長編15
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高校の怪談〜カラスのSP〜

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「ん、あれは…。」

下校途中、あたしの目に黒いゴミ袋のようなものが留まった。

「なにあれ…。鳥?」

あたしは車が来ていない時を見計らって、それを拾いに行った。

「よいしょっ…。カラスか。」

まだ暖かい。よく見ると、翼から血が出ているようだ。

あたしはそのまま、家にカラスを連れ帰った。

「これでも元医学生なのよ。」

自宅に帰って、カラスの治療をした。

傷は浅かったので、あたしにも簡単に止血、縫合はできた。骨折もあるようなので、固定。

「よし、これでいいわ。にしても、何であんな所に?轢かれたわけでもなさそうだし…。」

傷の様子からすると、何かに強くぶつけたような感じね。鳥同士喧嘩でもしたのかしら?

とにかく、1ヶ月は安静。あたしはカラスをうちに匿う事にした。

「へえ、カラスをねぇ…。」

この事を、同僚の生物教師である狗神先生に相談してみた。

「皆川先生、動物にだけは優しいんだね。いつも湊君泣かせてるのに。」

「相変わらずの物言いね。狗神君、もう少し考えて発言したら?」

「ああ、ごめんごめん。」

彼は素直すぎるのが玉にキズね。

「でも、あいつらは頭がいいからね。恩返しも狙えるかもよ?」

「馬鹿ね。あたしはそんな物望んでクロ君の世話してる訳じゃないわ。」

「クロ?名前まで付けたの?」

あ、つい口が滑った。嫌だわ、恥ずかしい…。

「ハハハ、皆川先生って意外と安易なんだねー。かーわい。」

「殴るわよ、グーで。」

「やだな、冗談だよ。」

じゃ、クロ君の世話ガンバ!と、狗神先生はカバンを背負って職員室を出ていった。

「…あたしも早く帰らなきゃ。クロ君が待ってるわ。」

あたしも席を立って、学校を出た。

夜風はまだ涼しく、日本の夏の夜と言うにはまだ早い。

帰りがけにコンビニでも寄って、クロ君に美味しい物でも買って帰ろう。

コンビニの前に着くと、男に声をかけられた。

「皆川先生じゃないですかぁ。奇遇ですね。」

「ん?」

見ると、絡まれたくない男No.1のあいつがいた。

「出た…。変態マッドサイエンティスト。」

「そんなぁ、人をバケモンみたいに言わないでくださいよ。ねね、良かったら一緒に呑みに行きません?」

あたしはそれを無視して踵を返した。

「え、あ、無視しないでくださいよ、皆川先生ー‼︎」

無視無視。

「今、家でクロ君待たせてるの!暇じゃないのよ!」

「ク、クロ君⁉︎まさか彼氏ができたんですか?私というものがありながら!」

ああもう、うるさい!

思って、つい言ってしまった。

「そうよ、彼氏よ、悪い⁉︎あんたと違って爽やかでカッコよくて優しいんだから!」

「な…!」

湊はその場にへたり込んだ。いい気味だわ。

にしても…。

「クロ君が、彼氏ねぇ…。」

オスかメスかも分からないのに。

そう考えると、何だか面白くなってきちゃったわ。早く帰ろう。

「ただいまー、クロ君。」

声をかけると、バサバサと音が聞こえた。

「あ、まだ羽根動かしちゃ駄目よ!」

急いでクロの元へ向かうと、彼は用意しておいた止まり木に止まってこちらを見、クーと鳴いた。

「まだカーって言えるほどの元気はないようだけど…。あなた回復早いのね。普通ならまだ伏せってていいはずなのに。」

クロはまたクーと鳴いて、あたしの肩に飛び移った。

「わ!もう、駄目でしょ。じっとしてなきゃ。」

あたしは彼の傷を手当てしようと、固定を取った。

「あら?もう傷口が塞がってる。」

いくら何でも早すぎだわ…。でも、悪い事じゃないからいいかしら?

