長編9
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彼女と嫁

※怖い話ではありませんので、ご注意を。

その人は、とても豪快に笑う人だった。

女手一つで、3人の子供を育てた人。

土方(?)からホステス(?)まで、何でもやってきたのだ。

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一番下の息子が産まれた翌日から、コンクリートを混ぜ混ぜする会社の飯場で働いたそうだ。

彼女は、最初の夫とは死別したらしい。

何故か、あまり前の夫の事を話さなかった。

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次の夫は、女癖が悪く、また金の亡者で家には寄り付かなかったそうだ。

子作りする時だけ帰ってきては、隠しておいたお金を持って、彼女が眠ってる隙に出て行く。

そして帰ってこない。

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籍は入っていても、完全なる別居。

だが、籍が入ってるばかりに、何の手当ても支援も受けられなかった。

彼女は、生きるために必死だった。

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長男は、貧乏のどん底にいながらも生真面目で、妹や弟の面倒をよくみた。

真ん中の妹は我侭で欲しい物は何でもねだる。

末の弟は物静かで1人遊びを好んでいたそうだ。

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彼女は、長男を幼い頃から大切に育てた。

「ケンちゃんが一番!」

長男の言うことは何でもよく聞いたし、妹・弟にもそれを強いた。

この長男を大学に通わせるため、下の二人は高校へも行かず働かねばならなかった。

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「あんた達。ケンちゃんの学費稼いで来な。」

そして自分は生活のため、身を粉にして働いた。

真ん中の妹は、兄のために自分の金を使われるのがイヤで、家出をし、デキ婚をした。

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長男も、自分の学費を稼ぎ出すために様々なバイトをいくつもしてきたそうだ。

末の弟は誰にも何も逆らわず、黙って兄のために働いた。

自分は夜学で高校へ通いながら。

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末っ子が夜学を卒業する頃に、兄は高校教師として勤め出した。

やっと兄の学費のためでなく、働けるようになった末っ子。

彼女は、時を同じくしてもっと軽い仕事に就いた。

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生活は、末っ子の給料で大丈夫。

自分の小遣いを稼ぐために働き出したのが、病院の食堂だった。

それから数年後、末っ子の所に嫁が来ることになった。

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嫁候補は、明るく活発で「おかあさん!おかあさん!」と慕った。

自分の言うことを尊重し、持ち上げてくれる。

無口な末っ子の考えてる事は、実は彼女には解らない。が、その嫁候補が代弁してくれる。

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『この娘が嫁だったら良いのにな』

彼女はそう願い、その娘に言った。

「アンタ、嫁に行くならウチに来な」

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そう言った途端、その娘の顔色がスッと変わった。

「・・その時は、よろしくお願いします」

笑顔を取り繕う娘の表情に戸惑いが見えた。

だが、元来気の強い彼女は、更に推した。

「アンタみたいにハキハキしてんのが、あの子には丁度いいんだよ」

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・・

そう。彼女の思うままに動いてくれ、何も話してくれない息子の代弁もしてくれる。

よく働きそうな娘だったからだ。

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何かと事情がありそうな娘だった。

そして、とうとう彼女の願い通り、その娘は『嫁』としてやってきた。

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彼女は、その娘の両親が結婚を反対していることを知り、激怒した。

「ウチみたいな貧乏人には、やれないってのかい?」

娘の父親が言う。

「そうではないですが、条件として別居させて下さいますか?」

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娘の両親が、彼女の家を『下見』に来て、あまりの不衛生な環境に娘を置きたくないと判断したためだ。

彼女は思った。

(ここは、別居させるって言っておけば後はこっちのもんだ)

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電話の向こうで条件を述べる娘の父親に約束した。

「えぇ。娘さんをくれるならアパート探しますよ」

かくして、念願の嫁が来た。

娘は、既に息子の子を妊娠していた。

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お腹が目立つまでは、働かせた。

そして目立ってきた頃には外出を禁じた。

「アンタは身重なんだから、家の事だけしてればいい」

そう口癖のように言い聞かせ、家政婦のように朝から晩まで家のことに従事させた。

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時々、嫁が言う。

「母親学習に行きたいんですけど」

そんなもん、行かなくたって時期が来りゃ勝手に産まれる。

だから行かせない。

アタシだって行った事ないけど子は産まれんだよ。

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時々、嫁が言う。

「夕飯のおかず、たまには違うものにしませんか?」

嫁の分際で生意気な。

アタシが食べたいものにして何が悪い。

なにが妊娠中はバランスよく栄養?

