中編3
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小さな話

※此れから書くことは全てフィクションであり、実在の人物・地名・団体とは一切と関係無い物としてして御受取り願いたい。

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1.薬局前の自販機

暑さに負けてジュースを買おうとしたら、硬貨の投入口から何かが此方を見ている。

此処で買わないのも自意識過剰かと思い、硬貨を押し込みジュースを買った。ピッタリの金額で買った筈なのに、何故かお釣りの落ちる音がした。

見ると、釣り受けに数枚の五百円玉が落ちている。黒くてドロリとした液体にまみれていた。

怪しく思って手を出さずに立ち去ろうとすると、後ろからガタゴトと大きな音が聞こえた。

振り向くと、さっきの自販機が、僅かに自販機達の列から飛び出していた。

急いで逃げた。

買ったジュースは別に可笑しな物ではなかった。

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2.団地の前の砂場

夕方、友人と団地の前を通ると、一人の少女が話し掛けて来た。

「ねぇ、火を付けて。」

差し出された手には蝋燭が握られている。もう片方の手には家庭用花火の袋。

火種を持っていないことを伝えようとすると、友人に肩を捕まれた。

「駄目だ。」

「分かってるって。」

軽く頷き、其の場を離れる。

少女は僕の後ろ辺りに居た女性にターゲットを変更したらしく、また頻りに「火を付けて。火を付けて。」と話し掛けていた。

別れ際に友人は

「火を渡したら、其処ら中に火を付けて燃やし出すから。」

そう言って何だか嫌そうな顔をしていた。

家に帰って暫くすると、母が帰って来た。

「さっきね、其処の団地のゴミ捨て場でね、ボヤ騒ぎだって!!・・・若い女の人が犯人だって捕まえられたみたいよ。」

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3.スーパーの駐車場

買い物をしている母を車で待っていると、可笑しな音が聞こえた。

キィー、キィー、という甲高い金属質の音だ。

古びたブランコに少しだけ似ていた。

気になって窓から覗いて見ると、ペラペラとした女の人が駐車場内を練り歩いている。

キィー、キィー、という音は、其の女性の鳴き声だった。

三歩程歩いては鳴き、また三歩程歩いては鳴き、というのを繰り返している。

駐車場なので、当然車が通るのだが、そんなこと全く気にしていないようだった。

髪を金に近い茶色に染めた、疲れたような顔をした中年女性が軽自動車で女性に近付く。

あっ、と声を上げる間も無く、女性は軽自動車に押し潰された。軽自動車が通り過ぎた後、押し潰された彼女は、グシャグシャにされた新聞紙のような見た目になっていた。身長は半分以下になっていた。

其れでも、彼女は何を気にした風でもなく、ただひたすらにキィー、キィー、と鳴きながら駐車場を練り歩いていた。

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4.デパートの洋服売り場。

男性服売り場の試着室から、何故か女性らしき足が覗いていた。

其れから一時間程他の所で遊んでからもう一度行ってみたが、まだ足は試着室の中に居た。

することも無かったので、何となく其の試着室を見詰めていると、不意に一人の男性が数着の服を持ち、試着室の扉に手を掛けた。

開かれたドアの中には、誰も居なかった。

然し、閉められた途端に足はまた姿を現した。

男の足を挟んで一本ずつ両端に別れて立っていた。

其の内、少しずつ内側にずれて来る。そして、軈て、あの男性にピッタリ重なって、彼女は消えた。

消えたまま男性は試着室から出て来て、何処かへ行ってしまった。

足はもう見えなくなっていた。

彼は《試着》され、気に入られてしまったんだろう。

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5.近所の空き地

朝、近所の空き地の前を通った時、池で魚に餌をやっているお婆さんを見た。

麩だか食パンだかを、千切っては投げ千切っては投げ・・・。派手な水飛沫も上がっていたし、大きな鯉でも居るのかも知れない。

あんな池、有ったかな・・・と疑問に思いながらも其の場は一端通り過ぎた。

帰り道、どうにも気になって其の空き地へ行くと、地面はまっさらで、池も魚も消えていた。

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お婆さんは居た。

朝と何も変わらず、雑草の生えた地面に向かい、麩だか食パンだかを千切っては投げを繰り返していた。

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私も試着の話、好きですねえ。余計な描写や無駄な軸がなく、淡々とした語り部が非常に好みでした。夏の夜ににぴったりの短編ですね。

実際にこんなことが自分の周囲で起きたら・・・・・・そう思うと、背筋に冷水でも浴びせられたかのようにゾクリとします。現実味を帯びた生々しい話ですね。オチが非常に綺麗にまとまっていて、「嗚呼、なるほど!」パソコンの前でぽんと手を打ちました。と、同時に。恐怖で全身がぷつぷつと泡立ちましたね。しばらく試着室には入れないでしょう(笑)。

最後の老婦人の話も好きです。以前、とあるサイトで「人間の最も恐ろしいと思う現象___それは未知なるものへの恐怖である」というような話がありまして。つまるところ、人間は自分が知らないもの、把握していないものに対して、恐ろしいと思うようです。把握していないということは理解していないということ。或いは理解出来ないこと。私がこの話の主人公だったら、恐怖でその場に座り込んでいたでしょうね。ネタバレになるので詳しい描写は避けますが、1度目にしていたものが2度目にはないのだから、これは恐怖以外の何物でもありません。あったものがない。それに対して把握が出来ず、理解に苦しむでしょう。だって、さっきは確かにあったじゃないか____。この目でしかと見たのに____と、そういった心理状態になるでしょうね。

紺野さんの発想力、着眼点、こんこんと湧き出る清流のようなネタの多さには、いつも舌を巻いております。私は視野がせせこましい人間なもので、何に対しても偏りがちになってしまうのですが。紺野さんのような豊かな視野にとても憧れます。視野が広いということは、限りなく余すところなく心が広いということに通ずるものだと思うのです。

バケオさんへ
コメントありがとうございます。

一つ一つの話を独立させるのは無理だったので、やむを得ずこの形式にしました。
此れからも、貯まったらちょぼちょぼと投下したいと考えています。
宜しければ、お付き合いください。

こういう短編集好きです (^^)
特に試着のオチが面白くて良かったです

裂久夜さんへ
コメントありがとうございます。

有り難う御座います。
正直中途半端な話が多いので、総スカンを食らったらどうしようかとハラハラしていたんです。

本編の方も一応新しく書きました。
宜しければ、お付き合いください。

mamiさんへ
コメントありがとうございます。

返す言葉も御座いません。
僕も今思うと何で飲んだのかなって・・・。
何でしょう、何か、彼処で捨てたら負けた気がして・・・。

ナゾラ人さんへ
コメントありがとうございます。

一々首を突っ込むことは出来ませんが、何となく引っ掛かっている細々とした出来事を書きました。
気に入って頂けたのなら、何よりです。

こういう密やかな怖さのオムニバスも、なかなか読み応えがありますね。

気分転換に良かったです(笑)

不気味だと分かって買った自販機のジュース…私なら飲めない…

「不条理」の三文字を文章にするとこうなります、という感じがして、こちらも刺激されました。