中編3
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出逢いの話・4

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木葉に連れられて山道を歩くこと十数分、人工の杉林を抜けた所に、其れは居た。

「こんにちは。がきごぜさん。」

三味線を立て掛けられたミイラのような何かに、木葉がペコリと頭を下げた。

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死体だと思った。

黒く張り付いた肌、抜け落ちた髪、浮き出た肋骨に剥き出された歯、異様に膨らんだ下腹部。

そして、黒々とした穴だけの、目。何処もかしこも乾いて萎びて縮んでいるというのに、其処だけ主張することを止めていない其の眼窩。

やはり死体だ。厭わしい。

生理的嫌悪感で、思わず目を背けた。

幽霊だとは、思わなかった。 どうしてかと言うと表現が難しいが、何となく《実体感》が有ったのだ。犬猫や人と同じような、確かに此の世に存在している感じが。

「ほら、真白君。」

木葉が俺の腕を掴んだ。

「挨拶してください。がきごぜさんは目が見えないから、声を出して挨拶しないと駄目なんです。」

微動だにしないミイラ擬きの前に、否応なしに引き出された。

木葉を見ると、至って真面目な顔をしている。からかっている訳ではないらしい。

「ど、どうも。真白って言います。木葉の友達です。」

仕方無いので、渋々頭を下げた。

当然ながら反応は帰って来ない。当たり前だ。死体が喋る筈がない。

どんな反応をすれば良いのやら。どうにも困ってしまった。

「はい、此れどうぞ。お握りとゼリーは真白君がくれたんですよ。」

困ってしまっている俺にはお構いなしで、木葉はミイラ擬きの前に食べ物をどんどん置いていく。

其れ処か、目の無いミイラ擬きに目線を合わせるような仕草をし、時折、一言二言何かを言ってはニコニコと笑っている。

こう言ってはなんだが、正気と思えない。

俺は正直な所、恐ろし過ぎて今にもチビってしまいそうだった。

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木葉が食べ物を一通り並べ終え、此方に戻ってきた。ミイラ擬きに向かい、改めて礼をする。

「どうぞ、お召し上がりください。」

其の時だった。

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カタン、と軽い音が聞こえた。

逸らしていた目を、もう一度ミイラ擬きに向ける。

見ると、細い腕が、置かれたお握りへと伸ばされていた。

くるんであるアルミホイルごと、ミイラ擬きは其れを口の中に押し込んだ。

噛み砕いている様子は無く、ただ喉元が緩やかに動く。まるで、水か何かでも飲み下すように見えた。

ごくり、ごくり、ごくり、と三口で大きめのお握りを飲み、今度はお菓子類に手を出す。此れもまた、噛まずに飲み込まれる。飴の包み紙もプチゼリーのカップも、御構い無しだ。

最後に梨を、一つを二口程度で口の中に詰め込んでしまうと、ミイラ擬きの目の前は、またまっさらな地面に戻ってしまった。

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唖然としていた。

質問をしようと木葉の方を向くと、高く澄んだ音が耳を打った。前方からだった。

ミイラ擬きが、自身に 立て掛けられた三味線を持ち、其れを演奏していたのだった。

横で嬉しそうに手拍子を始める木葉。

俺は愈、何が何だか分からなくなった。

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まっしろさんへ
コメントありがとうございます。

恐らく・・・。《瞽女》で検索した所、其れらしき物が出てきましたので。

あー・・・。察しました。
僕は何となく、餓鬼だから下腹部が膨らんでいるのかと考えていました。
成る程。其の考え方も有りますね。

三味線って、案外アップテンポで格好いい曲も多いですよ。・・・いえ、僕が聴いたのは只の舞台で、がきごぜさんでも何でもありませんでしたが。

そうみたいです。でも、《嫌な感じ》とか《悪い人じゃない》とかが分かる(自称)ので、其の点では僕らよりハイテクかも知れません。

金曜ロードショーでやってたのを見たばかりだったので、何となく・・・。
今さら恥ずかしさに悶えて居ります(笑)
次回も宜しければ、お付き合いください。

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紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

化け猫は行灯の油を舐めますし、牛鬼は魚を食べるそうです。
河童に胡瓜、なんてのも定番ですね。
山姥の恐ろしい所だって《人を喰う》所でしょう。

妖怪だから物を食べない・・・とは、一概に言えないのかも知れませんよ。
ジバニャンとかもチョコボーなるお菓子を食べるそうですから。

不思議なのは妖怪の所為なのです。そうなのです。

YUKA Hosakaさんへ
コメントありがとうございます。

子供でしたからね。やはり異常な光景だったのでしょう。一種の狂気に見えたんでしょうね。
僕だって兄がミイラと楽しそうに会話し始めたらチビりはしませんが泣きますよ。

子供のときは普通に素顔だったそうですよ。
猿面をつけ始めた詳しい時期とかは分かりませんが、少なくとも、高校時代とかまでは素顔だったようです。

無事書き上げました。
宜しければ、お付き合いください。

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