黒いモノ(まっくまっくの・・)

中編3
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黒いモノ(まっくまっくの・・)

これは、父から聞いた『沙羅兄』のお話です。

沙羅兄は、私より怖い思いを経験してきたと思われ、私に自身の体験を語ることは少なかった。

その兄の恐らくは『初体験』の話です。

~~

兄がまだ片言の言葉しか話せなかった頃、

「まっく、まっくの、おててが、おいでおいでしてる~」と天井近くを指差した。

兄は「まっく、まっくの。。」と言い続け、ずっと同じところを指差していた。

あんまり繰り返し兄が言い続けるので、目をやると指差した先には神棚があった。

イヤな気分だった。と父は言っていた。

『沙羅兄にも、変なモノが見えるんだろうか?』と・・

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イヤな気分を振り払うようにして、沙羅兄に尋ねた。

「お兄ちゃん、何が見えるの?」

兄:「まっく、まっくのね、おててがね、おいでおいでってしてるんだよ」

父は、母に神棚を調べるため、脚立を用意させた。

~~

父自身、あまり信心深い方ではない。

なので、神棚や仏壇の手入れは、母に任せていた。

しかし、まだ幼い沙羅兄の面倒をみながら、更に幼いワタシの面倒も見なければいけなくて

オマケに自営業を営んでいるため、母は多忙を極めていた。

そんな母が、念入りなお手入れなど出来るわけもなく。。

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神棚を調べると、榊こそ瑞々しいものだったが、酒はいつ交換したのか定かではなく、米は黄ばんでおり、塩はカチカチに固まっていた。

何より、水も供えてあった筈だが、蒸発してしまったのか、グラスにカルキの跡が付いており、空っぽだったそうだ。

『まっく、まっく・・きっと黒いヤツだ。黒いヤツが手招きしたに違いない』

そんな事を苦々しく思いながら、母に供物を全て新しいものに取り換えるように言いつけた。

~~

酒も大吟醸にし、米も新しく。塩は粗塩に変え、グラスもピカピカのものに新鮮な水をたっぷりと。

そして、それらの作業をジッと見つめている沙羅兄は、胸元で両手をグーにして固まっていたそうだ。

全ての作業が終わってから、もう一度父は尋ねた。

「お兄ちゃん?まっくまっくの、おてては、まだ見える?」と・・

兄:「もう、いない。お水が欲しかったの。お水が欲しかったんだって・・」

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父は、この時ひどく驚いたんだそうだ。

兄の立ち位置から、角度的に言ってもグラスなど見えない。グラスが空っぽだったなどと分かる筈がない。

そして、「水を欲しがっていた」というからには、何か聞こえたのかもしれない。

しかし、問い質すのも躊躇われた。

もし、自分と同じように沙羅兄にも普通は見えてはいけないモノが見えているのだとしたら・・

もし、自分と同じように普通は聞こえないはずの音が聞こえているのだとしたら・・

~~

どうしようもなく不安になって、それ以上は聞けなかった。と語った。

黒いモノは、その頃にはまだ『悪戯』をするほど、悪いモノでは無かったのかもしれない。

ただ、その黒いモノは、その頃には既にウチに居たんだな・・

そんな事をボンヤリと考えながら、影のように黒いモノが部屋の隅で、こちらの様子を窺うようにしているのを横目で見ていた。。

父は、ごく自然な動作でワタシに見えている『黒いモノ』の方に視線を向け、小さく舌打ちをするとウイスキーのお湯割りを一気に飲み干して、ゴロンと横になった。そして独り言のように呟いた。

「お前達には、見えてほしくなかったのに・・」と。

黒いモノは、ウチに2人居る。

片方は、ひょろんとした背の高いモノ。もう片方は、雪だるまのように太ったモノ。どちらも影のように薄っぺらくて、よく本棚の隙間や押し入れの襖の隙間から、こちらを窺っている。

お釈迦様を見た後から、頻繁に見えだした『黒いモノ』。こいつらには、散々嫌がらせをされたものだ。

怖くてなかなか一人で行けない2階の部屋から急いで1階に降りようとしてるしてると、背中を押されて階段を転げ落ちるとか、眠っていると気配がして薄目を開けると間近に顔?らしきモノを近づけて顔を覗き込んでいるとか。。

~~

友達が来ている時の悪戯は・・そのうち書きます。

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