高校の怪談〜愛は勝つ…?〜

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高校の怪談〜愛は勝つ…?〜

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彼は少し躊躇った様子を見せた。

そんな彼の緊張をほぐそうと、あたしは笑顔で彼を励ました。

「…大丈夫、あたしこれでも高校で保健室の先生やってるのよ。さ、話してみて。」

「…分かった。」

彼は、重い口を開いた。

「もうよく覚えてないほど昔の事だが…。俺が高校に通ってたころ、よく図書室に行っていてね。その頃の俺は怪奇現象が好きで、そういう本を読みあさっていたんだ。」

「怪奇現象?」

彼は頷いた。

「ああ。まあ、都市伝説って言うのかな、そういう物の事。」

都市伝説⁉︎

あたしの脳裏にあのアプリの事がよぎった。

「そ、それで?」

「ああ。ある日の放課後、いつものように図書室に行くと、見慣れない背表紙の本を見つけたんだ。文庫サイズのハードカバーだったよ。珍しいだろ?俺は本が好きだから、気になっちまったのさ。」

そう言って唇を噛んだ彼の顔には、激しい後悔の念が滲み出ていた。

「俺は興味をそそられて、その本を開いた。すると何が起こったと思う?」

あたしは首を傾げた。

「…分からないだろ。聞いたら驚くぜ。」

「焦らさないで早く言ってよ。」

彼はニヤリと笑った。

「本を開いたら、どこからともなく女のコが現れたんだよ。」

「それってもしかして片目が赤い黒髪ロングのセーラー服美少女⁉︎」

あたしが興奮して叫ぶと、彼は驚いたように言った。

「知ってるのか⁉︎羽闇 ちはやを。」

「ええ…。」

あたしが頷くと、彼はそうかと俯いた。

「あいつは…。あいつはまだこの世にいたのか!」

睨みつけるような目をして、彼は言った。

「君は…。見かけない顔だけど。」

俺は突然現れたその少女に驚きつつ、言った。

「でしょうね。今、あなたに出してもらったばかりですもの。」

「は?お、俺が?」

彼女は頷いた。

「そうよ。あたしは羽闇 ちはや。その本に閉じ込められてたのを、あなたに助けてもらったって訳。お礼を言うわ。」

俺は手元の本を見た。

「意味、分かんないんだけど…。」

でしょうね、と彼女は笑った。

「あ、もう一つ、ついでと言っちゃあ何だけど、頼みたい事があるんだけど。」

「何だよ。」

彼女は妖艶な笑みを浮かべ、本を指差した。

「その本、焼き捨ててくれない?」

「え?」

開いたら女のコが出てくる不思議な本…。

そんな物勿体なくて焼き捨てられる訳ないじゃないか!

「嫌だね、捨てるくらいならこの本は俺が貰うよ!」

俺はそのまま図書室を飛び出した。

「あっ、ま、待ちなさい‼︎」

俺はそれを無視して走り続けた。

学校を出て、家まで一気に走った。

「ただいまっ‼︎」

…。

今の時間は午後7時。いつもなら、母さんが迎えてくれる。

「…母さん?」

母さんはどこを探してもいなかった。

「どこ行ったんだよ…。買い物かなあ。」

待ち続けたが、母さんは帰って来なかった。

というか、俺以外の人間、生き物が全くいなかった。

3日も待っただろうか。いい加減腹も減った頃、声が聞こえた。

「…どう?本を燃やす気になったかしら。」

「その声…。あの時の!」

俺は辺りを見回した。

「どこだ…。どこにいる!」

誰もいない。

「母さんや皆を…どこへやったぁ‼︎」

ーふふふ…ー

答えの代わりに、含み笑いが聞こえてきた。

「あなたのお母さんや他の人がいなくなったんじゃないのよ。」

「何⁉︎」

「あなたの方が、いなくなったのよ。」

どういう事か、分からなかった。

「その時に知ったよ。俺はたった一人で、異次元に飛ばされたんだとよ。本を燃やすまでは、元の世界に戻さないと言われた。」

「で…渡したの?」

「まさか。手元にあるよ。」

彼は意地悪そうな笑みを浮かべた。

「俺をこんな目に遭わせるんだからな。せめて困らせてやろうと思ったんだ。」

でも、不思議だよな。

彼は言って、苦笑した。

「誰もいない異次元だけど、慣れるとそれなりに心地よくなってくるんだよな。今では自分の家みたいにこのショッピングモールを使ってるんだぜ。広い家だろ?」

「トワ君…。」

あたしは、なんとなく悲しくなった。

「確か、自分の年齢が分からないって言ってたわね。」

「え?ああ。まあ、そうだね。」

それじゃあ見た目より歳が行ってる可能性があるわね…。見た目は子供、頭脳は大人って感じ。…ってどこの名探偵よっ。

「最後に見た元号は平成だった?それとも昭和?」

「平成だ。」

「そう…。それじゃあ絞り込めないわね。異世界に来た年、覚えてる?」

「えっと…。高3の時だから、17、8歳の時だ。確か2002年だったような。」

「何よ、覚えてるんじゃない。」

でも、あれ?ってことは、計算すると…。

うそっ⁉︎今年で30歳⁉︎あたしより年上!

