中編5
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呼ぶなよぅ。

私には、その時の記憶が無い。

だから怖い思いもしてはいない。

ただ、現実だけが残ってるだけ。

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・・・

父の1周忌が過ぎて少し経った頃。

私に異変が起きた。。らしい。

目撃者は、当時沙羅アパートに日参していた葬儀屋。

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目撃されるまで、私は何故か手首に残る傷に悩まされていた。

自傷行為をした覚えは無い。

医者から処方される薬の飲み合わせにより、記憶が飛ぶことはある。

が、さすがに『痛い』ことは覚えている。

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例えば、記憶は飛んでるが食器が洗ってある。

だが、皿を割って破片を踏んだ時の事は覚えてる。

そこから記憶を朧気に思い出す。

・・そだ。皿洗ったな~・・と。

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また、覚えてはいないが拭き掃除もしてあったりする。

でも途中で、どこかに頭をぶつけたりする。

『・・いた~い・・』

そういう処から記憶を戻せることもある。

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だから、リスカの痕が残ってるのが不思議で仕方なかった。

ご丁寧に、親指の付け根から伸びる血管の上を真横に切ってある。

2mm程度の間隔を空けて。。

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ゴミ箱を覗けば、それなりに出血はしてたようだ。

ゴワゴワに乾いた血を拭いた痕跡がある。

このレベルなら、結構痛いはずだぞ?

でも何故、何も覚えてない?

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疑問に思いながらも、テーブルに落ちてる血痕の後などを掃除して一応手当てもしておく。

覚えて無くても、『切った』事実だけが残ってるのだから、自分が犯人なんだろう。

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7~8年前までは、自分の意思で血を流した。

私に流れる『血』が忌まわしくて仕方なくて。

プックリと深紅の玉が大きくなり手首を伝う。

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何度も同じ所を切りつける。

丁寧に浅く浅く。少しずつ切る。

気が済むまで血が流れたら、終了。

・・何ともバカな事をしてたもんだ。

だから当然、今は決してしない。

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なのに、何故??

痛かった覚えもなければ、切った覚えも無い。

数週間、私の頭の中は疑問符の塊だった。

・・ただの現実が、そこにあるだけ。

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ある夜、葬儀屋の友人が泊まりに来ていた。

私は彼に非常に冷たい。

彼からすれば無意識なんだろうが、言う事がいちいち上から目線なのが気に入らないのだ。

なので以前投稿した『迷い込んだもの』の後、出禁。

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ある日、葬儀屋は<目撃>した。

ある意味怖ろしい姿を。。。

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その内容は・・・

私が、父の遺影に使われた写真の縮小版を胸に抱え、正座して揺れている姿だった。

前後左右に軽くユラユラと揺れながら、何か話してた。

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「沙羅ちゃん?沙羅ちゃんてば?」

声を掛けても私が反応しない。

いつも記憶が飛んでいても、真っ当な返事をしてるらしいのに。

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私は何か呟きながら、どうやら泣いているようだった。

葬儀屋は、異様な光景を見ながら私の傍に来た。

私の呟きを聞き取ろうと顔を近づけてみると、私はボロボロと泣きながら言ってたそうだ

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「親父・・まだ逝けないんだよ。呼ばないでよぅ。。私が、そっちへ逝ったら瑠奈が泣くから。まだ逝かれないんだよぅ・・」

「親父ぃ~~。。呼ぶなよぅ。瑠奈が悲しむからさぁ。。」

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父の写真を抱えたまま、どこを見てるのか焦点の合ってない目をして泣いていたそうだ。

そして繰り返し、繰り返し・・

「呼ぶなよぅ。。」と。

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葬儀屋は、私の両肩を掴んで揺さぶった。

「沙羅ちゃん!戻って来い!」と。

なかなか私は、自分を取り戻せずに揺れていたようだ。

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葬儀屋は、私が強く抱え込んでるモノを取り上げた。

それが、父の写真だった。

いつも飾ってある場所に写真を戻し、また私を揺さぶる。

「沙羅ちゃん!沙羅ちゃんってば!」

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私は、その声に反応することなく、フラリと立ち上がって、また写真を手に取ろうとする。

