高校の怪談〜誘惑と帰郷〜

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高校の怪談〜誘惑と帰郷〜

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「どうすればいいんだ⁉︎」

質問は少々食い気味になった。

「えーと、まず10階以上のエレベーターが必要だ。ここと同じなら、駐車場とあわせて11階のエレベーターがあるはずだよ。」

俺は安心した。本当に向こうとこっちは構造が同じであるようだ。

「それで?」

「エレベーターに乗ったら、4、2、6、2、10階の順で移動する。」

「うんうん…。それから?」

「10階に着いたら、降りずに5階に移動。」

電話の向こうが張り詰めた。

「でも注意して。5階に着くと、女が1人乗ってくるらしい。でも絶対口をきいちゃ駄目だ。」

「女か…。よし、分かった。」

この世界の人間か?少し気になったが、それは後回しだ。

「それから?」

「女が乗ったら1階のボタンを押す。するとエレベーターは下には行かず、上に行く。その間、他の階のボタンを押したら失敗だ。無事10階に着いたら成功。」

「よし、それじゃあ早速…。」

「待って!」

携帯から鋭い声が飛んだ。

「これは1人ずつやらないと成功しない。皆川先生が目を覚ますまで待つんだ。」

「そうか…。あ、あの鳥の妖は?」

「ああ、カラスとしてカウントされるはずだから、君か皆川先生と一緒に来させるといい。」

「…了解。」

俺は携帯を皆川 棗の懐に仕舞おうと、胸元に手を伸ばした。

すると、その手が掴まれた。

「…今の話、全部聞いたわ。」

「…皆川くん。気が付いたか。」

俺は安心して、彼女から手を離した。

全く、忌々しい花弁。

あたしは抜き取った花弁を捨て、トワを振り返った。

「トワ君、クロはあたしが連れてくわ。だから先に行って。」

「いや。」

彼は微笑を浮かべた。

「俺はこう見えても紳士なんだぜ。レディファーストだ、先に行くといい。」

「何よ、カッコつけて。」

「これが俺のやり方なんだよ。エレベーターで待ってる。」

あたしは彼に礼を言い、ちはやと戦っているというクロの元へ走った。

「クロー、あたしは無事よ!どこ?」

すると、横から何かが飛んできて、壁に叩きつけられた。

「‼︎ 何かしら?」

近づいてみると、それはボロボロになったちはやだった。

「もしかして、これをクロが…?」

ふと気配を感じて振り返ると、巨大な漆黒の鳥…。いや、足が4本あるわ。そんな謎の生き物がゆっくりと歩いてきていた。

「…クロ?」

呼んでみたが、彼はあたしを目の端に引っ掛けただけでそのまま素通りしていった。

でも…。ちはやは今吹っ飛ばされてきたし、トワはエレベーターに向かってるし、やっぱりこれはクロって事になるわよね。

「クロ!」

もう一度、彼の名を呼ぶ。

が、彼は振り返りもせずにちはやに近づいていく。

「嫌っ…。やめて…!」

どうやら彼女は本気で怯えている。

そんな様子を意に介さず、彼は前足を振り上げた。

「駄目よクロ!」

あたしは近くにあった靴屋からブーツを一足かっぱらい、クロに向かって全力で投げた。

後頭部に命中‼︎やっと彼はこちらを振り向いた。

「殺しちゃ駄目。」

すると今度はターゲットをこちらに変えて、突進してきた。

鋭い痛みが腹部に走り、口の中に広がる鉄の味。

「‼︎」

…頭きた‼︎

「何よこの恩知らずガラスー‼︎」

向かってくる彼の額に正拳突き‼︎

「やっぱ助けるんじゃなかったわっ‼︎」

そしてよろけた脇腹に回し蹴り‼︎

「あんたなんか!」

ビンタ!

「あんたなんか‼︎」

さらにビンタ‼︎

「あたしのSP失格よっ!!!」

トドメの顎下からのひ・ざ・蹴・り!!!