「よく今まで生きてこられたわね。そんなに長い間1人で。」

「幸い食料は沢山あったから。でも、なぜか段々腹も減らなくなってきたんだ。」

…よし。決めたわ。

「トワ君。この世界を出ましょう。」

「えっ?」

彼は目を丸くした。

「できるのか、そんな事。」

「分かんない。でも、協力者なら沢山いるのよ。」

あたしは携帯を取り出した。

「香、聞こえる?」

「聞こえてるよ。今までの流れも全部聞いてた。」

「そう。」

香はちょっと間を置いて、言った。

「…それで、ちょっと思った事があるんだけど。」

「何?」

「ちはやが彼を異次元に飛ばしたの、何でだと思う?」

「え?」

それは…。何でかしら?

「…分かんないわ。あんたは分かってるの?」

「恐らく。」

「教えて!」

「…多分、ちはやがトワさんを異次元に飛ばしたのは、彼が彼女の閉じ込められてた本を持っているからだ。」

こんな時の彼は携帯の奥で、あの何かを探るような目をしているに違いない。

都市伝説に関わってから、香の事が面白いようによく分かるわ。前はよく授業サボりに来るよく分からない奴って認識だったからね。

「で…。その本がどうして重要なの?」

「ちはやがその本を処分したがるって事は、多分その本が彼女の弱みなんだ。しかも、直接奪おうと思えば簡単に奪えるはずなのに、そうしなかった。てことは、彼女はその本を直に触れられないんじゃないかな。」

「なるほど!」

会話を聞いていたクロが、ぽんと手を打った。

「何だかよく分かりませんが、その悪者が弱みを潰すためにトワ君を異次元に封印した!どうですか、合ってます?」

何か急にマンガチックになったけど、つまりはそういう事ね。

「そうね、香の推理だとそうなるわね。」

「じゃあ、私達がここに来たのもそのちはやさんて方の仕業ですか?」

「なるほど…そうかも。」

そこでトワが首を傾げる。

「でも…。何のためにそんな事を?理由が分からない。」

…確かに。動機がないわ。

再び3人揃って考えこんだ、その時。

「ちょっと、カラスさん。早くその見た目詐欺男を撃ち殺してよ。」

「⁉︎」

突然背後から声がした。聞いた声だ。

振り返ると、案の定。

「…ちはやちゃん。」

「先生、久し振り。」

彼女は軽く手を振った。

「あーっ、あなたはこの間の‼︎」

クロが叫ぶ。

あれ?彼はちはやと初対面じゃなかったかしら?

「会ったことあるの?」

「会ったことあるも何も、私に妖の能力をくれた本人です。」

えぇっ⁉︎クロの件にまで彼女が関わってたの…?