「それじゃあ抜糸しましょうか。」

あたしは手早く抜糸をし、再び羽根を固定した。

「いいこと?まだ飛んじゃ駄目よ。」

「クー。」

クロは大人しくクッションに飛び降り、そのまま眠った。

「よく見ると可愛い顔してるわね…。カラスが不吉なんて誰が言ったのかしら。」

疲れていたあたしは、そのままクロの隣で眠りについた。

翌日出勤すると、保健室で待ち構えていた人物がいた。

「み、み、皆川先生ぇ〜…‼︎」

白い白衣にワイシャツのストーカー野郎、湊 伸一!

「キャッ⁉︎あ、あんた‼︎なんでこんなとこにいんのよ⁉︎」

「昨日の話は本当ですかぁ、クロって何者なんですかああああ‼︎」

うわ、めっちゃ興奮してる。あたしは今更昨日の言動を悔やんだ。面倒な事になったなあ…。

「えっと…。」

どうしよう?今張っ倒したら今日のコイツの授業全部潰れちゃうし…。

困っていると、いきなり保健室の戸が開いて、漆黒のスーツを身に纏った男が現れた。

「その人に手を出すな!」

「…えっ?」

彼は湊の肩を掴み、引き寄せた。

「消えろ。この人はあんたの物にはならない。」

「な、何だお前?」

湊は彼の手を振り払い、こちらを振り向いた。

「ま、まさかこの男がクロ…。そうなんですか皆川先生!」

「え、えーと…。」

あたしが口籠っていると、男がこちらに歩み寄ってきて、庇うように手を広げた。

「名前なんてどうでもいい。私には彼女を守る義務があるのだ!」

湊は唇を噛んで、保健室を飛び出していった。

全く、こんな事学校でやってていいのかしら?

「…大丈夫ですか、棗先生。」

男が切れ長の目を細め、笑った。

「ええ…ありがとう。」

良かった、と彼は胸を撫で下ろした。

改めて男を見てみた。

仕立ての良いダークスーツに、真っ白なワイシャツ。黒いネクタイをきっちり締めている。

視線を上げ、男の顔を確認。

漆黒の髪、きりっとした眉に、切れ長の瞳。長い睫毛が綺麗。

鼻筋は通っており、薄い唇とともにクールな印象を与える。

「…って、ちょっと‼︎」

男は笑顔で応えた。

「何ですか?」

「何ですか?じゃなくて!あ、あなたは…。」

彼はスーツを脱ぎ、シャツの袖をまくった。

「これ。先生が手当てしてくれたでしょう。」

逞しい腕に、包帯が巻かれている。そこに、固定に使っていた割り箸が挟まっていた。

「え、じゃああんた…。クロ⁉︎」

彼は嬉しそうに頷いた。

「で、でも!何で?部屋には鍵もかけてあったはず…。」

「あれくらい簡単に開けられますよ。」

そう言えばカラスは頭がいいんだっけ…。

…だからってクロが人間の男性の姿になってここにいる理由にはならないじゃない‼︎

でも、とにかく言っておかなきゃいけない事があるわ。

「クロ!あれだけ動いちゃ駄目って言ったのに!あんた骨折してるのよ?分かってるの?」

「すみません。でも、動けるようになったからにはすぐに任務を遂行しないと。」

「任務?」

彼は頷いて、その場に跪いた。

「私は先生に命を救われました。だから、今度はSPとして先生を守らせていただきます。」

「え…えすぴー?」

まさか、日常生活でSPと関わるなんて!

