中編4
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ある雨の降る夜。

ザァァァァァァァ......

ザァァァァァァァ......

キュッ......

キュッ......

ギュッ......

キュッ......

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叩きつけるような土砂降りの雨。

車体にぶち当たる雨粒の音と、フロントガラスを流れ落ちる雨水を払うワイパーの音だけが車内を満たしていた。

数十分前、俺は上司からの電話で叩き起こされた。

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「もしもし。。。」

『おう、杉本か。夜中に済まないな。』

「。。。どうしたんすか。。。」

まだ半分眠りこけている頭で、かろうじて訊く。

『夜勤メンバーに木村入ってただろ?まだ現場入ってないらしいんだけどよ。』

「。。。はぁ。。」

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『何度電話しても、連絡つかねぇんだよ。

お前、なんか知らねぇか?』

「。。。いや、俺は知らねぇっすけど。。。」

俺は今日は日勤だ。

夜勤のメンバーの所在なんぞ、知るわけがない。

そんな事で起こされた不満で、俺はすこぶる不機嫌になった。

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『すまねぇんだけどよ、お前ちょっと木村のアパート見てきてくんねぇか。』

「は?今からっすか?」

時計を見る。

もうすぐ23時になろうとしている。

マジかよ。俺明日も朝早えんだけど。。。

しかし上司に逆らうわけにもいかない。

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「わかりました。ちょっと見てきますよ。」

『おう、すまんな。俺も今現場に向かってるとこでよ、お前しか頼めねぇんだ。よろしく頼むわ。』

ブツッ。

俺はガシガシと頭を掻きながら部屋を出た。

外は傘も役に立ちそうにないほど土砂降りの雨。

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「マジかょ。。。」

なるべく濡れずに済むように、小走りで車に乗り込むと、暗い夜道に走りだした。

ワイパーをMAXでかけても前が見えないほど激しく降る雨に、俺はほとんど徐行状態で進んでいった。

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木村のアパートは、辺鄙なところに建っている。

酒とギャンブルで宵越しの金を持たない主義の木村は、

安さ重視でそのアパートに引っ越したそうだ。

俺達の住んでいる街ももともとが田舎だが、木村のアパートのある場所は更に田舎だ。

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山をしばらく登った、街灯も民家もないような、不気味な場所だ。

こんな夜中に、できることなら行きたくないような場所なのだ。

そこに今、俺は上司の命令で向かっていた。

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どれくらい走っただろうか。

真っ暗な山道をヘッドライトの明かりだけを頼りに進んでいると。

かなり前方に、ぼんやりとした赤い光が揺れているのが見えた。

「ん?なんだ工事か?」

つい独り言を呟く。

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外は土砂降りの雨。

ヘッドライトがあると言っても、街灯もない山道で、

濡れたアスファルトにライトが反射して、あまり視界は良くない。

道から逸れないように慎重に走りながら、

ゆっくりとそれに近づいていった。

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雨合羽を着こみ、俯いて誘導棒を振る、交通警備員。

「こんな夜中に、ご苦労様だな。」

ボソリと呟くと。

ゆっくり弧を描くように警備員を避けながら通り過ぎた。

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ザァァァァァァァ......

ザァァァァァァァ......

キュッ......

キュッ......

ギュッ......

キュッ......

この辺だったっけか?

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確か、山道をしばらく走っていると左手に横道があるはずだ。

そこを登り切ったところに、木村のアパートはある。

しかしこんなに走ったっけ?

朧気な記憶を辿る。

はるか前方に赤い光が揺れている。

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「?また工事か?」

近づいていくと、雨合羽を着こみ俯いて誘導棒を振る交通警備員。

俺は無言で横を通り過ぎた。

なんとなく、気味が悪い。

ていうか、警備員はいるのに、工事している様子もない。

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真っ暗な土砂降りの山の中、何もない場所で誘導しているようにしか見えない。

俺は沸々と湧き上がる嫌な想像を振り払うように頭を振った。

また、前方に赤い光。

俯いて誘導棒を振る警備員。

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なんでだ。

工事現場なんてどこにもない。

アイツは何の為に誘導してるんだ。

木村のアパートに続く横道はどこだ。

なんでいくら走っても辿り着かない。

俺はどこを走ってるんだ。

俺はどこを。。。

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shake

「ああぁぁあぁあぁぁあ―――――!!!」

俺の中の何かが弾けた。

絶叫しながらハンドルを握りしめ、アクセルを踏む。

繰り返し繰り返し現れる警備員に、もう気が狂いそうだった。

その時。

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前方に、オレンジ色の2つの光が規則的に点滅しているのが見えた。

―――車?

藁をも縋る思いで後ろに停車した。

見覚えのある、ボロい軽自動車。

―――これ、木村の。。。?

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恐る恐る車を降り、近づいていく。

エンジンはかかっていなかった。

運転席側の窓から体を折り曲げるようにして中を覗くと、

「ひっ。。。」

小さな悲鳴が漏れてしまった。

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焦点の合わない目で前を見据え、ハンドルを握りしめたまま微動だにしない木村がそこにいた。

あまりに異様な様子に悲鳴が出てしまったが、

相手が木村である事を認識すると、

安堵する気持ちと共に怒りがこみ上げる。

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窓を激しく叩きながら名前を呼ぶ。

「木村!おい!お前何やってんだよ!仕事行かねぇのか!おい!」

反応がない。

真夜中に叩き起こされて、こんな土砂降りの山ン中延々走らされ、恐ろしい目に遭ってきた怒りで、

俺はキレまくっていた。

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「てんめぇ!返事ぐらいしろや!」

勢いよくドアを開ける。

「!!!!」

そこには。。。

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びしょ濡れの雨合羽を着て、誘導棒を握りしめた警備員が座っていた。

その顔が、ゆっくりと俺の方に向き始めていた。。。

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