中編5
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三途の交差点

~~~

目が覚めると、熱が下がっていた。

・・ウイング・・ありがとう。

自然に涙が出てきては流れる。

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あれは、娘がまだ幼稚園の頃。

私は風邪を拗らせ、肺炎になった。

市販薬で凌いでいたものの、40度の熱が何日も下がらない。

どうしようもなくなり、病院へ行った。

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何故、ここまで放置していたのかと叱られた。

今すぐ入院。とも言われた・・が断った。

娘の園バスまでの送迎に、お弁当。

食事の支度。。その他もろもろの理由で。

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入院こそ免れたが、朝と夕方の点滴だけは通うようにと言われた。夫が仕事へ行く前の早朝に点滴。

夫の帰宅後、点滴。。

数日通っても、熱が下がるどころか悪化していってる気がする。

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ある日のこと、夫が珍しく早い時間に帰宅した。

まだ昼過ぎなのだろう。曇天ではあるが穏やかな暖かい日だった。

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・・カラカラ・・部屋の引き戸を開ける音。

畳の上のカーペットを踏む音。

トサリ・・と座る衣擦れの音。

朦朧とする意識の中、『あ~パパ帰ってきたんだ』

そして、辛い喉を振り絞るように声をかける。

「パパ?お帰り。早かったね・・」

「・・・・・・・」

「パパ?」

「・・・・・・・」

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重い体を何とかベッドから起こし部屋を見る。

・・・誰も居ない。

『あぁ・・幻聴か・・』

そう思い、また体を横たえる。

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・・ガサガサ・・新聞を開く音。

・・ブリっ ブリリリ・・ミカンを剥く音。

『・・やっぱり帰ってる・・よね?』

もう一度声をかける。

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「パパ?返事して?」

「・・・・・・・」

少し苛立った。

「パパっ!!!!」

「・・・・・」

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再び部屋を見るが、新聞は折りたたんだまま。

ミカンも1個も食べた形跡がない。

「・・・え?」

(まぁ・・熱のせいで期待が幻聴になったんだろう)

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勝手にそう思うことにして、うとうとと眠りに落ちていった。

~~

夢を見た。

真夏の早朝のような、清々しくも霧の立ち込める街。

私はビル街を歩いていた。

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・・綺麗に整備されているなぁ・・

片側2車線の道路には一つのゴミも落ちてなく、グリーンベルトも青々として手入れが行き届いている。

誰一人として出会う人もなく、私は歩いていた。

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少し先に交差点がある。大きな交差点。

渡りたい方向の信号は・・赤。

信号待ちの間に、周りを見渡す。

電柱も電線もない。地下を通しているのだろうか。

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しばらく待っても、中々信号が青に変わらない。

・・誰も居ないし、車の音もしないし・・

私は、未だ赤のままの信号を無視して渡り始めた。

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斜め向かいは公園なんだろう。

緑の植木で囲まれている。

公園脇の道路のほうから聞き覚えのある足音が聞こえてきた。

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・・カシッ・・カシッ・・

少しずつ早まる足音。

カシュッ カシュッ カシュッ・・

朝靄の様な霧の中から、懐かしい姿が出てきた。

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・・あ。ウイング!!!

私が幼少の頃から飼っていた犬で

シェパードと秋田のミックス。

とても賢くて、やさしい犬だった。

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小学校5年の時に、私はウイングに与える残飯の中に、ご飯の塊があることを目視していながら

(いつも、この位のは食べちゃえるから)と崩してやることもせずに与えた。

嬉しそうに尻尾を大きく振りながら食べる姿をみて、私は立ち去った。

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十数分後・・

外へ出てみると、ウイングは横になっていた。

嫌な予感。物凄くイヤな予感。

小屋の外で横になってるなんて・・・

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駆け寄って様子を見る。

!!!!あぁ!!!!!

餌を途中にし、舌を出したウイングがいる。

「誰か!ウイングが!ウイングが!」

父が裸足で飛び出してきた。

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・・結局、医者を連れてきても手遅れだった。

私は何日も泣き続けた。

私のせいだ・・私が死なせてしまった。

ゴメンよ。ゴメンよ。。。

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ずっと、謝りたかったウイングが姿を現したのだ。

私は、横断歩道の真ん中で立ち止まったままウイングの姿を眩しく見ていた。

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私:「・・ウイング・・逢いたかったよ」

ウ:「おぅ。」

私:「元気だった?あ。死んじゃってるんだよね。あの時は、ゴメンね。ずっと謝りたかったんだ」

ウ:「あぁ!いいんだ。あれは、気にすんな。それより、随分疲れてるようだなぁ?」

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私はウイングに近況を話した。

疲れが抜けないことも、今もダルいことも。

するとウイングは、ヒョイっと立ち上がると私の背後に回った。

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マッサージしてやる。と言い、私の肩に肉球を押し付ける。

それが、とんでもなく気持ちいいのだ。

ギュっと押されると、ソコから・・

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・・なんて言ったらいいだろう?

ゼリーを手で握りつぶしたことがあるだろうか?

指の隙間からギュルギュルと潰れたゼリーの感触。

押された箇所から、ドス黒いギュルギュルが噴水のように噴きだす。

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ウイングは、何度も両肩を交互に押してくれた。

ギュルギュルがあまり出なくなるまで。

私は、あまりの気持ちよさに感動した。

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ウイングさぁ~上手だねぇ?どこで覚えたの?

ん?コレか?ふふん。ま~いいだろ。

少しの会話を終える。

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ギュルギュルが一噴きする毎に体が軽くなるのが分る。

暫くするとウイングがマッサージを止めた。

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どうだ?少しは楽になったか?と問われる。

私は、すごく楽になったと答える。

そしてウイングは言った。

「じゃぁ、もう・・こっち来なくていいな?」

私も言う。

「うん。行かないで済んだよ。ありがとう」

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ウイングは、くるりと背を向け元来た道を戻っていった。

・・信号は・・青になっていた。

私はウイングに小さく手を振りながら霧の中に消えていく姿を見送った。

そして、自分も踵を返して元来た道へと戻った。

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~~

~~

そこで目が覚めた。まだ外は午後の緩い陽射し。

・・ウイング。。声に出して呼んでみる。

さっきと、打って変わって体が楽になっている。

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熱を測ると、何日もの間40度以上あった熱が下がり、微熱程度になっていた。

もう一度、名を呼ぶ。

・・ウイング。ありがとう。

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あの交差点を渡っていたら・・・・

胸が詰まって涙が溢れた。

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マガたん♪
そのワンちゃん、マガたんを待ちたくて鎖外したんじゃないのかなぁ~?
マガたんに会いたくて、早く早く会いたくて!!。゚(PД`q。)゚。

私、めっちゃネコ好きなのに、最近は逃げられる・・・
何故~~る?

ウイングは、元は人間だったんじゃ?って位、言葉も通じ、穏やかな犬だったの。
私が泣きながらウイングに縋り付いた時は、背中に乗せてくれた。
土砂降りの日に、小屋に入らないな~と思って眺めてたら、ヒヨコ達に小屋を譲ってw
次の雨の日は、自分が先に小屋に入り、ヒヨコを抱えて温めていたウイング。
雨が止めば、小屋に敷いてあったゴザを天日干しするようなワンでしたww

私の危機を助けに来てくれたんだと、今も思うよ(T_T)

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とても心安らぐ良いお話ですね。 ウイングが来てくれたのは単純に疲れてたからじゃなく命の危機に瀕していたからではないでしょうか? ゼリーを手で握り潰した感触は分かりやすい例えですね。ゼリーを潰すのは子供の頃図らずもやりました。