そう言えば、クロの耳を見ると無線マイクのような物がついている。カラスなのに誰と繋がってるのかしら。

「ま、まあいいわ。でも、あたしの側にいるからには、あたしの言う事をちゃんと聞くのよ。よろしくて?」

「はい、もちろんです。」

「じゃ、取り敢えず安静にしてなさい!そこのベッド使っていいから。」

「え?で、ですが、」

「いいからさっさと休む!傷が悪化するわよ。」

分かったわ、クロは物の怪ガラスだから治癒力が高いのね…。

あたしが納得したところで、保健室の戸が開いた。

「皆川先生ー、頭いたーい。」

「香じゃないのさ。風邪かい?」

「ううん、サボり。」

あたしは香を殴り、体温計を渡した。

「一応体温測って。」

「はーい。」

香は体温計を脇に挟むと、ふとベッドに目をやった。

「…あれ、誰か来てるの?珍しい。」

「あ、ああ…。」

どうしよう。言うべきかしら。

でも香なら…。オカルト詳しいし、何か分かるかしら。

「あ、あのね、香。実は…。」

その時、ベッドのカーテンが開いてクロが出てきた。

「棗先生、氷嚢を…ん?」

その視線が、香の視線とぶつかる。

「先生…その少年は?」

「あ、あたしの生徒よ。大丈夫、ただの生徒。加古 香っていうのよ。」

クロは安心したらしく、香に笑いかけた。

「そうですか。私、皆川先生の護衛をしております、えーと…。あ、烏丸 黒です。」

あ、素性は隠すのね。

「へえ、烏丸さんていうの。…先生の護衛?先生って重要人物だったの?」

「ええ。少なくとも私にとっては。」

香はいつもの何かを探るような目でクロを見ていた。

「黒って、変わった名前ですね。」

「覚えやすいでしょう。」

「…はい。」

香は体温計を置いて、奥のベッドに寝転がった。

「先生。この時間が終わったら起こしてね。」

「分かったわ。」

何か感じたのかしら、あの子は。

あたしはクロに氷嚢を渡して、彼がベッドにつくのを確認してからデスクに向かって座った。

一息つくと、また部屋の戸をノックする音が聞こえた。

「開いてるわよ。」

入ってきたのは、いつもより数段目つきの鋭い和歌歩さんだった。

「皆川さん。突然ですが、保健室に強い妖気を感じたのです。少し調べても?」

「えっ?」

妖気?クロの?

「いいけど…。」

彼は軽く頭を下げると、室内を調べ始めた。そして、ついにベッドのカーテンに手をかけた。

「…。」

その時、和歌歩さんが口端を歪め、両手を上げて後ずさった。

その鼻先には、銃口のような物が突きつけられている。

それに続いて、銃を構えたきつい目つきのクロが現れた。

「ちょっ、クロ!なんでそんな物持ってるのよ⁉︎」

彼はちらっとこちらを見やると、言った。

「棗先生!大丈夫ですか、お怪我は⁉︎」

「大丈夫も何も…。」

あたしは完全に焦っていた。想定外よ、クロが拳銃持ってるなんて!

