長編7
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だから言ったのに・・

「ちょっと!!」を書いてて思い出した体験です。

~~

マナーのなってないオバちゃんの怒鳴り声から、そう日が経っていない時です。

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当時、北枕で寝ていた私達のベッド。

南側の部屋の端に設置していた本棚の一番下。

「たすけて」と若い女性の、か細い声が聞こえた。

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少し尻上がりの口調で、印象的には「たすけて?」に近い感じだった。

~~

心の中で、『無理です。私には何も出来ないので、余所をあたってください』と繰り返し呟いた。

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北枕だと安眠できるらしい。という噂を信じていたのだけれど、変な事が続くので模様替えをした。

西枕。出窓の方へ頭を向けて本棚は足先の方にある。

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「たすけて?」から、しばらく後。

私は苦しくて目が覚めた。

何かが足元から、ゆっくり私の上に這ってくる。

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金縛りにも遭ってないので、夫を起こそうとベッドの中で腕をペンペンしたが、全く微動だにしない。

足首辺りに、完全に何かが乗りあがった。

重い・・・つか・・苦しい・・

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夫の腕に肘鉄を入れる。。が起きない。

その間に、ソレは私の腹部まで来た。

私の腹の上に馬乗りになったソレ・・

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・・全身ずぶ濡れ。長い髪から滴る水。

ブヨブヨと膨らんだ裸体には、無数の紫と黄色の筋。

白目を剥いていて、舌も真ん丸に膨らんで口から飛び出しているオンナ。

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(だから、たすけて。っていったじゃない・・)

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私は苦しくて苦しくて、涙が出そうだった。

が、恐怖は不思議と感じなかった。

見た目の酷さに吐き気もしたけれど、あまりの重たさと苦しさで、えづく事も出来なかった。

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・・く・・くる・・しい・・

私は、その腕を苦し紛れに掴んだ。

キンキンに冷やされ、腐ったミカンに全部の指を突っ込んだような感触。

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・・ブジュ・・グチュ・・ギュブルル・・

氷のように冷たいソレは、水死体かと思われた。

掴んだ所から、泥水のような液体が出てくる。

大小様々な泡と一緒に。。

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(だから・・助けてって言ったじゃない)

また同じことを言うソレ。

「・・どけて・・くる・・しい・・から・・」

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降りてってば。マジ苦しい。

話は聞く。でも聞こえるだけで何も出来ないよ?

だから降りて。それに、見た目キショいから、それもやめて。冷静になろ?ね?一回冷静に!

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何とかそこまで言うと、ソレはズリズリと私の上から降り始めた。

グジャリ・・とイヤな感じの音を立ててベッドサイドに崩れたソレ。

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頭だけソレに向けて、様子を見る私。

苦しいのは去った。ただ匂いが酷い。

掛け布団も濡れて臭くなってる。

腕を掴んだ自分の手を見る気にもならなかった。

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降りてくれてありがと。でも、ホント見た目を何とかしましょうよ?

まず、どっから声出してるんだか判らないから、ベロ引っ込めて?

真ん丸に膨らんで口から飛び出してる舌を見つめながら言う。

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・・苦しげな口元に変化した。舌が戻った。

出来るじゃん。なら、白目も気持ち悪いから、それも何とか出来ない?

・・白目の内側から、濁ってはいるが黒目らしきものが出てきた。

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(・・すげ~変われるんだ?)とか思う私。

非常に不謹慎なのだが、そんなことを思っていた。

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あとさぁ~なんで紫とか黄色なワケ?

本当はフツーに白い肌なんじゃないの?

(・・・・・・。)

ソレは、ゆっくりと。。まともな姿になった。

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・・まとも。と言っても尋常ではない姿なのは確か。

だって・・全裸で隠すこともせず濁った目でベッドサイドに居るんだもの。

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話は聞く。って約束したから降りてくれたんだよね?だから話は、ちゃんと聞くよ。

でもね、前にも言ったけど、私に頼っても何も出来ないんだよ?解ってる?

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ブヨブヨに膨らんでいた姿も元に戻した「オンナ」は頷いた。

解ってて、それでも来たのは、話を聞いてほしいだけって理解でオケ?

