長編9
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三人の神

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今は昔、とある場所に三人の神がいて、人間界を題材に「知恵くらべ」をすることになった。

それぞれの持つ知恵の力によって、自由奔放に地上に群がる人間たちを、見事、まとめ上げた者の勝ちである。

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その頃の人間界は、ようやく文明らしい文明が開花して間もない頃だ。小さな部族が寄り集まった「村」がほとんどで、それより規模の大きな「街」や「国」も点在はしていたが、立派なそれと呼べるモノは無かった。

よって、部族間同士や小国同士の“いざこざ”ばかりで、神々としても、そういった人間たちの姿に頭を抱えるところだった。

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—「あんなことでは、せっかくの文明が台無しだ」

—「自分らが栄えることを、合理的に考えれば良いものを」

—「これではせっかくの命も、争いで失うだけではないか」

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人間たちの行いを憂い見た三人の神は、かくして、知恵くらべをすることになったのだ。

—「では、やるか」

—「ああ、そうしよう」

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勝負のルールは簡単だ。とにかく、文明を衰退させることなく、また、人口も今より減らすことなく、世界の人間たちを出来るだけまとめ上げること。最終的に世界をどんなカタチであれ統一状態にすれば文句無しの勝利である。こうして、勝負のルールを定めて、三人の神はそれぞれの持つ知恵と、その方法論で勝負に挑んだ。

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まず、最初に挑んだのは三人の神のうち「山の神」だ。

彼は、部族間や小国同士の争いのほとんどが「食料」であることに着目した。また、人を健康に育てて繁栄させる基盤も食料であるし、これを神の力で采配すれば、すぐに世界がまとまると考えた。そして、山の神は自らの力を人間界へ公使する。

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山の神は一番初め、狩猟生活だった部族に「牧畜」と「農耕」を授けた。そうすることで日常、不安定だった狩猟生活での食生活の在り方が一変し、安定して自給自足生活を営むことが可能になる。まずは、これで食料を奪い合うような規模の小さい“いざこざ”は無くなると山の神は考えたからだ。

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また、たとえ食料を奪い合う部族間や小国同士の争いが起こっても、「毎日の食事のある生活」を考えた敗北者は、自国を捨てて素直に「農耕をする国」の民になると山の神は考えた。

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「負けて悔しいが、俺らの村に居てもひもじいからな」

「そうだな。俺も此処は捨てて、素直にあちらの民族になるぞ」

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人間なんて、それこそ現金な者だ。山の神の思惑はその通りになった。牧畜と農耕に長けた部族は、これを手掛かりに一気に大国にまで成った。

何よりも、吸収された部族や小国の人間たちは、全てこの農耕国の労働力となるのだから、文明と人口の繁栄を考えても申し分ない出来である。

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機嫌を良くした山の神は、その自分の思惑通りに成長する農耕国には「恵み」を与え、そうでない部族や小国には「飢餓」や「疫病」を与えた。そうすることで山の神の息が掛かった各地の農耕国は、さらに成長し、山の神の想う世界の統一に向けて盤石の土台を築き上げたのだ。

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ところが、それで上手くいと思われた山の神による采配も、途端にその様子が変わってきた。何故ならば、それで成った大国同士が、今度は「戦争」と呼ばれるほどの大掛かりな衝突するようになったからである。畑を耕していたはずの労働者は、農耕国の為政者により戦争に勝ちたいが為の兵士にされ、大国同士で単なる消耗戦が繰り広げられることになったのだ。

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また、そもそも、吸収した部族や小国の人間たちは、農耕に従事する労働者といえども、毎日の食事だけは保障されている奴隷でしかなかった。にも関わらず、戦争によって祖末な駒使いでもされれば、当然そこに不満が生じて、大国内で内紛すら勃発するようになってしまった。

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「働くだけ働かされて、次は戦争で死ねというか!」

「王を殺せ!俺たちに自由を与えろ!」

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こうなると、山の神の力を持ってしても、もはや手の施しようがない。それでも山の神は何とか手立てを探して、地震や噴火で警告してみたが、それも人間たちには伝わらず頭を抱えて悩んでいるうちに、山の神に与えられた制限時間が終了してしまう。

勝負の成績としては「30点」だ。「こんなハズでは無かったのに」と山の神は悔しがった。

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そして、次に登場したのは、三人の神のうち「風の神」である。