「な、なんの真似です、あなた…。」

和歌歩さんが顔をしかめた。

「あなた、カラスでしょう。なぜそんな姿がとれるんです?あなたは皆川さんの何なのですか?」

クロは拳銃の安全装置に指をかけて、あたしを自分の後ろに隠れさせた。

「私は先生に命を救っていただいたのだ。だから、今度は私がSPとして彼女を警護する!」

会話が噛み合ってないわ…。

「頭に血がのぼっているようですね。少し落ち着いたらどうです。」

和歌歩さんも苦笑混じりに言う。

「いきなり先生に妖が近づいてきたんだ。警戒するのは当然だろう!」

「あなたも妖でしょうが!それに私は妖じゃなくて幽霊です!」

「嘘つけ!ただの幽霊にしちゃあ力が強すぎるぞ!」

「ほっといてくださいよ!人には人の事情があるのです‼︎」

あ、和歌歩さんの周りに一瞬青いオーラが見えたわ。彼も怒る事ってあるのね。

「皆川さん。彼は一体…?」

「…ごめん、和歌歩さん。」

あたしはそう言って頭を掻くしかなかった。

「な、なるほど。現代の鶴の恩返しとでも言いましょうか。」

あたしはクロの事を和歌歩さんに全て話した。

「香に相談しようと思ったんだけどねぇ。クロが言いたくなさそうだったから。偽名まで考えてたのよ。」

「先生!今の私はカラスのクロではなく、あなたの護衛をするSPの烏丸 黒です。」

「…ほら、こんな調子なのよ。」

和歌歩さんはクロをまじまじと見て、頷いた。

「大体の事情は分かりました。とにかく、私は皆川さんの敵ではありませんから安心してください。」

でも、クロはぷいとそっぽを向いた。

「どうだか。その冷たい雰囲気、信用ならんな。」

「ちょっと!」

慌てて彼を窘める。

「はは、いいんですよ。こんな目つきしてたら怪しまれるのも当然です。」

和歌歩さんは笑った。それをますます険しい顔でクロが見る。

「先生、どうも怪しいですよ。幽霊なんて、何を考えてるかわかったもんじゃない。」

「クロ!いい加減にしないと怒るわよ。」

全く、よりによって和歌歩さんを疑るなんて。

「本当ゴメンね、和歌歩さん。」

「いいえ。むしろ安心しました、皆川さんにこんなに頼もしい護衛がついたとは。」

彼は会釈して、部屋を出ていった。

「もう。人を顔で判断しちゃ駄目よ。」

「しかし…。」

その時、終業のチャイムが鳴った。

「あ、香起こさなきゃ。」

あたしは香のベッドのカーテンを開け、布団をめくった。

「香!起きな、授業終わったわよ!」

「んー…。うん。」

香はだるそうに体を起こし、保健室を出ていった。

「失礼しましたー。」

その間際に、クロを一瞥したような気がしたのは気の所為かしら。

その日の帰り、クロと肩を並べて歩いていた。

「ねえクロ。何であんたはその…。SPの姿になんてなれたの?」

あたしは彼に一番気になっていた事を聞いてみた。

「え?それは…。」

彼は少し言葉に詰まった。

「…実は私にもよく分からなくて。ですが、恐らく私の先生に恩返しをしたいという強い思いが神様か誰かに届いたんでしょう。実にありがたい!」

彼は嬉しそうに目を細めた。

「私は元は普通のカラスでしたから、本来ならこんな事できません。先生のような本当の美人さんと肩を並べる事ができるなんて、夢のようです。」

「…そう。」

クロって元は普通のカラスだったのね。妖怪になりたてって事かしら。

でも、こんなに素直に褒められるなんて、今まであったかしら?

