中編4
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味噌汁と三島さん

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其の日、僕を出迎えたのは紅茶でも麦茶でも緑茶でもなく、一杯の味噌汁だった。

目の前の物体に困惑している僕に、彼は言う。

「怪訝そうな顔をしているね。説明代わりに、昔話をしてあげようか。」

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其の昔、美しく、機織りの上手い娘が居た。

彼女は拾われ子であったが、義理の両親に大層可愛がられていた。

娘は誰に習ったのでもないのに、何時の間にか機織りの方法を覚えた。しかも其れはまた見事な腕だった。

なので、彼女が織る反物は、何れも高い値が付いた。

ある日、彼女のことを知った地主が、娘を娶りたいと言い出した。

娘は地主の元へ嫁に行き、生涯幸福に暮らした。

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「詰まらない話だ。そう思わない?」

自分で話しておきながら退屈になったのか、彼は態とらしく欠伸を一つして見せた。

「・・・。」

僕は口を噤んだまま、彼を軽く睨む。

説明すると言ったのに、話された内容がざっくりとした昔話のような物だったからだ。

「今日も今日とて黙りだね。こうなると、君が生きているのかいないのかも分からない。」

「勝手に殺さないでください。」

からかうような口調。

半ばうんざりしながら返事をすると、彼はフンフンと鼻を鳴らしながら頷く。

「生きてたんだね。」

「当たり前です。」

「君が生きているのが本当に当たり前かどうかは知らないけど、残念だな。」

相変わらず、平気な顔して嫌なことを言う。気味の悪い人だ。

目を見て話すのが辛くなり、一瞬だけ大きな窓の外を見る。

直ぐに目線を戻し、相手に此方の感情を気取られないように注意して答えた。

「何が残念なんですか。」

「コレクションに加えられないからね。生きてたら。」

さも当然と言いたげな態度で彼は肩を竦める。冗談じゃない。

僕は溜め息混じりに呟く。

「・・・貴方の前だけでは、絶対に死にたくないですね。」

「そう思って貰えないと意味が無い。」

目の前の彼・・・僕のバイト先の顧客である三島さんは、もう一度にっこりと微笑んだ。

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「何だか、起伏の少ない昔話みたいですね。」

此のままじゃ話が続かない。そう思い、仕方無く口を開く。

三島さんは少しだけムッとした。

「無理矢理話を先に進めようとしているね。」

当たり前だ。早く話が進んで貰わないと困る。終わらせなければ帰れないのだから。

「此の味噌汁と其の娘、何の関係が?」

「そんなに此の話が聞きたいんだ?」

「・・・そうですね。聞きたいです。」

聞いて、そして早く帰りたい。

僕が鼻から溜め息を逃がすと、三島さんはまた笑顔になった。

「とてもそんな顔には見えないけどね。」

機嫌が直ったらしい。いや、最初から不機嫌ではなかったのかも知れない。

別に僕にしてみればどっちでも構わないのだけど。

彼の前にも有る味噌汁を一口飲み、三島さんはまた話を始めた。

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~~~

其の昔、美しく、機織りの上手い娘が居た。

彼女は拾われ子であったが、義理の両親に大層可愛がられていた。

娘は誰に習ったのでもないのに、何時の間にか機織りの方法を覚えた。しかも其れはまた見事な腕だった。

なので、彼女が織る反物は、何れも高い値が付いた。

ある日、彼女のことを知った地主が、娘を娶りたいと言い出した。

然し、娘は其れを強く拒んだ。

地主が贈った着物、装飾品、・・・何れも彼女の心を動かすことはなかった。

其れ程に彼女は頑なだったのだ。

けれど土地の権力者に逆らえる筈も無く、最後には大量の金を積まれ、親に売られるようにして嫁に行かされた。

そして婚礼の日から数日が過ぎた頃・・・

彼女は両手の指が無い状態で、遺体となって発見された。死因は、舌を噛み千切っての自殺だった。

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其れから数ヶ月後、地主が死んだ。

朝食の味噌汁を飲んだ途端にもがき苦しみ出し、其のまま事切れたのだ。

幸い・・・と言うべきか、他に死者は出なかった。

朝食は一家の長たる地主が食べるまで、誰も口にしないという決まりが有った為だった。

主人の死因を調べる為、使用人が味噌樽を探ると、樽の底から白い指が十本出てきた。

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「指はまるで、生きている人間の物のように瑞々しかったという。」

