長編8
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変わったあの子…

私が保育園に通っていた頃の話です。

私の育ったところは、とても自然に溢れたところでした。

そんな山奥の田舎の保育園は、園児ももちろん少なく、

年齢ごとに組は分かれていますが、お弁当の時以外は、常に、年や組に関係無く、園児全員で一緒にしていました。

おませな子、シャイな男の子、泣き虫なこ、ひょうきんな子…、

それぞれではありますが、みんながお友達、といった感じの保育園。

ただ、1人だけ…、

とてつも無く、意地悪な女の子がいました。

さっきまで一緒に遊んでいたのに、コソコソっともう1人の子に耳打ちしたかと思うと、私の頭に砂場の砂を、

ザーッ、

と、かぶせてもう1人の子にも同じことをしろと強要したり、

プールの時間、

水の中で、手をついて足だけ浮かせて前進する『ワニさん泳ぎ』をしている男の子の足を引っ張ってみたり、

整列してる時に、前にいる子の背中をチクッとつねり、痛さに振り向いたその子が先生に怒られるのを見て笑ったり、

お弁当の中に、小さくちぎった粘土を投げて来たり…。

思い出すと、顔が思わず歪んでしまいそうな意地悪を、誰と特定無く、する様な子でした。

みんなで育てた花壇の花の上を、先生が見てないうちに、踏んで、引っこ抜いてたこともありました。

先生が何度、注意してもイタズラをやめず、意地悪も止まない。

次第に、誰も彼女に構わない様になりました。

つねる様なイタズラは、すぐ先生に報告され、

その子は、整列の時は、先生と手をつないで立つことになりました。

誰も彼女に、自分から構ったりしなくなり、

彼女が声をかけたり、からかってみたりしても、

あっち行こうと避けられる様になりました。私も、彼女には痣が出来ほどの怪我をさせられたりしていたので、彼女を避けていました。

そんな事がしばらく続いていたある日…

園庭遊びの時間が終わり、片付けをして、教室へ戻ろうとしていた時、

その子が、フラッと…、

保育園に隣接している、お稲荷さんの鳥居をくぐろうとしているのを見かけた私は、

さすがに声をかけ、

『ダメだよ。また、先生に叱られるよ?』と言いました。

そのお稲荷さんは、園庭のすぐ横にあり、

入り口のあたりまでを園庭とお稲荷さんの敷地を分けるためのフェンスが張られてるだけで、誰でも園庭からお稲荷さんに入れるものの、

先生にも親にも、

『入ったら絶対ダメ!』ときつくいわれていましたので、園児は誰もそこに足を踏み入れたりはしないのです。

先生もまだ外にいてましたが、どうやら遊び道具の入れてある倉庫に入って、片付けをしている様でした。

『ダメだよ、先生に見られないうちに出ておいでよ。』と、私は言いましたが、

その子はまっすぐ、お稲荷さんのお社に向かって歩いて行きました。

私は、その様子を、ヒヤヒヤしながら見ていました。

幼い私には、大人が怒る、少し薄気味悪いお稲荷さんのお社は、入ってはいけない怖い神様のお家と言う思いがあったのも手伝い、どうして良いのやら、見ているしかありませんでした。

