中編4
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かごめ。-vol.2-

wallpaper:905

かぁーごめ。。。かぁごーめ。。。

かぁごのなーかの。。。とーりぃは。。。

いー。。つぅ。。いー。。つぅ。。

でーやぁるぅ。。。

よーあーけーの。。。ばぁーんに。。。

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散らばった銚子。

乱れた布団。

少し開けた障子にもたれ掛かってぼんやりとしていた夕子は、はだけた肌襦袢をつっと戻すと、

倒れた銚子をひとつ取り、逆さを向けて手のひらにとんとん、と叩いた。

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空になった銚子から、酒がひとしずく。

ぽたん、と落ちる。

それをぺろりと舐め取ると、またぼんやりと窓の外を眺めた。

布団の上には、先程まで夕子を我が物にしていた、中年の男がいびきをかいている。

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呟くように唄う夕子の頬に、涙が一筋つたっていった。

∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬

夕子がこの廓に来てから、もう何年経つだろうか。

親に売られ、恐怖と心細さで幾夜も涙で枕を濡らした。

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水揚げの日には、自分の体が汚れてしまったおぞましさで、一晩中吐き続けた。

血に濡れたうちももを、手ぬぐいで何度も何度も拭った。

若い夕子は、瞬く間に人気を博し、夜ごと汚らわしい男の腕に組みしだかれた。

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女将さんの口癖は、

「お前には大枚はたいてるんだからね。しっかり稼いでもらうよ!」。

風邪をこじらせても、一日たりとて休ませては貰えなかった。

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里のおっかぁとおとうの為。

小さい弟達の為。

歯を食いしばりながら堪えてきた。

里へ書いた便りは、ただの一度も返事が来たことはない。

それでも、便りがないのは元気な証拠と、自分に言い聞かせてきた。

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そんな夕子も、優しくしてくれる姐さんが何人もいた事が、せめてもの救いであった。

幾度も幾度も辛い夜を重ね、「いつか借金を返して里に帰るのだ」と語る夕子の頭を、そっと撫でてくれたりしたものだった。

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ある日。

姐さん達といつものように、いつか里に帰る夢を語っている時だった。

「夕子。お客さんだよ。」

冷たく抑揚のない声で、女将さんに呼ばれた。

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小さくため息をつきながら部屋を出る夕子の後ろ姿を、

「頑張っといで。」

姐さん達の優しい声がふわりと撫でる。

「。。。あい。」

短く返事をすると、夕子はそっと襖を閉めた。

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すたすたと前を歩いていた女将さんが、ふっと足を止める。

「?」

俯いて歩いていた夕子が顔を上げると、少しこちらに顔を向け、女将さんが言い放った。

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「お前、姐さん達に里に帰るなんて話をしてたみたいだけど、叶わない夢なんて見るもんじゃないよ。お前はこっから出る事なんてできゃしないんだから。」

「。。。え。。。?」

夕子の体が小さく慄える。

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「いいかい?お前のお里にはね、あれから後もずっと金を用立ててやってんのさ。お前がいくら稼いだところで、借金は増えるいっぽうさね。おっかぁとおとうの為に、お前は死ぬまで、ここで黙って股を開いときゃいいのさ。」

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そんな。

減るどころか増えてるなんて。

ここを出る日を、指折り数えて堪えてきたのに。

死ぬまで。。。

死ぬまでおらは、こっから出られねぇ。。。!

夕子の小さな胸を、絶望が埋め尽くした。

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何の為に堪えてきたのか。

こっから出られねぇんなら、もう生きてる意味なんて_________。

「ほら!なにぐずぐずしてんだい!お客さんは待ってんだよ!さっさとしな!」

女将さんはそう言うと、夕子の背中をぐい、と押した。

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男の荒々しい愛撫を受けながら、夕子は呆然と天井を眺めていた。

どんなに屈辱的な仕打ちをしても、泣きも喚きもしない夕子に、男は苛立ちを募らせる。

これでもか、これでもかと、陵辱の限りを尽くす。

しかし人形のように横たわったままの夕子。

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男は頭に血がのぼり、思わず夕子の細い首に両の手をかけた____。

その時初めて、夕子が男の目を見据えた。

「どうした。怖いか。泣いて詫びたら許してやらんこともないぞ?」

男の言葉に、震える両手を男の腕にそっとあてがい、夕子は囁いた。

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「このまま。。。もっと強く。。。ああ。。。もっと。。。もっと強く。。。!」