今まであたしに言い寄ってきた男の口説き文句には、下心しか感じなかったのに。

あたしはクロの腕に自分の腕を絡めてみた。

「先生、それは何ですか?」

「これはね…。人間の『相手を信頼してます』っていうボディランゲージよ。」

クロが人間に詳しくないのをいい事に、ちょっとだけウソをついてしまった。

「そうですか!それじゃあ私も…。」

「…あ、違う違う!これは女から男にやる事なのよ。」

「あ、そうなんですか。」

…ああ、びっくりした。カラスって思ったより純粋なのね。

そのまましばらく歩いていると、突然クロが立ち止まった。掴んだ腕が震えている。

「どうしたの?」

尋ねるが、反応がない。

「クロ?大丈夫?」

「…ちょっとすみません‼︎」

叫ぶように言って、クロは走り去ってしまった。

「どうしたのかしら、いきなり?」

夜道に1人残されたあたしは、その場に立ち尽くした。

「はぁっ、はぁっ…。な、何だこの感じは…?」

彼は夜道を走りながら、身体の奥底から湧いてくる違和感の正体を探っていた。

胸の鼓動が早鐘のように鳴り響き、苦しい。四肢には勝手に力が篭り、もしも今隣に愛しい人を置いていたのなら、自分の意思に反してなにか酷い事をしてしまいそうだった。

遂に走り続ける事も出来なくなり、彼は道端にしゃがみ込んだ。

ふと自分の両手を見た。

そこには、皮膚を破って何本もの黒い羽根が生えかけていた。

「何だこれは?」

まさか…。と彼は考えた。

人間として恩人の側にいられたのは、1日だけの特別な事で、その奇蹟の期限を自分は迎えかけているのではないか。

「そんなことは…。」

受け入れたくない。

彼は殆ど無我の境地で、這うようにして歩いた。

と、彼の視界に革靴の足が入った。

「…?」

彼は視線を上にずらした。

「やはり…。普通のカラスには負担が大きすぎるようですね。」

「な…!お、お前は昼間の幽霊!」

クロの目の前に夜中の木菟のような佇まいで立っていたのは、和歌歩だった。

「あなたの話を皆川さんから聞いた時には、不安になりましたよ。何せ普通のカラスがいきなり人間の身体を手に入れて現れたというのですから。」

和歌歩はクロの殆ど翼と化していた腕を撫でた。すると奇妙な事に黒い羽根は消え、彼は元の体を取り戻した。

「体が軽い…。」

クロは立ち上がると、和歌歩に向き直った。

「何をしたんだ?」

「大した事はしていません。溢れていた妖力を少し吸い取らせていただいただけです。」

和歌歩はクロの腕をさすった方の掌に舌をつけ、すっと横に引いた。

「勿論、そんなに沢山は吸っていません。そんなに吸ったら、私だってただじゃすみませんから。」

「お前は何か知ってるのか?私の体について。」

和歌歩は少し考えて、言った。

「あなた、その姿になる前に何か見ませんでしたか?あなたの答えによっては、私の仮説が成り立つかもしれません。」

「え?」

クロは皆川の部屋で起きた事の記憶を必死で探った。

「クー。」

皆川が出勤した後、一羽部屋に残されたクロは、隣の皆川のベッドに跳び移った。彼女の体温を少しでも感じようとしたのだ。

その時、ベランダで何やら音がした。

「⁉︎」

クロは身構えた。

「あら、そんなに羽根を逆立てて。大丈夫よ、何もしないから。」

光沢のある長い黒髪をたなびかせ、その少女は言った。

「あなた、人間に助けられたのね。」

クロは惹かれるように窓の鍵を開け、少女の足元に降りた。

「実は私、あなたのお手伝いをしにきてあげたのよ。」

クロが首を傾げると、少女は笑った。

「あなた、自分を助けてくれた彼女に恩返ししたいと思わない?」

クロは頷いた。

「それなら、人間になって彼女を守るのが一番よ。」

少女がクロの額に手を触れる。

すると、クロの姿は紫の光に包まれ、人のシルエットをとった。

「まあ、いい男。龍馬先生以上ね。」

「うるせえな。」

ベランダの向こうから、男の声がした。

「あなたはもう普通のカラスじゃないわ。妖として生まれ変わったのよ。」

「どういう事ですか?」

少女はセーラー服のリボンを弄りながら、答えた。

「あなたは妖怪として生きる道を選んだって事よ。人間にもなれるし、ちょっとした妖力だって使えるわ。でも注意してね。」