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ふざけんじゃない。夕飯は決まってんだよ。

マグロの刺身→鶏とキャベツの炒め物→卵焼き。

1品あれば、あとは漬物でもあれば充分なんだ。

買い物は毎日してやってんだから、嫁は大人しく作ってりゃいいのさ。

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そして近所に住む彼女の娘を見張りに付ける事にした。

勝手に買い物なんかさせないように。

朝6時には来る様に、夕飯は娘家族も一緒に。

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しまった!娘家族は食費も入れないんだった!

こりゃ嫁の口から食費を寄越すよう言わせなきゃ。

まだ若い嫁を言いくるめて娘に食費の話をさせた。

気性の激しい娘は案の定、嫁を怒鳴る。

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「アンタが流産とかしないように見に来てやってんのに食費とは何だ!!」

嫁は、アタシが言いつけたように忠実に催促する。

「夫の収入だけでは、足りませんから」

結局、金は入れないけど嫁が何とかするから任せておこう。

アタシは小遣いが減らなきゃそれでいいんだから。

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ある日、嫁と息子がアタシの部屋に来た。

「俺達、アパートに引っ越すからさ」

引越しの日には、嫁目掛けて塩ぶっかけてやったよ。

アタシを置いてくなんて、ロクでもない。

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なにが『大きな蜘蛛が!』だよ!

なにが『大きなゴキブリ』だよ!

全部アタシが始末してやってたじゃないか。

ココじゃ赤ん坊産めない?フザケロってんだ。

覚えてろよ。。あの嫁。。

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里帰り出産も禁止した。

そして1ヵ月後、嫁は出産した。

彼女は、嫁の産後の面倒を見ると言っていたが実際は違っていた。

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出産から数時間後、嫁がお茶を飲むかと聞いてきた。

なので、お茶を淹れて貰って時代劇を見てた。

食事は、看護婦が運んでくるし問題ない。

退院の日になったら、蛋白尿が出たらしく

医者は帰せないと言う。

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これ以上入院費がかさんだら大変なので、おんぶしてでも連れて帰ると粘ったら、何とか帰してくれた。

嫁と赤ん坊をアパートへ戻し、息子と二人で役所に届けに行った。

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市役所から支給される「出産祝い金」これを息子の目を盗んで、パクった。

彼女の娘は当時3人の子持ちだった。

「祝い金」が出ることは知っていたが、息子は知らない様子だ。

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これから床上げまで、面倒見てやるんだから。

そんな気持ちだったんだろう。

幸い、嫁も初産でしばらくは外出も出来ないし、バレないだろう。

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彼女は、真冬のさなかに出産した嫁に何でもやらせた。

口癖は「アタシの時は、次の日からバリバリ働いてた」だった。

布オムツも手洗いさせたし、三度の食事も嫁に用意させた。

洗濯も掃除も、全部嫁がやっていた。

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そしてやっと1ヶ月が過ぎた。

「そろそろ、アタシが見て無くても大丈夫?」

嫁は、色々ありがとうございました。と頭を下げた。

まぁ。。祝い金の20万も貰った事だしね。

彼女は息子夫婦のアパートを後にした。

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そして彼女は「嫁の面倒・・」で1ヶ月間の休みを貰っていた筈が、何の食い違いがあったのかクビになっていた。

