中編4
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『バレンタイン』

藤原君がおかしいと言うより俺のまわり全てがおかしいんじゃないか、と思い始めたのは一か月前のこと。

いわゆるバレンタインというやつだが、

残念なことに頬を赤らめてチョコレートを渡してくれるような女の子は俺の前には一向に現れず、

クラスメイトの女子たちが板チョコやチロルチョコをくれるだけだった。

空しすぎて死にたかった。

しかも、友人の藤原君はいかにも怪しい見た目なのに意外とモテるらしく、

下級生の女の子や違うクラスの女子からいくつか手作りチョコをもらっていた。

これより悔しいことなんかそうそうないと思う。

甘党な藤原君はチョコレートを有り難くリュックに仕舞い込み、時折授業中にコッソリ食べていた。羨ましい。死ねばいい。

そんな悪夢のバレンタインデーの終わりがけ、授業を終えた俺たちは帰り道を歩いていたのだが、

そのときに更なる悪夢が起きた。

彼女であるヒロミちゃんにチョコが貰えなくてブツブツ言う藤原君に、ちょっぴりざまあみろとか思っていた俺の前に、

突然女の子が走ってきた。

即座に俺のセンサーが反応した。

待ちに待ったチョコレートだ!!実際女の子は赤い紙袋を持っていた。

見たことはなかったが、ショートカットの可愛い女の子だった。

「あの、これ、貰ってください」

女の子はにっこり笑って俺にチョコレートを渡してくれた。

俺はニタニタしてうまく御礼も言えなかったが、女の子はペコリと頭を下げると走って行った。

「可愛い!!超可愛いね!!」

俺は喜々として藤原君に言ったが、藤原君はクソ面白くなさそうな顔で言った。

「でも残念だね。まだまだ●貞卒業は難しそうだよ」

なんでそれを知ってるんだ。てゆうかどういう意味だ。

そう問詰めると藤原君はニヤリと笑い、俺から素早く紙袋を奪ってチョコレートの箱を取り出した。

「なにすんだよ!!」

せっかくのチョコを奪われてマジギレした俺は取りかえそうとしたが、藤原君は器用に箱からチョコを取り出すと、

俺の目の前でチョコレートを二つに割った。

そしてそれを見て俺はゾッとした。

二つに割られたチョコレートから、まるで糸を引くように大量の長い髪の毛が出てきたからだ。

まさか今どきマジでこんな呪いみたいなおまじないをやる奴がいるとは…

しかも、ただのおまじないにしてはおびただしい量の髪の毛だった。

藤原君はアコーディオンのようにチョコレートで遊びながら、

「あれ、2組の山崎だよ。昨日まで髪長かったからおかしいなあと思ってね。

 僕のバイト先のオカルトショップに、呪いの方法聞きに来てたし」

と抜かした。

知ってたなら早く言えばいいものを、彼女に相手にされなかった八つ当たりとしか思えない。

大体そんなとこでバイトすんな。

しかも藤原君はチョコレートを大事に箱にしまい直すと、「面白いものがあったよ」と紙袋から手紙のようなものを出した。

そこにはただひたすら、

『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』

とあり、

二枚目の便箋には『あなたの子どもを産みたい』とか、『恋はいつしか愛に変わった』とか、ポエムなんかも書かれていた。

3枚目には意味不明な赤い手形。

怖い。気持ち悪いを超えて怖かった。正直こんなのドラマの中だけだと思ってた。

しかし不意に振り向けば、走って帰ったはずの女の子が遠くからじっとこちらを見つめていた。

捨てたら殺される気がした。

「どうしよう、どうしよう藤原君」

「さあ?面白いじゃないか。僕もお得意さんをないがしろにはしたくないし」

頼ってみたがあっさり相手にされなかった。頭の中で藤原君に死ねと何度も呟いた。

だが藤原君はまたニヤって笑うと、

「まあ、所詮は素人。返り討ちに合うだろうね」と言った。

俺は意味がわからなかったが、藤原君はそれ以上何も言わなかった。

俺ももう何も言う気力がせず、女の子の視線を背中に受けながら黙って帰った。

それから特に何事もなく数週間が過ぎたとき、例の山崎さんが転校していたのを知った。

バレンタインデーのすぐあとだったらしい。

彼女が転校するからと最後にチョコレートをくれて、ちょっとやりすぎてしまったのか、

呪いの返り討ちにあって転校するようなことになったのかはわからないが、

藤原君の何時にも増してニヤ付いた顔から思うに、後者のような気がした。

とにかくいろんな意味で恐ろしいバレンタインだったが、

ホワイトデーなのにお返しできる相手がいないこの事実がいちばん恐ろしい気もしている。

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