お社は、見た目にも古く、かなり前からそこに鎮座していることがわかりました。

その子は、お社の前に行くと、しばらくその場で、お供え物を見たり、お賽銭箱を覗いて見たりしていましたが、

ぐるりと小さなお社の周りを一周しました。

そして、

一周して戻って来た彼女は、お供え用の台の上によじ登り、

閉じてあったお社の小さな扉を開き、

何やら中身を物色し始めたのです。

私は、その場で足踏みをしながら、

『ダメ!ダメ!ダメ!』と言い続けましたが、怖くて小さな声しか出なくて、

その間も、彼女はやめようとはせず、お社の中身を物色するのに夢中になって、樒やお供え物はガタガタ、ボサボサとあちらこちらに倒れてしまいました。

お稲荷様のお飾りがグラっと傾き、

あっ!と私が大きな声を上げた瞬間、

ガシャーン!と…、

落ちたお稲荷様のお飾りにしては、

大きく派手な音が園庭に鳴り響きました。

私がやっと上げた、あっ!と言う大きな声と、

ガシャーン!と言う音に、ようやく倉庫にいた先生が慌てて飛び出して来ました。

園庭で、アワアワしながら、半泣きで足踏みしている私を見つけ、

『どしたの?!』と駆け寄って来た先生は、フイッと顔を上げ、お社に目を向けました。

先生の顔は、見てる間に変わり、

目は大きく広がって、口も、アゴが抜けるのでは思う位、大きく広がって、

真っ青になったかと思うと、

すごい勢いでお社に走って行きながら、私に、

『他の先生、呼んどいでッ!!』と言いました。

早く!と…。

私は、必死になって園舎に走って行きました。

入ってすぐのところに、園長室があったので、勢い良く扉を開け、

『怖いーッ!!』と、大きな声で叫んだ後、大きな声で泣き出しました。

園長先生がびっくりして、私を抱きしめてくれましたが、私は、その腕の中で、

『外!外!怖い!怖い!

ダメなのに、入っちゃった!

一緒に来てっ!先生が呼んでるっ!』と、めちゃくちゃに暴れていました。

園長先生は、私をその場に残し、外へ走って行きました。

泣いてる私に、用務員のおばさんが付き添ってくれて、ずっと抱っこをしてもらってました。

用務員のおばさんが、他の先生にも外に行く様に伝え、私はおばさんに抱っこされたまま、みんなと教室で待機していました。

私以外の子は、何も知らないので、私が大泣きしておばさんに抱っこされてるのを、不思議に思っていた様です。

その間、外で何があったのかわかりませんが、

あの子の、叫び声が聞こえました。

喉が潰れてしまったのかと思う様な、そんな声でした。

救急車が呼ばれ、到着するまでの間、遊戯室にいるんだろうと幼心にも予想できるほどの大きな声が聞こえており、私の他にも怖がり泣き出す子がたくさんいました。

あまりの異常さに、緊急帰宅となり、

親に迎えに来てもらって私達は家に帰ることになりました。

幸い、どのお家も、農業や自宅内職や自営業だったので、全員がその日は早々と家に帰ったのです。

次の日は、なぜか保育園はお休みでした。

私は、ばあちゃんと家で過ごしていました。

うちの中で遊ぶのに飽きて、外で遊びたいとばあちゃんに言うと、

『今日は出たらダメ。障るからダメ。』と言われました。

今なら、『障る』がどの様な意味かは分かりますが、当時の私は理解できずに、

何で?何で?とばあちゃんが家事をする後ろをついて回りました。

すると、ばあちゃんが、

『昨日、怖かったでしょ?』

と、聞いてきました。

私は、忘れかけていたことを思い出し、怖くて膝をだいてうずくまりました。

ばあちゃんは、私の肩を抱き、

『なんで怖かったのかね?

何にもいてなかったのにね。

あんたは、何にもしとらんのにね。

いけない事する、あの子が怖かったんかね?

怖かったんは、何でかね?』と聞いてきました。

なぜ、止めなかったと、怒られると思ったから…?

わからない行動をとったあの子に驚いたから…?

先生がすぐ、来てくれなかったから…?

『…違うよね?

