中編6
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羽嶋別荘

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大学2年生の頃、無事に昇格できた春のことだった。Kがおもむろに口にしたことが本日の決め手となるものだった。

「羽嶋(はしま)別荘へ、行こうぜ!」

 羽嶋別荘とは大学からほど遠くもない近くにもない場所に位置し、大学の近くにある駅から2つほど進んだ先にある物件だ。当時は、かなり有名人がその別荘へ遊びに行ったり話題になったりとしていたが、現在は廃墟同然となっている。

「なんで、いまさら何だ」

 となりで本を読んでいたSがKの方へ視線を向けていった。

「羽嶋別荘が3カ月後には取り壊されるという話でさ、壊される前に俺らでちと、遊びに行かないかという…」

「1人で行け!」

Sが本を閉じて、Kに面倒くさそうに言った。Kのことだ、「運転頼む」とか、言うに決まっている。もちろん、この後にKが言ったことだ。

僕は特に断る理由もなく、Kと同行するということにした。

 Sは髪をかきむしりながら大きなため息をついた。

「俺も行くわ。お前らだけだと不安だし…」

 Sは何かを言いかけたが、それ以上のことは言わずに、本を再び開くと「時間は?」と、訊いてきた。

「お! 行ってくれるのかサンキューな」

「……」

 不機嫌そうな顔をするS。やはり、今回のことで何か気になることがあるようだ。

 大学から帰宅時に、Sと遭遇する機会があり、Sに直接聞いてみた。

「ああ…○○(←僕の名前)か」

「羽嶋別荘のことで何か知ってん」

 Sは大きくため息をした。ため息をしたときに、寝不足なような不安そうな表情をわずかだが、その表情を見ることができた。

「羽嶋別荘は、俺らが高校の頃に、少し問題があった場所でな」

「うん」

「Kの奴は覚えていないかもしれないが、俺とKとで、あそこはあまり行くのはよくない場所なんだよ」

 Sは暗い目つきで嫌々な思い出があると語ってくれた。

 SとKが高校生の頃、その別荘が廃墟であると知った。AさんというSの先輩で家庭教師でもあった彼女は、その別荘のことを話してくれた。別荘にまつわる噂。どれもこれも、訊いてみれば誰かが悪戯心で生んだような内容ばかりだった。

 Sは興味津々なオカルトマニアのAがあまり好きではなかった。だけど、Kと話があうし、何よりも目指していた大学が、Aが所属する大学でもあったことで、興味はないがAと話していた。

 羽嶋別荘は、当時の頃からあまりいい噂は訊かなかった。

 羽嶋別荘がなぜ捨てられたのかも、わからないままだった。

 そんなある日、Aがおもむろに提案したのだ。「今度の日曜日に羽嶋別荘へ行こう」と、言ってきたのだ。

その時は、Kもそばにいた。学校の成績は悪いということで、俺と一緒に学習していたときだった。

「なんで、Aが提案したの? ふつう逆じゃない」

 話の最中に僕はSに尋ねた。

「ああ、今は…な。Aが提案した。もちろんオカルトに興味を抱いていたKはすぐに飛びついた」

 結局、俺は最後まで反対だったが、KとAに説得され、嫌々でその羽嶋別荘へ赴くことになった。羽嶋別荘は当時、俺たちは大学の近くであるAの寮へ勉強しに遊びに来ていた。寮とはいっても一室のマンションとも言っていいほど、立派だった。

「それはすごいな」

 Sはチラッと僕の方へ視線を向けた後、再び前方に視線を向けて続きを語りだした。

Aの寮は立派だった。2つの部屋に窓付きの風呂とトイレ、台所には6畳はある広さだった。そこに1人で住んでいるとは思えないほど金持ちのようにも見えた。

 当時はすごいと思っていた。何度か通うことで次第に慣れていった。

 Aの寮から1駅進んだ先にその別荘はあった。蔓に覆われたその物件はそこに何も言わないほどたたずんでいた。

 Aが言うには、朝方から調べようと言い出した。もちろん、その提案に俺は賛成した。夜に行くなんて言ったら、俺は即座に断っていた。ところが、Kがまた、無駄なことを口にした。

