長編7
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さいこん〜人外〜②

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music:4

2005年09月05日23:00ーーー

高山は、昼間堀川に見せられた監視カメラのことを思い返していた。

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(…あれ、明らかに自傷行為じゃなかったよな……。)

……かと言って、監視カメラの映像だけでは他人によるものとも考えにくい。

そして、老婆の言う『恨みで人を殺せる』という発言と、何か関係があるような…そんな気がしていた。

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(…明日、千佳子さんに直接聞く他無いか……。まともに答えてくれるかは別としても。)

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高山は、今までそういった呪いだの怨念だのといった類のことを信じたことはない。

当然見たことも無ければ、テレビでよくやるようなオカルトの全ては、人が考えた『作り物』だと思っている。

それ故に、昼間の監視カメラの件がどうしても腑に落ちなかった。

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(……寝よ。)

考えても分からない事は、考えたって時間を浪費するだけだ。

高山は携帯のアラームを確認し、考えるのをやめて目を瞑る。

外から網戸を通して香る匂いが、まだまだ残暑を感じさせるのだった………

○○○○○○○○○○○○○○○○

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music:3

2005年09月06日01:00ーーー

『うぅーーん……。』

…ふと、高山はまとわりつくムシ暑さに目を覚ました。

時計を見る。

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(なんだ、まだ1時か……。それにしても暑いな……。)

ベッドから身体を起こし、『何か飲み物でも…』と足を床へ降ろした瞬間、急な耳鳴りが高山を襲った。

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『……つっ…。』

……長い耳鳴りだ。

同時に襲う立ち眩みにも似た頭痛に、高山はしばらく頭を抑えながらベッドに座り込む。

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(…疲れてんだろうなぁ。)

高山は特に気にしなかった。

疲れから来る、よくある耳鳴りなのだろうと。

……この時はまだ、これが想像を絶する恐怖の始まりであることも知らずに…。

○○○○○○○○○○○○○○○○

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music:5

2005年09月06日9:00ーーー

sound:32

高山が病院へ出勤するとほぼ同時に、高山宛ての電話が病院へ入った。

『…はい、高山です。』

『あ、お忙しいところすみません。私、池田総合病院の明石誠司と申しますが…。』

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池田総合病院は、堀川病院から約3キロほど離れた大きな病院だ。

池田総合病院に高山の知り合いは居ないが、病院自体が近いため院長同士の交流はあるようだった。

…そして、松山千佳子が運ばれた病院でもあった。

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『はい、私に何か御用でしょうか?』

高山が尋ねると、電話先の明石と名乗る男性は声のボリュームを少し下げて言った。

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『…一昨日うちへ運ばれた松山千佳子さんの件で、お伺いしたいことがあります。出来れば、この怪我が起きた時の映像などもあれば助かるのですが……。』

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高山は少し疑問に思った。

何故、わざわざ映像がいるのだろうか……。

もっと言えば、この男が小声になった意味は…?

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『…わかりました。私も、ちょうど松山千佳子さんの様子を伺いに行こうと思っていたので、今日の昼間にでもお時間が合えばお伺い致します。』

『ありがとうございます、それではお待ちしております。』

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高山は相手の電話が切れたのを確認し、受話器を置いた。

よくよく考えてみれば、アレだけの怪我なのだ、彼方の医者が疑問を持つのは当然と言えば当然だろう。

ただ、高山にはその理由の他にも『何かがある』、そんな気がしてならなかったのだった。

○○○○○○○○○○○○○○○○

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music:2

高山は昼休憩の時間を潰し、院長の堀川に昨日の監視カメラのデータを借りて池田総合病院へと車を走らせた。

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今日は朝から雨が降っている。

ガコン、ガコンと音を立てるワイパーが妙に気になり、高山はラジオのボリュームを上げた。

ところが、何故か何処のラジオに設定しても砂嵐の音しか流れない。

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(…ちっ、アンテナがいかれちまったかな……。)

