長編7
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真夜中の訪問者

・・あぁ・・

そうだったんだ・・

この子は、あの時の子だったんだ・・

~~

呆然と、見送った後に我に返った。

・・なぜ、今まで『不思議』だと思わなかったのか

・・なぜ、今まで気付かなかったのか・・

いや。気付けなかったのか・・

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あれは、高校1年の時のこと。

~~

別々の高校へ進学した中学時代からの親友と、

久し振りに会うことになった。

目的は、とある高校の文化祭。

父が快く迎えるワタシの『友人』だったため、

いつもの外出禁止令も発動せず、気分良く出かけることが出来た。

・・まぁ・・両親の出身校だった。ということもあるんだろうけど。

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高校へ進学してから、滅多に会う事もままならないほど忙しかったので、本当に気持ちが良かった。

文化祭特有の喧騒が楽しくて、あちこち見て周り、何かと食べながら時間が過ぎるのを忘れていた。

~~

私達二人は、斧が頭に刺さった扮装をしている

男子校生の「彼女たちぃ~~すっげー怖い体験して行きなよ!」との呼び込みに釣られ、

お化け屋敷に入ることにした。

廊下は、人。人。人。。。溢れかえるほどの人波。

順番待ちの間に目に入ったのは、小さな女の子。

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キョロキョロと辺りを見回し、時折背伸びをしてる。

どうやら、親とはぐれた様子だった。歳は・・恐らく3~4歳。

私は、その女の子に声をかけた。

「ねぇ?お父さんときたの?それともお母さん?」

女の子は、不安そうな顔で振り返り、拙い声で

「・・お母さんとね、来たんだけどね・・」と呟いた。

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私は、呼び込みの【斧頭の彼】に迷子の放送をお願いして、女の子に言った。

「今、探してもらってるから、それまでお姉ちゃん達と一緒にいよう?」と。

私と友人に手を繋がれた女の子は、嬉しそうに両手をブンブンと振った。

~~

お化け屋敷内は、怖いというより、びっくりさせる類のものばかり。

上からコンニャクが吊るしてあったり、急な段差でコケそうになったり。

それでも、面白かった。

女の子も、キャーキャー言って楽しそうだったな。

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迷路のように改造された教室から、やっと出てくると、【斧頭君】が話しかけてきた。