怒り心頭で嫁の元を訪ねる。

「あんたのせいでクビになっちまったよ!どうしてくれんだい!?」

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嫁は困った顔をしていたが、彼女の怒りは収まらなかった。

「これから仕事見つかるまで、どうやって暮らせって?」

詰め寄ると、嫁は引き出しの中から祝儀袋を出してきた。

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「これ、実家からのお祝い金なんですが・・」

祝儀袋の中身から10万ほど渡してきた。

まだ嫁の手元には残ってる。

「これっぽっちで?」そう言いながら彼女は祝儀袋をひっくり返した。

(金 参拾萬円)と書いてある。

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「なに?30万も貰ったんなら、寄越しなよ。アンタの面倒、全部見てやったのはアタシなんだから」

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驚いた顔をした嫁だったが、彼女は、嫁の手から全ての札を毟り取った。

嫁は、それでおかあさんの気が済むなら。と奪われるがままになっていた。

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たまにお金が足りなくなれば、息子夫婦のところへ泊まりに行く。

上げ膳据え膳でもてなす息子夫婦。

ま~息子は元々何も言わないし、逆らわないからいいけど。

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嫁の作る夕飯は、気に入らない。

マグロの刺身も滅多に出さなけりゃ、鶏とキャベツの炒め物も滅多に出ない。

朝は卵焼きか目玉焼き作るけど。

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なので、ある日彼女は嫁の作った料理に一口だけ手をつけて箸を置いた。

「アンタの料理は、何食べても口に合わない」

息子も孫も黙って食べている。

彼女の一言は、無視された。

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反応したのは嫁だった。

「あら。そうですか?」と。

息子達に無視された腹いせで、料理を箸で突き回す。

コレだって味が薄いし、コレもそう。

何とか無理して食べれるのは、ほうれん草のソテーだけ

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ちょっと!アンタ達、こんなクソマズイご飯食ってないで、寿司でも食べに行こうよ?

アタシがご馳走するからさ!

そう言った途端、孫が言った。

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「おばあちゃん?じゃ食べるのやめたら?てか、そんな事言うなら帰れば?」

孫さえ憎たらしい。

どんな教育してんだか。

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嫁は平然としてる。

おかあさん?食べないとお腹空くでしょう?

お煎餅でも食べます?原料は同じ米ですし。

呆れてモノも言えなくなった彼女は、次の早朝に帰っていった。

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こうなったら、あちこちで悪口を言いふらしてやる。

彼女は仕事仲間や、長男夫婦、娘夫婦に嫁の悪口を吹き込んだ。

みんなが同情してくれるのがスッキリする。

あ~気が晴れるったら!

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それから何年も、散々嫌味をツラツラ言ってきたけど、嫁は全部受け流してしまう。

それが面白くなくてたまらない。

・・どうしてやろう?

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それから数年。。

彼女は年老いて、長男夫婦の元へ引き取られることになった。

だが、長年の一人暮らしが気ままだったため、同居が堅苦しくて仕方ない。

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元々、長男のケンちゃんの発言力は強い。

それに従って来たのも彼女自身だ。

長男夫婦には、正論でやり込められてしまう。

・・

ケンちゃんは仕方ないとして、その嫁に矛先が向いた。

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有ることない事、そこらじゅうに言いふらす。

以前、末っ子の嫁にしてきたように。

だが、誰もまともに取り合ってくれない。

それはそうだ。

長男夫婦の周りは知ってるからだ。

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あのお嫁さんが、そんな事するはずがない。

あのお嫁さんは、そんな言い草しないもの。

結局、誰も味方になってくれず、長男夫婦からも見放された。

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そして、末っ子の所へ舞い戻った。

彼女は、どんなに辛い思いをしてきたか、嫁に話して聞かせた。

だが、嫁も取り合わない。

「お兄さん達が、そんな事するわけないでしょ?」と。

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末の息子夫婦の所なら、上げ膳、据え膳で大事にしてくれる。

そう期待してたのに・・。

今までだって、ずっと彼女の事を優先してくれてたのに。

いつも黙ったままで何を考えてるか解らない末っ子さえも言う。

「母ちゃんが悪いんだぞ」と。

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彼女は、かつての嫁に対する仕打ちと心の中を打ち明け、頭を下げた。

「どうか、ここに置いてはくれないか?」

嫁は黙っていた。

息子は・・・・

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ここのどこに、母ちゃんの場所があるんだ?

