長編8
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さいこん〜侵食〜⑤

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music:4

2005年09月06日21:00ーーー

『…はぁ……。。』

堀川精神医療病院に勤める看護師の丸崎由美子は、周りの乗客にも聞こえるほどの大きな溜息をつきながら帰路の電車に揺られていた。

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自分が昨晩助けた筈の老婆が、運ばれた先の病院で謎の死を遂げたと聞き、流石の由美子も気落ちしていたのだ。

(……何だかなぁ…。。)

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自分が落ち込むことでは無いと自身に言い聞かせても、すぐに切り替えることはできなかった。

…自らも既に【関わってしまっている】ことに、この時の由美子には想像すら付かなかったのだった……。

○○○○○○○○○○○○○○○○

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music:7

ガチャ…

相変わらず荒れ果てた自身の部屋に帰宅した由美子は、珍しくお風呂に湯を張った。

精神的にすっかり自分が疲労していることを自覚していただけに、たまにはゆっくりお湯に浸かろうと思い立ったのだ。

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『ふぅー…。』

久々の湯船。

いつもなら、浸かればスーっと抜けていく筈の肩の重みが、今日はどうも軽くならない。

由美子は何度か首を左右に振って骨を鳴らし、妙にこびりつく肩の重みを誤魔化した。

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(…やっぱ、精神病院なんて私には荷が重いのかな……。)

いつもは比較的ポジティブな由美子も、ここ二日続けての『老婆』の事件は、流石にこたえていたのだった。

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music:7

ザーーーー……

蛇口をひねり、固定したシャワーを頭に被る。

髪から額を抜け、鼻先を通って落ちていく水の行方を、由美子は俯きながら眺めていた。

足元の排水口へと落ちていく水は、時折ゴボゴボと音を立てて配管を流れていく……。

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sound:21

『……えっ…?』

…ふと、由美子は妙なものに気づいた。

(…い、今……排水口の中で何かが動いたような……?)

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普通ではあり得ない事だけに、最初由美子は水が落ちていく様がたまたま違って見えたのだと、そう思った。

…だが、どうしても排水口が気になってしまう…。

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何も無いことが分かっているにも関わらず、由美子はシャワーを止めずに排水口へと顔を近づけてしまった。

shake

『……っ………!?』

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……そこには、おぞましい程に充血した真っ赤な【目】が覗いていたのだ。

排水口の下から、大きく見開いた赤い目は、ギョロギョロと周りを見渡すように蠢いている。

それはやがて、由美子の目線を捉え、ピタっと動きを止めた。

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パニックに陥る脳の奥底から、またあの重い【耳鳴り】が鳴り始める…。

(…何……これ…?に、逃げなきゃ……!!)

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……が、あまりの恐怖に身体に力が入らない。

いや、気づけば全身すべての筋肉が言うことを聞かないのだ。

それは自身の目線すらも例外ではなく、由美子は排水口の下から覗く赤い目から、目を背けることができなかった。

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流れ出るシャワーの水は、相変わらず由美子の頭を捉え、【目】のある排水口へと流れ落ちる。

……その時だ。

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sound:26

バンッバンッ!!!!

shake

『…ひっ!!!!?』

由美子の背後にある扉が、物凄い勢いで叩かれたのだ。

そのあまりの衝撃音に、心臓が一瞬止まったような錯覚に陥った。

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バクバクと鼓動が跳ね上がる。

排水口から覗く目、背後の扉を叩く『何か』。

その非現実的な現実を、深く考えることさえ由美子は恐ろしかった。

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ドク…

ドク………

心臓の鼓動が、まるで時を刻む指針のように、時間の経過を感じさせる。

由美子は徐々に意識を保つのが難しくなっていった…。

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『……あ…れ………?』

…だがハッと気づくと、先程までそこにあった筈の排水口の目は消え、耳鳴りもすっかり止んでいる。

身体も、目線も、どうやらもう動くようだ……。

由美子は混乱しながらも、ホッとして肩を撫で下ろした。

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(……何だったの…今のは……?)

そして、由美子は背後の扉へ視界を移した。

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『!!!!!!?』

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半透明に曇る浴室の扉には、ベットリと赤黒い手形が複数こびり付いていたのだ。

由美子は、経験したことのない恐怖の連鎖に全身をガタガタと震わせた。

(…嘘でしょ……!?