「あ!放送してもらってるから、安心して!で。どう?怖かった?ね!怖かったっしょ?」

テキトーにお礼を述べて、テキトーに怖かったよ的な会話を終えた頃、気づいた。

・・あ。あの子がいない・・

~~

友人の方を振り向いても、あの女の子は居なかった。

「あれ~?あの子は?いつの間に私、手を放したんだろう?」

そう言う私に、友人も「あれ。。ほんとだ。いつの間に?」

「まぁ。。お母さんを見つけたのかもしれないし、いっか?」

「そだねぇ~。。だいじょぶだよね。」

そんな会話をして、残りの教室を次々と制覇していった。。。

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私の門限は夕方4時だ。

ま。部活のある日は20時でも大丈夫だったけど。

この日は休日だったので、4時には戻らないと血の雨が降る。

名残惜しく、後ろ髪を引かれる思いで友人と別れ帰宅。

さっさと一人、台所で夕飯を終える。

父が酒を飲んで暴れだす前に、ピアノの練習しとかないと。

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私は保育科のある高校へ通っていた。

ピアノは必修科目なのだけれど、ピアノ教室へ通わせてはもらえなかった。

『授業だけで付いていけないならば、辞めちまえ』と

クダを撒く父には逆らえなかった。

夏休みの課題で<エリーゼのために>が暗譜で弾けるようになってないといけなかったため、懇願して買ってもらった電子ピアノ。早速ヘッドホンをつけて練習に励む。

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遠くで、何かが壊れる音がした。

『・・あ~また暴れてるんだ・・』と溜息を吐きながらも練習を続ける。

~~~

どの位の時間が過ぎたのだろう?

茶の間が静かになったので、自室のドアを開けると

既に両親は寝たらしく、暗闇があるだけだった。

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ピアノのヘッドホンを外し、宿題を広げる。

そこに、誰かが私の部屋のドアノブをカチャリと回した。

目を向けると、そこには・・

女の子がドアにもたれ掛るようにして立っていた。

とても可愛らしい笑顔でドアノブに両手を掛けていた。

~~

私は、普通に声を掛けた。

「いらっしゃい(^^ こんばんわ」

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女の子は、はにかんだ様な顔で部屋へ入ってきた。

「こんばんわ~」ペコリと頭を下げる。お行儀の良い子だ。

私も彼女の笑みに釣られるように笑顔を返し

「お姉ちゃんね、お勉強しなくちゃいけないから・・あなたはこれで遊んでいてくれる?」そう言って折り紙の束と画用紙、クレヨン等を渡した。

女の子は大人しく受け取って、黙々とお絵描きを始めた。

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私は、一通り課題に目処をつけてから女の子と遊んだ。

一応、実習では人気のある『お姉ちゃん先生』なので。

幼児と仲良くなる術は、それなりに持っていたと思う。

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私:「・・何を描いたの?」

その子「私と~、おかあさんと~おとうさんっ(^^」

両親に挟まれて手を繋ぐ、典型的な子供の絵だった。

チューリップも可愛く描けてる。

太陽も、雲も上手に描けてる。

私:「上手ねぇ(^^」

その子「・・・・・ありがと」と少し照れながら笑った。

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私:「お姉ちゃんね、そろそろ寝ないと学校間に合わないんだ」

そう告げると、その子は大きく頷いてお片づけをし

バイバーイと手を振って部屋から出て行った。

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次の日も、次の日も・・

毎晩、両親が寝静まった頃に、やってくる女の子。

未だに理解できないけれど、何故、私は不思議に思わなかったんだろう?

深夜2時3時に尋ねてくるなんて、フツーに変だろう。

けれど、私は何の疑問も抱かないまま受け入れていた。

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~~

ある日、私は教えた折鶴を熱心に小さな指で折り続ける彼女に聞いた。

「お父さんとか、お母さんは、どうしてるの?」と。。

その子が言うには、

家に帰っても、おとうさんは黙ったままだし

おかあさんは、いつも泣いてる。

何度も話しかけるのに、聞いてくれないの。と。

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ごはんだって、あるんだよ。

いつもみんなで食べてたのに、私のご飯を見ながら

おかあさんが泣くの。

どうして泣いてるの?って聞いても、お返事してくれないの。

だから、おうちに帰りたくなくって、お姉ちゃんちに遊びに来てるの。

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~~

私は、その言葉を自然と飲み込んでいた。

「そっかぁ~気付いてもらえないのは寂しいね?」と・・

「お姉ちゃんちには、遊べるモノいっぱいあるから、いつでも来ていいのよ?」とも言った。

~~

女の子は何も言わず、ニコニコしながら大きく頷くだけだった。

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どの位の期間、彼女はウチへ来ていただろう・・

彼女に預けた『お道具箱』には、彼女の折った様々な折り紙の山。

お絵描き帳は、そろそろ新しいのを持ってこないと足りないかな?

そのぐらい来ていた。

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~~

~~

そんなある日。

いつも通り、彼女が遊びに来た。