彼は、どんな事柄にせよ、人間の行動を左右するのは「情報」であることに着目した。見ること、話すこと、聞くこと、これら全て情報である。この情報というものを神の力で采配すれば、すぐに世界がまとまると考えた。そして、風の神は自らの力を人間界へ公使する。

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風の神は一番初め、人々の往来と交流の多い部族に「文字」と「規律」を授けた。そうすることで彼らは文字を携え、ルールを作って、円滑な人間関係を営むことが可能になる。これは、商売にも直結する話しであるし、まずは、これで“いざこざ”自体の芽を摘もうと風の神は考えたからだ。

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また、この規律によって住むにも治安が良く、商売でも富む国の姿を、周辺に群がる部族や小国に見せつければ、争いになる以前に、これに憧れる人間たちは自らの土地を離れて「豊かな国」の民になると風の神は考えた。

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「俺は、せっかく育てたヤギを盗まれてしまった」

「それなら、俺と一緒にあの国に移住しよう」

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人間なんて、それこそ弱い生き物だ。風の神の思惑はその通りになった。文字と規律に長けた部族は、これを手掛かりにじわりじわりと大国にまで成った。

何よりも、自らの意志で赴いた部族や小国の人間たちは、全てこの富国の愛国者となるのだから、文明と人口の繁栄を考えても申し分ない出来である。

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機嫌を良くした風の神は、その自分の思惑通りに成長する富国には、その「良い噂」が流れて広まるように仕向け、そうでない部族や小国には「悪い噂」を人間たちに吹き込んだ。そうすることで風の神の息が掛かった各地の富国は、さらに成長し、世界の統一に向けて盤石の土台を築き上げたのだ。

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ところが、それで上手くいと思われた風の神による采配も、途端にその様子が変わってきた。何故ならば、それで成った大国に人が集まり過ぎて、人々の欲に歯止めが効かなくなってしまったからである。本来なら、規律によって人々の欲を抑えてきたのだが、その言葉をわざとのように曲解して悪さをする者が増えてくる。さらに、その国の王まで欲にかられて規律を改ざんするまでになったのだ。

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また、そもそも、規律というのは弱者にとっては盾にはなるが、そうでない長者にとっては不自由な足かせでしかない。にも関わらず、その規律に拘束されていれば、当然そこに不満が生じて、大国内では腐敗化が進行するし、人間たちはひたすら傲慢になっていったのだ。

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「盗みがダメなら騙して儲けろってな(笑)」

「王に金か女を差し出せば罪も軽くなるらしいぞ」

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こうなると、風の神の力を持ってしても、もはや手の施しようがない。傲慢になった人間たちにもはや怖い者は無く、その王も「神をしのぐ力がある」と自らを尊大に慢心していたので、風の神は制限時間も待たずに、人間界に大きな雷を落して勝負を終了させた。

勝負の成績としては「30点」だ。「こんなハズでは無かったのに」と風の神も悔しがった。

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そして、最後に登場したのは、三人の神のうち「水の神」である。

彼は、二人の神が“そのような失敗に陥ること”を何となく予感していた。したがって、全ての行いを「人に任せよう」と考えた。しかし、それでは自分の知恵で二人の神と勝負したことにはならないので、唯一、人間の「快楽」に関して采配しようと考えた。こうして、水の神は自らの力を人間界へ公使する。

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水の神は初めから何もしなかった。小さな部族は小さな部族のままで、周辺部族と“いざこざ”を繰り返した。しかし、そのなかで人間たちは「音楽」や「芸術」や「競技」を作り出し、これを楽しむことを憶え、争いが無益であることを知るようになった。

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また、快楽を象徴するように、人間たちは男女間の交わりを盛んに行い、争いを嫌う遺伝子を持った多くの子供を残した。こうなれば、放っておいても争いは起きないし、近隣部族の人間同士で交われば、勝手に仲良くやって勝手にまとまっていくと水の神は考えた。

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「さあさあ、踊って忘れよう」

「あの部族の長老の娘は美人だな」

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人間たちは完全に牙を抜かれた。なかなか大国までには至らなかったが、少しづつ着実に人間たちは、快楽を楽しむ同じ平和主義の人間を増やして、楽しみの人生を謳歌した。

何よりも、快楽によって人間が不満を抱えないということは、人間が自ら活力を育むので、文明と人口の繁栄を考えても申し分ない出来である。

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機嫌を良くした水の神は、その自分の思惑通りに成長する人間たちに一切の災厄を与えず、そうでない人間たちにも何も災厄を与えなかった。そうすることで水の神の息が掛かった各地の人間たちは、さらに人生を楽しみ、世界平和に向けて盤石の土台を築き上げたのだ。

