中編4
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彼女の念

24歳の夏に体験した不思議な出来事です

その頃、僕は遠く離れて暮らす女性と付き合っていました

車で高速道路をブッ飛ばして6時間の道のりを、月に2回のペースで彼女に会いに行っていました

毎日仕事に追われとても忙しく、遅くまで働く日常の中で、月2回の彼女と過ごす時間は僕にとって唯一、身も心も休まる一時でした

彼女との出逢いはとても印象的なものでした

その頃僕は仕事にも就かず毎日博打、喧嘩、波乗り…“今が良けりゃ明日死んでも構わない”

そんな日々を送っていました

ある日、波乗り仲間達と遠方へサーフ・トリップに出掛けました

目的地に着いた僕達は、昼時という事もあり、ある喫茶店で昼食を取る事にしました

席に着いた僕達は各々に注文を済ませ、頼んだ料理が来るのを待っていました

ふと、僕は一人の客の女の子に目がいきました

既に食事を済ませ、携帯電話を見つめ寂しげに一人座る彼女

その時僕は、彼女の目から流れ落ちる涙に気付きました

暫くして席をたち店のレジに向かう彼女は、目で追う僕に気付く様子もなく、レジを済ませ店を出て行きました

僕はその日一日、彼女の事が頭から離れず、“又会う事が出来ればな。いや、彼女にもう一度会いたい”

僕は彼女に惹かれていました

あの時の涙の訳も気になって仕方がありませんでした

この街に来て5日が経ち、僕達は次の地へと向かう事となりました

その後彼女に会う事はありませんでした

最後にワンセット波乗りを楽しんだ僕達は、出発の準備をしながら次のポイントへの道順のチェックをしていました

地図から目線を上げたその時、海沿いの遊歩道を僕達の居る駐車場に向かって来る2人がいました

“彼女だ!”

その2人の内の一人は紛れも無く、あの時の彼女でした

どれ位彼女の事を見つめていただろう

「行くぞ」と言う仲間の声にようやく我に返った僕は、どうしても彼女に想いを伝えなければと無意識の内に彼女の方へと向かっていました

一瞬びっくりした表情を見せた彼女でしたが、必死につまりながらも想いを打ち明ける僕の滑稽さに、少しずつ笑顔を見せてくれる様になりました

あの日の涙の訳が、別れを告げた3年間付き合っていた彼との最後のメールにだった事と今、隣にいる女の子が妹だと言う事も知る事が出来ました

3ヶ月後、僕と彼女は付き合い始めました

彼女はこんな僕なんかにでも、いっぱいの愛をくれました

彼女の為に仕事にも就き、彼女のお陰で少しずつ自分も変わって行きました

離れて暮らさなければならない理由も2人にはあったけど、毎日、毎日彼女の事を想い又、彼女も僕を愛してくれました

そんなある夏の午後、仕事中に事故に巻き込まれ、2ヶ月間入院する事になりました

怪我がどうとか言うよりも、暫くは彼女に会う事が出来ない事の方が辛くてしょうがありませんでした

電話先で悲しみに泣く彼女に何度も何度も謝りながら、この現実を恨みました

入院して40日目怪我の方も順調に回復に向かっており、予定より早く退院出来ると告げられ、一応に安心していました

6人部屋の病室には僕の他に、2人の入院患者がいて、明日にはその内の一人が退院するそうで、退院に備えて荷物の整理をしていました

午後5時半を回った頃、僕は仰向けになり天井を見つめながらぼんやりとしていました

その時、ベッドの左側に人の気配を感じ、そっちの方へ目線を移しました

僕はその方向を暫く呆然と見つめていました

「気分はどう?、心配だったから来ちゃった」

そこには、見馴れた笑顔で微笑む彼女がいました

僕はあまりにも突然の事に、少しの間声を出す事が出来ずにいた

「お母さんが心配だからもう帰るね愛してるよ……」

彼女は笑顔を残し去って行きました

何故か私は、会いたくて仕方の無かった彼女と会えたと言うのに、嬉しいよりも不思議な物を感じました

実を言うと、彼女の母親は4年前に脳梗塞を患い、左半身不随で彼女は仕事をしながら母親の身の回りの事をしていました 仕事を休み、妹に母親の事を任せて来るなんて考えられなかったのです

私はこのモヤモヤを解消するべく、彼女の家に電話をしました

5回目のコールで繋がり、彼女の妹が出ました

「怪我はどう?、まったく…」

彼女の妹の言葉を半ば強引に遮り、彼女が今何処に居るのかを尋ねてみました

今は午後6時を過ぎた所

いつもならそろそろ家に帰って来る頃

普段と様子が違う僕に少しびっくりしたみたいだったが

「お姉ちゃんなら仕事だよ!?どうしたの?なんか…あっ、今帰って来たみたい」

『ただいま』

電話の向こうからかすかに彼女の声が聞こえた

彼女が電話に出たのですが、今日の出来事をどう話せば良いのか、僕はなかなか言い出す事が出来ずにいました

彼女がここから彼女の家まで30分で移動したなんてあり得ませんでしたし、でも僕がさっき見たのは間違いなく彼女でしたし

僕の様子がいつもと違う事に、不安そうにしている彼女に

“ついさっき、君が僕の所に来たんだ……”

自分でもまだ理解出来ずにいましたが、さっきの出来事を彼女に伝えました

彼女は今日はいつも通りに出勤し、会社から一歩も出る事も無く、定時まで働き帰宅した事を話してくれました

ただ最後に、凄く会いたかった

怪我の事も凄く心配で、仕事も手に着かなかった、と泣きながらそう言っていました

僕を心配する彼女の気持ちが〈生き霊〉となって現れたのかは分かりませんが、怖いと言う感覚はありませんでした

今は彼女と結婚して、彼女の家族と一緒に暮らしています

あの時の出来事を思い出す度に、彼女の事を愛しく思います

怖い話投稿:ホラーテラー とめ福留さん  

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こう言うことってあるんだねぇ。