中編6
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指輪。

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shake

ゴッ。。

『あぅっ。。。』

shake

ガッ!

『や。。。めて。。、もうゆる。。して。。』

shake

ガツッ!

『。。ごめ。。。なさ。。』

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千鶴はうずくまり、震えながら懇願していた。

千鶴の上には目を血走らせて馬乗りになった、達也。

「あ"ぁ"?今頃謝っても遅ぇんだよ!てめぇさっき何つった!?」

shake

ゴッ!

『。。。っ。。。』

「てめぇが働いて稼いでこねぇと飯も食えねぇだろうがょ!

風邪ひいたくれぇで店休むとか、なめてんのか、あぁ?」

『。。ぃ。。く。。行く。。から。。お願い。。。』

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「あぁ?誰にもの言ってんだよ!お願いしますだろうが、あぁ?」

『。。。お願い。。しま。。』

自分の腕やお腹を抱き抱えて庇うようにうずくまったまま、泣きながら小さく呟いた千鶴。

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「わかりゃいいんだよ。ったく、毎回毎回世話の焼ける。。。

ほら、貸してみろ。」

達也はブツブツ言いながらキッチンからお湯で濡らしたタオルを持って来て、千鶴の腕をそっと掴む。

『あっっ!。。』

千鶴は激痛に小さな悲鳴をあげ、顔をしかめた。

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濡れタオルで千鶴のアザだらけの腕をそっと包みながら、

「ちゃんと仕事行ってりゃ、こんな目に遭わずに済むんだろ?

風邪くらいで休むなんて甘えたこと言ったりするからよ、見ろよ、またアザだらけじゃねぇか。

お前 肌 綺麗だからよ、ドレスの方が似合うのに、

また今日もスーツしか着られねぇじゃねぇか。』

優しい口調で達也が言う。

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千鶴はボロボロと泣きながら、力なく小さく頷いていた。

「腹、見してみろ。」

達也に促されて、お腹の部分のシャツを捲る。

「腹は大丈夫みてぇだな。」

そう言うと、達也は千鶴をギュッと抱きしめた。

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「俺だってよ、大事に思ってるお前を殴ったりすんの、辛ぇんだよ。わかるか?

でもよ、お前が自分で働くって言ったんだろ?

簡単に約束破ったりするようなのを、黙っとくわけにいかねぇんだよ。

な?」

そう言って千鶴の頭を撫でる。

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『。。。。』

「ほら、そろそろ顔洗って化粧したりしねぇと、間に合わねぇぞ?

今日は俺が送ってってやるからよ。」

千鶴は小さく頷くと、顔を洗いにキッチンへ向かった。

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店の近くの目立たない場所まで来ると、達也は車を路肩に寄せハザードをつけた。

