中編3
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二人の老婆

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大阪市内に住み始めた頃、

道不慣れで、西区新町の今のオリックスホール近くの職場から、自転車で浪速区の住所に帰る道を何度となく間違えていました。

今なら学園坂や、口縄坂近くの老朽した安アパート、

松屋町筋をひた走れば迷いもせずに帰れるのですが、

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深夜の事とて、乏しい財布でわずかな食物を買い求める為、JR難波駅周辺の二十四時間スーパーマーケットに寄ると、

そこから知らぬ間に西成区まで行って、天下茶屋辺りを走っている。そんな毎日でした。

JR難波駅への引込み線は、地下になっていて、その上に公園や地元の集会所があったりします。そして、10月半ば頃のこと、その集会所に灯りがともっています。

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前を通ると、葬儀の準備がされて通夜が営まれておりました。

しかし、人の気配はありません。

身寄りのない方の葬儀かな?と思い、そこを通り越して、少し行くと急に日頃の疲れが出たのか、ペダルが重くなって、足が動きにくくなり、ひどい息切れして、その先にあった公園のベンチに腰掛けて動悸が収まるのを待っておりました。

すぐ近くのベンチ話し声が聞こえます。

そこだけ照明が弱いのか、かなり薄暗かった。

そこにお婆さんが二人腰掛けています。私は聴くともなく二人の話を聴いていました。

私は目の前の動物をかたどった、椅子やら遊具やらわからないものを見ていました。

「◯◯さんまだまだ若いのにな」

「気の毒にな」

「ほいなかったな」

「可哀想にな」

そして、しばらく沈黙しています。

ああ、通夜の手伝いに来た近所の人だ。ここで休憩されているんだ。そう思いました。

「◯◯さんまだまだ若いのにな」

「気の毒にな」

「ほいなかったな」

「可哀想にな」

老いの繰り言というか?同じ言葉を繰り返しています。

そしてお婆さんたちが座っているベンチは、電球が切れかけているのかさっきより薄暗く感じられました。動悸が収まったのですが立ち上がる気がしなかったのですが……、

「◯◯さんまだまだ若いのにな」

「気の毒にな」

「ほいなかったな」

「可哀想にな」

同じことをよく続けて繰り返してるな。

私もあの歳になるとああなるのかなあ、寂しいなぁ。で、気付きました。

微かですがお婆さんたちの声、少し大きくなってるんです。

暗さも何か靄がかかったような、秋の夜、気温は下がって来てます。

もう歳なんだからお婆さん、体に障るからもう集会所に行ってあげるか、お家に帰ったら?

そう言ってあげようかと思いました。

そしたら、寒気と言うんですか?急に震えがでまして、ゾクゾクっという感じで、ああ私もこのままだと風邪引くなと思って立ち上がろうとすると、

お婆さん二人ともこっち見てるんです。

その顔はなんの表情もない。

そして、

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「余計な事は言わずお前はさっさと帰れ!」

そう聞こえたのではなく、頭に響いたんです。大きな声で。

またぞくっとしました。その瞬間、お婆さんが座っているベンチはいつものようにあかあかと灯りに照らされて、そこには誰もいなかったんです。

消えた?という感じではなく初めからそこには誰もいなかったんだ。

私は、自転車を軋ませながら、帰りました。余計な事は言わなくて良かったのかもしれません。

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気付いてないことになりました。一瞬の夢であってほしいです

話しかけていたらと思うとぞっとしますね・・・