(・・・そぅ)

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なら、話して。それで気が済むならさ。

生きていたなら、かなりの美人だろう。

ナイスバディでもある。モテそう。。

でも、一度は心が病んだこともありそうだった。

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先に言っておくけど、私、チャンネルが合ってる間しか見えないし、聞こえないからね?

急にキョロキョロしたら、チャンネルずれた。ってコトだから、そしたら話し中でも帰ってね?

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頷いたオンナが語りだした。

付き合っていた男に殺されたのだという。

それも、18禁の最中に。

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他に女がいたのだと。自分が彼女だと思っていたのに、男にとっては浮気相手でしかなかったのだと。

蝋のように白い頬を涙が落ちていく。

ティッシュを渡すと、上品な仕草で涙を拭く。

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18禁の最中、本命の彼女が合鍵で彼の部屋に来た。

男は慌てて彼女に言い訳をしていたが、あまりのショックで耳に入らなかったのだと。

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激昂した彼女は、男に言い放った。

「私が大事なら、そんな女、殺しちゃってよ。」

・・・・どんな思考回路してる?その彼女。

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そして、その場で首を絞められ死んだのだと。

・・なんで自分が死んだって判ったの?

ぐったりとした自分をみて、青ざめた二人が喧嘩になったのを天井から見下ろしてたから

『あ~私、殺されちゃった』と思ったんだそうだ。

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・・つか、なんで殺される前に逃げなかったの?

二人が怖くて、動けなかった。んだそうだ。

裸のまま、さっきまで彼とイチャイチャしてたシーツにくるまれて、夜の海に捨てられた。

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・・海に捨てても、すぐバレるじゃない?

彼はボート持ってたから、それで沖合まで運ばれた。だそうだ。

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あちこちで、質問やら突込みやら入れる私に、律儀に答えていくオンナ。

・・なんで私のトコだったわけ?

・・・・・・・。

・・なに?言えない理由があるん?

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頷くオンナ。

いやいや。そこは大事でしょ?

なんで何も出来ないって解ってるトコに、わざわざ来るかなぁ~?

何か出来そうな人んトコ行くのが普通なんじゃないの?

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また涙を流すオンナ。今度は自分でティッシュを取る。

・・・ごめんなさい。

いやいやいやいや。責めてる訳じゃないよ?

でもね、やっぱ行くところ違う気がするよ?

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やっぱり迷惑だったかしら・・

・・そりゃ~迷惑ったら悪いけど、迷惑だねぇ。

あんな姿で迫られたら、フツー迷惑でしょうよ?

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あ。でもでも、ちゃんと直してくれたから今は大丈夫だから気にしないで?

・・・(無言で頷く)。

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・・ねぇ?聞いてほしいこと、全部話した?

まだある。私を殺した男と、殺せと言った女に復讐したい。

男の名前も勤め先も知ってるから。

~~

・・だから、言ったでしょう?何も出来ないってば。

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仮によ?仮に私がその男を見つけたとしてよ?

どうすんのよ?面識もない私に何が出来るの?

警察に言っても証拠が~とか言われて終わりだよ?

下手したら私が疑われるじゃん?ヤダし。

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恨めしそうに私を見るオンナ。

・・だ~から。その目、やめてよ。

そもそも復讐したいんだったら、そっちに行くのが普通じゃなくて?

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うなだれるオンナ。

・・ねぇ?復讐ってさ~つまんないと思うよ。

(え?)って顔を上げるオンナ。

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自分が好きだった彼なんでしょう?

けどクズな男だし、どうせ未来には不幸があるんだと思うんだよねぇ~

知ってる?人を呪わば穴二つって。

頷くオンナ。

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本気で好きだったのに裏切られて、辛いのも悲しいのも悔しいのもわかるよ。

でもさ~復讐して不幸にしてやっても、どっちみちソイツ不幸になるんだよ。

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だったら、復讐とか考えずに明るい方に行ったらいいんじゃないかな?

