長編9
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舞首〜其の二〜

目が覚めたのは早朝5時前だった。

室内はまだ暗く冷んやりしている。

枕元を手で探るとやはりソレがあった。

件の舞首人形…

まだ眠っている兄を起こしてしまうかもと気が引けたがそんな事よりきちんと目で確認したかった。

部屋の灯りをつける。

眠りを妨げられた兄は光を嫌う様に布団に潜り言葉にならない音を発したがすぐに寝た。

そして私はというと

『うおっ!凄いなコレ…笑』

枕元を凝視したまま声が漏れた。

当然、恐怖は感じていたがゴム人形の帰省本能とも言うべき必死さに笑ってしまっていた。

褒めてやろうとさえ考え近付くとなんとも言えない異臭が鼻をさした。

当然である。なんせ昨日舞首人形を捨てた川は国内でも有名な汚染された河川だったのだ。

『くっさ!朝から嗅いでいい匂い違うわ、コレ…』

そう言い残して部屋から退散しキッチンに向かう。

水分補給を済ませ顔を洗っていると兄が降りてきた

兄『あかんやろ、アレ』

私『なっ!めっちゃ臭いやろ?』

兄『匂いもそうやけど顔見たか?なんか怒ってなかったか?』

私『ホンマ?気のせい違う?』

兄『後で洗ってやるか…』

兄は洗ってやれば機嫌を直すと考えているらしい。

そう。私達兄弟にはここまで進展しても危機感は全くなかった。

悪夢も足音+水音になっただけで距離が急激に縮まったわけではないからまだまだ余裕があると考えたのだ。

この日は終業式だった。

春休みが明けたら私は3年生、兄は5年生になる。

奇数の学年になるとクラス替えある為、今のメンバーで迎える学園生活は最後である。とはいえ1学年3クラスしかないので寂しさよりもワクワクドキドキが勝っていた。

そして何よりも長期のお休みが嬉しかった。

さっさと妖怪退治を済ませ昼寝三昧の日々を迎える決意をしクラスに別れを惜しむ事なく帰宅した。

月曜日の昼前だった事もあり両親はまだ仕事中、兄はどうやら学校で遊んでいるらしく家の中は静まりかえっていた。

玄関にランドセルを放り投げリビングのTVをつけるとキッチンに向かう。

飲み物を捜すが兄の牛乳しかない…

仕方なく紅茶を作ろうとしていると2階から物音がした。

ガン!ガンガン!ドスッ!

『え?!何の音??』

思わずその場にしゃがみ込みダイニングテーブルに隠れる。

不法侵入者かと思い武器になる物を探す。

何故か選んだものはフライ返しだった。

フライ返しを片手に物音を立てないようそっと玄関を目指した。

手にしたフライ返しはいざという時のためではあるが今思えば恐らく役に立たない。笑

しかし最優先は逃げ出し近所に住む大人に助けを求める事であり戦闘ではないので良しとしよう。

なんとか外に出てお隣の庭から我が家のベランダを見て唖然とした。

兄がベランダから窓を叩きつけていた。

後々話を聞くと鍵を学校に忘れた為にベランダによじ登り進入を試みたが窓にも鍵が掛かっており入れなかったらしい。しかも子猫よろしく登ったが降りる事が出来ないというオマケ付きである。

