短編2
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「いのちの電話」

「いのちの電話」

めったに繋がらないと聞いていた。

話を聴いてくれるのなら、全国どこにつながっても構わないと思った。

パソコンの画面に表示されている都道府県の電話番号全て 

かたっぱしからかけてみたが、

そのほとんどが受付時間外か お話中だった。

二巡三巡と掛けなおす。

気が付いたら、午前1時を過ぎていた。

諦めかけた頃、受話器の向こうから、女性の柔らかい声がした。

「はい、○○いのちの電話です。どうぞお話しください。」

やっと繋がった。

「今から死にたいと思う。

その前に恨み言を聞いてほしい。」

すがりつくように話し始めた。

この10年間、身内の葬儀ばかりしている。

近所では、「呪われた家」と噂され、会う人たちは皆よそよそしく誰も近づこうとしない。

疲れた。

もう、生きていく気力も体力も財力もない。

私が死んでも悲しんでくれる身内もいない。

「いのちの電話」の女性は、否定も肯定もせず、ただ黙って頷いていた。

風邪をひいて熱を出しても、

咳をしてもひとり

笑っている時も

泣いている時も

ひとり

どんなに美味しい食事を作っても

食べるのは、私ひとり

眠る時も

いつもひとり

ひとり、ひとり、ひとり・・・この部屋でたったひとり。

「ひとりなんです私。

私が死んでも、悲しんでくれる人なんて いないんです。」

伝えたいことの千分の一も話せない。口をついて出る言葉は、せん無き事ばかりだ。

受話器の向こうで、すすり泣く声が聞こえてきた。

共感してくれているのだろうか。

この私に、同情してくれたのだろうか。

ささくれ、爛(ただ)れた心の痛みが少し和んだ。

「あなたは、一人ではないと思います。あなたのような人が、孤独なはずはない。孤独であってはいけないのです。」

幼子を諭すような優しい口調は、どこか懐かしく切ない響きを帯びていた。

「・・・・ごめんなさい。こんなこと申し上げていいのかどうか解らないのですが、怒らないで聞いていただけますか。」

その人は、躊躇(ためら)いがちに こう語った。

「このお電話を頂いた時から、あなたの声に混じって、赤ちゃんの笑い声と 赤ちゃんをあやす穏やかな男性の声が聞こえて来るのです。他にも、ご年配の方数人の声が聞こえます。

あなたは、本当にお一人でお暮しなのでしょうか。」

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緋月様・琉璃葉様

お読みいただきましてありがとうございました。
その上、「怖い」まで頂戴し恐縮しております。
「いのちの電話」今まさに、必要としておられる方に繋がりますように。との願いを込めて、
祈るような思いでおります。
人は、誰かが傍にいるだけで、ただそれだけで生きていられるものですから。

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みぃねこ様
初めまして。
「怖い」ありがとうございました。
読んでいただけて、尚、評価までいただけましたこと感謝申し上げます。
「いのちの電話」この貴い奉仕が多くの人の命を救うことができますように。との願いを込めて書いてみました。
これからも、よろしくお願いいたします。

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ケイ様

初めまして。
「怖い」ありがとうございました。
読んでいただけて、尚、評価までいただけましたこと感謝申し上げます。
「いのちの電話」この貴い奉仕が多くの人の命を救うことができますように。との願いを込めて書いてみました。
これからも、よろしくお願いいたします。
2015年11月01日 20時52分

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