中編4
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残滓 3

某市街地 ビアガーデン

「あ、さしより生2つで、後枝豆と唐揚げ」

ハイヨロコンデ−

「で...お前が見たっていうその神社な、実は...」

オマタセシマシター

「おぉきたきた、さて乾杯といくか」

「お前なあ...まあいいか」

「「乾杯!」」カチャン

「あー生き返るー!」

「おう、生き返ったところすまんがお前が見たって言ってた神社な、俺もちょっと心当りがあるんだ」

「マジか?!何で言ってくんなかったんだよ」

「いや、会社だと周りの目もあるしさ...てかお前食べながら喋るな、ボロボロ溢れてんじゃねーか」

「あ、ごめん、それで心当りって?」

「この前さ実家に帰った時色々漁ってたらさ、古い地図が出てきてな、それでお前が見たっつう神社はここじゃねーかなって、その廃道も俺の実家から近いんだよ、これを現代の地図と照らし合わせてみたらピタリと一致する」

「うぉ...マジじゃねーか、てかなんでお前の実家にあの神社の地図が...?」

「いやな、あの神社の管理者は何年かに1回地区ごとに入れ替わってたから、うちの区に当たった時のやつだろうと思う」

「入れ替わってた?どういう意味だ?」

「いや、下ったとこに大きな本殿が出来たからうちの方の人間も皆そっちへ参るようになってそこの場所は半ば放置された状態なんだ」

どうりであの神社には人っ子一人いなかったわけだ

「そうなのか...ん?その本殿が出来たのっていつ頃だ?」

「親父の若い頃だから...確か戦中か戦後だなあ」

「70年近く経ってるってわけか...そんな期間放置されてたにしては俺が行った時はやけに綺麗だったぞ」

「まあそこで本題だが...お前あそこに最初行った時誰にも会わなかったって言ってたけど、夜中でもないのにおかしいと思わなかったか?」

思い起こせば時間はまだ宵の口であったし人家の明かりが全くないのも、農作業の軽トラがいないのもおかしい

いくら田舎でも1人くらいには会う筈だ、それなのに違和感がなかった...なぜだ

そんな事を黙考していると同僚がそうだろうな...といった様な感じで口を開く

「お前が見たのはな...残滓だ」

「残滓?思い出の残滓とかいう残滓か?」

「そうだ、あの場所に行くとコンパスや地図があっても道が分からなくなったり、お前みたいに興味本位で入って戻って来なかった人だっている、俺も子どもの頃はあそこに行くと神隠しに遭うと教えられて彼の地へ立ち入るのは禁じられていた」

よく2chの怖い話だとこの辺で何でも知ってる爺さんが「あそこへ行ったのか?!」とか出てきそうですが今作にはそんな人物は出てきませんので悪しからず

「まあただでさえ危ない場所だしなあ...で、それが何故「残滓」なんだ?」

ここまでの同僚の話を聞いても、廃道は危ないから大人達がある事ない事吹き込んで怖がらせているという典型的な伝承じみた話しか見えてこない。

「これはな、信じてもらえるか分からんが、話として聞いてくれ」

「おう、信じるよ」

「あの場所はな...あの山の中であの神社の周辺だけ、新しい本殿が出来てから時が止まっているんだ、まあそんな顔になるよな

でな、帰れなくなった人達はそこの集落で生活を続けているが偶に、外部からお前みたいな物好きが来て、その人間が自分とよく似た顔だったりすると...」

「すると...?」

「その人間と自分の意識を融合させて、その人間として現世に帰って来るんだ」

「つまり外部から人間が現れないと死ぬまで...」

「帰れない...まあ現世の都会の荒波に揉まれるよりいいかもな、はは」

どうやら私はその残滓で彷徨っていた人間を連れて帰ってきたみたいだ

霊的なものでない安堵感、それと何か人助けをしたような気分になりホッとため息をつく

「それにしても何で彼処の時間は止まってしまったんだ?」

「簡潔に言うと時空の歪みとかそういう事だろうが...それは俺も分からんな...」

「あ、そういえば彼処を出た人間に意識を完全にすり替えられるとか、そういう事は...」

ふと気になり尋ねると同僚は聞いた事の無いような不気味な声で

「ねーよ」

と一言だけ言ってまた他愛もない話をし始めた

怖くなった私は潰れるほど飲み、なんとか帰って床に就いた。

そしてまた、あの実家の部屋で目が覚める

「意識のすり替わり...まさか...」

ここでふと、この前ここで目が覚めた時の事を思い出す

何故気付かなかったのか...否、気付く筈がない

ここに居るのも間違いなく「私」だ、もう一人の「私」も「私」だ

此の世には1人の人間が複数存在する事は許されない、だからこそ私はここにいる、人の意識の収容所とでも言うべき此の地に...

194X年 初夏

「実時間だともうそろそろ201X年かあ...「俺」は来るかな...」

そして今日も此の集落ではいつも通りの毎日が始まる、何時迄も終わりの見えない毎日が....

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