彼女は意地悪そうに笑った。

「大きな力に副作用は付き物よ。それでどんな運命をたどる事になっても私は知らないわ。」

「棗先生に恩返しできる身体にしてくださっただけでありがたいです。」

「カラスも割と紳士なのね。」

少女はそれだけ言って、ベランダの向こうへ飛び降りた。

「‼︎」

驚いたクロが下を覗き込むが、そこには何もない。

代わりに、向こうの空に黒い龍のようなものが飛んでいくのが見えた。

「…そうだ、思い出したぞ!」

クロは和歌歩に全てを話した。

「何と…。少女と黒い龍ですか。それじゃあ、やはり…。」

「ああ。あれは一体誰だったんだ…。神様の遣いか?」

「とんでもない‼︎」

和歌歩は睨むような目をして叫んだ。

「あの少女は…。悪魔より質が悪い、人の魂を弄ぶ存在ですよ…。」

「そんな…。」

「…今すぐその力を捨てなさい。さもないと大変な事になる。」

クロは和歌歩を睨んだ。

「なぜだ!折角恩人を守る力を手に入れたのに、それをみすみす逃せというのか、貴様!」

「守るだって?はっ、笑わせるな‼︎そんな化け物に成り果ててまでですか!」

和歌歩はクロの額に手を置いた。

「うっ…⁉︎」

瞬間、クロの瞳が紫色に光った。

「き、貴様…。何を、」

「先程吸い取った妖力を全てお返ししたのです。」

みるみるうちにクロの腕は黒い羽根で覆われてゆき、大きな翼と化した。

ズボンを突き破って長い尾羽が生え、いつの間にか脚は鋭い鉤爪をつけた鳥の脚へと変貌を遂げていた。

「な…何だこれはぁぁ…‼︎」

「あなたはまだ妖として未熟ですから、自分の力を制御できずに妖力を体内に溜め込むばかりでしょう。」

「うぐっ…。」

クロは溢れ出しそうな力を必死で押さえつけようと、足に力を込めた。

アスファルトの地面に、鋭い鉤爪が食い込む。

「…まずい。ちとやり過ぎたか…。」

和歌歩は素早く名刺を取り出し、クロの眉間へ飛ばした。

クロが怯んだのを見計らい、和歌歩はその羽根を撫でた。

「うう…。」

クロの身体から力が抜け、彼は地面に横たわった。すっかり元の姿に戻っている。

和歌歩はよろめいて片膝をつき、ため息をついた。

「ふ…。少し多く吸ってしまったようです。」

そして立ち上がり、クロを見据えた。

「分かったでしょう、自分の状態が。それでも力を捨てないと?」

クロは息も絶え絶えに言った。

「捨てない。私はこれからもずっと、先生の側で彼女を守ると決めたのだ!たとえこの身がどうなろうともな。」

和歌歩はかぶりを振った。

「ナンセンス!ただでさえ自分がいつ暴走するかも分からないというのに、皆川さんを守ると仰るのですか?」

「お前に何が分かるんだ!貰った力だってすぐ制御してみせるさ。私と先生の事は放っておいてくれ!」

クロは叫び、皆川の元へと走り去っていった。

その後ろ姿を、和歌歩は唇を噛んで見つめていた。

「先生ー、お待たせしました!」

「クロ!何よいきなり、心配したじゃない。」

あたしは無事なクロの姿を見て安心した。

「すみません。さあ、早く帰りましょう。」

「そうね。」

あたしはまたクロの腕に抱きついた。

「先生。」

「何?」

「先生の事は、何があっても私が守りますからね。だから安心してくださいね!」

あたしは吹き出した。

「何よ、急に畏まって。変なクロ。」

彼は優しく笑って、すみませんと言った。

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ちゃあちゃん様、コメントありがとうございます。
そんな事があったのですか…。でも、ちゃあちゃん様がカラスさんを思いやった気持ちは無駄になってはいませんよ。カラスさんが元気でいる事を祈るばかりですね。
クロの迎える運命もお楽しみに…。

先日、怪我して羽が折れたカラスを見つけました。捕まえようとしたのですが、身体は元気で、ピョンピョンと逃げ回るし、カラスの親兄弟と思われるカラスが頭上で威嚇するわで結局逃げられてしまいました。カラスって賢いし可愛いんですよね…どうしてるかなぁ…とこのお話を読みながら怪我したカラスの事を思い出しました。どうか、くろさんに、良い結末を…