っ張る子供の姿があった。

 子供は僕らの約束を果たそうとしていたようだ。奥の部屋ではまだ、扉が開いている。そこからずーとぼくらの方へ目がない変わり果てた子供の父親は僕らを睨むかのように見つめていたような気がした。

「……お父さんはね、かなり深刻だと分かったの。だから、今から助けてくれる人をさらに呼ぶから、手を放してね。ここだと呼べないから。それに、病気でず~と苦しんでいるお父さんをこのまま苦しめたくないでしょう」

 ぼくはとっさに嘘をついた。こうまでしなければ、子供は手を放してはくれないだろう。信じてはくれないだろうと。果たして、子供は信じてくれるだろうか。

「……わかった」

 素直に呟いた。ぼくらはわかってくれたんだなと思った。すると、子供はぼくらから背を向き「お父さん…寂しいからぼくは一緒にいるね」。

 子供の気持ちは理解できるようで理解できない。

 やっぱり大切な人とは離れたくはないのだろう。

「嫌なことがあった」

 カネコさんはしきりに僕にそう呼びかけていた。カネコさんにとっても、大切だった人があのような姿になっていたことに恐怖と後悔があった。

 ぼくも同じように「嫌なことがあった」と、口にした後、電話でカネコさんの知っている人たちに要請を送った。

 いきなり、警察などに連絡すれば、子供はどうなる。どのような行動に出るか、ぼくはわからないがいったことに嘘を言うわけにはいかない気持ちだった。

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 現在の時刻。

 子供は警察で保護され、その後は母の方へ、引き渡されるそうだ。

「結局、カネコさんの“嫌なことがあった”は、的中したな」

 ぼくはカネコさんにそう問いかけたとき、カネコさんは静かに寝ていた。後頭部座席では、カネコさん、警察の人、ぼくという手順になっていた。

 カネコさんは警察でも知っている人が多く、比較的に安心だからと、窓側にいる。一方で、ぼくは知らなく危なさそうに見えたのか、手錠がつけられている。

 家に着くまでの間は手錠は外されない。

 警察に肩の上でねるカネコさん。少しだけ、羨ましいと感じてしまうのは、ぼくは少し敏感になってしまっていたようだ。

 カネコさんの方へもう一度、視線を向けていった「嫌なことがあったね」と、ぼくはそっとつぶやいた。

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 おまけ

 この話は過去に体験した話を6割ほど練りこませています。あとの4割は創作です。当時の記憶をたどっていくのは難しく、そのまま書くと個人的に怖いことが起きるので、あえて伏せました。

 またのご利用、よろしくお願いします。

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