中編4
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拾った携帯電話

彼女と喧嘩別れした日の帰り道、携帯電話が地面に落ちているのを見付けた。今時珍しい二つ折りのガラパゴスケータイ。色は青で、落とされてからかなり時間が経過しているのだろう、塗装が所々剥げていた。

手に取って開いて見ると、ちゃんと起動する。待ち受けはペットらしき犬の写真。

落とし物なら、交番に届けるのが筋だろう。

けれど、住んでいるアパートはもう目の前。更に言うなら、交番はアパートから真逆の方向で、今は真冬。不貞腐れて飲んだくれていた所為で時刻はそろそろ十二時を回る。

・・・・・・明日で良いか。

俺は拾った携帯電話を上着のポケットに入れ、アパートへの道を歩き始めた。

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上着をハンガーに掛け、敷きっぱなしの布団に寝転がる。居酒屋を出てから一時間は経っている筈だが、まだ頭がふわふわとしている。飲み過ぎた。

この分じゃ明日は二日酔いだろう。まあいいか。どうせデートの予定も取り消しだ。一日ゴロゴロしていよう・・・。

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ピロリロリン♪

無音だった部屋に響き渡る電子音。彼女からか。

さっきは悪かったという謝罪か。復縁しようと言われたらどうしよう。本当ならすぐにでもyesと答えたいところだが、其れはあんまりにも格好が付かない。少し焦らしてみるのも良いだろう。いや、やっぱり直ぐに返事をした方が感じが良いかな。

勢いを付けて跳ね起き、スマホを確認する。新着メッセージ0件。

何だよ。違うのかよ。大きな溜め息を吐く。

いや、そもそもあいつ、連絡は基本lineでメールとか使わなかったもんな。

壁の上着を見遣る。ポケットには、さっき拾った携帯電話が入っている。

此れか。

ポケットに手を差し込み探る。携帯電話を取り出すと、ライトの部分が薄青く光っていた。

何となく開いて見ると、メールの題名が表示されていた。

《大好きなコウ君へ》

どうやら彼女からのメールらしい。そうか。こいつコウ君っていうのか。羨ましい奴め。

羨望と切なさの入り交じった感情で胸がヒタヒタになる。そうか。こいつには大好きと言ってくれる彼女が居るんだな。

ポチ

メールを開く。後から文句を言われるかも知れないが、持ち主を探すために読んだと言えば大丈夫だろうと思った。

差出人は・・・佐原ミユ。

様々な絵文字で飾られた文章。

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ーーーーー

大好きなコウ君へ(赤いハートマーク)

元気ですか?

最近大学に来てないみたいで心配です(眉をハの字にしたウサギの絵文字)

ずっとお家に居たらダメだよ~(しょぼんとしているウサギの絵文字)

コウ君は変わってしまったって他の人は言うけど、私は相変わらずコウ君のことが大好きです(頬を染め、ハートを出しているウサギの絵文字)

ご飯もちゃんと食べてないと聞きました。

前に風邪引いた時、私の作ったお粥、美味しい美味しいって食べてくれたよね。覚えてますか?

良かったら作りに行こうか?

いつでも頼ってね(少し勇ましい顔で笑うウサギの絵文字)

ーーーーーー

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ちくしょう。読んだら何だか無性にイライラしてきた。もういい。凄い返信してやる。嫌われてしまえ。孤独の苦しみを味わえ。

ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。

返信ボタンを押し、出てきた白い画面にありったけの罵詈雑言を書き込もう・・・とした。けれど、出来なかった。こういう所だ。こんな小心者だから、俺は・・・。

ポチポチと文字を打つ。

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ーーーーーー

ありがとう。

風邪を引いたみたいです。

来てくれると嬉しい。

ーーーーーー

・・・・・・これぐらいの悪戯なら、許して貰えるだろう。

送信ボタンを押す。

文脈から察するに、この携帯の持ち主は引きこもりらしい。道端に放置されてから時間が経っているらしかったし、落とした後に引きこもりになったのかも知れない。そして、羨ましいことにそいつには、そうなっても支えてくれる彼女が居るのだ。

