中編5
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ピラピラしたもの…

私は小学生になるとともに、書道のお稽古に通っていました。

母の教えで、「道」のつくものを習いなさいと言われ、

自転車で30分程の所にある、書道教室に週一で通っていました。

書道教室に行くまでには、大きな川にかかった橋を渡り、茶畑の間の車道を抜け、竹林を抜けていきます。

橋から、茶畑を抜けるまでは、家はなく、

竹林を抜けるまでの間は、

人通りは無いに等しく、山に挟まれた地形なので、昼でもうっすらとしており、

自転車で30分の距離を、小1から3年までは、これまた、母の教えで、自転車で通うことを禁じられ、歩いて通っていました。

初めの1度だけ、母の付き添いの元、行きましたが、そのあとは、1人で通う事になりました。

しかし、その地域から、学校に通っている友達もいましたので、待ち合わせをして、一緒に書道教室までの道を歩いていく…、というような感じでした。

行きは良い良い…とはよく言ったもので…、

行きは友達が一緒なので、話をしていればあまり遠さも感じず、あっという間に教室まで着くのですが、

帰りともなると、夕方5時を過ぎており、元々うっすらしている、竹やぶから橋までの間がとても嫌でしたが、そこを通らなくては、家に帰れません。

怖いから迎えに来て欲しいなんて、可愛いお願いが、共働きの両親に通用するはずもなく、

泣こうが喚こうが、とにかくそこを通らなくては、どんどん時間が過ぎて、真っ暗になり、動けなくなってしまうだけです。

お稽古に行った帰りは、いつも早足で下を向いて、竹藪から茶畑の間の道を歩き、大きな橋のある所までくると、三叉路になっていて、各道に街灯がそれぞれ1本づた建っています。真っ暗に近い道を、下を向いて歩く私には、だんだんその街灯に照らされて道が明るくなると顔を上げて歩き出す癖が付いていました。

ある雨の日…、お稽古が終わり、いつもの帰り道を歩いていました。

傘をさし、下を見て歩きます。

雨なので、いつもよりも暗く、また、薄気味悪さが増していました。

ただ、ひたすらに、私の足音と、雨の音が聞こえるだけです。

それでも、下を向いて歩いていると、

だんだんと道が明るくなってきました。

雨に濡れた道は、いつもよりも明るく見えました。

私は、ふと、顔を上げて前を見ると、

いつも顔を上げるよりもずっと手前であることに気づきました。

ちょうど、茶畑の入り口が見え、その少し奥に、大きな橋が見えています。

なぜか、しまった!と、思いました。

それと同時に、私はあることに気づいたのです。

茶畑の入り口の所には、

郵便ポストが置かれていました。

普段なら、下を向いて通り過ぎるあたりに設置されているので、

行きに見ることはあっても、帰りに私の目に入ることはありません。

雨と街灯の加減で、感覚がずれたのか、

早く顔を上げたその日、初めて帰り道で郵便ポストを見ました。

…見ました、と言うよりは、

目を向けてしまった…に近いかもしれません。

まだ、街灯からは少し距離がある事と、すぐ横に植えられた渋柿の木の枝で、郵便ポストは、上の方は影になっていました。

そのポストの投函口から、

白い…

ピラピラしたものが、

はためいているのが目に映りました。

何なの、あれ…

白く、上下にはためくそれを見て、

誰かが手紙を投函し損ねたのかとも思ったので、そばに行ってちゃんと入れてあげようかと思ったのですが、

足がそちらに向きません…。

ポストは帰り道の左側にあるのですが、私はなぜかどんどん道の右側を歩きます。

ポストから目を離す事が出来ず、

なぜか、ちゃんと見ないといけないと思い、目が離せないのです。

近づくにつれ、

私が手紙だと思っていたものが、

だと、わかりました。

ちょうど、手首の先が投函口から出ているような状態です。

ふわり、ふわりと上下し、

まるで、こちらにおいでと呼んでいるかのようでした。

目の悪かった私は、それが手紙がピラピラしているように見えていたのです。

怖いのに、帰りたいのに、私はそれをしばらく見ていました。。

その手は、

上下にはためいたこと思うと、

力なげに拳を握るような動きをします。

また、はためいているその状態も、風にあおられているようなものではなく、

意志を持ってそう動いているようでした。

やがて、

その手が、指先だけを曲げ伸ばしして、

空を掻いているような、おいでと呼んでいるかのような動きをし始め、

さっきまでの力なげだった様子と変わり、

動きがしっかりして来たと感じた時、

お化けじゃない…、大丈夫、

帰ろ!

と、大きな声で言い、、

走る事はせず、帰りました。

なぜか、怖がってると気づかれてはいけないと思ったのです。

それに、最初に気づいた時よりも、怖さは無くなっていました。

平然を装い、いつもなら、帰り道に父の仕事場に寄るのですが、それもせず、

まっすぐ家に帰り、玄関の前で、

付いて来たなら、帰らないとばあちゃんが怒るからね。と、

誰に言うでもなく呟き、

ただいまぁという代わりに、

ばあちゃぁ〜ん

と、ばあちゃんを呼びながら家に入って行きました。

ばあちゃんは、

迎えに行ってやればよかったね、

1人でかしこいね、ちゃんと帰ってこれた

と、毎週のように言ってくれてましたが、

この日に限っては、

すぐお風呂に入りな、後でお神酒持って行ってあげるよと、言われ、

すぐさま、お風呂に入りました。

頭を洗っているところにばあちゃんが来て、

家の神さんのお神酒譲って貰ったから、

頭からかぶりなさい、

と言って、柄杓一杯、頭からかけられました。

お風呂から上がり、ばあちゃんに、

事のすべてを話し、

あれ、何だろう?

と、聞くと、

化けて出て、からかわれたんだろうね。

あんなとこ、あの時間歩くのあんたくらいでしょう。

前から、見られてて、からかわれたんだわ。

と言い、

もし、次見たら、

連れておいで?

と、新しい友達でも出来たかのように言われました。

えっ?!

また、あれ、いるの?

あの道、歩きたくないよ。と、

言うと、

はははと、笑い、

大丈夫、大丈夫、

あっちもきっと子供だから

と、言われました。

結局のところ、はっきり正体がわかる事はありませんでしたが、

私は、どうやら、

山の何かに、からかわれていたのだそうです。

それ以降、ピラピラしたものが私の眼の前に現れる事はありませんでした。

そして、私は…、

あんなに怖かった竹藪から茶畑の抜け道が

何も怖くなくなりました。

もし、私をからかったものが子供だというなら、

ずっと私を見てて、からかったというのなら、

一度でいいから、ピラピラしたものの正体がどこかからまた、私を見ていたりしないか、

子供だというのなら、

どんな子なのか見てみたいなと、単純に、

好奇心が勝ったのでしょうね。

結局、小学校卒業まで休む事なく通ったお稽古でしたが、

あれきり、会う事はありませんでした。

「見えるもの」が、「あるもの」とは言い切れないと、

日頃からばあちゃんに聞かせれて来て、

初めてそれを目の当たりにした出来事でした。

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小夜子さん!コメントありがとうございます。
怖かったと言って頂けて、嬉しい限りです。
やはり、子供の頃の「暗闇体験」は、幾らかのトラウマになり得ますよね^_^;
ただ、私の場合は、この一件以来、その道に関しては怖くなくなって、逆にあちこちキョロキョロ見回しながら帰っていました(´Д` )笑
あくまでも、この道に関してという事で、

父にお仕置きされて、山の中に放置され車で走り去られるという…拭い去れないトラウマがありますので、他の山道は今でも怖いです(´Д` )笑

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