短編2
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僕がその犬に気付いたのは、店へと続く坂を登っている時だった。

僕の奇妙な友人――古美術店を営む坂さんの店は、その名の通り坂の途中にある。

傾斜が緩やかだとはいえ、距離は結構なものだ。

その長い道のりを、犬は最初から最後までずっとついて来た。

犬と僕の距離は大体3mほど。

だけど爪がアスファルトに当たる音や荒い息遣い、静かに僕の背後を狙う気配は、

まるで犬がすぐ側にいるかのようにありありと分かった。

僕は特に急ぐこともなく――そもそも、今回はこれ自体が用事だ――だらだらと坂を登り続けた。

犬は大人しく後をついてきた。

途中一度、犬が唸るように鳴いた。

瞬間、背筋が凍るほどの寒気を感じたが、僕は振り向かなかった。

店内では、坂さんがにやにや笑いながらレジスターに肘をついて座っていた。

「何もなかったみたいやね?」

僕は適当な所に座りながら答えた。

「当たり前ですよ。アイツは悪いモンやないんですから」

「その根拠は?」

「僕が飼っとった犬なんですから」

坂さんは呆けた顔で僕を見た。

「……どういうこと?」

「一昨日死んだから、坂の上にあるペット霊園に引き取ってもろたんですよ」

坂さんは頷いた。

「確かに、アレが出だしたんは一昨日の夜からやけど……

 おかしいな、ここらへんにペット霊園なんてないはずやけど」

「はい?」

「大体、坂の上は異人館があるやろ」

そういえばそうだった。この街の坂は、多くが山の手の異人館街に通じている。

この坂だってそうだ。大事な観光地でもあるあそこに、霊園なんてあるはずもない。

「君、騙されたんやね」

坂さんは哀れむように言った。

それ以来、坂を登る度に、犬は静かに僕の後ろをついてくる。

頭を撫でることは出来ないが、馬鹿な飼い主にはその資格がないのだろう。

この一件から、僕は坂さんを頻繁に訪ねるようになった。

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