長編8
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さいこん〜増殖〜④

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music:4

2005年09月06日19:15ーーー

『……つまり、あなた方には【見えた】のですね…?』

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埼玉県警の刑事である小林は、高山と明石の事件報告に意外な反応を示した。

信じてもらえないことを覚悟の上で話した、昼間起こった老婆の死の詳細。

本人達でさえ、未だに信じられない惨事にも関わらず、この小林の反応はなんだ…?

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『…え、あの……信じてもらえるのですか……?』

高山は恐る恐る小林へ尋ねる。

だが、小林は一度『うーん…』とうなだれた後、頭をポリポリと掻きながらこう言った。

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『…いえ、今の段階で信じることは到底出来ません。…でも、看護師や他の医師達に聞いた聴取も、これまた不可解でしてねぇ。』

『……は、はぁ…不可解…と言いますと?』

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小林はまた一度『うーん。。』と考え、手元の手帳を見た。

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『まず、えーと…高山さんと明石さん、お二人以外の方々は皆口を揃えてこう言ってるんです。

『何も見ていません。』と…。

それは、事件当時あの二階の部屋の前を通ったという看護師も同様でした。

……こんなこと、あり得ますか?』

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小林の話に、高山達は耳を疑った。

…確かにあの時、誰一人としてあの惨事に気づいていなかった。

実際はそれが考えにくいことは二人にも分かっていたが、当時はそう思う他なかった。

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…だが、冷静に考えてみたらそれはあり得ない。

二階にはナースステーションがあり、病院の営業時間内は常に看護師達が行き交っている。

ましてやあれだけの惨事を…廊下で身体がねじ切れていく老婆を、誰も【気づかなかった】など……。。

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『…この話ね、続きがありまして……。』

小林は動揺する二人を横目に、手帳のページをめくった。

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『…松山千佳子さんの遺体を最初に発見した看護師の話では、遺体がふいに【現れた】と言ったんです。

長年この仕事やっていますが、彼女が嘘を言ってるようにも見えなくてねぇ……

でも、考えられますか?

廊下を歩いていて、何もない床にふいに老婆の遺体が現れるなんてこと……。

こんなこと初めてですよ、全く…。』

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『………………。』

高山は小林の話に返事をする余裕も無く、頭の中で事を整理させていた。

第一発見者の看護師が供述したという、ふと現れた老婆の遺体。

…そして、あの時二人同時に襲われた脳内に響くような耳鳴り…。

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感覚的ではあるが、高山達があの時感じた【決定されたかのような死】は、老婆がというよりは、老婆を包む空間そのものが呪われていたように感じる。

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(…あの時、あの部屋の空間は『この世』では無かった……?)

まるでそれは、老婆は『あの世』に引きずり込まれるようにして死んでいくようだった……。

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考えれば考えるほどに疑問は増殖し、思い出す度に吐き気が込み上げてくる。

『…まぁ、とりあえず……。』

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静まり返る二人をしばらく眺めていた小林が、沈黙を遮る。

小林にも分からないことだらけだったからこそ、この二人の沈黙が納得できた。

そもそも、落ち着くのも時間というのが必要だ。

……今はあまりにも、それが足りなかった。

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『…高山さん、明石さん、もしまた何か気づいた事があったら言って下さい。

ここに電話番号が載ってますから。』

そう言うと、小林はメモ帳の切れ端のような小さな紙を、二人へ手渡したのだったーーー。

○○○○○○○○○○○○○○○○

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2005年09月06日17:00ーーー

隣病院である池田総合病院で起きた、松山千佳子の惨劇。

当然、噂は直ぐに堀川精神医療病院にも伝わった。

その事件に高山が巻き込まれたと耳にした親友の永野は、正直仕事どころでは無かった。

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『…くそっ、嫌な予感に限って当たりやがる。』

何度かけても出ない高山の携帯。

…とはいえ今すぐ病院を抜け出す事も出来ず、永野は無性にイライラしていた。

事の詳細を知らない上、記憶に焼きついているあの【老婆】が関わっている。

永野に霊感の類がある訳では無かったが、あの老婆が普通ではない事を悟っていたが故に、永野の心配は募る。

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(……そ、そうだ。)