ど、どうしてこんなことがっ…?!)

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……何かが最近狂っている。

由美子は自覚さえなかったものの、心の何処かでそう感じていた。

それは紛れもなく、あの『老婆』の一件からだ。

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(もしかしたら、昨日の夜の【耳鳴り】も関係があったんじゃ…?)

今まで気にしなかった出来事も、恐怖によって時に不安へと変貌する。

由美子は扉の不気味な手形を見つめながら、呆然と浴室の床に座り込むのだったーーー。

○○○○○○○○○○○○○○○○

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music:3

2005年09月07日10:00ーーー

ダンッ!!!

shake

『……っ……!!?』

高山と明石は突然開かれた扉の音に、ビクっ!!と同時に肩を上げた。

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二人が扉に目線を向けると、昨日見た時とは違い明らかに顔色の悪い小林の姿がそこにあった。

二人は一瞬何事かと驚いたが、小林の顔色を見てすぐに感づいた。

……『何かがあった』、ということを…。

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『高山さん、明石さん、少しお話宜しいでしょうか……?』

小林の額には、病院の涼しい環境とは場違いな程の汗が滲んでいた。

二人は小林のそんな姿に、返事を忘れたまま無言でコクリと頷いた。

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…そして、小林は昨晩体験した奇妙な監視カメラの話を二人へ話したのだった。

○○○○○○○○○○○○○○○○

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『…そ、そんなことが………!!?』

高山と明石は、小林の話を聞いて心底驚愕した。

何故なら、二人はこの『呪い』を『老婆』のせいだと思っていたからだ。

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老婆に関わったことにより呪われ、そしてあの断末魔を【自分達だけが見た】のだと……。

…だが、『そんな単純なものではない』可能性が出てきてしまった。

そうなると、更に恐ろしいことが二人の脳をよぎる。

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(…も、もしかしたら…【呪われた人】はまだ他にもいる………?)

小林の話は、呪われた老婆をたまたま担当し、不運にもその呪いに巻き込まれてしまった二人の男の不幸話……

だけでは済まなかったということを、残酷にも意味していた。

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『あの、これを見てもらえますか……?』

ふと、小林は二人に一枚の写真を各々へ渡す。

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sound:21

『これは…!?』

写真は、どうやら監視カメラの一部を画像化したものであった。

だが、明らかにそれは普通のものではなかった。

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…画面中央に映る、おぞましい黒い影と赤い目。

それは、高山と明石が昨日の昼に監視カメラ映像で見た、【あの影】に酷似していたのだ。

『そこに映ってる黒い影……お二人にも見えますか?』

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小林は、深刻な表情を浮かべながら尋ねた。

何故『見えますか?』と尋ねたのか…高山と明石はすぐに理解した。

…それが、本当は見えてはいけないものだということを……

黙り込む二人を見て、小林はふぅー…と大きく息を吐いた。

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『やはり…見えるのですね。

お察しだとは思いますが、私の部下達に尋ねても、皆口を揃えて写真の中央には【何もいない】と答えました。

…これが、どういう意味を持つのか。

私も長年刑事をやっている身でこんなことを言いたくないですが……。』

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『…私たちは、不運にも呪われてしまった。…ということでしょう……。』

高山が答えた回答に、小林は力なくコクリと小さく頷いた。

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だが、まだ確認しないといけないことがある。

それは【呪い】がどれだけ連鎖しているか、だ。

他にもいる可能性がある以上、その人を放っておくわけにもいかない。

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『…私は、ウチの院長の堀川に言って病院内を調べてみます。

明石先生、あなたはこの病院内の人間を調べてもらえますか?』

『…わかりました。』

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いつまでも、こんな所で寝ているわけにはいかなかった。

(……情報が必要だ。

このクソったれな呪いを解くための、あらゆる情報が…!!)

