長編8
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蝕むモノ

沙羅の家には、いつも黒っぽい紗が掛かって見える。

何と表現していいやら・・・

ごく薄い黒いシースルーの布地を通して見える感じ。と言ったら想像しやすいだろうか・・

どんなに天気の良い日でも、他のお宅を見れば太陽光に照らされ当たり前に見えるのだけど、沙羅宅に目を戻せば、その紗が掛かって見えるのだ。

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父が狂ったように怒り、暴れ・・次々と家中の物が破壊している時の父の目。

・・・鮫のような目になる。

瞳孔が開きっぱなしのような、黒々とした真ん丸の獰猛な瞳に変わる。

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逆に、上機嫌で酒を飲んでは他愛のない話をしているような時は、決してその『瞳』にはならない。

素面の時の父は、とても論理的で、相談事なども受け入れてくれ、一緒に解決策を考えてくれるような人。

・・なので、悩んだ時は酒の入ってない時を選んで話すか、機嫌よく飲んでる時じゃないと会話にならない。

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酒の入っていない時なんて滅多にないので、鬱々と自分の中に仕舞い込んで喋らないのだけれど、私が学校へ行っている間に素面に戻る父は、そんな『私』を気遣うように手紙を置いてくれていたりもした。

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『最近、何か心配事でもあるのだろうか?食事もろくに採ってないようだし、元気がない。お父さんには力になってやれないのかと思うと、沙羅の心境を愁うばかりだ。お父さんには、どうか相談をして欲しい。何か手助けが出来るかもしれないし、そこまで行かずとも人生の先輩ではあるのだから、何かしらアドバイスが出来るかもしれない。』

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~~原文、丸暗記のまま載せてみた~~

追伸には、『沙羅の笑顔が救いなのだ。』と書かれ締めくくられていた。

尤も、上記の手紙は、今回綴りたい話のずっと未来にあるのだけど。

~お話に戻りましょう・・~

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高校1年の夏。いつもより酷く暴れた夜があった。

『・・今夜こそ、誰か死ぬんじゃないか?警察に通報した方が良いんじゃないか?』と思うほどに暴れる父。

目は、爛々と鮫の様な深くも黒々とした真ん丸の瞳。

今夜は・・ぜってーヤバい。

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誰かに木刀を向けるために立ち上がろうとしてはヨロけ、木刀を杖のように支えにして立ち上がると誰かに蹴りを入れる。反動で自分も倒れこむが、何度も立ち上がる。

ゲラゲラと嗤いながら・・・

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~~

殴られ、蹴られ、母の姿は悲惨なものだった。

兄も頭から血を流していた。私は太腿の外側に木刀を突き立てられ、立つことも困難だった。

兄に「・・変だな?」という視線を送る。片眉を上げて(?)って目を向ける。

兄も父に気取られないように、ゆっくりと静かに頷いてよこした。

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父がトイレに立った隙に、兄と二人で這うようにして母の元へと寄添う。そして耳打ち。

「今日は叔母さんが来てるはずだから、話、聞いてもらお?」

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叔母とは、二人いる父の妹のうち上のおばさんで、関東地区に嫁いでいるが、沙羅宅から2km程離れた実家に度々帰ってくる。