ふと永野は、受付のパソコンに老婆の『情報』があることに気づいた。

入院手続きをここでしているなら、何かしらあの老婆について知れるかもしれない。

……そう永野は思ったのだ。

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永野は受付の女性に一言言い、パソコンのマウスを手に取った。

(…あのババアの名前は……確か松山千佳子って言ったか。)

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永野は病院の入院者リストに検索をかけ、【松山千佳子】の名前を調べた。

……ところが、松山千佳子の名前を見つけ、それを選択した直後だった。

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ザザ……

(……なんだ?)

ザザ……ザ……

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画面にノイズが走り、段々とそれが全体を覆っていった。

画面の文字が徐々に歪な形に変化し、やがて全てが混ざるようにして画面を黒く塗り潰した。

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(…お、おいおい……なんだよこれ。。バグ……じゃねーよな?)

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……その時だ。

黒く塗り潰された画面の中央に、僅かにノイズが走ったかと思うと、パッと赤い目が此方を見たのだ。

赤く染まる目の瞳は、古臭いパソコンの画質では到底再現不可能な程に鮮明だった。

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shake

(…うぁああぁあぁっ!!!)

永野は叫んだ。

…いや、正確には叫べなかった。

叫んだはずの声は音もなく、空気となって吐き出された。

気づけば身体も硬直し、脳にはまたあの【耳鳴り】が響き渡っている。

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(……んだよっ!!)

永野は、画面の赤い目から視線をズラす事が出来ない。

……まるで、あの老婆に睨まれた時の感覚に似ていた。

だが、あの時とは違う。

威圧感、絶望感、様々な負の圧力が自分を包むのを感じる。

『老婆の時よりもヤバい』ことが、永野は嫌でも分かった。

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自分だけが時間を止められたかのように、視界の周りの世界は日常そのままだ。

受付の女性は何事もなく接客し、後ろの看護師は忙しそうに資料をまとめているのが目線の隅に映る。

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(…コ、コイツが……元凶なのか…?)

……そして、パソコンの電源が突然ブチっと切れると同時に、永野の視界は闇に覆われた。

○○○○○○○○○○○○○○○○

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music:2

2005年09月06日20:00ーーー

(……サッパリ分からんな。)

刑事の小林は、自身のメモ帳を睨みながら頭を掻いた。

この池田総合病院で起こった、今回の事件…

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目撃者、医師・看護師達による供述、現場検証、その全てにおいて謎であった。

松山千佳子の遺体は、色々調べないことには何とも言えないが、例え何者かによる外傷が見つかったとしても、それを果たして【人】が実行出来るものなのか疑問だ。

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小林は実際に目で見て思った。

腹部からねじ切れていたあの傷口は、刃物によるものではない。

本当に言葉通り、ねじれた事により裂けたものだった。

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そんな芸当を、人間がどうしたら誰にも気付かれずに実行できるのか。

営業中の、人通りが少なくないこの場所で……。

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『…刑事のくせに、人以外の何かを疑ってんのか?俺は…。馬鹿馬鹿しい。』

小林は、意地でも人による犯行の線を消すまいとした。

この事件にはトリックがあると、自身に強く言い聞かせた……。

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『小林さん、病院の監視カメラの映像がありましたぁ!』

警官の一人が、小林の元へテープを持ってきた。

監視カメラの映像に、もしかしたら手がかりがあるかもしれない。

これで、医師達の証言が一体どういう事だったのか分かる筈だ。

……そう、信じていた。

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ジーーーー……

監視カメラは、事件が起こったとされる13:00を示していた。

『……んん?この角度じゃ、例の部屋が辛うじて見えんなぁ。』

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カメラは、ちょうど事件のあった部屋の少し手前に取り付けられ、画面の左手前に部屋がくるような形で撮られていた。

だが、部屋は2階の廊下の隅にある。

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もし何者かがこの部屋に近づけば、必ずこのカメラに映り込む筈だ。

小林は注意深く、他の警官と共に映像を凝視した。

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shake

(……つっ…!?)