恍惚とした夕子の表情に、男の興奮は昇り詰めていく。

激しく突き入れながら、強く、強く、その細い首を締め上げる。

夕子の爪が、男の肌に食い込み、血が滲む。

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ああ。。。おっかぁ。。。おとう。。。すまねぇ。。これで。。。これでやっと自由になれる。。。

許して。。。許してくれな。。。

男が果てるのと同時に、細い腕がぱたりと落ち、夕子はついにこと切れた。

やがて我に返った男は、慌てて女将さんを呼んだ。

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「お客さん!なんて事してくれたんだい!この子はうちの稼ぎ頭だったんだよ!はした金なんぞじゃ済まないからね!」

女将さんが鬼のような形相で捲し立てると、男は懐から金子を取り出し、女将さんに無言で差し出した。

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「。。。こんな事はこれっきりにしてくださいよ。あの子達はうちの商品なんでね。」

それだけ言うと、女将さんは男を送り出した。

∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬

夕子は、男と行為の最中に胸を押さえて苦しみだし、そのまま死んだ事にされた。

突然の事に、姐さん達の悲しみは深かった。

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葬儀もなく、そのまま埋葬された夕子の体は、死してなおお里に帰される事はなかった___。

夕刻。

誰もいない夕子の寝間に、小さな唄が聞こえてくる。

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かぁーごめ。。。かぁごーめ。。。

かぁごのなーかの。。。とーりぃは。。。

いー。。つぅ。。いー。。つぅ。。

でーやぁるぅ。。。

よーあーけーの。。。ばぁーんに。。。

つーるとか。。めがすぅ。。べった。。。

うしろのしょ。。めん。。だー。。ぁれ。。

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________FIN________

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ともすけさん、コメント怖ポチありがとうございます♡
お礼が大変遅くなってごめんなさい。百物語のノルマを必死に書いていました(笑)

釘付けになるくらい好きだなんて、めちゃめちゃ嬉しいお言葉をありがとうございます♡

まりかさん、夜分に失礼しますm(_ _)m

これは… 切ないレベルではありません。。
夕子さんの全ての思いが伝わってきました。
いつも大したコメントは出来ませんが、まりかさんのお話は釘付けになるくらい好きです(^^)

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まみちゃん久しぶり♡

悲しい気持ちにさせてしまってごめんね(。•́_•̀。)

そしてアタシの作品を少しでも多くの方の目にとまるように、コメを隠さずに投稿してくれてありがとう(*´艸`*)

まみちゃんの気遣いがとても嬉しい。:°ஐ*。:°ʚ♥ɞ*。:°ஐ*
ホントありがとう♡

そしてやっぱり一時保存すると投稿日が狂うんだね(笑)

次から気を付けなくちゃ(笑)

番長、アタシは幸せになれるお話が苦手なのだよ。。。

書いているとほぼ100%不幸せになるお話になってしまうのだよ。。。

そして番長は褒めすぎだ!www
調子に乗るから褒めちゃダメwww

まりかちゃん…もう、切なすぎです。
でも、これは完璧フィクションでなかった時代や女性がいたのも事実ですよね…
この時代のこういう女性を思うと、いつも切なくなります。

私の大好きな作家さんも、作品を一時保存(?)して投稿すると、投稿日が狂うと仰ってました。
私のこんなコメントでも、コメント欄からまりかちゃんのお話しが出てると知って、読んでもらいたいので、ネタバレは押さずにコメントさせてもらいます。
営業妨害になったら、ごめんなさいね。

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怖いを押しましたが怖いと言うか切ないと思ったので押しました。
昔はそんな事がよくある事で済まされる世の中だったのでやはり下手な幽霊より人が一番怖いと思いました。

マガたん。姉ちゃん日本語が最近理解できなくてねぇ。

ちょっと小さい子に話すみたいに噛み砕いてくれないかい?

え?できないって?

へえ。。。そうかいそうかい(ΦωΦ)フフフ…

ふ、おっちょこちょいだな、まりか姉さん…

再び湧いて出ました、マガツヒです。
姉さん、それは買い被り過ぎですよ。男はみんな獣、ビーストざます。騙されたらノンノン♪かくゆうミーも一旦欲望にイグニッションすれば愛のメルトダウンでオーバーラン、通った跡に残るのは愛の焼け野原…

日本語話せよ

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マガたん(*´艸`*)
おんおん泣いちゃうマガたんが可愛くて仕方ない姉ちゃんだよ(笑)

そう。アタシが断言するほど、救いがないのよ今回は。
実はほぼリアルだよ。こんな話はきっと廓にはゴロゴロ落ちてるよ。
今の時代、

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