父方の親類の中で唯一、父の暴挙に耳を傾けてくれる人だった。

『血筋』の話の中で絵本を買ってくれた叔母のお姉さんでもある。

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母は、ぐったりと身を横倒したまま微かに首を横に振る。

「お母ちゃんは行かない。あんた達だけで行って来な・・」

・・・囮になるという事だ。

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鮫の目になった父は最早、人間の形相ではない。

私達が姿をくらましても、標的があれば十分なのだ。

兄が手を貸そうとしても、母は振りほどく。

「お父ちゃんが戻る前に・・早く。。」

兄と一緒に父の実家を目指して走った。。。。

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父の実家に辿り着いた私達は、裏口のドアをたたいた。

「叔母さん・・叔母さん・・・!!!!」

程なくして叔母が顔を出し・・無言のまま兄の頭を掴むようにして家に引っ張り込んだ。

そして、私の肩を掴み・・やはり黙ったまま家に引っ張り込む。

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今夜の事の発端から兄が話し始める。

横から口を挟もうとした私だが、猛烈な眠気に何度も船を漕ぐ。

猛烈な眠気と闘いながら、ユラユラ揺れながらも起き上がっているのが精いっぱいの状態だ。

叔母の動作が気になる。私の頭の上を何度もハエを掃うかのような仕草をしているのだ。

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・・かつて無かったほどの最悪な夜が明けた。

叔母は、兄に「あんたは、早く家に戻って学校へ行きなさい。沙羅は私が送るから」

~~

そして私は何かを準備し始めた叔母を眺めていた。

・・さて。コレでいい。さぁ沙羅。行くよ。

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促され、叔母と共に沙羅宅へと向かう道中の会話。

沙羅:昨夜は、先に寝ちゃってごめんね・・

叔母:アレは、話を聞かれたくない何かが、お前に覆い被さってたんだから、仕方ないこと。

沙羅:・・なにそれ?

叔母:判らない。けど、黒いのがあんたに被さってきてね。。それを掃ってたんだ。アッチ行け。って思いながらね。

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<黒いモノ>外出なんて出来たんだ・・そんなことを思っているうちに沙羅宅へ到着。

沙羅宅と祖母宅は、細い通路で行き来できる。

その通路に叔母はしゃがみ込んだ。私も通路に座る。

時間は、朝の6時過ぎ。猛暑日を予想させるような天気。

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叔母は、持ってきたバッグの中から一枚の紙を取り出して見せた。私は少しだけ面食らった。

沙羅家の敷地図が描かれていたから。

叔母の話だと、ちょっと有名な霊能者の先生に会ってきたのだという。

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部屋に通され、椅子を勧められたときには、既にその<先生>とやらは、レポート用紙を一枚切り取り、コレを描き始めたのだと。

ゾッとしたという。今から相談しようと思っていた、沙羅宅の敷地が描かれているのだから。

描き終えると、やっと<先生>は顔を上げ、おもむろに言ったそうだ。

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ここが、問題の場所です。こちらには、女の子が居るはずです。その子に全てを託しなさい。この家で一番素直で真っ直ぐな子ですから。

それを聞いて、尚ゾッとしたという。

まだ、叔母は入室した時の「失礼します」と、椅子を勧められたときの「では・・」以外、口を開いていなかったのだから。

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<先生>は説明を始めた。

ここに、全ての元が巣食っています。元は一体でしたが、どんどん呼び込んでいますね。

今では、数えきれない程の・・やっかいなモノの集合場所になってます。

それを清めなければ。

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私に手渡された絵の中には、ボールペンで●がいくつか付いていた。

説明の時に書き込んだであろう、いくつかの文字もあった。

子供=2人 (内)女→適切

※御神酒・塩・米→1週間 などなどだ・・・

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●印には、心当たりがある。有り過ぎるほど・・

昼間だろうと私も兄も365日、近寄りたくないと思ってる箇所だ。

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叔母の話は淡々と進む。

莫大な金額を要求されるかと思いきや、<先生>が自分は何の手助けもできないので、相談料は結構だ。といって無料だったこと。御神酒だけは、1本500円で2本買ってきたこと。1週間の間、沙羅がやらねばいけないこと。

そして、今から学校を休ませるため、祖母宅の電話を使わせてほしいという。

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叔母が電話をしている間に、私には最初のミッションが課せられた。

『父の』ライターを取ってこい。だった。

私のZIPPOではダメなのか?と聞いたところ、『父の』であることが大事なんだと。

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玄関を音がしないように、ソロリソロリと開ける。

廊下が軋まないように、爪先でそ~~~っと歩く。

茶の間の障子戸を、これまた細心の注意を払って開ける。

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惨憺たる室内を想像していたが、母が片づけたのだろう。あちこちに濡れた跡はあるが、食器の破片等はなかった。