あんたは、あの子が障ったのを見たから、

…だから怖かったんだよ。』と、

ばあちゃんが言いました。

あの子の、訳の分からない行動を、

1人で見たから怖かったので無く、

イタズラして、お稲荷様の障りを受けるのを

目の当たりにしたから怖かったんだ…

と言うのです。

妙に納得したのを覚えています。

よく考えれば、あの子が、おかしなイタズラをすることなど、さして珍しいことでも無く、

お供えの棚に登った時に、先生を呼びに行くことだって出来たはずです。

それが出来なかったのは、

私が、お稲荷様の障りを『見ていた』からだと…。

『いつも、言ってるでしょ。

見えるも見えないも、すぐそこにあるって。』

見えていようが、見えなかろうが、

私の見ていたあの瞬間には、

お稲荷様の障りが、『存在』したんだと。

今日は、あの子がお稲荷様のお社に、謝りに行ってると。

明日は、あんたと先生(お社にいた子の所に走って行った先生)が、お社に行くんだよと。

直接、悪さをしたわけでは無いけど、

お家を壊してごめんなさい、止められなくてごめんなさいと言っておいでと。

ばあちゃんはそう小声で言うと、私の前に人差し指を出して、私の口に触れるか触れないかの辺りで、トントントンっと、

3回、指を振りました。

私はなぜか、その仕草を見て、

怖いお社に行かないといけないという思いが、和らぎました。

『わかった、謝ってくる。』と、行った後は、大人しくまた、家の中で遊んでいました。

次の日、雨が降っていましたが、傘をささずに、

神主さんが祝詞を読む中、

私は先生(お社にいるあの子を連れに行った先生)と2人、その後ろに立ち、

父母とばあちゃん、園の他の先生がその後ろで見守っていました。

私は、

『ごめんなさい。ずっと住んでるお家を壊してたのに、止められなくてごめんなさい。』と、ずっとブツブツそればかり口にしていました。

終わった後、神主さんから、

『お稲荷さん、もう怒ってないよ。』と言われ、

私は安心し、お稲荷様に

『ありがとう。また、明日ね。』と、手を振ってその場を後にしました。

緊急帰宅から2日経ち、

みんなが登園して、また、賑やかに園庭で遊びます。

私に、お稲荷様のことを聞いてくる子はおらず、私も誰にも話しませんでした。

楽しく走ったり、ままごとをしたり、遊具で遊び、元気な園児達が、園庭に溢れていました。

ただ、あの子は…、

まだ、登園していませんでした…。

私は、お祓いの日以降、毎日、

お稲荷様に手を振ってから、帰る様になりました。

一週間立ったくらいでしょうか。

あの子が、登園して来ました…。

ですが以前の彼女と違い、

大人しい…、どこか落ち着いた印象のある子になっていました。

嫌がる子を走って追いかけ回すこともせず、

おもちゃを横取りすることも無く…、

泣く子を指差し、からかうことも無く…、

それどころか…、

自ら1人を好み、木にもたれながら、他の園児が遊ぶ姿をニコニコ見たり、

園庭をゆっくり散歩してみたり、

鉄棒の一番端にちょこんと座って、空を眺めたりしている様になりました。

以前とすっかり変わったあの子を、

しかし誰も、からかったりバカにする子は

いませんでした…。

卒園と同時に、引っ越して行った彼女が、今、どうしているかは分かりませんが、

私は今でもふっと彼女を思い出します。

そして、思い出すたび…、

あれは、

本当にあの子だったのかな…

あの子の姿をした、中身は違う者だったんじゃ無いかな…

もしかしたら、あの子の中には…。

見えてるものだけが、存在する全てのものでは無いのなら…、

私が想像する、

あの子で無い、あの子は…、

今どこで、

何をしてるのかなぁ〜と。

私の知ってる、イタズラの過ぎる彼女は、

どこに存在するのかな…と、

思い巡らすことがあるのです。

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仲間さん、コメントありがとうございます。

出会った時には、彼女は、どうしょうもない意地悪だったし、お稲荷さんの一件で全く変わってしまい、あの子は引っ越してしまい、真相はわからないままです。

どちらが、本当の彼女だったのかな?と、
私も色んな方にコメントをいただき、
今になってまた、疑問に思っています…。

初めまして♪

その女の子、何らかの動物霊に憑依でもされていたのでしょうか?
もしくは、元々か・・・
本当に不思議ですね

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マコさん、コメントありがとうございます。

ゆみちゃんのお話、私はとても胸が痛くなりました。なんとコメントしていいか分からなくて、悲しいお話でした。

記憶の中と言うのは、とても曖昧だったり、朧げだったりするものですが、
私の記憶にいるあの子は、イタズラなあの子も、物静かなあの子もどちらもしっかり存在して、まるで双子ちゃんだったかのように

2人ならんで頭に浮かんできます。

私はいざとなると、どちらの彼女にあいたいのかな?とも、思ったりします。

にゃにゃみさん

小さい時の記憶がそこまで鮮明に覚えているだなんて、相当の事だったのでしょうね。

私は逆に、小さい時の記憶が余り有りません。私の作品「ゆみちゃん」の事が有ったのでその歳の辺りの事は覚えてないです。

また、次回作楽しみにしてマーース!(・ω・)ノ