中編4
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兄達の協力・4

「君が誰かを連れて来るなんて珍しいね。友達かい?道理で私との付き合いが悪い訳だ。全く寂しいものだね。」

そう言って目の前の老人ーーーーー縁さんはクツクツと笑った。彼は俺をからかっては笑うことが大好きなのだ。

反論すれば更にからかわれるのが分かっている。俺は何も応えず後ろに居た木葉を前に押し出した。

「なんだ黙りか。詰まらないな・・・・・・君、名前は?さっき其処の少年が呼んでいたけれど、改めて挨拶しよう。私は縁と言う。」

ターゲットが木葉に移った。

「こんにちは。僕は木葉って言います。」

赤の他人、特に大人に対する時の木葉は、普段よりずっと大人びて見える。そういう風に育てられて来たからだろう。

「このは?木の葉っぱって意味の?」

「はい。平仮名の《の》は入りませんが。」

「其れは名字かな?其れとも名前?」

「名前です。」

縁さんの目がそっと細められる。何か失礼なことを言い出すのでは、とヒヤヒヤした。

木葉は、ちょっとした冗談でも皮肉や侮蔑の言葉として受け取ってしまう。賛辞の言葉でさえ、場合に依ってはそうなる。此れもやはり、幼い頃から置かれていた環境に適応した物なのだろう。