布団の中で静かに眠る父を見やる。

本当に眠っているのだろうか・・それを確認するために近づきながら、テーブルの上のライターをゲッチュ。

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父の寝顔を覗き込んだ瞬間、足首を掴まれた。

「捕まえたぞっっ!」父の目は、カッと見開かれていた。

あまりにも驚いて、一瞬固まった後、悲鳴が勝手に口から出た。

「!!っ・・ぅぎゃぁぁぁ!!いやぁぁ!!」

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「・・・・沙羅・・・か?本物か?」

恐怖に固まり「う、うん。私。本物」と答える。

まだ足首を掴む手は離してくれない。

「さっきから、何度も俺の顔を覗き込んでたのも沙羅か?」

「・・違う。今が初めて。初めて部屋に入った。」

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小さな舌打ちをして、父が私の足を自由にする。

そして起き上がりながら、話し始めた。

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いつの間にか、急に眠くなって寝たんだ。

お母ちゃんが台所でメシ作ってる音がしてた。

朝になったんだ。と思ったが、誰かが部屋の隅から覗いてる気がして、寝たふりをしてた。

そしたら、こっそりと部屋に入ってきてなぁ・・

俺の顔を覗き込むんだ。

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部屋を出て行っては、戻ってきて何度もな。

お母ちゃんが、台所で「うわっ!」って声を出したから、そっちに行ったのは判ったが、すぐにまた戻ってくるんだ。

で、今度来たら捕まえてやろうと思っていたんだ。

そしたら、沙羅だった。。。

捕まえられなかった。と心底残念そうに言う。

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そして、私に何故部屋に来たのか説明を求めた。

簡単に説明をし、叔母が来てることも告げた。

父は叔母が来てることを知り、身支度を整えるから呼んでくるようにと。

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父と叔母が簡単な会話を交わした後、叔母に付き添われ、●印の所に塩を盛ったり、撒いたり。

一通りのミッションを済ませ、父と叔母を茶の間に残し自室へ行き泥のように眠った。

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~~

1週間の間、やらねばいけないこと。を仰せつかった私は、毎日のように手順通りにやった。

その間も、父は酒を飲んでは暴れるを繰り返している。

最終日、父の目が・・鮫になった・・

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先日、叔母に言われた通りの事をする。

『次、お父ちゃんが変な様子の時に、御神酒を少しでいいから掛けなさい』

それが<今>だと感じた。

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隠し持っていた御神酒を、父に見つからないように掌に零す。

タイミングを見計らって父の顔目がけ、掌に取った御神酒をぶつけた。

~~

・・父は、御神酒が掛かったのと同時に後ろに引っくり返り、眠ってしまった。

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私は、呆然と自分の手と、父の寝姿を交互に見ていた。

・・なんてこった・・

父が、依り代にされていたなんて。。。

記憶がないのは飲み過ぎたからじゃない。

<父>が沈められてるんだ。

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父は、自分の中に何かを捕り込んでいる。

操られていることには・・気付いていない。

自分なら、対処出来ると思っていたのかもしれないが・・

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~~

~~

あそこに巣食うモノたちは、そんなに簡単じゃないんだよ。

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リュミエールさま
いつも、ありがとうございます(^^

疑問に思うのも当然です・・
文章能力が拙いもので、全部書ききれませんでした~
疑問に思われた部分も補足できるように、第二弾を書きたいと思いますので
お目通しくださいませ(^^
また、疑問があったら何でもお知らせくださいね!

mamiさま
いつもありがとうございます(^^

やはり、疑問に思われましたか~
この蝕むモノは、長くなりそうなので第二弾で触れていこうと思っています。
宜しければ、お目通しくださいね(^^

お話を読んでて思ったのですが、お父さんが素面の時にお酒を飲んだら家族に暴力を振るうって事は伝えられなかったんですかね? ナニカに乗っ取られてしたにしても正常になった時に奥さんや子供達が身体に痣や怪我があったら何があったか聞いたりしてこなかったんですか?お酒を飲むのもナニカに仕向けられてたんですかね?質問ばかりですみません、気になってしまったので…

手に汗を握りながら読みました。
引っ越してしまえばいい…というだけの問題ではないのでしょうかね…
本来は優しいお父さん、意味が分からないまま耐えなければならないお母さん。意味がなんとなく分かりながらも、耐えなければならない沙羅さんご兄妹…
切なさも伝わります。