中編6
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愛を求めた末に in大阪

その日、俺はキャバ嬢や風俗嬢達が大半を占めるレディースマンション302号室の前にいた。

チャイムを鳴らしノックをしたが応答がない。仕方なく合い鍵を使ってドアを開けた。

足元にはハイヒールやブーツが所狭しと脱ぎ捨てられている。廊下にも玄関同様、ゴミや服などが無造作に脱ぎ捨てられており、ゴミ屋敷とまではいかないがとても女の一人暮らしとは思えない程の有り様だ。

「おーい亜希子!あがるぞ?!」

向かいのリビングには電気が点いており、微かにだがテレビの音が漏れている。見渡すと廊下同様この部屋にも物が溢れていた。越して来てから一度も掃除をしていないのは一目瞭然である。

そして、テーブルの横にシングルの布団が敷いてあり、そこに横たわっていた。

掛け布団もかけず、パジャマ姿のままの亜希子…

目は見開いたまま。口も僅かに開いていた。

そして今でも忘れられない、黄緑色の顔をしていた。一目で死んでいると分かった。

俺は部屋を飛び出しすぐさま警察に連絡を入れた。

第一発見者の俺は、被疑者として当然警察署に連れていかれた。

一階の長椅子で3時間程待たされた後、刑事に「今日は帰っていい!遺体を解剖してから後日事情を聞く事になるだろう…逃げるなよ!」とキツく言われ、警察署を後にした。

署を出た直後、左手首に巻いていた数珠が何の前触れも無く突然千切れた。悪寒が走った俺はその足で高◯山へと向かった…

思えば2日前の夕方に俺は亜希子と電話で話している。それは家賃の支払いの件でである。

いつもは毎月末に亜希子本人が店まで金を持って来るのだが、体調が悪いので今回だけマンションまで取りに来て欲しいとの事だった。

つまり死んだとすれば、金曜日の夕方から日曜日の昼にかけての筈だ。

俺は高◯山で5千円を支払い、亜希子の為に読経をあげてもらった。戒名は分からないので本名でだ。

帰りの車中で店のスタッフから電話が鳴った。店の自動ドアが急に何の前触れも無くヒビ割れてしまったと騒いでいる。防犯用の針金入りの強化ガラスが突然割れたというのだ。

そしてそれからの数日間、俺の周りで度々奇妙な現象が続いた。テーブルの上のグラスが勝手に倒れたり、突然ブレーカーが降りたり、呻き声を聞いたと言う女の子も何人かいた。

彼女はまだ成仏していないと思った。

亜希子がうちの店に面接に来たのは今から7年も前になる。

当時22歳の彼女は地方から大阪にやって来てOLをしていた。だが、彼氏も無く寂しい毎日が続く中、ついついノリで始めたホストクラブにハマってしまった。

そしてその店ナンバー2のジュンに貢ぎ始めたのだ。

彼の誕生日には10万もするシャンパンを卸したり、彼に振り向いてもらう為には惜しみなく金を使った。

そして言われるがまま店に足を運んだ結果、2年かけて貢いだ額は家を1軒買える程のものだった。

幸い彼女の実家はかなり裕福だった為、借金の半分は無理をいって都合して貰えたのだが、残りの半分がどうにも都合がつかず、困りに困った末にうちの店に面接に来たというお決まりのパターンだった。

すでにその頃会社は辞めており、家も家賃滞納で追いだされそうだと涙ながらに訴えてきた亜希子を俺は雇う事にした。住まいはうちが所有するレディースマンションに住まわせた。

それからの彼女は殆ど休み無しで働いた。器量はそこそこだがサービスが抜群だった彼女。次第に彼女目当ての客も増えて行き、半年で店のナンバーワンにまで登り詰めていた。

風俗嬢というのは大変な仕事である。

大概の女の子は身も心もボロボロになっていき、最後には飛んでしまう例も少なくはない。

半年前から比べて明らかに痩せてしまっている亜希子に休みを取れと言っても、「大丈夫です!借金を返すまでは頑張ります!」と言って聞かなかった。

だが厄介な事に亜希子はその時もまだ、時々ジュンと会っていたのだ。

さすがにジュンの店までには行かなかったらしいが、会う度に食事代や服、小遣いなども与えている様だった。これでは幾ら頑張って働いても1千万以上ある借金が返せる筈もない。

ジュンという男はこの界隈では中々有名で、彼にボロボロにされた女は両手ではきかない。やり口が汚いと同業者からの怨みも数多く買っている様だが、まぁそれぐらいしないとナンバー2にまでは登り積められないのだろう。

