中編4
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ひとりかくれんぼ

頭が酷く痛い。

ここはどこだろう?体を動かそうとすると、後ろ手に手をしばられていることに気付いた。

足も足首の所でしばられて動けない。

私は、どうしてこんなところで縛られているのかを、一生懸命思い出そうとする。

そうだ。私は、呼び出された。同じクラスの相沢ひろかに。

相沢ひろかは、大人しくて暗い女子で、いつも教室の隅で一人で過ごしていた。

その相沢ひろかから、相談したいことがあると図書室に呼び出されたのだ。

正直、あまり親しくないし、無視しようかと思ったのだけど、あの大人しい相沢が私に何の用事があるのだろうと、気になって図書室に足を運んだのだ。

図書室に入ったとたんに、背中に衝撃が走り、私は倒れたんだっけ。後ろから背中を思いっきり蹴られたような衝撃。その部分に触れてみた。ヒリヒリとした痛みが走った。なんか火傷みたいな痛みだ。

手足を伸ばそうとすると、初めて自分が、ビニールプールのような物の中に寝かされているのがわかった。

「なっ・・・」

ようやく声を出すと、体に冷たいものが浴びせられた。

「ひぃっ」

冷たさに心臓を鷲づかみされたようだった。

恐る恐る見上げると、人が立っていて、バケツを構えていた。

ざあっ。ざあっ。バケツで何杯もの水をかけられた。

体が思うように動かない。私はひたすら恐怖に怯えるしかなかった。

誰?

暗さに目が慣れてきて、うっすらと窓からさす月明かりに、その人が相沢だとわかる。

「あ、いざ、わ・・・さん?」

相沢は、無言でまた私に水を浴びせる。どうやら、このビニールプールを水で満たしたいらしい。

「や、やめっ・・・。な、に、する・・の?」

体が痺れて動けない。たぶん、図書室で蹴られたような衝撃は、あれなのだろう。

うっすらと机の上に、テレビの画像でしか見たことの無い、スタンガンのような物が置かれているのが見てとれた。

「な・・ん・・で?」

体が痺れてうまくしゃべれない。

「しっ。黙って。お人形はしゃべらないの。」

何を言っているの?

突然、図書室のパソコンが起動し、辺りを照らした。

相沢の顔が青白く浮かぶ。

パソコンの画面は何故か砂嵐だ。

「今から、ひとりかくれんぼをはじめるよ。」

相沢が、今まで聞いたことの無いような大きな声で叫んだ。

何を言っているの?私がここに居るから一人じゃないじゃない。

「最初はひろかがオニだから。最初はひろかがオニだから。最初はひろかがオニだから。」

そう叫んだあとに、いーち、にーぃ、さぁーん、と数を数えだした。

これは、確か。ひとりかくれんぼのやり方だ。先ほど、相沢自身が宣言したように。

じゃあ、私は人形に例えられてるの?

待って。人形って、確か、どうなるんだっけ。

じゅーう。相沢が、数を数え終わった時に、ようやく思い出して、渾身の力をこめて体をよじった。

「ユキナ、みぃつけたっ!」

思った通りに、相沢は刃物を私につき立てようと、勢い余って前のめりにプールに倒れこんだ。

「ダメじゃん、人形は動いちゃ。」

水をしたたらせて、私を見下ろしてニヤニヤと相沢が笑った。

思うように動かない口を、動かして相沢に問う。

「な、なん・・で?」

「なんで?って。私は、これをやらないと、ユキナになれないからだよ。」

何?

「ひとりかくれんぼで、一人消えちゃうの。私ね、本当は自分が消えちゃおうと思ったの。苛められてたから。でもね、何で私が消えなくちゃならないの?おかしくない?消えるのは別に、誰でもいいわけじゃん?例えばさ、ユキナでも。」

意味わかんない。相沢は狂ってる。

私があなたに何をしたって言うの?私は苛めに加わった覚えなんかないよ。

「理不尽だと思ってるでしょ?でもね、私はいつもあなたが羨ましかった。妬ましかった。綺麗な顔をして、明るくて、みんなから好かれていて。私なんかと正反対。私、あなたになりたいの。」

相沢の片手にいつの間にかスタンガンが握られていた。

や、やめて。今、そんな物を押し当てられたら、死んでしまう。

必死に逃げようとするが、手足がしばられて、もがくばかりで動きが取れない。

衝撃とともに、胸に深々とナイフがつきたてられた。

「ユキナ、みーつけた。」

私の意識はブラックアウトした。

「ユキナー、おはよう。」

「おはよう。」

私は天使のような笑顔で答える。

朝、鏡を見た時の感動は忘れられないだろう。

この顔と、この体が私のものに。

これから学校は大騒ぎになるだろう。

だって、図書室には、深々とナイフを胸につきたてられた相沢ひろかが転がっているのだから。

今までの相沢ひろかは死んだのだ。

ごめんね、ユキナ。この体は大切に使わせてもらうからね。

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