思い返せば、昨日の時点で既に誕生日が過ぎていたことに今更気付く。

何だか悪い事が続く最近に、高山はいつにもなくイラついた。

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病院へ着くと、入り口の前に一人の男性医師が立っていた。

男は運転する高山に軽く会釈をした後、傘を持って駐車場まで走ってきた。

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『お疲れ様です、お電話した明石です。お忙しいところわざわざありがとうございます。

どうぞ、こちらへ。』

男は病院へ入ると、2階の小さな部屋へと案内した。

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『こちらのソファで、少々お待ちください。』

男が部屋を出て行くのを確認した後、高山は部屋を見渡した。

客間…にしては物が乱雑に置かれていて、どちらかというと書類やカルテの物置部屋のような感じだ。

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ガチャ…

明石が缶コーヒーを片手に戻り、一本を高山へ手渡した。

…それと同時に、男は脇に抱えていた二枚の写真も高山へ渡し、向かいのソファへ腰を下ろした。

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『…唐突で申し訳無いのですが……。まずはこの写真を見てもらいたいんです。』

高山は、言われた通り渡された写真に目線を落とした。

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sound:18

『……っ!?こ、これは……。。』

渡された写真には、無残にねじ折れた両脚が映っていた。

疑うまでもなく、これは松山千佳子のものだろう。

…それにしても、どうしたらここまで脚がねじ折れるものなのか。

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『…ご存知の通り、それは一昨日うちへ運ばれた松山千佳子さんの両脚の写真です。

いやはや、どうやったらこうまでなるものか……。

…しかし、それよりも……。』

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そこまで言ったところで、明石は一瞬だがその先を言うのを躊躇したようだった。

明石は缶コーヒーを一口口にした後で、その先を続けた。

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『…それよりも、足首の所を見て下さい。

……ほら、ここ。 妙な痣があるでしょう?

これ……恐らく手で強く掴まれて出来たものですよ。』

『……えっ?』

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写真を確認すると、確かに足首に赤黒い手で掴んだような痣が浮かんでいた。

普通の痣にしては、妙に赤黒い。

その不気味とも言える色が、更に高山の寒気を誘った。

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『し、失礼ですが、当院による虐待……を疑っているのでしょうか…?』

明石から最初に連絡をもらった時、高山は真っ先にこの【虐待】を疑われていると考えていた。

普通は、虐待の疑いがある場合は警察が先なのだろうが…

いわゆる『お隣さん』で院長同士が仲良しなだけに、先ず会って話を聞いてみたいのだろうと。

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…だが、明石の答えは意外なものであった。

『とんでもないですよ、高山先生。そもそも、手で捻って骨が折れるほど人間の骨は柔くはない。

…それが、いくら老人の弱ったものでもです。』

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『は、はぁ…確かに。

では、その……何が仰りたいのでしょうか?』

高山が尋ねると、明石は一度チラッと扉の方を見た後で、小声でこう言った。

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『……人ではない何かの仕業…と言ったら笑われるでしょうか。

でも、その確認のために映像をお願いしたんです。

私も、医者ですから……どうしても納得いかんのですよ、この不可解な折れ方が。

この痣も…恐らく普通のものじゃない。』

『……………。』

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高山は、何も言えなかった。

本来なら全力で笑い飛ばしたい話だったが、心の何処かで【気のせい】として捉えていたものが引きずり出された気分になった。

…故に、否定が出来ないのだった。

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高山は返事の代わりに、監視カメラの映像が入ったUSBを明石へ手渡した。

あの映像を見て、明石は何と言うだろう…。

(ま、想像するまでもない……か。)

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明石は察したように黙って受け取り、焦るようにノートパソコンへと刺した。