「ほら。着いたぞ。頑張って来いよ。」

『。。。うん。』

千鶴が車を降りようとすると、達也が呼びとめた。

「あー、もうほら!指輪!外しとかねぇとまた客から疑われっぞ?」

穏やかな笑顔で、達也が手のひらを差し出した。

左手の薬指から指輪を外し、達也の手のひらに乗せ、ドアを閉める。

達也が車を走らせるのを見送ってから、千鶴は店へと向かった。

閉店後、千鶴は達也の待つアパートへ向かってトボトボと歩いていた。

タクシーなどを使うと、無駄遣いだと怒られるので、どんなに寒い冬でも、土砂降りの雨が降っていても、千鶴は歩いて帰る。

アパートまでは、歩いて1時間。

クタクタな体に鞭を打ち、シャワーを浴びる。

パジャマに着替え、ふとリビングのテーブルを見ると、達也に渡しておいた指輪と、コンビニのおにぎりが手紙と共に置いてある。

〜お疲れ様。おにぎり、食ってから寝ろよ。~

千鶴は無言で座ると、指輪をはめ、モソモソとおにぎりをほおばった。

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そんなある日。

千鶴は、熱を出した。

意識が朦朧とし、足元はフラフラだったが、休めばまた殴られる。

その恐怖から、千鶴は仕事へと向かった。

しかし、虚ろで潤んだ瞳、真っ赤になった顔、フラフラの足元を見れば、ひと目で具合が悪いとわかるような様子だ。

すぐに店長に気付かれ、帰るようにと言われた。

フラフラとほんの数十分前に歩いてきた道を戻る。

アパートに着いてドアを開けると、達也が怪訝な顔で千鶴を見た。

途端に不機嫌になった達也に、事情を説明する。

熱があるのはわかっていたが、自分は仕事に出るつもりでいた事、だけど、店長から帰るように言われた事。

だが、達也には、店長が言ったとか誰が言ったとかそんな事は関係のない事だった。

達也の拳が、千鶴の体に容赦なく振り上げられる。

高熱の千鶴が意識を失うのに、そう時間はかからなかった。

殴っても殴っても反応のない千鶴に、

「ちっ。」

と舌打ちすると、動かない千鶴をキッチンの床に放置したまま、達也は寝室へ行き、そのまま朝まで眠った。

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翌朝。

千鶴はまだ昨夜のままでそこにいた。

達也は忌々しそうに大きなため息をつくと、つま先で千鶴の体を揺する。

「おい、いつまでそんなふうにしてるつもりだよ。

俺が同情するとでも思ってんのか?

サッサと起きて朝飯作れよ。」

『。。。。』

返事どころか、動きもしない。

達也は更に面倒臭そうにしゃがみこむと、

「おい!」

と千鶴の肩を掴んだ。

「!?」

千鶴の体が硬直したように固い。

そして冷たい。

達也の背中を、嫌な汗が伝った。

「おい、千鶴?!」

もう一度揺すると、千鶴の体がゴロンと仰向けになった。

瞳孔の開ききった焦点の合わない半開きの瞳。半開きの口。

「し、死んでる!」

達也は尻もちを着いて、そのまま後ずさった。

逃げようかとも考えたが、それだと自分が殺したと疑われると思い直し、達也は救急車と、警察を呼んだ。

そこから後は、最愛の人間を突如として失った可哀想な男を演じるのに必死だった。

電話口でも、救急隊員の前でも、警官の前でも取り乱して見せ、涙も流した。

これなら疑われたりしねぇだろう。。。ったくどこまで迷惑かけりゃ気が済むんだよあのクソ女!

頭の中で悪態をつきながら、つとめて憔悴しきっている風を装い続けた。

事情聴取などひと通りの事が終わりアパートに戻った時には、もう暗くなっていた。

「ちっ」

中へ入るなり車の鍵を投げ捨てると、リビングの椅子に腰掛けた。

ふと、テーブルの上に目が止まる。

そこには、千鶴が仕事に行く前に外して行った、指輪が置かれていた。

千鶴が働くあの店で千鶴と知り合い、付き合うようになって2ヶ月の頃、千鶴が自ら買ってきたペアリング。

達也の左手薬指にも、同じ物が光っている。

「けっ。死にやがって。次はしっかり働く女を見つけねーとな。」

達也は鼻でフン、と笑うと、無造作に指輪を外し、

テーブルの上の指輪と共にゴミ箱に投げ入れた。

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その夜。

達也は珍しく寝付けず、何度も寝返りを打っていた。

「あーくそっ。眠れねぇ。」

ベッドからやおら起き上がると、水でも飲もうとノソノソとキッチンに向かう。

寝室からリビングへと入った時だった。

視界の端、テーブルの一角に何か見えた気がした。

「?」

おもむろに視線を向ける。

shake

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「!!」

2つある椅子のひとつ、いつも千鶴が座っていた場所に、俯いて座る女がいた。

「だ、誰だてめぇ」

震える声で訊く達也は、それが誰なのか、後ろ姿でもうわかっていた。

だが、認めたくなかったのだ。

達也の問いかけに、女の体がゆっくりとこちらに向き始める。

「ひっ。。。」

短く情けない声が漏れる。

こちらに向ききったその女は、紛れもなく、

千鶴だった。

『達也。。。』

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千鶴は立ち上がり、滑るように近寄ってきた。

千鶴の手がゆっくりと達也に伸びてくる。

「。。や。。。やめろ。。。」

動こうにも、体が全く言う事をきかない。

『達也。。。どうして。。。愛していたのに。。。』

千鶴の手が、達也の首に絡まる。

「やっ、やめてくれ!許してくれ!!お前がっ。。。お前が悪いんだ、俺の言う事をきかないから!。。。」

『。。。そぉ。。。達也。。。アタシ。。。。

愛してたのに。愛してたのに。愛してたのに。』

抑揚のない声で「愛してたのに」と繰り返し、焦点の合わない瞳から涙を流しながら、ギリギリと達也の首を絞めあげていく。

「ぐっ。。。かはっ。。。」

次第に薄れていく意識の中、達也の目の前に千鶴が顔をぐーーーーっと寄せ、不気味に笑った。

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『アイシテタノニ。』

Concrete
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