中編5
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お礼…

皆さんはこの世の者では無い人に感謝された事があるだろうか?

これは、あるキャンプ場で体験したそんな話し…

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これは、俺が学生時代の話し

体育系の学校に通ってた俺は、学校の行事でとある県境のキャンプ場に来ていた。

この学校、こうした行事が多くて、学生の研修のためのキャンプ、地元の小・中学校に依頼されて引率・指導をするキャンプなど、年に数回はキャンプに行っていた。

キャンプ場っていうのは、何故だかそれ系の話しは付き物ってぐらい、何処のキャンプ場にもそういう怪談話、目撃談、体験談があふれてる。

そのキャンプ場にも、

昔、ここは合戦があった土地で、この高台に本陣があり、その脇でたくさんの首がはねられた。

とか、

昔は集落があり、気のふれた若者が村中の人々を1人残らず殺して回った。

なんて、噂があった…

まぁ、そんなのはありがちな作り話だよな

ってな感じで俺はたかをくくってた。

キャンプ場に着くまでは…

初日の夜の事だった。

夕食の定番、カレーライスを食べ終えて、炊事施設のあるあずまやで食器を洗ってる時だった。

(うわ~、居るよ)

視界の片隅に、明らかに現代の格好じゃない人が2人…

よく時代劇なんかで見かける、農民らしき格好をした親子っぽい2人…

(あれって、みんな見えてんのかな?)

周りを見渡す。

誰も気付いていない…

(やっぱり、見えて無いんだな…)

(頭、おかしい奴って思われたくないし、黙っとこ。)

(この人何してるんだ、さっきから同じ所を行ったり来たり…)

しばらく観察してみる。

少し離れた所にある、小川に行ってるみたいだ。

川縁に降りたようで1度姿が見えなくなる。

子供らしき小さな男の子は、下に降りる事なく川を見下ろしてる。

しばらくすると、父親らしき男が桶のようなものを両手に抱えて男の子のもとに上がってくる。

そして、その桶を持って森の方に歩いて行く。

男の子は、父親の腰の辺りを掴んで着いていく。

それをしばらく繰り返してた。

気にはなっていたが、俺にも色々と仕事がある。

俺はその場を離れた。

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それから、キャンプファイヤーなどの行事を終え、あとは、風呂に入って寝るだけってとこで、俺はタバコを吸いに行った。

喫煙所は、さっきのあずまや。

先客は1人。

今回のキャンプの指導役として参加してるサークルの先輩だった。

『お疲れ様です。』

『おー、お疲れさま~。』

なんて言葉を交わし、しばらく会話を楽しんでると…

(あぁ、まだやってんだ…)

さっきの親子…

ついその方向に目が行く。

『もしかして、見えてる?』

先輩にそう言われた…

『えッ? 何がですか?』

一応とぼけてみる。

実はこの先輩は女性、しかもかなりの美人さん。

結構彼女に憧れてる男も多い。

俺もその1人だった。

余計に見えることを知られたくない。

だって、気味悪がられるのは目に見えてるから…

『ホントに見えてないの? 嘘はやめてよ。』

『お化けッスか?』

『そう。昔風の農民みたいな親子…』

(あぁ、この人も見えてるんだ。じゃあ言っても大丈夫かな。)

憧れの先輩も同じモノを見てると知って、少し嬉しくなった。

『はい、見えてます。川で水を汲んでずっと運んでますよね。』

『見えるヒトなんだ…』

『たまにですけど… ホントはあまり言いたくないんですよね… 変な目で見られるし…』

『わかる。私も普段は隠してるから…』

(おっ、秘密の共有? )

なんて少し喜んでみたりして…

『でも、なんでずっと繰り返してるのかなぁ?』

って先輩が疑問を口にする。

その答えは俺にはだいたい予想がついてる。

『あの桶、穴が開いてるんじゃないですかね?

水こぼれてるし…』

『それで、水が貯まらなくて何回も繰り返してるってこと? なんかかわいそう…』

(先輩って優しいんだなぁ)

『でも、何もしてあげられないし…

あっ、この事は内緒にしといてね。

私も見えること知られたくないし…』

(了解です。この事は2人だけの秘密です。

この事をきっかけに先輩と…)

なんて不謹慎な考えを先輩にさとられないように

『わかりました。』

なんて神妙な顔で答えて、その場を後にした。

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翌朝、少し早く起きた俺は、昨日の親子が入っていった森の方に行ってみた。

少し歩くと、ちょっとした広場に出た。

その一角に石垣?って言うには小さい、膝丈くらいの高さまでの石を積み上げたものがあった。

(なんだろう? 墓?)

そんな事考えながら、裏に回り込むと…

木で出来た桶が転がってた。

よくTVの旅番組なんかで見る、檜風呂とかにおいてある木桶を一回り大きくしたくらいの桶…

(あの桶だ…)

すぐにあの父親らしき人が持っていた物だと思った。

(あぁ、やっぱり割れてる…)

相当年代物なのか、底の部分は腐りかけて結構な穴が開いてた…

(あっ、そうだ)

俺はふと思いつき、炊事施設のあずまやに向かった。

そこにあるのは、どこにでもある金属製のバケツ。

そのキャンプ場に常備してある物だと思う。

少し後ろめたく思いながらも、

(1つぐらいいいよな…)

そう自分に言い聞かせて、それを持って林の奥へ…

石積の前に行くと、そこにバケツを置いて手を合わせた…

『ゴメン、余計なお世話かも知れんけどその木桶は穴が開いてるから…。 良かったらこれ使って…』

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その日の夕方…

晩御飯の準備をしてるときに、また親子は現れた…

手にはしっかりと俺の置いたバケツを持って。

そして、空いたもう片方の手でしっかりと子供と手を繋いで歩いてた。

(お~、現代の物でも持って歩けるんだ。

もしかして俺良いことしたんじゃない)

なんて自己満足に浸ってるときだった。

『ねぇ、あのバケツ…』

先輩が駆け寄って来て俺に聞いてきた。

『あぁ、なんか可哀想に見えたんで、そこのバケツ持って行ってみたんですよ。まずかったですかね?

『へぇ、○○優しいんだね。

いいんじゃない、1つぐらい。人助けになるんなら。

あっ、人では無いのかな?』

なんて言って先輩は嬉しそうに笑った。

(おっ、これはいい感じ。脈ありって奴かぁ)

実際翌日のキャンプ最終日、俺はほとんど先輩と一緒に行動した。

色々な話しをしながら…

とても楽しい1日だった。

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キャンプ場から帰るバスに乗り込んだときも、先輩は俺の隣に座った。

バスの扉が締まり、出発って時だった。

ふと外を見ると、あの親子がバスを見送るように立ってた。

『先輩、あれ…』

声を掛けると先輩も外を見た。

『凄いね。最後にお礼に来たのかな。』

親子は、すっと頭を下げた。

顔を上げた親子は満面の笑顔に見えた。

『良いことしたねぇ。幽霊にお礼言われた人なんて初めて見た。』

バスの中ではせっかく隣になったのに、俺はほとんど寝てた。

目が覚めると、もう学校に到着。

バスを降りた時に先輩が一言…

『見えること、彼氏にも言ってないから絶対に内緒にしといてよ。』

(彼氏? 居るんだ…)

『はい、誰にも言いません』

『じゃあ、お疲れさま~』

そう言って先輩は、迎えに来ていた彼氏の車に乗り込んで行った…

(こんなもんだよね~、まぁ良いことしたことだし、良しとするか。)

そう自分に言い聞かせて、帰路についた…

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