中編3
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見えた先の後悔

一人の男がいた。

男は悩んでいた。あることを打ち明けたくても言葉でも書くこともできないからだ。

男は必死で誰かに伝えたいと心底思っていた。

けれど、男はなぜかそうしなかった。

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理由を尋ねる前のKは、日ごろから何かに怯える男に不振な気持ちを抱いていた。

仕事をしていても何も話さない、字を書いていても何を書いているのかさえ分からない人だった。

当初はみんな、その男を嫌っていた。もちろんKも例外ではない。

だけど、仕事場のリーダーはその男を認めていたこともあり、辞めさせる理由はなかった。

なぜ、リーダーは口に出さない、文字は不明な男を働かせているのか、職場の職員は理解ができなかった。

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「あああ・・・ううう」

男が初めて職場で口にした。

男の口からはヨダレが垂れさがり、コップの水がいっぱいになった水があふれるように男の口からヨダレが垂れ下がる。隣にいたKはそれを引く。また、男の隣で働いていた女性職員も悲鳴を上げた。

リーダーはその男に近づき、なにかを察したようにしてその男を連れ出すと同時に、部屋にいた職員に「はやく、この部屋から出るんだ!」と、叫んだ。

職員の人たちはよくわからず、リーダーの指示に従い、その部屋をでた。

Kも同じようにその部屋から出た。

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しばらくして男は「うう・・・あああ・・・ええ」と、うなだれるようにしてヨダレを垂らす。

リーダーはひたすら「うんうん」と、頷きながら男が言っている言葉に理解しているかのようにしぐさをとる。

Kを除いた数人の職員以外の人たちは困惑を隠せない。

その中の職員の一人が声を荒げた。

「その男はいったいなんですか! 職場にいながらも机だけで仕事はしない。ヤル気が見られない」

先ほどまで怯えていた女性も声を上げた。

「そうですよ、私はその男の隣の席なんですよ。不気味すぎて私たちは仕事に集中できません!」

「続ける理由を教えてくださいよリーダー!」

その質問に対してリーダーは口にした。そして、公表しないことを条件にだした。

リーダーが言うには、男は”未来が見える”という力があるのだと。

リーダーはその男の力によって、職場に認められない冴えない青年だったのをリーダーになるまで底上げしてくれたのは男の助言だったと告げた。

だけど、その話をしたからと言って事実になるとは言えない。

未来が見えるからといって、なぜ言葉や文字にしないのか、その理由が分からない。

そのことについてKが口にした。

リーダーは黙り込む。

「ウソなんですか!?」

「いや・・・言えないんだ」

リーダーがおびえるかのようにして歯をガチガチと鳴らし、手足を震えながら言った。というよりも、怖くて口に出してしまったかもしれない。

「この男の未来を知ってしまったら、この先はなにもないから」

と、リーダーは涙を滝のようにあふれるかのようにしてどこかへ逃げ出してしまった。

このやり取りによくわからず、Kはぽつーんとしてしまったが、他の職員の人たちはリーダーの後を追っていた。

男とKが残された廊下にはだれもいなくなった。

男は腰を上げるなり、初めてまともな言葉で口にした。

「あの男(リーダー)はもうだめだ」

男はすべて悟ったかのように、リーダーが走り去っていった通路を見つめながらKに事の真相を明かした。それと同時に、このことを公言しないことも刺された。

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翌日、Kが働いていた職場に、不審者がいたことを朝礼で知った。なんでもリーダーに恨みがあったらしく、リーダーがいる職場に行って殺すつもりだったらしい。

昨日の男の悟りからして、リーダーが殺される未来でも見たのだろう。

無駄なことだ。リーダーは昨日、男と一緒に会社を辞めた。理由はわからずじまいだ。

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そして、Kも同じように男と同じ口に出すことも文字で伝えることもやめた。

あの男と同じように”未来を知り”、干渉しないためにも・・・。

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