それを阻止すること、数回。

最後には、強引にベッドへ引っ張って行ったらしい。

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ベッドにパフっと転がされた後、私はそのまま眠りに落ちた。

それを見届けて、葬儀屋も眠った。

これが葬儀屋から聞いた話だった。

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・・・

・・・

・・・

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この写真。

沙羅兄は頑として受け取ることを拒んだモノだ。

葬儀の後、母は兄に渡そうとした。

「あんた、跡取りなんだから」

だが、そんなものは関係ない。と断られた。

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そして、私に託そうとしたが、私も要らないと言うと思ったんだろう。

遠慮がちに独り言のように話しかけてきた。

「お兄ちゃんは、こんなモノ要らないって。沙羅も・・いらないって言うんだろうね・・」

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勿論、私だって要らなかった。

が・・・

「あ~兄貴が要らないなら、私も要らない」

そう言おうとして振り向きかけた時。

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写真を持ったまま、一回り小さくなった母の皺くちゃの両手が細かく震えてるのに気づいた。

・・

それを見たら、要らないと言えなくなった。

「あ~兄貴が要らないなら、私が。。貰う」

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母が握っていた写真の端っこが少し折れていた。

私が「貰う」と言ったのが余程嬉しかったんだろう。

「貰ってくれる?あんなに酷い目に遭ってきたのに?それでも貰ってくれるの?」

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普段、気丈で滅多に涙を見せない母が、口元を押さえた。

「てっきり、あんたも要らないって言うと思ってた」

そう言った母の涙が皺を伝って零れ落ちた。

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そして手の中の写真の父に向かって話しかけた。

「お父ちゃん。沙羅が貰ってくれるって。良かったねぇ」

・・・

そんな成り行きで私の元へ来た写真だった。

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その写真が部屋へやってきてから、ずっと飾ってある。

・・が、害があるなら、処分するしかない。

そこで、母にお願い事をした。

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あのさ。仏壇に私の分として毎日線香あげてくんない?

「なんで?自分で上げにきたら?」

仕事帰りに毎日は厳しいんだよ。

「そっか~。でもなんで?」

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何とも説明したくない内容だったので、ただ「親父が呼ぶんだよね」とだけ答えた。

後日、問い詰められた。

「親父が呼ぶ。って具体的にどう呼ぶの?」

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「・・・ん。話しても母には理解不能な分野だと思うから言いようが無い」

余りにもテキトーだが、そんな言い訳で説明を回避した。

それ以上、母から問い詰められることはなくなった。

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『理解不能な分野』

えぇ。私にも理解不能な分野ですからね。

ただ、リスカの痕や、揺れてたなんて聞いたら、母としてどう思うんだろう?とか思う。

だから、何も言えないだけの話。

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元来、小心者で淋しがり屋の父だ。

一人はイヤだったのかもしれない。

毎日、線香を上げてもらい、様子を見ることにしたのだ。

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亡くなる少し前から、突然猫好きになった父。

母が入院して、餌をねだりに来るネコの相手をしてるウチに懐いたネコを、こよなく愛した。

「チビちゃ~ん」正に猫なで声で話しかける父。

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私の不可解な出来事の後・・

葬儀屋が沙羅アパート出禁になった後。

そのチビが突然死んでしまった。

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母のペットロスを心配したが、すぐに別のネコがやってきたので母の気は紛れた。

・・・

チビが死んでしまってから、不可解な事は無くなった。

私は知らない内にリスカなんてしなくなったし、写真を動かした形跡も無い。

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1人で淋しくなった父が、私を呼んでいたのか?

チビが傍に逝ったから、もう呼ばないのか?

全部、判らないままだ。

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頼むから、もう呼ぶなよな。。。

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仲間さ~~んww
る○剣に憧れて・・とか、ウケちゃうんですけども~~www

言えない。と聞くと、『教えて教えて~゚*。゚(O゚・∀・)ワクワクテカテカになっちゃうよ~

北斗の○みたいに、胸に根性焼きが北斗七星に並んでたり・・とか?