「わざわざ昼間にいくよりも、夜行って、『ワー』とか『キャー』とか、言いながら味わおうぜ」と、言いだした。

「それもいいな」と、昼間に行く予定を即座に却下され、夜に行くことになってしまった。

 俺は反対したが、AとKに抑えられ、夜に行くことになってしまった。

 22時を超えた時刻に、俺は羽嶋別荘の前の門で待ち合わせをした。時刻になっても、AとKがこない。もしかしたら騙されたのかもしれないと思った。俺は門から離れようとしたとき、羽嶋別荘の中で「キャー」とか「うわー」とか、男性のような女性のような叫び声が聞こえた。

 てっきり、俺を置いて、先に入ってしまったのだと思ったさ。

 けどな、俺は行かなかった。

「ん? なぜなんS」

 俺は知っていた。そこにKもAもいないってことにさ。

「いないって、どういうことだよ。だって、叫び声はしたんなら…」

 僕は口を慎んだ。なぜなら、Sが言った「行かなかった」の意味を。行かなかった。その理由はAとKが羽嶋別荘にSを置いていくやつではないてことに気づいたからだ。

「……話をつづけるぞ」

 俺は、その声の真相を確かめようとはしなかった。自業自得だ。AとKの自業自得だ。俺には関係ないって。俺は、そんな叫び声が聞こえるなか、門の壁にもたれながら二人が来るのを待った。

 23時を超えるころには、さすがに来ないと思った。

 俺が門から離れて、駅に向かう途中でAとKに出会った。

「あれ? 無事だったの?」

「ああ、そうだったみたいだ」

 話を続けるS。駅に向かう途中でAとKは俺を見るなり即座に謝った。

「すまん!! Aと話が盛り上がってしまって、約束の時刻にすっかりと後れをとってしまった」

「悪いS。私がいながら、Kと話に盛り上がってしまってな。今から行くとSとKは住んでいる場所が違うから電車で帰られないだろ。今回はここまでにしよう」

 Kがえ~と嫌な顔をした。それもそうだ、KはAよりも楽しみにしていたはずだ。つい話題に盛り上がってしまって遅れてしまった。

「あれ? それじゃ、Sが体験したのは?」

「俺でもわからない。それからすぐだったよ、羽嶋別荘が取り壊されたのは、急きょ、取り壊し日を間違えていたようで、業者が慌てて取り壊しに行っていた」

「Sは、それを見たの」

「ああ、Aの家に行く途中で見たよ。すっかりと取り壊しが始まっていて、もう半分ほど削れていたよ」

 Sがそう話を終えると、再び話の続きを語った。

 俺は当時、残念そうに唸るKに対して俺は心底、嬉しそうに感じていた。なぜなのかはわからない。ただ、俺が聞いたものたちの真相を聞かずにすんだことだ。

 取り壊された後は、更地となり新たな別荘がそこに立った。

 その日から、Aが引っ越した。理由はわからないが、しばらくの間は大学にも顔を出さなかったようだ。

「なぜ、急なん」

「俺もわからない。だけど、今ならわかる」

「わかるって?」

「この部屋の扉を開けた先に…な」

 Sが話しながら進んでいた先は、当時、羽嶋別荘が立っていたとされる物件だった。そこには2階建てのアパートが立っており、見た目からして上下3部屋がある立派な建物だった。

 そこに、先ほどまで話していたAと書かれたプレートに201と書かれていた。

「もしかして…」

「ああ、そのもしかしてだ。真相は彼女からな」

 理由は201の部屋を開けた先にある。そう、Aと書かれたプレートの持ち主は先ほど話してくれた人物であることで間違いはなかった。

 そして、そのAがぼくらの先輩でSとKが所属するサークルのリーダーでもあるという初耳をしたきっかけともなった。

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二次創作と例えてもOKです。作者自身が動きがないので、ものの試しで投稿です。

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