今日は、なんだか雰囲気が違う。

少しだけ、いつもより元気が良い。

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「お姉ちゃん!!あのね!!おウチに帰れるの!!」

部屋に入ってくるなり、喜び一杯の顔で叫んだ。

そして私に抱き付いてきた。

私は彼女を抱きしめた後、膝の上に抱えて先を促した。

「お姉ちゃん・・いっぱい遊んでくれてアリガト」

私の膝の上から降りながら、彼女は言った。

「遊んでくれたお礼にね、見せてあげるぅ~」

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茶目っ気たっぷりな表情を私に向けて

両手を差し出してきた。

片方の手の平に、もう片方の手でのぞき穴を作って。。

(・・この手の中を覗け・・ってコト??)

そう思いながら、彼女の両手を自分の手で包むように

その小さな手の覗き穴をのぞきこんだ。

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~~

驚いたことに、掌の中には空から見てる風景が広がっていた。

トの字のようになった道路を、私は見下ろしていた。

赤い三輪車を元気よく漕いでいる女の子。

そして・・・

直進してくる大型トラック・・

「!!!!!!危ないっ!!!!!」

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三輪車の女の子は、軽々と吹き飛ばされ

三輪車は、トラックのタイヤの下で原型がない。

驚いて、のぞき穴から顔を上げると

彼女は何でもないことのように告げた。

「やっと、帰れるの。すごく嬉しいの」

「お姉ちゃんが見つけてくれたから、さみしくなかったよ」

「・・ありがとう・・バイバーイ」

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~~

私が包んでいた彼女の両手の感触が溶けてなくなった。

私の見ている目の前で。。

彼女は空気に霞むように透けて・・消えた。

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・あぁ・・そうだったんだ・・

この子は、あの時の子だったんだ・・

文化祭の時に、迷子になっていた子。

お母さんと来たのでは無く、探しに来たんだ。

賑やかな所になら、お母さんが居るかと思ったのかも。

もしかしたら、『自分を見つけてくれる人』を探していたのかも・・

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~~

私の頭の中に、ふと思い浮かんだ単語がある。

<四十九日>

あの世へと魂が旅立つ日。

それまでの間、私に会いに来ていたのかも。

~~

彼女が消えてしまった後、彼女に与えた『お道具箱』の中身は何も入っていなかった。

お絵描き帳も、真っ白だった。

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~~

ただ。。

新品だったクレヨンが、何本か折れて汚れていただけだった。

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なんかスッキリです!

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にゃにゃみさん♪
コメありがとうございます(^^

私の体験の中で、一番心が静かな体験でした。
出会った意味・・そうですね。きっとあったんだと思います。

こうして『話』をすることで、更に上へ昇ってくれることを願います(^^

寂しさを、沙羅さんが、きっと包み込んであげたのですね。
とっても不思議ですが、この女の子と出会った意味がきっとあるのでは無いかと思います。
柔らかく、素敵なお話だと思います。

仲間さん
いつもありがとうございます(^^

あの子は、抱っこしても重みを感じましたし、本当に『生きてる』ようにしか思えなかったんです。
一番の不思議体験だったなぁ~~と思います。

なので、いつかフィクションで<生きていたら>の話を書いてみたいな~とか思ったりする今日この頃です。(^^

いやぁ〜〜〜良い話しですね。
そして、そのようなさ迷える子に対しても、優しく接することが出来るのは、見える女性ならでは……と言う感じがしました。
無事、成仏出来たのでしたら嬉しい限りですね(*´ω`*)

ジャクソン さま
はじめまして(^^
そして、コメント等ありがとうございます。

これから立ち会われるとのこと、おめでとうございます!
無事に健やかに成長を見守ってあげてくださいね(*^^*)

子が出来てから子供の話に敏感になり切ない思いを強く感じるようになりました。
いい話の中に悲しさがありジーンときました。

今からうちの奥さんの2人目の出産に立ち会います。
こういう子供の悲しい事故のない世の中になってほしいと強く願います、、、。

ロビンM子さま
コメントありがとうございます(^^)

それにしても、偶然って凄いですねぇ!
お目通し下さったこと、嬉しく思います。

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来道さま
コメント&コワイをありがとうございます(^^
何かを感じ取っていただけたなら幸いです。

心が震える

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ひなを さま
コメントありがとうございます(^^
同感です。子を失うのは恐怖であり、絶望ですね・・
私と遊んでいる時の姿は、とても楽しそうだったので、私も報われた想いがします。

読んでいて寂しい様な切ない様な感覚になりました。子供だと余計に自分が死んでしまった事に気付かないからお父さんやお母さんが相手にしてくれないのは凄く辛かったでしょうね。でも、その子供は沙羅さんの様な心優しい人に気付いて貰えて遊んで貰えてその時は幸せだったと思いますよ。良い話だったので怖いを付けさせて頂きました。

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