中編5
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夢占いの男…

私が小学校4年生くらいの時でしょうか…。

バァちゃんと、私の家で、2人で留守番をしていた日のことです。

玄関から、

「スミマセェーン。コンニチハァ。」と、

片言の日本語が聞こえました。

バァちゃんは、裏庭の方で、洗濯物を干していましたので、

代わりに私が、

はぁい、と返事して玄関に行きました。

…そこには、

浅黒い肌の、目の大きな、痩せたお兄さんが立っていました。

外国の人だ…。

当時の私は、それくらいの表現しか出来ませんでした。もちろん、英語も話せませんし、聞き取ることもできません。

「…こんにちは。」

私は、お兄さんから目を離さず、挨拶を返しました。

お兄さんは、

なぜか私が…、というより、子供が出てきた事に驚いている様な顔をしていました。

そして、何も言わず、あちらもまた、

私をジッと見ているだけです。

どれ位、お兄さんと見つめ合っていたのか、

「どうしたの?誰が来たの?」

バァちゃんの声で、

私もお兄さんも、ハッとなり、

私はバァちゃんに、

「外人のお兄さんなんだよ?こんにちはしか言わないの。」と言い、

バァちゃんにバトンタッチしました。

バァちゃんは、玄関に出る際、ほうきを手に持って、

「何ですかね?私もコトバがわからないのよ?」と、

お兄さんに言いました。

お兄さんは、バァちゃんが出てきたのを見ると、

持っていたカバンを開けだしました。

私は、何が入ってるのか気になり、

バァちゃんの後ろから、コソッと覗いてみると、

…本でした。

文庫本で、表紙がとても綺麗な本でした。

大きく、

『夢占い』

と、題うってありました。

私は、本の虫の様な子でしたので、

その、表紙の素敵な本が欲しくなりました。

表紙の絵は、色んな色を使って、不思議な絵がたくさん書いてあるものでした。

たくさんの本を持っていましたが、

そんな表紙の本を、私は持ってはいませんでした。

お兄さんはどうやら、その本を売って回っている様でした。

「ヒトツ、1000エンデス。」と、

わたしの本を見る視線に気づいたお兄さんは、

1冊取り出してわたしの前に、差し出してきました。

今まで、見せることのなかった笑顔で…。

その笑顔は、口はにこやかに開いていますが、

目は…、ギョロっと…、

見開いていて…、

私は、お兄さんが怖くて、サッとバァちゃんの陰に隠れました。

バァちゃんを見上げると、バァちゃんは本など見ておらず、ずっとお兄さんを見ていました。

バァちゃんは、

「それを買えって?何なの、この本は?」と

質問しますが、

お兄さんは、しつこく、バァちゃんの陰に隠れる私に、本を見せながら、

怖い笑顔を向けてきました。

バァちゃんが、

「にゃにゃみ…、

ばあちゃんの小銭入れ、取っておいで。」と、

私を家の中に押しました。

私は、バァちゃんの言う通り、小銭入れを取って玄関に持って行こうと思いましたが、

「500円玉2枚だけちょうだい。」と言われ、

玄関から、家の中に手を出し、顔はずっと、お兄さんに向けられていました。

私がお金を渡すと、

バァちゃんはお兄さんが手に持ってる本を、

バッと取り、

500円玉2枚を、お兄さんのカバンの中に、ポイっと入れました。

そして、

「買ってやるから帰りな。

他には行くんじゃないよ、警察に電話するからね。」と言ったのです。

お兄さんは何か言いかけましたが、バァちゃんが

「早くどけな。掃除出来やしない。」と言うと、ほうきで、雑に玄関を掃き始めました。

砂埃が立ち、お兄さんは慌ててカバンを閉めて、

「バァイ」と

言い、帰って行きました。

バァちゃんは、私に、塩を持ってくる様に言い、

玄関に塩をまいて掃除し、

玄関の入り口に、塩の山を作りました。

そして、

家に入ってくると、

塩水を作って、うがいをし、私にもうがいをさせました。

「さっきのお兄さん、すごく怖い顔で笑ったね。」と私が言うと、

「顔は見てないけどね、

あんまり良くない人だね、あれは。」とバァちゃんは言いました。

目を合わすのが嫌で仕方ない男だったよと…。

それに、頭も変な渦が巻いてたしねと…。

変な渦?何それ?

私は、あのお兄さんの笑顔が強烈で、他を見る余裕は無かったので、

何か髪の毛が特徴的な人だったのかと思ったのですが、

バァちゃんは、

「ぐるぐると、頭の左右に、黒いもんがとぐろ巻いて…、

うねりながら、ぐるぐるぐるぐるしてた…。」と言うのです。

ヘビみたいなやつ?と聞くと、

「いやぁ、そんな、これって例えるもんがないねぇ。

真っ暗の煙みたいなもんだわ。

気持ち悪かったわぁ。」と…。

どうしよう、バァちゃん。

そんな気持ち悪い人から、本買っちゃったよ?と言うと、

「あー、読んでも平気だけどね。

あんまり真面目に読むんじゃないよ。信じてはダメだよ。

夢なんてもんはね、こんな風に本にできる様なもんじゃないんだよ。

見た人間にしか、わからないんだ。

見た人間すら、その時に全てわかるわけではないんだよ。

だけど、あっ、これ夢で見たなとか思うことで、自分で気づいて身を守ってるとこもあるんだよ。自分で気づくのが大事なんだよ、夢は。」と言いました。

わかったと返事して、本を見ました。

先ほどまで、あんなに素敵に見えていた本が、

とても、適当な代物に見えて、

見たことないと思ったその絵も、とても安っぽく見えたのでした。

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その出来事から、何ヶ月かした、ある夕方。

部屋で宿題をしていた私を、バァちゃんが呼びました。

「見てみな、この顔。」と、テレビを指差します。

そこには、

あの怖い笑顔のお兄さんが、映っていました…。

「あの本は、この男のでっち上げだとさ。

それを、ちゃんと研究されてる本だと売り歩いてたんだってさ。

あの本、明日、警察へ持って行ってくるよ。」

私は、バァちゃんに、本を預け、

『夢占い』は、私の手元から離れました。

しかし、夢の中に出てくるあの怖い笑顔のお兄さんは、しばらく私とバァちゃんに、

うなされる夜を与え続けたのでした…。

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のんちゃんさん、コメントありがとうございます。

自分の気持ちのモチベーションアップに繋がるのなら、それも良いでは無いかなぁ〜と思うくらいですねぇ。
自分の出来事全て、それに当てはまるかといえばそうとも言い切れないですし、取り方によっては…と、微妙なもんですもんね(´Д` )笑

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