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…だが、三人はまだ知らずにいた。

身体を蝕む呪いの侵食は、既にゆっくりと始まっているということに…。。

○○○○○○○○○○○○○○○○

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music:2

2005年09月07日16:00ーーー

堀川精神医療病院へ帰還した高山は、事情を院長の堀川へ説明し、今高山自身が体験している【現象】を同じく体験している人間を捜し始めた。

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帰宅する医師、看護師を捕まえては、高山は【耳鳴り】【黒い影】【赤い目】をここ最近感じたり見たりしたかを尋ねて回った。

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……空がすっかり闇を迎え、病院の営業時間を過ぎる。

おおよその人間が帰宅し、誰も高山と同じ体験をしているものはいなかった。

(やっぱり気にし過ぎだった……か?)

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ようやく気持ちに余裕を取り戻し始めた……その時だった。

『おーー、豊じゃねぇか!!

話は聞いたよ、大丈夫だったんか!?』

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背後から聞こえる、必要以上に大きな聞き覚えのある声。

振り向かなくても分かる、永野だ。

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『あ、ああ!なんとか…な。

それより、お前こそどうしたんだよ?

確かシフト表じゃ、今日は昼過ぎには終わってるはずだろ?』

『あぁ……まぁ…な。』

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急に永野は頭をポリポリ掻きながら、恥ずかしそうに苦笑いを浮かべた。

『い、いやぁー実はよ…今まで病院のベッドで寝てたんだよ。

なんか、昼間急に倒れちまって…さ。』

『はぁ?普段風邪すら引かないお前がか?

……大丈夫なのかよ…?』

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永野の意外な言葉に、高山は心から驚いた。

永野浩輝と言えば、イコール健康で結びつけても違和感がない程の健康人間だ。

風邪なら未だしも、倒れるなんて……。

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永野は、周りを軽くキョロキョロと見てから、高山の肩に手を回して小声で尋ねた。

『なぁ……お前が担当してたあのババア。…あいつは何かヤバイ気がすんだよ。』

『……えっ…!?』

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何故、永野が松山千佳子を知っているんだ…?

いや、そもそも何故ヤバイことを知っている??

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高山は焦った。

脳裏に嫌な予感がよぎる。

病棟も違い、絶対に関わっていないと思っていた永野が、あの【老婆】のことを何故……。

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『…実は、信じてくれないかもしれないけどよ……。』

永野がそう言い始めた瞬間、高山は焦りのあまり尋ねてしまった。

『ま、まさか……赤い目とか見てない…よな……?』

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一瞬で空気が凍るのが分かった。

高山の質問に大きく目を開き、隠しきれていない永野の驚いた表情は、有無も言わさず『見た』ことを物語っている。

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…いてしまった。

呪われた三人の他にももう一人、【巻き込まれていた】人間が。

ましてやそれは、高山の唯一といっていい程の大事な親友だった。

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高山は下唇を噛み締め、この男に接点をもった【老婆】を憎んだ。

静まり返る病院の夜には、外から聞こえる虫の音だけが心地良く流れているのだったーーー。

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mami様、コメント&怖いをいただき、ありがとうございます。

とんでもないですよ>_<
単行本どころか、私なんてただ怖いもの好きなど素人ですから。。
怖話を書こうと思ったキッカケも、こんな映画やゲームが出たらいいなぁ…なんて軽い気持ちからでしたから( ´ ▽ ` )笑

それでも、こうして喜んでいただけると嬉しいです^ ^
単行本なんていうのは夢ですが、これからも楽しく怖い作品を書けるよう頑張ります。
宜しくお願い致します。

火の玉様、コメントをいただきありがとうございます。
スリルのある文章を作るのはなかなか難しいですね>_<
でも、これからもっと怖くしていく予定なので、是非楽しみにしていただければと思います。

宜しくお願い致します^ ^

鏡水花様、コメント&怖いをいただき、ありがとうございます。

そう言っていただけるととても嬉しいです^ ^
本当なら、内容は頭にそこそこ浮かんでいるので更新出来るのですが、私は携帯でポチポチ書いているのでなかなか時間が取れず…。(._.)

また早めに投稿できるよう頑張るので、是非読んであげてください。
宜しくお願い致します>_<

やはり…すごい。
どうして、こんなに話しに引き込まれてしまうのか…
そして…嬉しい限りではありますが、こんなにすごいストーリーをいくつもかけるNaokiさんは無料のネットに投稿しているのだろう…と。
単行本など、出版される時は、必ず教えてくださいね。
続きも楽しみにしています。

スリリングな描写にドキドキ 汗

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