中編3
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『銀時計』

日清・日露と勝戦続きで景気が良く、日本では輸入品を扱う変な商売人が増え出した頃。

「…っとまぁそんなわけで、この中国から渡って来たカッパの手、煎じて飲めばどんな奇病も治すと言われ…」

うさん臭い輸入商人が機関銃の様にしゃべっているのを、「ファ~」っとでかいあくびでおやじが断ち切った。

「わり~が、孫の手なら間に合ってるんだ。ほか当たっとくれ」

ピシャリと言うと、デブ商人は慌てて鞄から色々な物を取り出し、あれやコレやとほかの物を勧めて来た。

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ウンザリと言った顔をしていたおやじが、急に目の色を変えた。

「おい、あんたその時計。それなら買うぞ!」

おやじが興味を示したのは鞄の中では無く、商人が腰に下げていた外来物の時計。

壊れてはいたが、立派な細工から高価な事は喜一にも分った。

輸入商人は眉を潜めたが、さすがは商売屋。

おやじは渋る相手から3割値切り、処分に困っていたガラクタまで押し付けたのだった。

おやじは上機嫌だったが、壊れて動かない時計の何がいいのか解らず、

「カッパの手は何で買わなかったんだよ。本当に水掻があったのに」と漏らすと、

「あんなもん清のガキの手切り干して、細工した紛い物に決まってるだろうが」と言い切られてしまった。

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翌朝、食卓でおやじが「好かん」と言った。

家族全員固まった。

おやじの「好かん」は「良く無い」と言う意味で、機嫌が悪いときにも使われた言葉だったからだ。

おやじは朝食に箸もつけず家を出て行った。

朝食はおやじの好物。喜一はここ三日は、特に叱られる事はしていなかった。

何より、昨日はあんなに上機嫌だったのに…家族皆首を傾げた。

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店番をしていると、おやじが夕暮れに帰って来た。

どこに行っていたのか聞くと、おやじはため息をついた。

「信じられねぇとは思うが、俺は今日を4回繰り替えしてる。寝て起きたらまた今日なんだ…」

喜一は驚かなかった。

それより、初めて見たおやじの参った顔に驚いた。

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おやじはあの日、時計の中を開けた。

そこには、わざと歯車が動かない様にネジが詰められていた。

おやじはそれが、どういった物なのか何てとっくに気付いていた。

気付いていたが、ネジを抜き取ってしまった…時計は動いた。

そしておやじの時間が止まってしまった。

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「あぁ~わかってたんだよなー憑いてるって…何でかな~…いけると思ったが、まさかこう来るとは」

自分の好奇心と、最近天狗になっていた事を悔やんで愚痴った。

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ベットに横たわる女性と、その横で時計を作る男の姿がおやじには見えていた。

そして、

『共に時を刻もう。それが叶わぬなら、いっそ時が止まってしまえばいいのに』

そんな願いも聞こえていた。

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顔を上げ頭をボリボリ掻くと、

「俺の負けだ…しかたない…」そう言っておやじは、納屋から金槌を持って来た。

喜一が声を上げるより早く槌は振り落とされ、時計は簡単に砕かれた。

「何で!?あんなに気にってたのに」

喜一がおやじの顔を見上げると、

「いいんだよ、最悪こうしてくれってさ…」

覇気の無い顔と声でそう呟くと、床間にたどり着く前に、茶の間でおやじは倒れる様に寝てしまった。

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喜一は知らない。霊が時計にとり憑いている理由や、おやじが霊とどんな勝負や約束をしたのか。

聞いても、「ガキが聞く話じゃねぇ」とあしらわれた。

でも知っていた。おやじが筋の通った男だと言う事は。物にも人にも人じゃない者にも。

だからきっとおやじの4日間は、時計の為に霊の為に走り回っていたんだろう、と喜一は感じていた。

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「っとになんだよ。店まかっせっきりにしといてガキ扱いかよ…」

そうふて腐れ床についたが、翌日喜一は、初めて自分から蔵掃除の手伝いをしたそうだ。

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今回も素敵なお話しでした。
このお父様からのお話しも聞きたかったですね。

このお話いいですね。
過去の投稿作も 読んでみたいと思います。
時間の都合上、皆様の作品全てに目を通すことができず、
読めないままになってしまっている名作が数多くあることと忸怩たる思いでおります。
申し訳ございません。