・・・俺の彼女も、昔は俺を支えてくれていた。

我が儘も言ったし無理もさせたけど、ずっと俺の傍に居てくれた。

「ごめんなさい。もう、無理なの。」

今日だって、もっと色々言いたいことがあったのだろう。思い切り俺を罵りたかっただろう。

其れなのに俺は・・・・・・。

急に彼女が恋しくなった。

布団の横に放り出しているスマホを見遣る。

・・・・・・謝って、みるか。

今まで録に好きだとも言ってやれなかった。此れからは、大切にしよう。なんだか今なら、出来る気がした。

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ピロリン♪

lineの着信音。間違い無い。今度は俺のスマホからだ。

急いで画面を確認する。

映し出された《Miyu》という名前。彼女ではなった。そもそも、登録した相手ですらない。

Miyu・・・みゆ。みゆ。何かが気に掛かってメッセージを開いた。

ーーーーーー

こんばんは(^-^)/

返信してくれてありがとう(*´ω`*)

今日から君が私のコウ君だね(*/ω\*)

お粥作ってきたよ(^o^)

早 く ド ア を 開 け て 。

ーーーーーー

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ピンポーン、とチャイムが鳴った。

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光道進さんへ
コメントありがとうございます。

初めまして。怖話の末席を汚させて頂いて居ります。紺野と申します。この度はコメント有り難う御座います。

そうなんですか。同じ題名の・・・・・・。
パクりとかじゃないですよ。その話の存在すら知りませんでした。
でも、似たような話だったらと考えると少し心配です。

ラストは貴方のご想像にお任せします。別に丸投げした訳じゃないですよ。でも、自分で書くとどうにも陳腐になってしまって。

来道さんへ
コメントありがとうございます。

押し掛け女房は男のロマンですもんね。お気持ちは凄く分かります(笑)
因みに僕は人外も対応済です。
まあ、僕の場合人見知りなので、そんな女性が来てくれてもビビって録に会話出来ない気がしますが。

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仮に。
仮にですよ?
凄くかわいくて、裏がなく、純情無垢でおしとやかだけど行動派で、座右の銘が尽くします!で、メンヘラではなく、人間の女の子なら来てほしい(´・д・`)

mamiさんへ
コメントありがとうございます。

テスト前になると何故か新しい短編を思い付くんですよね。本当に不思議です。

文章から溢れる圧倒的な経験値の無さ・・・・・・。
謎の人生経験は嫌という程積んでいるのに、どうして恋愛経験値は貯まらないのでしょうか。此れもまた不思議ですね。

元ネタは手紙だったんです。相手に成りすました手紙をポストに投函したら、後ろから女の声がしたっていう。
メールやlineは直ぐ届くし、特にlineは既読マークが付くので少し扱いが難しかったです。

ずっと様子を伺いながらスタンバッてたのかも知れません。

そういえばmamiさんは水炊きとラーメンの県のご出身でしたね。そういえば此れ博多弁か、と納得致しました。
・・・・・・一応、一昔前の芸人の真似です。

はるさんへ
コメントありがとうございます。

不精せず、真っ直ぐ交番に届ければ良かったんでしょうけどね(笑)
けれど最近寒さが一段と厳しくなって来て、とにかく早く家に帰りたい気持ちも分かってしまったり。
いや、そもそも、持ち帰っても勝手に他人の携帯電話見なきゃ良いんですよね。

本編はどうしても長くなりがちなので・・・。
予告と違うことしてしまってすみません。
けど、喜んで貰えたみたいで良かったです。

智花さんへ
コメントありがとうございます。

初めまして。この度はコメント有り難う御座います。
僕は紺野と言います。一応、この話を書かせて頂いた者です。以後お見知り置きを。

凡庸ではないかと悩んだのですが、やはりオーソドックスなオチが一番しっくり来ますよね。
お褒め頂き光栄です。有り難う御座いました。

のり たま子さんへ
コメントありがとうございます。

嬉しいお言葉有り難う御座います。
実は、久々の創作短編ということで話を上手く纏められたか心配だったんです。
喜んで頂けたのならば何よりです。

よもつひらさかさんへ
コメントありがとうございます。

よもつひらさかさんからのコメントということで少し浮き足立っています。と、同時に緊張で固まっています。固いのに浮かんでいるとは此れ如何に。

僕も反応出来ないでしょうね。逃げることも出来ないし、引きこもりになってしまうかも知れません。

マガツヒさんへ
コメントありがとうございます。

初めまして。改めてご挨拶させて頂きます。
稚拙ながらも本作を書きました、紺野と申します。
こんばんは。

数ヶ月後にはきっと道端に彼のスマホが落ちているでしょうね。ばよえ~ん的な感じで連鎖するもようと思われます。

そもそも、ドアの外には誰が居るんでしょうね。いえ、誰か居るんでしょうか。居なくても面白いかも知れませんね。

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紺野さま
初めまして(^o^)
最後にゾゾゾゾ~ッと鳥肌が…
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

紺野様
ぞ〜っと鳥肌が立ちました((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

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