「ギャウ‼︎」

彼はそのまま昏倒。I’m winner‼︎だわ‼︎

首根っこを掴んで、エレベーターに向かう。

あ、言い忘れた。

「ちはやちゃん。追いかけてこようなんて考えない事ね。」

「…。」

あたしは今度こそ、エレベーターを目指して歩き始めた。

「えっと、エレベーターは向こうね。」

全く、手間のかかるSP。

「お待たせー、待った?」

エレベーターの前のベンチに腰掛けていたトワに声をかける。

「いや。思ったより早かったよ。」

彼はクロを見ると、顔をしかめた。

「ひどいな。皆川くんはよく無事だったね。」

「え?ちはやちゃんはもう再起不能だったわ。クロはあたしがやったのよ。」

「えっ?」

「あたしにクチバシを向けたんだ。当然の報いよ。」

トワは苦笑した。

「クロくんも大変だな。」

「マナーがなってないだけよ。」

丁度その時、エレベーターがついた。

「じゃ、あたし達は行くわ。携帯渡しておくから、向こうに着いたら連絡するわ。そしたらすぐに来なさい。」

「分かった。健闘を祈るよ。」

「ありがと。あなたも。」

そして、あたしはクロを引きずってエレベーターに乗り込んだ。

「えっと…。4、2、6、2、10の順ね。」

4階。

2階。

6階。

2階。

10階。

ここまでは順調。クロも目を覚まさない。問題は5階ね。

あたしは深呼吸して、5階のボタンを押した。

下がって、5階。

ドアが開く。

「…‼︎」

乗ってきたわ。本当に。

髪の長い、セーラー服の…。

「ち…。」

言いかけて、口をつぐんだ。

危ない、話しかけるところだったわ。

「先生…。」

「‼︎ クロ⁉︎」

一瞬ヒヤッとしたけど、女に話しかけていないのでセーフだったわ。

「クロ、大丈夫?」

「ええ…。ビンタされたとこで目が覚めてました。」

あちゃー…。

「…ゴメン。」

「いえ、暴走したのは私ですから。」

クロは辺りを見回すと、女に目を留めた。

「あ、おま…。」

キャー、黙って黙ってシャラーップ‼︎

あたしは慌てて彼のクチバシを掴んだ。

「ビークワイエット‼︎」

「んー‼︎んんー‼︎」

話しかけちゃ駄目、分かった、と念を押し、手を離して1階のボタンを押した。

「ぷはあっ‼︎先生、何で…。」

「ルールなの。絶対駄目よ。」

クロは不服そうに黙った。

ふと階数表示を見る。確かに下がらずに上がっている。

「先生…。」

「!」

女が話しかけてきた。

「何で私の邪魔をするの…。ひどいわ…。」

「おま…!」

「クロ。落ち着いて。」

慌ててクロをたしなめる。

「こんなことしてただで済むと思わないでよね…。SPさん。」

女は髪を掻き上げた。

「‼︎」

その顔には、ざっくりと深い切り傷がついていた。

キャー‼︎…なんて言わないわよ。あたしは保健の教員。エグい傷口なんて慣れてるわ。

8階。

9階。

そしてついに。

「10階!」

ドアが開く。

その向こうには、沢山の人。

「これ…。」

「先生!」

クロが嬉しそうに言う。

「戻ってきたんですよ、元の世界に!」

いつのまにか女は消えていた。

あたし達はエレベーターを降りた。

すると、聞きなれた声に迎えられた。

「皆川先生ー!」

「あ、香。礼一郎も。」

良かった、本当に元の世界だわ。

「え…先生。それ。」

「え?」

強張った表情で香が指差す先には、クロ。

「あ、香君ですね。お隣はお友達で?」

「…はあ、まあ。」

…どうしたのかしら?さっきからやけに通行人の視線が…。

「…先生。クロさんの格好。」

「え?…ああー。」

そうだわ。カラスのオバケのままだった。

「クロ、元に戻れそう?」

「無理です!まだ力の調整に慣れてなくて。」

サラッと絶望的な事言いおって。

あ、いい事思いついたわ。

あたしはこちらを見ている人々に向けて、大声で叫んだ。

「えー、世にも珍しいカラスのゆるキャラが遊びに来てくれましたよー!ちびっこ集まれー!」

「…は?」

そして、意味が分からないという顔をしている香と礼一郎を睨む。

「…ちょっと。サクラやってよ。クロもそれっぽい仕草して。」

「…。」

香は戸惑いながら、クロに抱きついた。

「わ、わー。ふわふわだー。」

そして小声で礼一郎に言う。

「…お前もやれ。」

礼一郎はちょっと考えて、クロを見上げた。

「わー。か、かわいいなー。」

あたしはもう一度クロを見た。

「ほら。」

彼はちょっと首を傾げながらも、後ろ足で立ち上がった。

「がおー。」

棒読みね…。ま、仕方ないか。ゆるキャラって普通喋らないし。

あたしは香の携帯を取って、トワに繋いだ。

「もしもし、トワ君!」

「もしもし、トワ君!」

「皆川くん。無事着いたようだね。」

俺は携帯から聞こえてきた声に安心した。

「ええ。あなたも早く。」

「分かった。」

俺はエレベーターが着くのを待って、それに乗り込んだ。

4、2、6、2、10。

順番に移動して、5階のボタンを押す。

5階で乗ってくる女か…。異世界の人間なら、どうして今まで会わなかったんだろうか。

…止まった。5階だ。

音もなく開いたドアから、髪の短い中年女が乗ってきた。

「…。」

こいつと口をきかないようにすればいいのか?楽勝じゃないか。

思いながら、1階のボタンを押す。

なるほど、1階には下がらずにどんどん上へ行くのが分かる。

「…リョウカ?」

「‼︎」

胸をつんと突かれるような衝撃。

何で俺の本名を知っているのだ?