近所のおばちゃんと大爆笑した事が仇となり暫く口を聞いて貰えなかった。

仲直りしたのは始業式の5日前だった。

その間も悪夢と舞首人形の移動は続いていた。

ただ何もしなかったわけではなく庭に埋めたり、父親の車に閉じ込めたり、ガラス戸付きの本棚にガンプラとゴールドクロスと共に入れたりした。

しかしどれも効果なく朝になると枕元に帰って来てしまう。

悪夢と共に。

この頃にようやく危機感と恐怖が芽生え始めた。

兄『これってなんかの呪い違うか?』

私『呪われる覚えないし』

兄『勿体無いオバケとか』

私『勿体無いオバケ出る程金持ちでもないやん』

兄『なんであれ、そろそろ限界違うか?』

私『同感や。てか飽きたわ』

夢の足音は50m程度、3〜4フロアまで近寄っていたし何より春休みが終わってしまう。

そこで思い切って祖母に相談する事にした。

祖母なら長年の経験に照らし合わせて解決策を教えてくれるのではないかと考えたのだ。

翌朝自転車の籠に舞首人形を入れ祖母の家を目指した。

その道中、公園で休憩をしていると神主さんみたいな人に呼び止められた。

どうやらその公園内には祠が設置されておりその管理を任されている神社の神主さんらしい。

たまたま祠の掃除をしに来ていると私達が目に止まり声をかけてきたとの事だった。

私達からすると棚からぼた餅である。

当然の様に舞首人形の事を相談した。そして当然解決して貰えると信じていた。

しかしその人の口から出た言葉は意外なものだった。

人形から邪な感じはしないし、私達自身からも悪いものは感じられないと言ったのだ。

その後も諭す様に説明され優しい笑みだけを残して帰って行ってしまった。

兄『なんか、シラけたな』

私『………』

兄『今日は帰るかぁ〜』

私『なぁ。邪な感じないんやったら祠に置いて行ってもかまへんよな?』

兄『そういう問題か?笑』

私『捨てるんちゃうし。あくまでも置いて行く、いや神様に預かってもらうねん!』

兄『《預かってもらう》か!それ使えるな。ここまで来て何もせずに帰るのも嫌やし、そうするか!笑』

無茶苦茶な理屈を捻りだした私達は祠の扉の中に舞首人形を入れ預かってもらう事にした。笑

なんとこれが功を奏したのだ。

その日の夜から悪夢は見なくなった。

朝起きても枕元には何もなかった。

私達は完全勝利を手にしたような気分になり残りの春休みを存分に楽しんだ。

そして春休みも終わり私は晴れて3年生になった。

新しいクラスになったがメンバーは半分位同じだった。

初々しさも半減である。

しかし大きな変化が起きた。

転校生が来たのだ。

名前は岡田君。味噌のCMにスカウトされそうな見事な坊主頭の岡田君は身長も高く明るい感じの子だった。

私の2個隣の席になった岡田君とは班が同じだった事もありすぐにうち溶けた。

引越し先はまだ完成しておらず今は家族に車で送迎してもらっているらしい。

完成したら遊びに行く約束までしていた。

新しい出会いと共に気分良くスタートしたはずだったがそんな平穏な日々もそう長く続かなかった。

始業式から数日後、また悪夢に魘された。

そして例の如く枕元にはアイツが帰って来た。

そして兄もまた悪夢に魘されたらしい。

兄『どうなってんの?』

私『………』

その朝は舞首人形の話をするのも嫌になっていた為、無言でいたかった。

しかし兄の言葉に反応しないわけにはいかなかった。

兄『しかも1体は迷子か?部屋ん中探したけど2体に減っとるやんか』

私『え?!まぢで?』

兄『あ?見てへんの?なんかドス黒く変色した2体になってたぞ』

急いで部屋に戻ると確かに1体無い。帰って来た2体は焦げたみたいに変色していた。

後から兄が話掛けてくる。

兄『な?言うた通りやろ?』

私『ぷっ』

兄『グフッ!』

朝から腹を抱えて笑ってしまう。

私『なんで焦げてんのコレ?あはは。誰やの燃やしたの。笑』

兄『笑うなや。てかなんで1体迷子になってんの。笑』

通常怖がるべき所なのは理解しているのだが私達兄弟にとっては見事にツボだったのだ。

笑い出したら止める事も叶わず暫くの間ゴムのオモチャに突っ込みを入れまくる事数分、満足したかの様に新たな作戦を練る事に。

というのも昨夜の夢はやばかった。

私は数メートル先に、兄は1フロア下にその存在を感じていたのだ。

その日は学校に行く振りをしてサボった。

実のところ、作戦は練るまでもなく決まっていたのだ。

私達兄弟はお小遣いを出し合い公共の交通機関を駆使して県内最大の神社に向かった。

途中路線を間違ったりしたが昼前にはその神社に着いた。

初詣の際には数万人が訪れるこの神社は同じ敷地内にお寺もある不思議な場所だった。

しかし私達兄弟にとっては神様と仏様、同時に相談出来る最良の場所だった。

平日の昼間に小学生二人が訪ねてくるという事が異様だったのだろうか?相談相手は探すまでもなく境内に入るやいなや向こうから鬼の形相で駆け寄ってきた。

そして建物の最深部の部屋に通された。

障子の向こうでは大人達が何やらコソコソ相談している様だった。