「その節はどうもお世話になりました!」

「ちょっと、クロ!あの子は悪者よ、悪女なのよ!頭下げない!」

「え、しかし…。」

ちはやちゃんはトワを指差した。

「その男、何を企んでるか分からないわよ?」

「君に言われたかないね。」

トワはそっぽを向いた。

「カラスさん。この男、長い間異次元にいたせいで普通の人間じゃなくなってるのよ。名前だって偽名だし。」

…確かにそうかもしれないけど。

クロの正体は一発で見抜くし、年はとらないし、食べ物も食べない…。

「そりゃ羽闇くん、君のせいだろ?」

「トワ君の言う通りよ!」

ちはやはこちらを睨んだ。

「今はカラスさんに話してるのよ。黙っててくれないかしら。」

何よ、教師に向かって!アッタマきちゃうわ。

でもとりあえずここは押さえて、成り行きを見なくちゃ。

「そんな異次元の怪物が、あなたの主人に何をするか分からないわ。SPとして守らなくていいのかしら?」

クロは黙ってトワを見た。

「…クロ、」

「先生は黙っててって言ったでしょ‼︎」

ちはやはきつい目でこちらを見て、何かを投げつけてきた。

…痛‼︎

見ると、胸に何かの花弁のようなものが刺さっていた。

「…っ‼︎」

クロが切れ長の目を大きく開いてこちらを見ている。

…何だか眠くなってきたわ…。

よろけたあたしを支えたらしい、トワの驚いた顔が視界に入る。

「…クロ…。」

そのまま、強烈な睡魔に似た重みがあたしの瞼を下ろした。

俺は腕の中の皆川 棗を呆然と眺めていた。

「…皆川くん?皆川くん!」

首筋に手を当ててみる。脈はある。どうやら気絶しているだけのようだ。

「…良かった、生きてる。」

顔を上げると、表情を強張らせたクロとかいうSPがこちらを見たまま硬直していた。

「クロくん。あんたの主人は無事だよ。」

「…。」

彼はそのまま皆川 棗から目を離そうとしなかった。

「…あ、う、先生…‼︎」

その目は血走っていて、正気と狂気の狭間で揺れているようだった。

「あ、だから安心したまえ、彼女は無事だ、眠っているだけだ。」

だが、彼の態度は変わらなかった。

「…先生、先生が!私の目の前で先生が!」

すっかり動揺しているらしい。俺は羽闇 ちはやを睨んだ。

「予想外だわ、カラスさんがこんなに先生を慕ってたなんて。」

済ました顔をして抜かす彼女。

「お前、いい加減に…。」

最後まで言い切る前に、俺の前に人影が躍り出た。

「…よくも私の目の前で先生を傷つけてくれたな」

あのSPだ。

「あら、カラスさん。どうしたのよ、そんなにいきり立って。」

「…許さん」

SPは小さく、だがはっきりと呟いた。

「え?」

それまで余裕の表情で彼を見ていた羽闇 ちはやの顔色が、みるみる青くなった。

「…な、」

その理由は、俺にもすぐ分かった。

「…許さん、許さんぞ!」

いやはや、驚いたね。何せ、いきなりスーツの袖を破って黒い羽毛に覆われた腕が現れたんだからな。

肘から先は鳥の脚のような造りで、鋭い鉤爪がついていた。

腕を起点にして、彼の姿は端正な男から化け物へと変貌を遂げていった。

その佇まいは…、何と形容したらいいのか。そうだ、西洋の伝説にあるグリフィンという化け物のようだ。ひとつ違うのは、身体を構成するのが全て鳥パーツってところか。

そいつは唸り声を一つ上げ、羽闇 ちはやに突進していった。

「な、何で⁉︎こんな事できるようになんてしてないわ!」

彼女はグリフィンもどきの猛攻を避けながら、焦っている様子だった。

全く、滑稽だぜ。

「おい、羽闇 ちはや!」

「な、何よ!今忙しいのよ!」

息を切らして、彼女は言った。

そうそう、その顔だ。その顔が見たかった。俺を13年間も異次元に閉じ込めておきやがって。天罰だ!

「今あんたが押されてる理由、教えてやろうか?」

「何⁉︎」

俺は満面の笑みで、ゆっくりと言ってやった。

「『愛は勝つ』って所じゃないのか?」

「な…何ですって⁉︎」

動きが止まった所に、グリフィンもどきの鉤爪がクリーンヒット。

「きゃああ‼︎」

彼女は傷口を押さえながら、地面に叩きつけられた。

懐メロで精神攻撃。中々いいね。

その時、皆川 棗の胸元から声が聞こえた。

「先生⁉︎聞こえる?」

携帯か。

俺は取り敢えず安全な場所に移動し、彼女の代わりに携帯を取った。

「もしもし。」

「あっ…。だ、誰だ?」

「そうか、話すのは初めてか。俺がトワだ。」

「あ、なるほど。…先生は?」

俺は彼に今の状況を説明した。

「えっ⁉︎…分かった。それじゃあ代わりに君に話すよ。」

「何だ?」

「今調べた、『異世界へ行く方法』だ。」

異世界へ行く方法?

「え…。そんな事教えられても、」

「いいから聞いてくれ。いいか、こちらの世界から異世界へ行く方法を使えば、そちらの世界に行く事になる。つまり、そちらの世界で異世界へ行く方法を使えば、こちらの世界に戻って来られるかもしれないんだ!」

なるほど、そうか!

彼の言葉で、少し希望が見えた。

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裂久夜様、コメントありがとうございます。そうですね、ちょっと、いやかなり歪んでますね。歪んだ性格の持ち主ですが、割とキーマンなんですよね。続きも追って投稿させていただきますので、よろしくお願いします。

気が狂ってなくても、人格が歪んでますね…
続きを楽しみにしています!