突然、キィーンと響く耳鳴りが小林を襲った。

今まで経験したことの無いような、脳に直接響くような重い耳鳴り。

……ふと、小林は高山達の供述を思い返した。

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(……脳に響くような耳鳴りがして、老婆が現れた……って言ってたな。)

小林はまさか…と思うものの、単なる偶然として処理した。

念のため身体が動くか手を握って確かめる。

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(…金縛り……なんて流石にして無いか。)

小林が、少しホッとした束の間だった。

画面奥に、異様な存在があることに気づく。

両手両足を包帯で巻かれ、引きずるように足を折り曲げながら歩く老婆。

…それは、間違い無くあの【松山千佳子】だった。

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『お、おい、これっ……!』

小林は他の警官へ異様な老婆の存在を確認しようと、ふり向こうとした……その時だった。

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shake

sound:18

『!!!!!?』

……動かない。

ふり向く筈の首も、さっきまで動いていた筈の指も、脳からの命令を拒絶する。

気づけば声すらも出なくなっていた。

それでも脳内では、重く深い耳鳴りが続いている……。

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(…くそっ、どうなってんだこれはっ。)

…それにしても、何かがおかしい。

これだけの存在感である不気味な老婆が画面手前に近づいてくるにも関わらず、誰一人としてそれを指摘しないのだ。

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(気付いていない…?

…いや、そんな筈が無い。)

徐々に焦りと不安が募る。

自分にしか消えていないかもしれないという恐怖心に、小林は酷く孤独を覚えた。

ドクドクと脈打つ心臓が、頭の後ろで感じる程に鼓動している。

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老婆はゆっくりと画面左下へ消えていく。

だが、その老婆のすぐ後ろに、薄気味悪い黒い影の存在があることに小林は気づいた。

(……な、なんだ?この影は…。)

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明らかに【人ではない何か】の影。

老婆が消えしばらくすると、老婆が消えていった画面左下からあの黒い影だけがゆっくりと姿を現した。

影は徐々に部屋を離れ、画面の中央に進んでいく……。

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(…ごくっ……。)

いつの間にか小林の額には点々とした汗が溜まり、やがてツー…っと頬を伝う。

影がちょうど廊下の中央付近に達すると、ソレはピタっと動きを止めた。

……そして、まるで一つの黒い塊のような影の一部から、二つの赤い光がゆっくりと現れたのだ。

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…小林は瞬時に気づいた。

(……こ、この影……よく見ると人の形をしてる……?

…だとすると、この赤いのは………!!)

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悪い予感は当たるものだ。

ただの赤い光だと思っていたものには、確かに黒い瞳が見える。

小林は初め、この影は老婆が死んだであろう部屋を見ているのかと思っていた。

…だが、自分の視界の全てが吸い込まれるような感覚に陥った小林は、ソレが老婆ではなく【自分】を見ていることに気付いてしまったのだ。

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……そして、画面とは反対である筈の小林の背後から、低い潰れたような声が囁いた。

『……お"ま"…え"…も"…っ……!』

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shake

『うわぁああぁあぁあっ!!!』

ガシャーーーーーン

小林は叫びながら、椅子ごと後ろへ倒れこんだ。

急に動くようになった身体が、突然の【声】に驚きひっくり返ってしまったのだ。

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当然、周りの警官達は驚きながら小林を覗き見た。

『…え、だ、大丈夫ですか!?小林さん。』

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何名かの警官に起こされ、『あぁ…。』と相槌を打つものの、小林の脳内ではハッキリと先程の声が木霊していた。

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定まらない視点にボヤける視界の原因が、倒れた衝撃なのか恐怖による動揺なのか…