「リョウカでしょう。大きくなって…。」

こいつ、まさか…。

「母…。」

慌てて自分の口を押さえた。

そうしないと、話しかけてしまいそうで。

「10年もどこ行ってたの?心配してたのよ。」

まさか。そんなはずはない。こんな所にいるはずがない。

「リョウカ。女の子みたいな名前つけたこと、いつも怒ってたわよね。」

「…。」

「まだ怒ってるの?お願い、声を聞かせて…。」

駄目だ、答えちゃいけない。

こいつは本物じゃない。10年も経ってるのに、あの時のままのはずがない。

早く10階に着くのを、ひたすら祈る。

7階から8階、8階から9階へと上がるのを、とても長く感じた。

そして、待ちに待った10階。

「…?」

どうしたんだ。ドアが開かない。

「リョウカ…。なぜお母さんから離れようとするの?また一緒に暮らせばいいじゃない。」

無視して、扉を開けるボタンを連打する。

「折角また会えたのに、どうして行こうとするの?」

…ええい、うるさい!

俺はボタンを押し続けた。

「開け…。開け…‼︎」

「リョウカ…。」

それはもう俺の名前じゃない。

それに、偽物なんかに呼ばれたくない。

「リョウカ…。」

失せろ、偽物‼︎

「開けええええっ‼︎」

今までで一番の気合いを込めて、ボタンを押した。

…。

やっと開いたドアの向こうから聞こえた、喧騒。

ああ、何年振りだろう。

ふらっとエレベーターの外に出ると、皆川 棗が携帯を手に立っていた。

「お疲れさん。」

「…ありがとよ。」

俺達は顔を見合わせて、笑った。

「えー⁉︎5階で乗ってきた人がお母さんだった?」

あたしとクロ、香、礼一郎、トワの一行は、休憩を兼ねてファミレスにいた。

それにしても、まさか人によって別の女が乗ってくるなんてね。しかも一番話しかけちゃいそうな。

「湊先生が乗ってたら確実に皆川先生の姿の人が乗ってきますね。」

香が笑いながら、イチゴのジュースを吸った。

「俺は美人だったら誰でも話しかけちゃうなあ。」

「礼一郎、馬鹿かお前。」

あー、このやりとり。なんか久々。

「そういえば、トワ君はこれからどうするの?」

「俺か?俺は…。」

彼は少し考えて、言った。

「取り敢えず住む家を見つけるよ。こんな姿じゃ母さんの所にも帰れないし。」

「そう…。」

子供の姿だもんね。可哀想。

「そういえば、ちはやが出てきた本て…。」

「ああ。持ってるよ。」

彼は懐から一冊の本を取り出した。

「なるほど…。これが彼女の弱みになるかもしれない本か。」

あたしは本を見た。

表紙の文字は掠れて読めない。大分古い本に見えるわ。

「よし。トワ君、この本はちはやちゃんに対抗するための唯一の手立てになるかもしれないから、大事に保管してちょうだいね。」

「分かった。」

あたし達はそれぞれドリンクを飲み終えると、解散した。

「結局服買えなかったわね…。」

「ええ…。」

帰り道を、クロの背に乗って進む。

「そういえば、いつになったら元に戻るの?」

「分からないです…。」

「自分の事なのに⁉︎」

「すみません…。」

こんな大きい生き物住まわせるスペース、うちにはないわ…。

思っていると、後ろから声をかけられた。

「皆川さん。今晩は。」

振り返ると、和歌歩さんが立っていた。

「あら、今晩は。」

彼はこちらに歩み寄ってくると、クロの額に手を当てた。

すると、何て事。クロの姿が元に戻って、四つん這いの彼にあたしが腰掛けているという状況。

「何かあったようですね。」

「まあ、色々とね。」

「烏丸さん、気をつけてくださいね。」

クロはそっぽを向いた。

「言われなくても分かっている。」

「おやおや、どうやらすっかり嫌われてしまったようですね。」

和歌歩さんは苦笑した。

「ごめんね、和歌歩さん。…ちょっと、クロ!」

「すみません先生、しかしあいつは…。」

「はい、黙る!」

あたしは和歌歩さんに礼を言って、彼と別れた。

…ていうか、和歌歩さん何者?普通の幽霊じゃないのね。

「あんまり気を張りすぎちゃ駄目よ、クロ。」

「…すみません。」

「分かればよろしい。」

それにしても、今日は色々あったわ…。なんか疲れちゃった。

「早く帰って、ごはんにしましょう。」

「はい!」

言って、あたしは少し歩を早めた。

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裂久夜様、コメントありがとうございます。
皆川先生は、ある意味高校の怪談メンバーの中で最強です。霊も素手で殴ります。

皆川先生、最強(笑)