中編5
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残滓 2

翌日 某県某所 廃道の神社

「仕事を早めに切り上げて来てみたものの...」

顔が変わっている理由があるならここの神社しかないだろう、そう思い来てみたもののこれといって手がかりもなく

周辺の集落に行ってみたが、もう宵の口で農作業もないのか人影は見当たらず途方に暮れていた。

「何かに憑かれたならお祓いしてもらおうと思ったんだけど、見たところ神主さんはいつもはいないみたいだしなあ...」

諦めてトボトボと歩いて道へ出る、今回は目印も付けてきたし迷う事はない

目印を頼りに萌える草木の中を掻き分け進んでいくとやがて濃い霧がかかってきた

「うわ、何も見えねえ...まあ方角は合ってるしな...」

濃霧の中をひたすら道路へと進んでいく...が、道へ出ると入る際に付けたはずの目印が見当たらない

しかも停めておいた車もなくアスファルトで舗装されていたはずの道路がまるで戦後すぐの映像で見たような砂利道となっている。

「おいおい...間違えて逆側の林道にでも出たのか...」

しかし方角はこちらで合っているし、途中で林道に突き当たる事もない

困惑して暫く動けずにいると急に激しい頭痛と吐き気に見舞われ意識を失ってしまった。

「ん...夢か...?」

目を覚ました時私は何故か実家の2階にいた、倒れた私をたまたま見かけた集落の方が救急車を呼んでくれて実家から迎えに来てもらったのだろうと思ったが違和感がある。

「テレビがない...というか何だこれ、ラジオか?」

教科書や戦争映画でしか見た事のないような、初歩的なラジオがある以外部屋には何もなくなっていた

「俺が出てってから親父の趣味部屋にしたのかな...」

そう考えた私は下に降り歯を磨こうと洗面所へ向かう

歯を磨き顔を洗い終えふと鏡を見るが特に変わった事もない

すると早くから出かけていたのか母の「ただいまー」という声が聞こえてきた

あの廃道で倒れてからずっと1人で多少なりとも心細かった私は「おかえりー」と言うと子どもに戻ったように母に泣き縋る。

「あんたは昔から本当甘えん坊ねえ、味噌汁あるからそれでご飯食べてね」

久々の母の味噌汁に舌鼓を打ち仕事へと向かおうとするが車がない。

「あれ?おふくろ、俺の車ってこっち持って帰ってきてないの?」

「え?車?自転車の事ならお父さんが畑に乗って行ったよ」

「え?いや、自動車だよ自動車、俺の家に置いて来てくれたのか?」

「自動車?あんた何言ってんだい、あんたあんな高価なもん買える程稼いでんのかい?」

「高価って、5ナンバーの中古だし維持費もそんなにかかってねーよ」

「5ナンバー?横文字使って変な子だよ全く...」

「いや変なのはおふくろだよ、親父も自動車乗ってんじゃねーか」

「お父さんがいつ自動車なんか買ったんだい、うちにそんなお金ないよ」

「え?あのセドリックは?」

「せど...?都会じゃそんなに舶来語ばっかり使ってんのかい、全く...」

「いや、親父が乗ってた日産のセダンだよ!あれで彼方此方連れてってくれたろ?」

「あんた熱でもあんのかい、もう会社に電話して今日は休みな」

どうも会話が噛み合わない...車といったら普通今の時代「自動車」の事と思うし

前に帰った時も親父のセドリックはまだあったはず...売ったにしてもこんな過疎の田舎で車を置いていないのはおかしすぎる

ここで目覚めた時のあのラジオの事を思い出した。

「なあおふくろ...今って何年何月何日だ?」

「本当おかしな子だねえ...倒れて頭打っちまったんだね」

「そうかもな...」

「今は昭和2...月...」

-------------------------ザザッ------------

そこで意識が途切れ気づくとあの倒れた場所...目印を付けておいた場所にいた

目印もそのまま、車もある、時間も戻っている

あの実家での会話は気になっていたが、倒れたショックで長い夢を見たのだろうと自分に言い聞かせ家路に着く

だがやはり気になり一応実家に電話をかけてみる事にした。

prrrrrrrrr prrrrrrrrr ガチャ

「あら、あんたが電話くれるなんて珍しいわね」

「あ、おふくろ...なんか急におふくろの声聞きたくなって...

いや、ちょっと気になる事があってさ...あの親父の乗ってたセドリックって...まだ乗ってる?そうか...ありがとう、いや、なんでもない、ごめん、近いうちまた帰るわ、じゃ」

ラジオの事も聞いてみたがそんな古いラジオはないというし、俺の部屋もそのままだという

やはり夢を見ていたのか...それにしても現実感の溢れるものだった

「あの時おふくろの言ってたのは...昭和2...昭和20年代...戦後すぐにタイムスリップか...SF小説なら戦時中とかだったろうな...」

そんな適当な事を考えながら翌日も朝早いのを思い出し家路へと急ぐ

翌日出勤してその話を同僚にすると一瞬引きつったような顔をしたが、すぐにまたいつもの作り話だろうと聞き流しているようだ。

「やっぱそうとしか思えねえかあ...」

「だってお前SF小説とか好きだから影響されただけだって、深く考えるなよ、今夜飲もうぜ」

「そうだな、あ、今度新しくできたビアガーデン、行ってみようぜ!」

「いいな、勿論お前のおごりだよな?」

「バーカ、お前も俺も給料一緒じゃねーか、ワリカンだ」

「へいへい」

そんな馬鹿話をしているから出世が遠のく我々であるが

それでも2人でいると楽しいし、お互いに一番の親友だ

そしていつもの様に仕事を終え件のビアガーデンへと向かう。

「暑いなー、こんな日はビールに限るな」

「お前いつも飲んでんじゃねーかよ」

私の毎度毎度の台詞を聞き飽きたのか同僚が遮る

「つってもあの廃道の事とかか色々話したかったしさ」

「また聞くのか...」

遠慮なく辟易している同僚をよそに目的のビアガーデンへと突き進む

そこで事態は急展開を見せる事となるが、今回はこの辺で失礼する。

続く

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