短編2
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出逢いの話・5

唐突に始まった三味線の演奏。

俺は呆然としながらも、あることに気付いた。

このミイラ擬き・・・基、がきごぜさんは、どうやら声が出せないらしい。

三味線を掻き鳴らしながら、口を大きく動かしているのに、何の音も出ていないのだ。

全体的に干からびているから、きっと舌も喉も固まってしまっているのだろう。

・・・・・・ん?

だったら、三味線は。この三味線は、どうやって弾いているのだろう。あんな枯木のような腕で。

俺はミイラ・・・じゃなくてがきごぜさんの手元に目を遣った。

「・・・・・・あ。」

手が、変わっている。

枯木のようなゴツゴツした手から、白魚のようなすべすべとした柔らかそうな手に。

呆然としている俺に、木葉は気が付いたらしい。

「どうかしましたか?」

手拍子を止め、不安そうな顔で話し掛けて来た。

俺が、がきごぜさんの手が変わっていることを伝えると少しホッとした顔になった。

「もしかして、気持ち悪いって思ったのかなって・・・。」

「いや、まぁ、其れは大丈夫・・・だけど。」

「なら良かったです。」

そして、数回瞬きをした後、尤もらしく言った。

「がきごぜさん、ご飯を食べると手だけは戻るんです。力が出るからだと思います。」

「戻るってそんな・・・干し椎茸じゃないんだから。」

「御経を読む為に、骸骨になっても舌を残していたお坊様も居たそうです。・・・元々、がきごぜさんは三味線を弾くのが御仕事ですからね。手くらい残りますよ。」

当たり前のように言う木葉に、俺は何となく圧倒されて其れ以上何も言えず、ただただ頷くしかなかった。

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~~~

何となく見ている内に、俺も木葉に合わせて手拍子を始めた。

慣れとは恐ろしいもので、どうやら此の非現実的な状況に、俺は適応してしまったらしい。

ポン、ポン、とリズムを取りながら手を打つ。

其処でまた気付く。何時の間にか、手拍子の音が幾つか増えている。

「音に釣られて、誰か来たんでしょう。」

「こんな山の中に?」

「ええ。」

そんなものか、と何処か納得してしまった。

「そろそろお仕舞いですね。」

木葉が、少しだけ寂しげに呟いた。

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~~~

一際大きな三味線の音が響いた。

林に木霊する音の中、がきごぜさんが静かに一礼する。

次々と消えていく拍手の音。

徐々に辺りは静けさに包まれていく。

そして、音達の余韻が消えた頃、がきごぜさんは居なくなっていた。

「終わっちゃいましたね。」

木葉が呟く。

ぽつねんと佇んでいる彼に、俺は声を掛けた。

「帰ろう。」

振り向いた木葉が答える。

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「嫌ですよ。僕、此れから家出するんです。両親に会いに。」

「えっ。」

「其処で、真白君に頼みがあるんです。」

「え?」

「一緒に家出してくれませんか。」

「うえっ?!」

どうやら、何やらまた可笑しなことになっているらしい。

Concrete
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紫音さんへ
コメントありがとうございます。

返事が今更になってしまい、申し訳ありません。
ズレてはいても悪い人ではありませんし、自然と助けが来るんでしょう。

微笑ましさ半分、違和感半分、って感じですよね。
僕としてはどうしてもコレジャナイ感が否めないのですが・・・。

冗談ですよ(笑)
本気で言った訳ではありません。

あの二人の母親・・・。
例えにしても、何だか体力の要りそうな役回りです。木葉さんは母親が居たらべったりになりそうな気が・・・・・・いえ、失言しました。お忘れください。

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まっしろさんへ
コメントありがとうございます。

妖怪干し椎茸擬きミイラ・・・失言致しました。
忘れてください。

其の考え方があったか!
目から鱗とはこの事ですね。
お釜何杯分位で完全復活するのか・・・。何だか気になってきました。

木葉さん、変な所で妙に頑固ですからね。例えば人参とか。人参とか人参とか。
烏瓜さんの巻き込まれ方は単なる思い込みですよ。

一応、新しく書きました。宜しければ、お付き合いください。

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YUKA Hosakaさんへ
コメントありがとうございます。

というか、単純に烏瓜さん以外の友達が居なかったんだと思います。
店長と出会っていたかは分かりませんが、多分、烏瓜さんとの方が付き合い長そうですし。
信用云々の話はまた別として。

どうぞどうぞ。
でも、兄さん強いですよ。護る必要性があるかどうか・・・。抑、敵も居なさそうですし。

そ、其れは兄を越えろということでしょうか?!
精進致します・・・。

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mamiさんへ
コメントありがとうございます。

いや、本当に僕も何度そう思ったことか。原因がどうにも不明でして・・・。個人としても凄く気にはなっているんですけどね・・・。

そうですね。きっと、今でも結構仲良いんじゃないかと思います。多分。恐らく。断言は出来ませんが。

コメントを見て、僕も何となく自分の過去の話を読み返してみたんですよ。
凄い前の話にもmamiさんのコメントがあって吃驚したと同時に、何だか嬉しかったです。
あと、昔は普通に話の中に顔文字とか使っていて恥ずかしくなりました。

次回も、宜しければ、お付き合いください。

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裂久夜さんへ
コメントありがとうございます。

木葉さんが慣れてるくらいだから、そう恐ろしい相手でもないとは思いますが・・・。
お腹が空きすぎたら、人を喰うやも知れませんね。

そうなんですよ。恐らく。

北海道まで・・・。
海が有りますよ(;・ω・)
というか、三輪車に乗っている年齢で其のパッションって・・・。色々と凄すぎです。

・・・斯くいう僕も、自転車で名古屋の親戚の家まで行こうとしたことが有りましたが。

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紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

続き物じゃなかったら、其のタイトル流用してたんですけどね・・・。
残念です。

苦労人感が半端無い真白さん。どうしてああなった。
宜しければ、次回もお付き合いください。

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紫音さんへ
コメントありがとうございます。

木葉さんの《普通》は、何処かズレてますからね。
しかも、猿兄は木葉さんを只のビビりと勘違いしていたらしいですし・・・。
驚きも倍増だったでしょうね。

壁|゜Д゜;)))ガクブル
僕にはよく分からないですが、微笑ましいですよね。
微笑ましい・・・ですよね?
別に変な意味で見てたりしてませんよね(笑)?

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た…たまらん(またかよ!?)
読めば読むほど、なぜ今の関係に…誰よりもの親友になれたような…でも、今も絆的なものはお互い密かに持っていそうですもんね…
実は、このシリーズ中に木葉さんとの出逢いやら烏瓜さんの出逢いやら、この二人が絡んでるお話を読み直しているところです。
我ながら、どんだけファンなんだと思うほどです。
私がまだ、こちらにコメント載せたりできなかった頃からの分もあって…今更『怖い』を押したくなります。
もちろん、次回も待っております。

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木葉のお兄様にとっては普通の事なのでしょうが、烏瓜のお兄様にとっては、とても不思議な体験だったのでしょうね。

このシリーズを読んでいると、更にお兄様たちに萌えが止まりません|・´∀`・)ハァハァ 萌えぇぇ↑www

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