もう、父は寂しくないと思いますよ(^^ 多分・・・・きっと・・・ん~(--;

自傷か〜〜私も微々にやっていましたが、他の方とは別の目的ですね(*´ω`*)
その目的は言えませんが…目的が目的ならある所に行ってもいい気がしてきます。
後はバカな事を考えてアニメの影響でやった事もあり(汗)
だって、る○剣とかアニメのキャラクターの切り傷見たらカッコイイとか思って、ついついつけてみよ!!とかそんなんあったり……(*´∀`)

それにしても、沙羅さんオトン呼ばれた事もあったんですね
寂しいか〜〜〜ん〜今の私にはワカリマヘン( ☆∀☆)

番長♪
ほんと、ほんと~~~に、ありがとう(多忙の中。。あと千枚追加にならぬ様祈ります)

自傷はね、もうしないの♪
自分の生きてる意味とか、遺される物の想いとか考えたら、してはイケナイのよね。
追い込まれて、どうしてもヤラかしてしまう気持ちも解るから、現在も自傷行為が
やめられない人に対して何事も力にはなってやれないけれど。。。

つか、キュウリ!!!(@@;
ワタシ、河童に似てる言われるから、良いかもしんないwww
河童の鳴き声聞いたことある?
「きゅーり・・きゅーり」って鳴くんだよ~~~(嘘)

mamiさん
こちらもありがとうございます(*^^*)

いやいや。。この時の記憶が全くないので、目撃者がいなかったら、対応も出来なかったでしょうね。
名所に引かれる。。とかは、守護霊の力などの前に、自分自身が弱ってるんだと思います。

疲れてる時とか、悩んでる時に、下手に近づかないのが一番の危険防止ですね(^^

鏡姐さん♪
こちらもありがとう(^^

きっとチビが父の周りをウロチョロして邪魔してくれると・・
信じてみよっかな~~~ww

だい~~ぶ前の話の解説で『呼ばれたのはまた別の話で』と書いたような気がして
(あんま覚えてないw)
それが、今回のお話でした(^^;

次は、、、呼ばれたのではなく、招待された時の事でも書きましょうかねぇ(^^

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これは…純粋に怖いです。
沙羅さんは、感じる力があるから(だから呼んじゃうのかもしれませんが…)回避できるけど、私や私の周りの友人は、そのまま連れて行かれてしまうかも…とか思うと、怖いです。
大昔に聞いた事があるのですが…例えば、自殺の名所とか、そういったところに引き寄せられるか負けないかは本人の守護霊の力とか…で、徳を失う行動をすると、守護霊の力が弱まってしまうとか…
余談が過ぎました。

ラストの猫ちゃんの下りも怖かったです。
沙羅家の目線だと良い話しなのですが、敢えて怖く読ませていただきました。

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マガツヒさん
こんにちわ(^^

複雑な気持ちにさせちゃって、申し訳ない・・orz
そうですか。。マガツヒさんも切ない想いをされてきたんですね。

私も思いましたよ。「父さえいなければ、誰も泣かないで済む」って。
きっと小躍りして喜ぶんだろうな。って。

でも実際は違いました。当初こそ涙の欠片もなく、平坦な感情でしかなかったものが
振り返り作業を始めたら、結構楽しかった思い出があるんです。
『憎しみ』の前にあった『愛情』が薄ぼんやりと・・出てきたことに我ながら驚きました。

今も、親として最低な人だったな。とは思いますが、それ以下の感情は既に無くなり。
父に対し、穏やかな感情でいられることにまたまた驚き。。

家族とは、摩訶不思議な一番小さな社会ですね。
・・なんか、私も訳わかんな~~い感じになりました~あはは!!

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りこさ~ん
ありがとうございます。

ほんとに。呼んだのなら、関わりたくない。
どうせいずれイヤでも会うんだろうし。

その時に、幼い頃の温かな手の父に会いたいです(^^
そしたら、ヤな想いをした分、甘えたいなぁ~~

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