15分程待っただろうか机の上のお菓子を口に頬張っていると一人の神主さんが出てきた。

そして開口一番、ランドセルの中のソレを置いて帰りなさいと言われた。

まだ何も説明していないのにだ。

不思議に思ったが正式に供養するとの事だったし初めから置いて帰るつもりだったので深く考えることなく差し出した。

しかし差し出した舞首人形を見た途端神主の声色が変わった。

突然勢い良く喋るので上手く聞き取れなかったがどうやら2つの質問を投げかけたらしい。

一つ目は

《いつから黒くなったのか?》

二つ目が

《もう1体はどこなのか?》

黒くなったのは今朝からで、もう1体は迷子だと素直に答える。

帰れといったわりにはその後1時間位これまでの経緯を説明させられた後また別の部屋に移された。

その部屋では数人の神主と住職がいるだけでお菓子もない。

小一時間ジロジロ見られただけで特別なにかをされるわけでもなく解放された。

ようやく外に出るとそこには両親が待っており私達を見るやいなや人目を憚る事なく散々叱られた。

学校をサボった事を叱られるのではなく何も相談しなかった事がまずかったらしい。

ただ最後に何もなくて良かったと母が涙を浮かべていたのが印象的だった。

家に帰る車内で父が説明してくれた。

父『ええか?今から話す事は家に着いたら忘れろ。こんな話、子供のお前達にすべき違うけど当事者として知っとけ。んで聞くだけ聞いたら忘れろ!』

今思えば意味不明である。

矛盾上等とばかりに一方的に話は続いた。

父『俺自身こんな話は信じてない。ただ現実は受け止めなあかん。お前達があそこで話した事を疑う気もない。』

この時点で当時の私は話についていけず置いてけぼりになりつつある。

信じてないのに受け止める??シンプルな構造の私の頭からは湯気が出ていたがなんとか食らいつこうと必死だった。

横にいた兄は目を閉じていた。

戸惑っているのか寝ていたのかは判然としなかった。

話は容赦なく続く

父『あの人達曰くお前達が体験したものは呪いの一種らしい。その呪いの媒体となったんがあのオモチャみたいな人形らしい。

そんでその呪いは誰かを殺してしまう様なものじゃなくジワジワと精神を破壊していくような悪趣味なもんや。どっかでそれみて楽しむ阿呆がおるんやろな、全く胸糞悪い』

そう言うと母が話に割って入ってきた

母『それでな、あのオモチャの事なんやけど…』

母は気まずそうにしている

母『実はな、アレをあんた達の部屋に置いたんアタシやねん…

先月の頭位にアレが庭に落ちとってん。見覚えはなかったけどあんた達が庭に落としたと思い込んでしもて部屋に片付けたんよ。ごめんな』

びっくりした。

どおりで記憶にないわけだ。

兄の顔を見るとまだ目を閉じていた。

母を責める気など毛頭ないが突っ込みは入れた。

それを見ていた父が大声で笑っている

父『その様子やったら呪いを掛けた奴も悔しかったんちゃうか?リアクション悪すぎやろ?』

私『父ちゃんと母ちゃんから産まれたから仕方ない』

母『あたしならもっと喜ばせたわ!』

こんな家族である。全てが一瞬で笑い話に変わっていた。

しかし、それは私なりの両親への配慮だった。

いくら鈍感&馬鹿な私でも分かる。

父が話してくれた事に決して嘘はないのだろうが肝心な部分は語られてはいないという事を。

そもそも神主が声を荒げてまで知りたがった2つの質問に対しては触れていないし、あれが呪いだったのなら何故公園で話をした神主はあんな事を言ったのか等々あまりに多くの謎が残ったままだった。

子供とはいえ人間だ。隠そうとされると余計に知りたくなる。

何より全て終わった。みたいな口調で言うがまだ1体は迷子中なのだ。

実際一日遅れて今夜帰ってくるかもしれないではないか。

次に帰ってきたとしたら夢の中の足音はおそらく手の届く距離である。

もう一度、兄の方を見る。

するとゆっくりと目を開き小さな声で呟やいた。

『納得でけん』

その小さな声に車内の笑い声が掻き消された。

突然の沈黙。

父も母も顔から笑顔が消えていた。

『やばいぞ…?』

沈黙を破ったのは父だった。

父『やばいぞ?それでも知りたいか?』

兄『俺達は大丈夫。それに次の夢はまじであかん気がする』

父『……。分かった。ただ俺には上手い事説明でけへん。直接聞いてこい』

そういうと父は車をUターンさせた。

母は不安そうな顔をしながらも諦めていたのか、部屋の中に舞首人形を招き入れた罪悪感のせいか何も語らなかった。

……………………………………

神社に戻ると先程の厳つい神主さんが待っていた。

母が助手席から電話で事情を話していた為出迎えてくれたのだ。

父が深々と頭を下げた後改めて事情を説明している。

神主さんも話す事を躊躇っていたが父の説得もあり最後は根負けしたようだ。

私達兄弟は最深部のお菓子のある部屋に通された。

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こりゃあ、最後が気になります🎵