中編6
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Hunt7

「和歌歩!早く!足おせーぞ!」

「だ・か・ら‼︎この足は走るのに適してないんですよ!」

「いけっ、ピンクマウス!」

「クー‼︎」

和歌歩は地面を蹴り、宙を舞うピンクマウスを咥えた。

「んー♪美味。」

「めっちゃ早えーじゃん…。」

「狩りは別ですから。これでも猛禽ですよ、人間をこの爪でかっ割く事なんか目じゃありませんよ…?フフフ。」

和歌歩がピンクマウスを噛み潰し、足の爪をちらつかせながら不敵に笑う。

どうやら凄んでみせているらしいが…。

「…迫力ねーな。」

「何ですと⁉︎」

「だってペットミミズクじゃん。ちっちゃいし。」

「うぐっ…。」

和歌歩はたじろぎ、そっぽを向いた。

「あ、あっちから声が聞こえた気がします。行きますよ下等生物!」

「…。」

どうやら彼の中で、俺は下等生物という扱いになったらしい。

「あ、あれ見ろ和歌歩‼︎」

「何て事でしょう…。」

俺たちが声を追って見た物は、道の真ん中に蹲る髪の長い女だった。

「あれが闇子か?」

「分かりませんが…。」

和歌歩は女に駆け寄った。

「もしもし、渋谷美琴様でいらっしゃいますか?」

女は顔を上げた。

「‼︎」

それを見た和歌歩は飛び上がって、鳥の姿になってこちらに飛んできた。

「わ、な、何だよ。」

「ま、間違いありません、あれは渋谷美琴様…。闇子さんです。」

「…。」

俺はそっと女の顔を覗いた。

「うわあ‼︎」

その顔は右半分が黒い痣で覆われ、辛うじて普通な部分も憎しみに満ちた表情をしていた。

「アナタ…。」

それが俺の顔を見て、手を伸ばしてきたのだからたまらない。

「よ、寄るな‼︎」

思わずその指先を払いのける。

すると、それはいとも簡単に崩れた。

「あ、あれ?」

もしかしたら素手でいけるかも!

「よ、よし!」

俺は闇子の首を掴み、強く締めた。

「‼︎」

闇子がのたうち回る。その度に、身体が少しずつ崩れていった。

「メ、メーベルトさんに連絡します!」

「おう、頼んだぜ!」

和歌歩コノハズクは俺のズボンのポケットからスマホを引っ張り出し、電源ボタンを押した。

「あっ!」

「どうした和歌歩!」

闇子ともみ合いながら和歌歩を見遣ると、彼はスマホの画面を翼で撫でくりまわしていた。

「…何やってんだ?」

彼は焦った様子でこちらを向いた。

「が、画面が反応しません!操作できないんです、どうしたんでしょう⁉︎」

「…そりゃ羽根で触っても液晶は反応しないだろ。」

和歌歩は嘴をあんぐりと開けた。

「そ、そんなっ‼︎」

「いや、当たり前だろ…。」

こいつ、やっぱり馬鹿なんじゃないのか?