そうして三島さんは、また愉快そうに笑った。

僕は目の前の味噌汁を眺めながら、どうすべきか考えていた。

ふと気付いた、とでも言いたげな様子で彼は言う。

「其れ、飲まないの?」

絶対に最初から観察していた癖に。

「まさか、毒が入ってると思ってる?」

ニヤニヤと笑いながら問い掛けてくる。

「そんなことないよ。・・・なんて言っても、信じて貰えないかな?」

此処で煽りに反応するのも馬鹿げてるし・・・さて、どうするか・・・・・・

「そんなに怖い?何だったら毒味してあげようか?」

「結構です。」

つい、カッとなった。

僕は一気に汁椀の中の味噌汁を飲み干し、残った具を喉の奥へと押し込んだ。

「良い食べっぷりだね。」

三島さんが、此れでもかと言わんばかりに口角を引き上げて笑う。

パチパチと間の抜けた拍手の音が響いた。

全力で彼を睨み付ける。

「コレクターである貴方が、コレクションの一部たる味噌を、態々味噌汁なんかに使う筈ないでしょう。」

「御名答、御名答。よく出来ました。」

小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、三島さんが、もう一度拍手をした。

「本物は、ちゃんと別の所に保管してあるよ。」

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「其れにしても、珍しいですね。三島さんが既婚の女性に興味を抱くなんて。」

僕がそう何気無く口にすると、彼は莞爾として笑いながら答えた。

「既婚とは言え十二歳の子供だからね。無理矢理嫁に行かされたのは・・・嗚呼、だから自殺なんてしたのかな?」

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まっしろさんへ
コメントありがとうございます。

そろそろストレスでハゲ散らかりそうです(笑)

二十歳・・・もうすぐですね。楽しみです。
その頃には此処に住んでいるか分かりませんが・・・

店長は、外面だけは良いので、何処かに出掛ける時はもう少しピシッとしてますが、基本そうですね。
三島さんは見た目だけなら本当に全然変じゃないんですよ。見た目だけなら。

外見に関しましては、どちらも詳しく知らないのでWikipediaで調べました。
店長は結構似てるかもしれません。検索したら予測の欄に《クズ》という言葉が真っ先に出てきたのも含めて。強いて言うのならば、頭がもう少しモッサリしているでしょうか。
三島さんは・・・・・・。ピンクのスーツとかは着たりはしないと思います。恐らく。いえ、着てようと着てまいと僕はどっちでも良いんですけどね。あとオールバックでもないです。

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阿頼耶識さんへ
コメントありがとうございます。

有り難うございます。
其の日の内にコメント出来たら良かったのですが、色々と立て込んでいまして。

僕もそろそろ頃合いだと思っていました。次の話からは本編に移ります。思い出すだけでも、三島さんが関係すると不思議と疲れるんですよ。

そうですね。何がどうしてあんな風に育ったのか・・・。

ええ。なんとか無事です。身体は。

今年度も、夏バテ以外は一通り経験済みです。
今年もナース服の季節がやって来ました。
阿頼耶識さんもどうぞ気を付けて。

mamiさんへ
コメントありがとうございます。

殆どの場合は話のみなので、よけいに質が悪いと言うか・・・。
猿兄のアレはあくまでも僕をからかって遊んでいただけでしょうからね。いや、三島さんにも遊ばれているのには変わりませんが・・・何か嫌ですね。

あ、其れに関しては僕の説明不足です。
彼は自分が持っている物の話しかしないんです。基本的には、ですけど。
常にアンテナを張っていないと危険と言うのは、あっていますけどね(笑)

今日は早めの夜の怖話タイムに入る事ができ、紺野さんのお名前が上がっていたので、テンションも上がって大喜びしていました。

えぇっと…うん、私も三島さん嫌いですね(笑)
体験談を読んでいてここまで嫌悪感を抱くので、
紺野さんが実際に対面している時の不快感は相当なものだろうと容易に推測できます(꒦ິ⌑꒦ີ)

不思議な人ですね。なぜあそこ迄人のカンに触るような言い回しばかりができるのか…親の顔が見てみたいですヽ(`・ω・´)ノ

怪談などの季節になってきたという前回の投稿の中で、自ら首を突っ込んでるとのお話がありましたが、こうして投稿が上がっているのなら、ひとまず五体満足でいらっしゃるという事で・・・無事で良かったです(;´Д`)

あ、ちなみに…ここだけの話ですが・・・私の名前の間違えは「瀬」だけじゃなかったですよ(小声)(笑)

暑い日が続きます。
夏バテ、バイトバテ、三島バテ、のり姐恥辱プレイには十分にお気を付けください!!

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