中編4
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おはぎします。

「おはぎします」

どこからか聞こえる不気味な声。女というよりは低く、男というには少し高い声。声だけで性別を判断するのは難しいと思った僕は、手足を動かしてみる。

鼻をつく悪臭を出来るだけ臭わないようにして。

ジャラジャラと音が鳴り、腕には重い感覚。動かせないことに気が付いた。辺りの空気は冷んやりしていて、僕の額から滲み出る汗を冷やした。

「ここは、どこ?」

「おはぎします。先ずは手からおはぎします」

問う僕には答えず、ぐっと腕を棒か何かで押さえつけられた。ここで気付く。目の前が真っ暗なんだ。きっと目隠しをされている。

抵抗することもできず、汗は余計滲み出てポタリと僕の顔から落ちた。

「では、おはぎします」

パチンとなる金属音。先程から「おはぎします」という言葉を発し続けている「それ」の気配をすぐ隣に感じた。

「パチーン」

どこか嬉々とした声が聞こえてくる。少女のように思えた。

瞬間僕の右腕、つまりは押さえつけられていた手から「バリッ」と嫌な音が聞こえた。

「うああああああああああ」

僕は叫び、悶える。身動きのできない体をくねらせて、必死にここから逃げようとする。

親指の爪を剥がれたから。

キャッキャっと嬉しそうな声で数秒笑った後、打って変わって先程より低い声で「次はどこがいいですか?」と尋ねてきた。

僕の頭皮から汗が髪の毛一本一本の間を伝い流れてくる。

「……ふっ」

声を噛み殺し、唇を血が出るほど噛み締めた。口の中に鉄の味が広がる。

「それではこちらで決めさせていただきます。次は髪の毛をおはぎします」

嫌な予感。先程のことが蘇り、空気が淀む。僕は固唾を飲み込んで喉を鳴らした。

ブチブチブチッという音と僕の叫び声。小さな部屋なのだろうか、僕の声は四方から跳ね返ってくる。

頭が焼けるように痛い。髪の毛を一気に引きちぎられた。皮膚も持って行かれ、血が頭を伝う感覚が残った。

またしても聞こえる笑い声にぞくりと背筋が震え上がる。もうあの声を聞きたくない。

そう思っても耳栓なんてされてないし、手の自由がきかないから耳を塞ぐこともできない。

「次はどこがいいですか?」

低く変わらないトーンで問いかける。僕は荒い息を吐くしかできなかった。

「それではこちらで決めさせていただきます。次は腕をおはぎします」

嬉しそうな声は僕に近づいてくる。鼻歌交じりに聞こえる足音に、息も詰まった。

「……く、来るな」

「行きます。次は腕をおはぎしますよ」

初めて返答があり、逆にそれが僕の不安を煽った。

「キャハ」

少し笑った声は走りながら近づいて来て、数秒後、ゴリッという骨のズレる音が聞こえた。

「……あ、僕の腕」

もはや痛みを通り越し何も感じなくなった。腕を、全身を焦がすような熱い熱が腕に集中した。

千切られたであろう腕の方は血を噴き出しながら僕の腕から離れていく感覚を、休む暇も無い僕に与えた。

スルッとずれた目隠し。目に神経を集中させて目を見開く。

真っ暗な部屋だから何も見えない。

だんだん目が慣れてきてどういった部屋なのかが分かってきた。

真っ黒で四畳ほどの狭い部屋。家具なんてなくて、あったとしても僕が座っている椅子だけだろう。

生活感のないその部屋に不気味さを感じながら、一番気になっていた「あいつ」を探した。

「次はどこをおはぎしましょうか?」

耳元で聞こえる声。震える声で「……髪の毛」と言った。

もう一度俺の目の前へ決めもらうため。顔を見るため。

「承知しました」

そう聞こえて身構える。数秒の沈黙の後、何故か足が熱くなった。原因は分かる。「あいつ」が僕の膝から下をちぎったから。

「うあああああ……承知したんじゃなかったのか…!」

声にならない叫び声を腹の底から出し、ドクンドクンと身体中を巡る血をできるだけ千切られた部分から出さないようにした。

「本日はここで終わりです。大変お疲れ様でした。また明日、お会いしましょう」

礼儀よく聞こえる声は不気味でしかない。

目隠しを取られ僕がはっきりと見た景色は、死体の山だった。

僕の腕と足もその中に放られている。

僕は今までこんなものと一緒に狭いところへ押し込まれていたのか。

鼻をつく悪臭の原因がわかり吐き気が襲う。我慢できずに嘔吐しようとするも、出てくるのは酸っぱい胃液だけ。えづく僕は何度も繰り返す。

「まだまだ死なれては困ります。私たちの大事なペットなのですから」

ふふっと不敵に笑う「あいつ」の顔を見て、僕の一切の行為が止まった。

顔が無いんだ、そいつ。口が無いのに声は聞こえて、目は無いのに視線を感じた。

「お、かしいだろ」

気力をなくした僕は、ガクンと首を傾けた。そして未だ血が流れ続けている足と腕をぼんやり見つめて意識を手放した。

最後にふふふっと不気味な笑う声と、パタンと閉まる扉の音が聞こえた。

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