小林は、とても冷静にはいられなかった。

小林は改めて、この惨劇には『人ではない何か』の存在が関わっていることがわかった。

……そして、自分にしか見えなかった死にゆく老婆と不気味な影。

自らも【関わってしまった】ことに、小林は言い様のない不安と後悔が募るのだったーーー。

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いいですね、続きが出次第カブリつかせて頂きます!w

魔衣子様、コメントをいただきありがとうございます。
ワクワクしていただいて光栄です^ ^
なかなかすぐの更新といかずに申し訳ありません。
本日、また更新致しますので宜しくお願い致します。

鏡水花様、コメント&怖いをいただき、ありがとうございます。

角川ホラー、私も昔はよく読んだものです。
あの頃は中学生でしたが、当時なりにホラーの面白さはとても大好きでしたね。

自分を本の中の情景に映して、ドキドキしながら読み進めるあの感覚。素晴らしいです^ ^

私もそんなお話を書けたらと思いますので、また宜しくお願い致します。

わくわくします(*☻-☻*)/ 続き待ってますね♪

NAOKI様
続き、出ていたのですね(・∀・)!

やっぱり…怖い〜(T□T)

連鎖…と、言うより、拡散されて行くのですね(>_<)

mamiさんのお言葉通り、角川ホラー文庫で出版されていてもおかしくないです!

取り敢えず、完結したら、まとめて読破したい作品です(*^^*)♫

mami様、コメント&怖いをいただき、ありがとうございます。
単行本も、ドラマも、映画も……
こうして作品を書いていると思いますが、世の脚本家の方々って夢のある仕事だと感じますね。
もし自分の作品がそんな風に形となったら、どれだけ嬉しいのでしょう……
まぁ、プレッシャーも凄そうですが>_<笑

mami様のお言葉、毎度本当に力になります。
これからもご贔屓に、お時間のある時で構いませんのでお付き合い下さいませ^ ^
宜しくお願い致します。

仲間様、コメント&怖いをいただき、ありがとうございます。
そんな、勿体無いお言葉とても嬉しいです。・゜・(ノД`)・゜・。
自分の作品を読み返す度、文章のレパートリーの無さに悲しくなりますよ…
なので、単行本なんて夢のまた夢ですから…>_<笑
でも、本当にありがとうございます。
そんな暖かい言葉を糧に、これからも頑張るので宜しくお願い致します。

コメントしたいと思っていた内容を、見事に仲間様がコメントされてました…

私は、携帯でチマチマと読んでいるので…小説として単行本で読みたい!と思いながら読んでおりました。
小説化してください。ドラマにして下さい。映画にして下さい(T^T)

時間ができたら、Naokiさんの過去の作品をパソコンで読もうと思っております。

本来なら、出版されて一つの作品として出ていてもおかしくない内容の物を無料読める
と言うのはうれしい限りですね。
内容的にはTV、そしてドラマと言うよりは、映画・・・
十分映画として公開されても良い位の面白さです。

はる様、コメント&怖いをいただき、ありがとうございます。
はる様……とても嬉しいです。・゜・(ノД`)・゜・。笑
正直、文才なんて全く無いですから…
他の方の怖話を読むと、毎度こういう表現の仕方もあるんだなぁ。と勉強させられています>_<
ですが、私なりにこれからもはる様を怖く楽しく出来るよう頑張りますので、これからも宜しくお願い致します^ ^

裂久夜様、コメント&怖いをいただき、ありがとうございます。
まだまだ序盤ですので、これからゾクゾクできる部分を沢山作っていきたいと思っています^ ^
楽しみにしてくだされば幸いです。
宜しくお願い致します。

いやいや〜久々にチビリそうになりました(>_<) 心臓バクバクしてます(/ _ ; ) 本当に素晴らしいです。 NAOKI様の文才に拍手喝采です。 次回も怖楽しみにお待ちしております。 お仕事が忙しい中ありがとうございます。 お身体ご自愛くださいませ( ´ ▽ ` )ノ

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