だからこそ、子供の道理に疎いのだ。

「そうか、良い名だ。私の友人にも、似たような字面の奴が居るよ。名字は名乗りたくないかな?」

「非礼は重々承知しています。が・・・出来ることならば。」

「堅いね。もう少し肩の力を抜きなよ。そんな緊張しなくていい。私は其処らの偏屈ジジイどもとは違うからね。何せ、心はまだ二十代だから。」

ポスッ、と木葉の肩に縁さんの左手が置かれた。

木葉は軽く動揺したらしかったが、特に嫌がる様子でもない。

「私も君位の年の頃は、自分の名前を名乗るのが気恥ずかしかったものだ。」

「・・・・・・はい。では、御言葉に甘えてそうさせて頂きます。御心遣い、感謝致します。」

全く肩の力が抜けていない返答だ。縁さんは微かに苦笑した。

「因みに、私の名字は□□と言う。」

「・・・□□?」

木葉の首が俺と縁さんの方に交互に向けられる。そして、ゆっくりとした瞬きを数回。

「もしかして、真白君の御親族なんですか?」

「嗚呼、そうらしいね。」

質問の答え方に違和感を覚えたのだろう。木葉は肩を竦めた縁さんを見ながら、言葉尻をそのまま返した。

「そうらしい?」

縁さんは名に食わぬ顔で答える。

「どうやら彼は、私の孫に当たる人物のようだ。しかしね・・・・・・。」

そして其処で一旦言葉を切り、何処か得意気な顔でフン、と鼻を鳴らした。

「さっきも言ったが、私の心はまだ二十代なのだよ。孫どころか子供すら知らないのさ。」

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~~~

去年の冬、昼寝をしていた祖父が目を覚ますと、二十代の青年になっていた。

・・・・・・只し、心のみ。

痴呆症の老人が子供返りした、なんて話はよく聞くものだが、青年返りとは此れ如何にである。

第一発見者の俺は酷く困惑したものだった。

当たり前だ。つい昨日まで《ちょっとボケてるけど優しい俺の爺ちゃん》だった人物が、昼寝から起きた途端に

「・・・おや?少年、君は誰だ。どうして私の部屋にいる?見ず知らずの人間の家に上がり込むなんて、あまり行儀の良いことじゃあないな。」

等と言い出したのだから。

驚かない方が逆に可笑しい。

俺は慌てて父の職場に連絡を入れ、呑気に漫画を読んでいた兄貴に蹴りを入れた。

「何すんだ死ね!!」

「うっせー!!とうとう爺ちゃんが壊れたんだよお前が死ね!!」

其の時、ドテッという低い落下音が聞こえた。慌てて祖父の部屋に戻る。

襖を開けると、祖父は頻りに自分の顔や手を触っていた。

「少年、此れはどういうことだ?君が何かしたのか?質の悪い悪戯だ。そうだろう?」

どうやら自分の皺に驚いているらしかった。

祖父が此方に視線を向けた。

困惑とも絶望とも付かない、兎も角物凄い顔で此方を見ていた。

俺は黙って首を横に振る。

祖父の表情が更に歪んだ。

「・・・だとしたら、わ、私は、一体何十年眠りこけていたんだ?」

俺は応えた。

「あんたは俺の祖父で、俺はあんたの孫。因みに、あんたはずっと寝てたんじゃなくて、昼寝から起きただけだ。」

祖父の目が丸く見開かれる。

「昼寝をしていた間に、私の記憶が飛んだ・・・そう、言いたいのかい?」

「そうだ。」

「有り得ない。」

「俺は嘘なんて吐いてないよ。そんなことしても、良いこと無いだろ。庭や家の中だって少なからず違ってる筈だ。」

「其れはそうだが・・・・・・」

言い淀みながらも、身体の震えが酷い祖父。動揺しているのだろう。無理もない。

其れでも、しっかと目を開き、顔を上げた。ゆっくりと右手を差し出す。

「・・・悪いが、まだ君を孫としては見られない。けれど、此れから色々と助けて貰わなければならなそうだ。是非協力を御願いしたい。・・・私のことは、縁と呼んでくれ。」

Concrete
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沙羅さんへ
コメントありがとうございます。

此方こそ、何時もお付き合い頂き有り難う御座います。

名前、決定致しましたよー。
他のメンバーは後々必要になったらどうにかします。突然の御願いで困らせてしまってごめんなさい。

長い人生が一気に縮まる感触って、どんな風なのでしょうね。そう考えるとどうにもゾッとしてしまいます。

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YUKA Hosakaさんへ
コメントありがとうございます。

素敵なアイデア誠に有り難う御座いました。
他に応募もなさそうですし、貴女の考えてくださった名前を採用させて頂こうと思います。

以後
木葉さんのフルネームは《風舞 木葉》
烏瓜さんのフルネームは《猿楽 真白》
となります。皆様どうぞ宜しくお願い申し上げます。

※因みに《猿 真白》の場合、木葉さんから烏瓜さんへの蔑称である《猿》が只の名字呼び捨てとなってしまい、非常に紛らわしいので此方を選ばせて頂きました。悪しからず。

ハートはピチピチでも身体はシワシワですよ。

今年は日によって気温の変化が激しいので、喉の風邪が長引いて往生しています。どうぞそちらも御体に気を付けて。

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mamiさんへ
コメントありがとうございます。

僕も昼寝して起きたら爺というのは嫌ですね。かと言って数十年も若くなると消えちゃうんですけどね(笑)

兄達の仲の良さには本当に僕としてはコレジャナイ感が半端じゃないです。烏瓜さん、多分話を盛ってますよ。あの猿兄があんなに頼れる筈が無い。

僕もセンスは無いですよ。・・・とっくの昔に露呈していることですが。
真白さんは名前ですよ。勘違いさせてしまって申し訳ございません・・・名字が無いとこういう所が不便なんですよね(笑)

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忙しい中でのUPありがとうございます(*^^*)

ネーミング・・・センスないので辞退を^^;
私も他の方の名付けを楽しみにします♪

私も心だけは《19のままさ》と言っては、友人に引っ叩かれますが・・
記憶が数十年分吹っ飛んでの今の年齢になっていたら・・恐ろしいです。

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身体(顔のシワ含む)が若くなるのなら、嬉しい限りですが、逆はショックしかない…
木葉さんを思いやる烏瓜さん…好感度あがりまくりです。

お名前の募集…『ここは是非とも!あの《初めてのおつかい》に続けるよう、貢献したい!!!』と思う気持ちは高いのですが…如何せん、能力がない…ネーミングセンスもない…
ほかの方々の募集を、楽しむ側に回らせてもらいます。
因みに…真白さんって、苗字ではなかったのですね…

お忙しいなか、続編ありがとうございます。

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