中編4
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出逢いの話・3

「がきごぜさんに会いに行きましょう。」

「がきごぜさん?」

聞き返すと、木葉は頷いてもう一度繰り返した。

「がきごぜさん。」

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~~~

話を聞くに《がきごぜさん》とは、どうやら旅芸人の類いらしい。

「何処に居るんだ?」

「山の中。でも、行く前に準備しなきゃ。」

そう言って鞄の中をゴソゴソと掻き回し、お菓子類を取り出す。煎餅と飴玉とチョコレート。大した量ではない。

「真白君、何か持ってませんか?」

「何かって・・・食べ物?」

「はい。食べられる物なら何でも。」

・・・お腹が空いているのだろうか。

「弁当しかないけど。」

「お米、持ってますか?」

「お腹空いてるのか?」

「僕じゃないです。がきごぜさんが。」

アルミホイルに包まれたお握りの一つを取り出し、手渡す。

「三個しかないから、一個しかやれないけど。」

「有り難うございます。僕、今日も海苔弁だから、分けられなくて。・・・お握りの分、足りないなら海苔弁食べますか?」

「・・・うん少し貰う。木葉は俺のピーマン炒め食って。」

「はい。」

木葉の弁当は、基本的に何時も海苔弁当だ。しかも、おかずもデザートも一切入っていない。

だからか、人参以外の物なら大抵喜んで食べる。

なので、俺は専ら、嫌いなおかずは木葉に押し付けている。

「真白君のお弁当は、何時も沢山おかずが有って良いですね。」

冷凍食品と残り物ばかりの弁当を羨ましがる木葉を見て、俺は少しだけ申し訳無くなった。

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~~~

話の流れから、何となくそのまま昼食を食べた。

俺のバックの中からは、あれから更にプチゼリーが数個見付かった。

「さて、行きましょうか。」

弁当を食べ終えた木葉が立ち上がる。

俺も立ち上がりながら、尋ねた。

「がきごぜさん・・・の所か?」

「ええ。少しだけ足りないですが、途中でどうにかしましょう。」

彼は大きく頷いた。

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~~~

道を歩いていると、近所の梨農園前で木葉が立ち止まった。気の良い老夫婦がこじんまりと営んでいる農園だ。

然し、今日は誰の姿も見えない。

定休日か、はたまたシーズンが終わろうとしているからか。

もう梨の収穫は終わり、一本の木に一つか二つずつぶらさがっているのを残すのみだ。

其れでも何れも大層立派な梨である。どの木にも有るし、取り忘れとかではないだろう。

・・・木葉は、一体何をどうする積もりなのだろう。

「ちょっと待っててくださいね。」

そして、突然ネットを潜り、中に入ってしまった。何が起こったのか分からないでいると、木葉は大声で叫ぶ。

「くーださーいなーー!!」

「どーうーぞーーーー。」

誰も居ないように見える農園の何処かから、確かに返事が聞こえた。若い女性の声だった。

「有り難うございまーーす!!」

木葉が御礼を言い、生っている梨を次々ともぎり始める。

「えっ・・・ちょっと?!」

五個程もぎ取り、あっと言う間に帰って来た。

「此れでよしっ・・・と。」

「いや良くない!!」

常識のズレている奴だとは思っていたが、まさか此処までとは思わなかった。

「どど、どうすんだよ其れ!!」

「がきごぜさんに・・・」

「いやいやいや、泥棒だから!!」

「泥棒じゃないです。ちゃんと貰いました。」

「でも、此処の梨農園、やってんのしわしわの爺婆だぞ!!あの女の人が何だかは知らないけど、流石に売り物に手を出すのはヤバいんじゃ」

「あれ、売り物じゃないですよ。」

「ないか・・・・・・え?」

木葉がニコリと笑った。

「あれは、木守の梨です。」

「・・・キモリ?」

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~~~

キモリ、と聞いて、俺は咄嗟にポケッ○モンスターのキャラクターを思い出した。キモリ?キモリの梨?梨なら、寧ろチコ○ータの方がビジュアル的に近くないだろうか。

「木を守る、と書いて《木守》と呼ぶんですよ。実を全て採ってしまわずに、何個か残して来年の豊作を願うんです。同じ字で、コモリ、とも呼ばれますね。」

まじないみたいな物だろうか。

「採っちゃって良かったのか?来年、梨、採れなくなったりしないか?」

「ええ。ちゃんと許可を得ました。」

当然だとでも言いた気な顔で頷く木葉。

俺は溜め息を吐きながら、もう一度説明しようとした。

「だから、あの女の人の声は、此処の農園やってる人とは違くて・・・」

「でも、あれは、梨の木の分です。もう、此処の御夫婦の物じゃない。」

木葉が、奥の方にある一際古い木を指差した。

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~~~

木の中に人が閉じ込められている、と思った。

が、理解した。

シルエットが女の人の様に見えるのだ。

然し、また直ぐに気付く。

木に張り付いた其の模様が、まるで手でも振るようにユラユラと動き出したのに。

木葉が彼女に向かい、ゆっくりと頭を下げながら言った。

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「彼処の梨は、もう全て彼女のものですよ。」

Concrete
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紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

お気になさらず。
全部平仮名は読みにくいですよね。

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紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

何やら難しそうですね・・・。
其の瞽女さんは、やはり旅芸人のようなものなのでしょうか?

さあ、どうでしょう。
遅れながらも書きました。宜しければ、お付き合いください。

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まっしろさんへ
コメントありがとうございます。

ええ。ネタバレになってしまうので、あまり言えませんが、正解です。

僕も其の点では違和感がマッハです。只の呼び捨てなら偶に呼んでいますが。
読み方は違えど、字が同じですからね。

今はそんなことないと思いますよ。庭の畑で態々作っているくらいですから。

また書かせて頂きました。宜しければ、お付き合い
よろしくお願いしまああああああry

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紫音さんへ
コメントありがとうございます。

返事が遅れて、ごめんなさい。少しだけ忙しかったんです。

可愛いかはともかく、何だか、遠かった兄達を近くに感じられた気がしました。

お休みなさいませ。
・・・と言っても、返事が遅れた為、今はもう夕方ですが(笑)

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mamiさんへ
コメントありがとうございます。

遅くなってしまい、すみません。
本当はもっと早く御返事したかったのですが、少し立て込んでまして・・・。

そうでしょうか?
そう言われると何だか嬉しいようなくすぐったいような、不思議な感じがします。

ええ。猿兄の印象には強く残っているようです。
・・・実は、此の後木葉さんが色々とやらかすのですが、其れまで書くと本当に長くなってしまうので、少し困っています。
もし宜しければ、お付き合いください

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HOYU HOYOUさんへ
コメントありがとうございます。

梨の花は美人を例える代名詞ですからね。
僕も、少し会ってみたいです。

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ああ~(;//́Д/̀/)'`ァ'`ァ

お兄様たちのやりとりがなんとも可愛い過ぎて、萌え死してしまいそう(*´д`*)

萌え死しそうになりながら寝ようと思います。

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この時代の木葉さんにお弁当作ってあげたい…
可愛すぎる二人のやりとりですね。薄塩さんとの小学校時代のようです。
色々見える二人。珍しくないことだったでしょうに、その中でもこのお話が印象深かったということですよね…楽しみで仕方ありません。

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木守の梨に会ってみたいです

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