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ところが、それで上手くいと思われた水の神による采配も、結局は一番早く崩壊した。何故ならば、人々が快楽にふけって何もしなくなったからである。また、闘争する遺伝子が失われたことで「打たれ弱い人間」が増え、それまでにわずかしかなかった自殺という行為が人間界にあふれてくる。

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「働かなくとも楽しいことはあるからな」

「楽しくないなら死んでラクになったほうがマシ」

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こうなる可能性も、ある程度予想できたが、さすがに、ここまで人間が酷い有り様になるとは水の神でも想定できなかった。水の神は、部族や国の垣根を超えて、人間に共通の平和意識をもたらしたが、制限時間を待たずに人間たちは勝手に崩壊して勝負を終えた。

勝負の成績としては「30点」だ。「こんなハズでは無かったのに」と水の神は自責した。

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すると、この三人の知恵くらべの一部始終を覗いていた「火の神」が、大きく笑いながら彼らに歩みよってきた。

—「君たちは、ホントに賢いのにホントにマヌケだな(笑)」

その容赦ない言葉に、三人の神は不快感を感じたが、その結果が結果だけに馬鹿にされてもしょうがない。

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—「いいかい? 君たちの持つ知恵は優秀であるし、人間どもに施したことも決して間違いではないんだ。事実、皆、途中までは見事に人間どもを導いただろ?」

—「しかしね、その方法論が“ひとつ”だからダメなんだ。だから、君たち三人がその知恵の力で“同時”に人間どもを采配してみろ。これだときっと上手くいく」

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確かに火の神の言うことはもっともだと三人の神は感じた。こうして、三人の神は、火の神を自分たちの中心に据え、自分たちの知恵で招いた失敗を、お互いの知恵で補うようにして、もう一度、人間界をまとめ上げることに挑んでみた。

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するとどうだ。食料を求めて人間たちは切磋琢磨し、情報を駆使して人間たちは自分たちを統制し、それで積もる鬱憤を人間たちは快楽で消化した。

また、それで成り上がった大国は、食う物に困らず、規律も正しく、あらゆる娯楽が揃えられる「その魅力的な姿」を周囲に見せつけ、これを最大の武器にして「それを持たない小国」に侵略し、国という形骸的な枠に囚われずに、どんどん人間たちの社会観、世界観を統一化していった。

—「なるほど!これは上手くいく!」

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さらに、この世界観にどうしてもなびかない国や人間には、神の鉄槌として疫病や地震やスキャンダルを与えて弱体化させ統一化の後押しをする。

そして、またさらに、人間には叶わない存在があることを「神」や「異星人」といった言葉を巧みに使って人間たち擦り込ませる。そうなれば人間たちは、これを恐れて、恐れ多い存在にツバを吐くこともできないのだ。

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もう、気付いた人もいるだろう。これは私たち世界、私たち人間の歩んできた歴史であり、今の現実社会だ。そして、火の神の司った能力は「信仰心」であり、彼がもたらしたものは「思想」や「主義」や「宗教」である。

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つまり、これによって三人の神と一人の神の力を公使してきた『神とおぼしき人間』は、世界平和という肩書きを武器に、古代から人間たちを采配し、莫大な利益を搾取してきたのである。それは、世界各国を牛耳れるほどの利益だ。

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また、その利益が増えるほどに絶対的な権力を彼らは勝ち取った。世界がひっくり返せるほどの権力。彼らが「酒は毒でした」と言えば、今後、全ての医学書にそう記されるし、異論の書物は注目されずに人知れず闇に消される。

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かくして、『神とおぼしき人間』は、名実ともに本物の神に近づいた。

私たちが勤労に励む平和主義者なのか、それとも、神の手の平で踊らされ、卵を産ませられるだけの無知な家畜なのかは、それこそ「神のみぞ知る」といったところだ。

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「食料」を牛耳り、「情報」を操作し、ガス抜きとして「快楽」を与えれば、人間界は簡単に支配できる。

神は、ある国とある国を仲良くさせるのも仲違いさせるのも簡単であるし、最新の科学力を隠すのも簡単であるし、天罰として天災を起すことすら簡単だ。

—さて、あなたは、何を信じて生きていきますか?

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ネタバレ注意

タイトル見てなんだこりゃ
中見て凄い面白いww
たまにはこういう話もホントいいですね