中編3
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中学生の時の話だ。

夏にしては涼しい、月夜。

私は夜中に、ふと、目を覚ました。やけに月の光が明るく、青白かったのを覚えている。

「ん……?」

首元に、違和感。

ああ、この形は腕だ。私の首元に、誰かの腕があるのだ。

最初は、隣で寝ている父の腕かと思った。が、どうやら違うらしい。こちらに背を向けて眠っている。

相変わらず喧しいいびきだ。

では、反対側に眠っている妹だろうか。こちらも違うらしい。ひどい寝相だ、障子に片手で穴をあけている。朝起きたら母に文句を言われることだろう。

……あれ。 

sound:20

じゃあ、この腕は誰の腕だ。

いやに目が冴えている。視界がクリアで、意識もはっきりしている。

不気味なほどに冷静な思考。私は、首元の腕にふれた。

冷たい。

music:4

家族を起こさないように、ゆっくりと体を持ち上げた。そして、見る。

しろく、ほそく、うつくしい、おんなのひとの、うでを。

恐ろしくはなかった。

ただ、きれいだと思った。

肘の関節までの腕が、枕元に転がっている。

おもむろに、指を、柔らかい肌にあてがった。

なめらかな、ひふ。

なぞる。ひふを、ゆっくりと。

切れている。やはり、肘の関節までしかない。

なんだろう。この腕は。

妹の頭上に目をやると、もう一本の腕があった。私が触れ、さわっている腕とは逆の腕だ。

ああ、あつまっているのか。

布団に埋もれている足の方に目をやる。

きれいなあしが、ころがっていた。

二本。折り重なるように。膝の関節までのあし。

切り口が、きれいだ。

きれいだ。

うつくしい

しろい

体。

考える。この後現れるのは、胴体か頭だろうな。

頭……?

それは、ちょっと、いや、かなりお会いしたくない。

私は、とりあえず腕を持ち上げ、移動させた。そして、毛布を頭をかぶる。

易々と寝られる状況ではなかったが、そこは意地だ。

ほとんど無理矢理、自己暗示に近い形で私は眠りについた。

そして、朝。

私は思い出すのだ。

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あの腕に出会ったのは、初めてではない。

思い出して驚愕し、ぞっとした。

あれは、そう。

小学一年生の時の話だ。

「ねぇ、かくれんぼしようよ」

面倒見のいい、小学六年生のSくんと、私と、私の妹と、Sくんの弟とで、かくれんぼをしていたときだ。

私はじゃんけんに負けて、鬼になった。

いちからひゃくまで律儀に数えて、私は学校内を探索し始めるのだが。

体育館と、校舎の非常階段の近くに差し掛かったとき。

みつける。

壁から、手招きするように生えている、腕を。

ああ、

つかまえなくちゃ。

わたし

わたしおにだから、つかまえないと

はやく

はやくはやくはやくはやく

「ッ――」

「どうしたの……?」

Sくん。

Sくん、ねえ。あれ。

指を指す。

「ねえ、あそこ、うでが……あれ?」

「何もないよ。大丈夫……?」

「……だいじょうぶ!きのせいだった!」

気のせいだった?

あの、腕が?

あの腕は、明らかに私を呼んでいた。

後で妹たちに聞いてみたが、そんなところには隠れていなかったし、第一なぜかくれんぼなのにわざわざ見つかるようなことをする必要があるのだ、と怒られた。

Sくんがこなければ、私は。

あの腕を捕まえにいっていたかもしれない。

あの腕を、あの腕に触れてしまったら私は、どうなっていたのだろう。

私の寝床に現れた腕は、私を迎えにきたのだろうか。

それとも、もうつきまとわないと宣言しにきたのだろうか。

真意はわからない。

なぜなら、腕はしゃべれないから。

ただ、あの日以来。

小学生のとき、あの腕を見たとき以来、ときたま、オカシナことが起きるのは

気のせいではないのかもしれない。

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