家族3人で狭い思いして暮らしてるのに。

兄貴の所へ戻れよ。

それを聞いて彼女は血が逆流した。

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息子に向かって、怒鳴った。

お前を、ここまで育ててやった恩を忘れたかっ!

嫁に向かって、怒鳴った。

アンタの面倒、見てやったのに!

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それを聞いた嫁が、やっと口を開いた。

・・おかあさん?違うでしょう?

パパを育てたのは、中学を卒業するまでよ?

それに私の何の面倒をみてくれたんですか?

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産んでから、中学卒業までは、確かにおかあさんが育てたんでしょうけど。

そこから先は、パパはお兄さんや、おかあさんのために働いてきたのよ?

15~16年、育てたからって何が偉いんですか?

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アンタ達は、アタシの面倒見る義務があるって言うけど、そんなのどこにもナイんですよ。

お兄さん達には話しますから、帰ってくださいね?

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そこからまた一悶着があったけれど、彼女は長男の所へ渋々戻った。

彼女のネチネチとした嫁いびりは、結局尽きることがなかったと聞く。

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末っ子の嫁は、彼女の知らない間に息子と離婚してしまっていた。

彼女が長男夫婦の元へ戻ってから日の浅いうちに。

『今ならば、誰のせいにもせず、夫婦間の問題として処理できるのよ?』

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この先、もう少ししたら、私は誰かのせいにしてしまうから。

そう言って出て行った嫁。

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嫁が出て行ってから、もう5年が過ぎた。

その嫁の名を・・・沙羅という。

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ONSさん♪
初めまして(*^^*)
読んで下さってありがとうございます!!

実話しか書けない低能力ですので、ホント恐縮してしまいます(^^;
結構な言われようだったな~とかノホホ~ンと思い出してました。

また読んで頂けるようなものがありましたら、暇つぶしにお越しくださいませ♪

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おもしろく拝見させていただきました。
でも、実話だったとは!?
壮絶な経験ですね・・・。

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マガツヒさん♪
いらっしゃいませませ~~(*^^*)
何気、メラルー配色の方が好きな沙羅でございますwww

そのモナカの・・いや、最中の感情を教えて下さると嬉しいです♪

最近になって、角満さんの「逆鱗日和」の古いヤツ読んで笑ってますww
(あー頭の中、ぐちゃぐちゃだわ・・)失礼しました(ノ´д`)

アネキっすかぁ~~?いや~~照れるではないですか~アハハ~~♡
どのように呼んで頂いても、大丈夫ですよん(*'ω'*)

仲間さ~ん♪
やっほっほ~~(*^^*)

嫁・姑問題なんて、どこにでもある話ですし、姑いびりの嫁の話も聞きますんで(--;
こんなのUPするほどのモノじゃないんですけどね(^^;
ちょっと、他人事のように書いてみたくなっちゃってwww

引き込まれますぅ??キャハ~~~♡♡
嬉しい事言ってくれるじゃないですかぁ(*-∀-)ゞ
皆さんのように、想像を掻き立てられるようなモノが書ける才能が欲しいです(涙)

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そ……そうだったのか…………
なんて、壮絶な……
それにしても、嫁いびりするお母さんは中身が子どもだったんですね…
そして、そういった話しはドラマとか昼ドラとかでしか見なさそうなものを見ると…うわぁ………って感じが………

それにしても、前々から思ってましたが、他の視点から物事を書くの上手いですよね(*´ω`*)
他の先生に関しても上手いなぁ……と感心します
読んでいて引き込まれますもん(  ̄▽ ̄)