この男もまた、徐々に日常の歯車が狂っていくことを、この時はまだ知る由もないのだったーーー。

○○○○○○○○○○○○○○○○

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music:4

2005年09月06日12:30ーーー

高山が明石と合流した同時刻、高山と同じく堀川精神医療病院に勤める永野浩輝(36)は、喫煙所でタバコを吹かしていた。

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高山とは同い年であり、同期でもある彼にとって、親友高山の今の境遇を不憫に感じていた。

(豊の奴……めんどーな事に巻き込まれなきゃいいけどなぁ。)

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A病棟で働く永野は、普段から高山と一緒にいるわけではない。

それでも、永野が今回の件を特別心配するのには理由があった。

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…それは3日前、たまたまA棟の1Fを歩いていた時のことだ。

入院手続きのために、池田総合病院の看護師や医師達に連れられ、松山千佳子がA棟を訪れていた。

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両腕を包帯でぐるぐるに巻かれ、フラフラと天井を見る老婆の様は、永野に【不気味】という印象を与えるには充分だった。

不気味といえど、ジロジロ見るのは失礼かと思い永野が目線をズラそうとした……その時。

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sound:21

視界の隅に、寒気がするほどの目線を感じる。

永野は直感で分かった。

『あの老婆が此方を見ている』と。

永野は目線を戻さず、そのまま立ち去ろうとした。

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shake

『…っ……!? え……?』

…だが、どういうわけか身体が言うことを聞かない。

鼓動が早くなるのを感じ、永野は本能的に【ヤバイ】と思った。

にも関わらず、どうにも老婆が気になって仕方ない。

この不可解な金縛りはあの老婆によるものなのか、確認せずにはいられなかった。

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…永野は、視線を老婆へとゆっくりと動かした。

shake

『…っ……!!?』

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永野の悪い予感は的中していた。

老婆は真っ直ぐ此方を向いている。

睨むわけでもなく、笑うわけでもなく、ただ真顔で永野をジ……と見ていたのだ。

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(な、なんなんだよっ……!!)

吸い込まれるように、永野は老婆から目線を外せなかった。

寒気はいつしか悪寒へと変わり、永野はこの日生まれて初めて、『人』に対して『人外的な恐怖』を味わった。

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sound:27

カシャ…

看護師の一人が、ボールペンらしきものを床へ落とした音が病院の廊下に響いた。

気づくと、身体は動くようになっている。

永野はもう一度、老婆を見た。

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『今の……気のせい…じゃなかったよな……?』

身体が重く感じるほど脱力したのが分かる。

永野は、自身の頬を一度ペシャリと叩き、その場を去った。

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……老婆は、何事も無かったかのように天井を見上げていたのだったーーー。

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ロビンM子様、怖い&コメントをいただきありがとうございます。
いえいえ、とんでもないですよ>_<
私なんて小説すら人生に5冊も読んだことないくらいの人間ですから…笑

もっと皆様の素晴らしいお話を読んで、文章力上げられたらって思います。
ただホラーは小さい頃からずっと好きなので、その経験を活かしてもっと怖い話が考えられたら……嬉しいんですけどね( ;´Д`)

また次回も宜しくお願い致します。
おやすみなさいませ……

鏡水花様、怖い&コメントをいただきありがとうございます。
その様な勿体無いお言葉、本当に嬉しいです^ ^
また数日後になると思いますが、楽しみにしていただけたらと思います。

どうぞ、宜しくお願い致します。

なんかズルい程の文章力でワクワクが止まらないのだが…今後の展開を予想しながら寝るとするよ!おやすみなさい…ぐう…

やはり、ドキドキヒヤヒヤと、今回も怖くて面白かったです(*^^*)
少しずつ始まった違和感、恐怖…又、次回も楽しみです♫
そして…
完結しましたら、改めて全話続けて読み直します!
これからも、この様な読み応えのある良作の投稿をお待ちしております(o^^o)
頑張って下さいね!
心より応援申し上げます╭( ・ㅂ・)و ̑̑