亜希子は結局、1年程働いてうちの店を辞めた。稼ぎのいいソー◯ランドに行くというのが理由だった。

俺はそれを止めなかった。

住む場所が見つかるまでは、今のマンションに住まして下さい!と頼まれたのでそれも心良く快諾した。理由は今まで本当に頑張ってくれた亜希子を信用していたからだ。

あれから1年、

まさかこんな事になるなんて。

1週間後、担当の刑事から連絡があり、警察署で亜希子の解剖結果を聞いた。

詳しい病名までは教えてくれなかったが、外傷は無く、直接の死因は肺に水が溜まった事による病死だと刑事は言った。

俺は今までの経緯を話し、約3時間程の簡単な調書だけで帰る事ができた。しかし最後に刑事が俺に言った言葉が引っかかった。

死後3日以上

そんな筈はないのだ。

先にも書いた通り俺は2日前に亜希子と電話で話しており、着信履歴にもその記録が残されている。つまり亜希子は3日前にはまだ生きていた筈なのだ。だが俺はその事を刑事には話さなかった。

偶然、彼女の両親も署に来られていたが、母親の方が酷く取り乱していた。

その後、亜希子は大阪で火葬されて骨だけが故郷へと帰っていった。

数日後、店で亜希子と仲が良かった美海と話をしているとこんな事を言いだした。

亜希子がうちの店を辞めてからも友達関係は続いており、友達の少ない亜希子は相談事でも何でも美海に話していたのだという。

勿論ジュンの話も…

ソー◯で働き出してからもジュンとの仲はまだ続いており、実質、前以上に貢がされていたという。

美海は友達として彼は諦めろと何度も助言したのだが、「ジュンがあと2年したら結婚してくれるって言ってくれたの!」と、言って全く聞く耳を持たなかったそうだ。

借金は減る所か、更にその額は膨らんでいたという。

俺はその話を聞いて流石に怒りがこみ上げてきた。

「ホストって奴はどこまで追い詰めたら気が済むんじゃ!!」

テーブルをドンと叩いた。

甘い言葉を餌にトコトンまでしゃぶり尽くす! 多分ソー◯に転職させたのも他ならぬこのジュンだろう。

金払いが悪くなってきた亜希子を上手く説得して働かせたに違いないんだ。

実際、「ホスト」「風俗」「闇金」は裏で繋がっている場合が多く、亜希子は正に「カモ」として利用されていたとしか思えない。

後に亜希子の父親がジュンの存在を知り、居場所を突き止め詰め寄った所、「結婚する気など初めから無かった」と言って開き直っていたという。

俺はこの際、この野郎を詰めてやろうかとも考えたが、そんな事をしてももう亜希子が帰ってくる事はない。それに俺自身もこの辺で商売がしにくくなるだけだ。

それに悲しいが、ジュンにそれが「仕事」だと言われれば、俺には返す言葉がないのである。

警察が遺体を運び出す際に亜希子の財布を調べた所、所持金はたったの千円札1枚だったらしい。

俺はそれを聞いて涙が出た。

お前は何の為に必死で頑張ってたんだよ…

亜希子が亡くなった部屋は、入る度に体を壊して辞めてしまう女の子が相次いだため、その部屋は会社の倉庫として使う事になった。

俺は亜希子の1周忌と3周忌に、美海と共に彼女の実家近くにある墓まで手を合わせに行った。

3周忌が終わった数日後、亜希子がふと俺の夢に出てきた。

彼女は無表情であったが、ジッと俺の目を見つめてきた。

妙にリアルな夢で本当に彼女がそこに居る様だった。

俺は

「おい亜季子!俺は1周忌も3周忌も手を合わせた! もう俺の前には現れんな、お前は早く行くべき所に行くんだ!」と、少々キツい事を言った。

すると、亜希子は何も言わずにスウウと消えていった。

暫く後、うちの店のスタッフが街でフラフラと歩くジュンを見かけたらしい。その顔は病的にゲッソリとやつれており、とても本人だとは思えないほどに変わり果てていたという。

話しかけるか少し迷ったが、ジュンのすぐ後ろを歩く女性を見て止めたそうだ。その女性は、生前の亜希子に本当に良く似ていたらしい。

俺は早く天国に行けと言ったつもりだったのだが…

どうやら亜希子は死して尚も、愛する男の傍に居たい様である。

【了】

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やるせない想いでいっぱいになりました(/ _ ; )
淋しくて…純粋だっただけに、嘘か真か考えるまでもなく、ジュンの言葉を信じてしまったのでしょうね(T_T)

仕事だと言われればそうなのかもしれないけれど…

やっぱりジュンみたいな奴は、女の敵です( ̄ε ̄#)

小夜子氏、この話は実際に起こった体験談を元に作らせて貰ったんだ。亜希子を発見した本人は、硫化水素ガス自殺の線を疑っていたよ、脚色は殆どしてないので関係者が読んだらバレちまうかも知れないな…ひひ…

ロビンM子さま。初めまして。
リアリティー溢れるストーリーに引き込まれ、一気に読ませてもらいました。
悲しい女の性(さが)と地獄を知りつくした男の乾いた愛情。絶妙なハーモニー。
流石です。