生まれ変われるとか、その系は知らないけどさ~

もしかしたら、次は幸せになれるかもしれないのに勿体ないと思うな~

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・・復讐したら、幸せになれないのかしら?

ん~たぶんね。確証はないけど、少なくともスッキリはしないと思う。

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・・・そぅ・・(残念そうなオンナ)

とりあえず、裸じゃ寒いだろうから服あげる。

それを着て、外へ出て上を見てごらん?

で、明るい所があったら真っ直ぐに行ってみ?

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そこまで話して、私は服を取りに立ち上がった。

モコモコのロングセーターとデニムのスカート。

着なくなったダッフルコート。

あと、ショーツもついでに。。。

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服を選ぶ私の斜め後ろで、オンナが笑った。

・・・うふ・・

服をベッドの上に置くと、いそいそと身に着ける。

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全部身に着けると、嬉しそうな笑顔になった。

(・・でも、その目だけは、勘弁して)

さ。ほら。

どっから入ったか知らないけど、玄関から出てね。

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玄関を開けてやると、静かに口を開いた。

・・・靴は?

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(オネダリですか??)心の声。

頷くオンナ。

どうやら、心の声も伝わるらしい。

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・・サイズ分からないけど、どれがいい?

目星をつけていたらしい。

すぐさま、スッと指差した。

お気に入りのショートブーツ。。。

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今度は、私が恨めしそうな目でオンナを見た。

オンナは楽しそうだ。

・・・まったく・・・

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仕方なく、「いいよ。それもあげる。」

言い終わる前に、靴に足を入れ始めている。

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玄関から外に出たオンナは、月明かりに照らされ見惚れるほどに綺麗だった。

・・今度は、ちゃんとイイ男見つけなよ?

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そういう私に、丁寧にお辞儀をすると・・

彼女は上を見上げた。

鮮やかな笑顔を一度だけ私に向けて。

・・明るいわ・・と呟いた。

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私は黙って玄関を閉めた。

そのあとの事は、知らない。

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hikaさま
コメント、ありがとうございます。
また、色々な私の体験談に「こわい」をありがとうございます(^^

色んな意味で彼女は残念な方だったと思います。
・・私は優しいのでしょうか?ww
目の毒だっただけなんですがぁ~~ただ、お気に入りの靴だけは。。。orz

また、様々な「怖そうで怖くない体験」をUPしていきますので、
お付き合いいただけると大喜びします(*^^*)

死んでしまったとてやはり人間なのだなぁ…と改めて感じるお話でした。

綺麗で素敵な彼女なのに殺されてしまうなんて、なんだか悲しいですね…
それにしても、きちんと話を聞いてお洋服や靴まであげてしまう沙羅様の優しさにほんわか致しました

赤煉瓦さま
コメントありがとうございます(^^

話を聞いてもらうために、変化したものかな~?
恐らくは、現在の姿で登場してきたのでしょうね。
・・でも、この世ならざるものとの約束や、交渉は出来るだけしないほうが良いかと。
彼女が、明るい場所を見つけられて、逆に私が助かりました。
「明るくないし」とか言われてたら、ゾッとしますよ。。

mamiさま
いつもありがとうございます(^^
普通は、交渉なんて出来ないですよ~大抵は一瞬の出来事だったり
呻かれる。どやされる。程度で会話が成立しないんですからww

動じなく??いえいえ。すっごく動じます。
人のこと言えないくらいビビリですよ~
ただ、「怖い」と「その時」感じなかった。がキーワードでしょうね。

全く起きてくれない夫の事で文句を兄に言いました処、
「そういうときって・・絶対、誰も起きてくれないんだよな」とのこと。
そーゆーものなんでしょうねぇ・・

怨み 憎しみから醜い姿なのかなぁ〜
話を聞いてもらって元の自分を思い出したのかな
真っ直ぐ上に登れると良いな

幽霊相手に交渉までできますか(;゚д゚)!?
見えも感じもしない私からすると、すごい域ですね…

思春期の体験がすごすぎて、もう、動じなくなっているのでしょうか…
それにしても、ご主人…沙羅さんとちょうどバランスとれてますね( ´艸`)