「ここじゃ私指出せませんし、どうしましょう?」

「俺に聞くな!」

俺は何とか闇子を組み伏せ、抵抗できない状態にしていた。

「お前飛べるだろ。伝書鳩みたいにクラウスんとこまで行って呼んでこい。」

和歌歩は露骨に嫌な顔をした。

「どうして私のような由緒正しいアフリカオオコノハズクが鳩のマネなんぞしなけりゃならんのですか。絶対嫌ですよ。」

「つべこべ言わずにさっさと行けぇっ‼︎」

「わ、分かりましたよ、全く…。」

彼は嫌々ながらも飛んでいった。

「ふう。」

俺は改めて押さえ込んだ闇子を見た。

とうに抵抗するのは諦めたようで、項垂れたまま動かない。

「…おい。話せるか?」

彼女は顔を上げた。そして無言で頷く。

「どうして俺を狙った。」

彼女は途切れ途切れに言った。

「メイレイ…。アノ人ノ、メイレイ…。」

「あの人?…湊教授か?」

彼女は頷いた。

「湊教授の命令なんだな?…お前、どうしてあんな男の言う事なんか聞くんだ。お前を実験体にしてこんな目に遭わせたのもあいつだぞ?」

彼女は目を閉じた。

「アノ人、私ニ居場所ヲクレタ…。髪ヲ撫デテ、愛シテルト言ッテクレタ…。」

「…何てこった。」

これは根が深い。ほとんど洗脳だ。

「いいか、はっきり言う。お前は騙されてるんだ。湊教授の勝手な好奇心のためにな。」

彼女はまた項垂れた。

何だか哀れになり、俺は彼女を拘束していた手を離した。

「…?」

「お前はもう湊教授の操り人形なんかじゃないだろ。」

彼女は俺の胸に顔を埋めた。

「俊作ー!」

丁度その時、後ろからクラウスの声が聞こえた。

「おう、クラウス!来たか。彼女、もう大丈夫だぜ。」

俺は振り返り、立ち上がった。

「どうだ、俺の説得術も中々だ…。」

突如響く銃声。

弾丸は俺の頬すれすれを通ったようだった。

後ろから、呻き声と重い音。

目の前では、クラウスが無表情で拳銃を構えていた。

恐る恐る後ろを振り向くと、先程まで俺の胸に顔を埋めていた女の残骸が散らばっていた。

「…あ、ああ、」

俺はその場にしゃがみ込んだ。

そしてクラウスの怖いくらい白い顔を睨みつけた。

「…どうして!彼女、改心してたんだぞ!殺す必要なんてなかっただろう⁉︎なのにどうして!」

「落ち着け、俊作。」

彼の蒼い目がこちらを見据える。

そのなんとも言えない迫力に気圧され、俺は黙った。

「落ち着いて、あれをよく見ろ。」

俺は彼の指差す先の、女の残骸を見た。

「…あっ」

落ちた女の手に、鋭い包丁が握られていた。

それは丁度刃先を振り上げ、自分の前に立つ人物に振り下ろそうとするような形になっていた。

「改心した女が、あんな事をすると思うかい?」

クラウスの声が、動揺した俺の心を宥めていく。

「人間の心の奥底なんて、そう簡単には変わらないよ。厳しい事を言うようだけど、君みたいな純粋な人には余計に変えられない。」

そんな彼の言葉は俺には重すぎて、難しすぎた。

和歌歩コノハズクが黙って俺の肩に留まり、頭をこめかみにぐりぐりと押し当ててきた。

「何だ、慰めてくれてんのか?」

和歌歩はプイとそっぽを向いた。

「ち、違いますよ、頭を掻いてるんです。」

「…ツンデレかよ。似合わねーぞ。」

俺は和歌歩の頭を小突いた。

俺達は闇子こと渋谷美琴の遺体を回収した。

全ての欠片を集め終える頃には、周囲に人通りが出てきた。多分元の世界に戻ったのだろう。

「帰り、俺の店に寄ってけよ。奢るよ。」

大神が慰めるように俺の肩を叩いた。

「え、ああ…。」

どうしようか迷っていると、クラウスがさっきとは別人かのような笑顔をたたえて俺の手を掴んだ。

「初めての仕事終わりなんだから。一緒に呑もうよ。」

「…分かったよ。」

俺は彼に誘われるがまま、大神の店に入った。

「じゃん!狩りの後の特別メニュー、名付けて『狩人特製Hunting・Special定食‼︎』」

大神が豪華な夕食を運んできた。

「先にそのネーミングセンスを何とかしてください。」

「いいじゃーん、意地悪言うなよミミズクちゃーん♪」

「目、突きますよ。」

「あはは、今日も絶好調だね、和歌歩節。」

3人は楽しそう(和歌歩は分からないが)だ。あんな事のあった後なのに。

「どうしたの俊作、浮かない顔して。」

「クラウス…。どうしたもこうしたもあるかよ、あんな事した後で楽しむ気にはなれねぇよ、俺…。」

彼は悲しそうな顔をした。

それを見た和歌歩がこちらを睨む。

「下等生物!口を慎み…。」

「和歌歩さん。いいよ、気にしてない。」

クラウスはそう言って笑った。

「俊作。君の言う事は確かに正しい。正論だよ。でも、世の中正論ばかりじゃやってけないんだ。それはそういう立場の君が一番よく分かってるだろ?」

俺は自分の身分を顧みた。

「それはそうだが…。」

「だから、世の中ではそういう立場に立たなきゃいけない人間もいるって事。殆どの人は立ちたくて立ってる訳じゃないよ。そうでしょ?」

俺は頷いた。身分の所為で不自由な思いをした事は何度もあった。

「だから、慣れるしかないんだ。自分の境遇に。」

クラウスは大神を見た。

「ある人は自分の種族の境遇に悩むし…。」

次に彼は和歌歩に目をやった。

「またある人は自分の性癖に悩む。悩んだ挙句、自責の念から自らおかしな境遇を背負うんだ。」

話し終わって、クラウスはこちらを上目遣いに見た。

「どう?分かってもらえた?」

正直よく分からなかった。

曖昧に頷くと、彼は笑った。

「まあ、じきに分かるよ。」

その夜は少々深酒をした。

そして酔った頭で、複雑な気持ちと不思議と落ち着いた気持ちを味わっていた。

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ちゃあちゃん様、コメントありがとうございます。
ツンデレ和歌歩のすりすりは中々貴重です。
何だかんだ言って打ち解けてますね。
コノハズク類にはアフリカオオコノハズク以外にもサバクコノハズクというのがいるのですが、それはもっと小型です。それを見た時、アフリカオオコノハズクも一応大きい方なんだ…と思いました。
俊作は心根の優しい人物ですから、弟分と同じ目に遭った渋谷を放っておけなかったのでしょう。

りこ様、コメントありがとうございます。
アフリカオオコノハズクは態度と姿がコロコロ変わる感じの鳥なので、和歌歩の性格にピッタリでした。確かに高校の怪談和歌歩は大人系クールですから、hunt和歌歩とは全く違いますね。頑張って続きを書かせて頂きます。

吉井様、コメントありがとうございます。
そして労いのお言葉、有り難く頂戴致します。人気のある人物のキャラが濃くなるのは世の常ですね。彼は結構描き出しやすい人物なので…。トリ頭感出してみました。

私も和歌歩さんにスリスリされたい‥(≧∇≦)アフリカオオコノハズク、昔ペットショップで見た時に、このサイズなのに「オオ」なのかと、笑ってしまったんですが‥
俊作くんは、闇子さんを救ってあげたかったんでしょうね‥何だか切ないです。

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