中編4
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児童養護施設の話

私は児童養護施設出身だ。

今日は児童養護施設で会った子の事を書く。

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東京都のあるマンション。

そこに明日香は住んでいた。

お金はいくらでもあった。

母は夜鷹で父はイラン人の薬の売人だったからだ。

「いいなぁ……」

明日香は黄色い帽子を被り、赤いランドセルを背負った子を見てため息つく。

明日香は9歳。

通常の子供なら小学3年生の年頃だが明日香は小学校には行っていなかった。

健康だったし、知力に問題があった理由でもない。本人は行きたかったがどうしたら行けるのかもわからず、テレビの中の学校の話を眺めながら「学校に行けるのは特殊な子達だけなんだ」と思っていた。

明日香は出産届けも出されてないし、国籍的にも居ない存在だ。

それは明日香だけではない。

明日香のまだ1歳にも満たない幼い弟、マジアルも同じであった。

明日香はよく家で働いた。

小さな体で風呂掃除をし、トイレ掃除をし、重たい掃除機を引き摺って家中掃除をしたし、薬局に行っては大きなオムツや重たいミルクに苦戦しつつ家へと持ち帰った。

炊事以外の家事は子育ても含め、全て明日香がこなした。

父も母も寝る時とセックスする時以外帰って来なかったし、帰って来て汚ければ父は明日香を殴るのだ。

ある日の事だ。

明日香はテレビで学校へ行くのが当然なのだと知り、ショックを受けた。

「お父さん、私学校に行きたい!」

父は明日香の頬を平手で殴った。

「お前はバカだからそんな所に行っても勉強なんて理解出来る訳がない!」

薬でハイになった父は「でもテレビで子供は学校に行くのが当然って言ってた!あたしも行きたい!行きたい!」と泣きじゃくる明日香を何度も蹴り、踏み付け、その細い腕を握って風呂場に無理やり引きずり込むと包丁で何度も刺した。

「きゃあぁぁあ!」

母親が猫の餌を買って帰ってきた時には明日香は風呂場で血だらけになって意識が朦朧としていた。

母親は慌てて救急車を呼び、父親は逮捕、マジアルと明日香は保護された。

不幸中の幸い、明日香は母親が発見したのが早かったのと太い血管や内臓は奇跡的に無事だったので特にこれといった後遺症もなく、痛々しい傷の痕が残っただけで助かった。

しかし、施設に入った後も課題は残った。

彼女には戸籍も無ければ学も無い。

掛け算割り算どころか数字も読めなかったので小学3年生の通常の学校に行かせるのは不可能だった。

そこで選ばれたのは知的障害者の通う学校。

彼女はそこで小学校と中学校を過ごした。

が、卒業と同時に壁にぶち当る。

彼女は知的障害を持ってなければ精神障害も無い。

障害者の学校へは行けなかった。

明日香は職員と話合い、本来私立は高額過ぎてダメなのだが特例として以前から気になってたというトリマーの学校に入学し、卒業してペットショップへと就職した。

私が高校1年の時だ。

明日香は2年ぶりに施設へと来たがその表情は鬱々としたものであった。

「どうしたの?」

おもわず私がビックリして尋ねると彼女はペットショップの裏側について語った。

それは恐ろしいものであった。

彼女の就職した先は犬と猫専門のこじんまりした所であった。

だが…

入荷する犬や猫は幼すぎてすぐに弱ったり

元々病気を持ってたりする事が多々あった。

店長はそういった子達をゴミ箱に放り込んで放置し、殺すように命じた。

また、客も客で何も勉強せずにやって来て飼い方を聞いて来る。

躾の仕方を話しても「だったらそちらで躾して下さい。躾が終わったら引き取りに来ますんで」と言い出す始末。

ペットショップでの躾といっても限度があり、飼い主が気を付けないといけない面も多々あるというのにそれを言えば「勉強はめんどくさい。」「難しい話わかんない」「あ、じゃあ言う事聞かなかった保健所に連れて行くからいいや」挙句の果には「ペットショップで躾られないなら始めから売るな!」と逆ギレするという始末。

明日香は「それで疲れてペットショップ辞めちゃった……もうこの業界生きていく自信無いや……」

と語った。

「辞めちゃったって……お金はどうしてるの?」

ビックリして聞くと

「今は渋谷を歩き回ってるとナンパされるから食事に付き合ったりオジさんとホテルで寝たりしてる。まぁ、こんな傷跡あるから時々逆ギレされて怒られたりするけどね。」

と肩を竦めた。

それから約1ヶ月後彼女とは一切連絡が取れなくなった。

職員が電話をしても電波が通じず、手紙を送っても今は住んでないと返されたらしい。

虐待から救われても心の傷は確実に残るし経歴も付いてしまう。

児童養護施設に送られたからといって全ての子供が幸せになれる理由でも無い。

私自身、中学生になって寮を変えるまでは施設の職員に

「お前達は国の慈悲で生かされてる本当は生きててはいけない子なんだ!必要最低限の金以外使うな!」とノートや鉛筆等の文房具すら貰えなかった。

心無い子供の親は「施設の子供は皆悪い子だから友達になんかなっちゃダメ。」と子供に囁いた。

『虐待から救われて良かったね』

とんでもない。

虐待から本当の意味で救われる事なんて一生無い。

どうしても通常の家の子達とのズレを感じてしまうものだ。

現在日本で国籍の無い人間はわかってるだけでも五百人以上いる。

彼女も含め、その五百人全員が幸せである事をただ 願うばかりだ

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権ちゃん
そうなんですよ、児童養護施設も職員によって罵詈雑言浴びせて来ます。
また、大学に行きたい子は基本全額自己負担で行かないといけないので施設から出た後風俗堕ちする事も多いですし、施設側は何か用がない限り電話して来ず、職員の入れ替わりも結構激しいので子供も電話しようにも電話出来ずだんだん関係が廃れて連絡不能となります。
ほんとにシビアな世界です。

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最近ニュースで多い虐待や育児放棄で亡くなる子供が可哀想だ育てる気が無いなら産まなきゃ良いのにと思ったりするけど、さらにその先の施設や施設を出た後はあまり聞いたこと無いので勉強になりました・・・

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胸の痛むお話しです。

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