中編3
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両親からの留守番電話

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半年前、俺は事故を起こした。

大雨の中、車で高速道路を走っていると大型トラックと衝突。

大型トラックの運転手は首をむち打ちしただけで済んだらしいが、俺は腕や足、肩や腰などほぼ全身にケガを負うはめに。

警察と医者から、軽自動車で正面衝突して生きてられるのが奇跡だと言われた。

その言葉で死なずに済んだ安心感と、事故を起こしてしまった罪悪感が複雑な気持ちにさせる。

気持ちはモヤモヤしたまま俺は退院した。

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「お前大丈夫か?!

大変だったらしいな?!」

「まだ体調は万全とはいかないだろ?

あんまり無理するなよ」

上司からの言葉にご心配をおかけしましたと言いながら仕事に復帰する。

復帰したばかりの一~二週間は倒れてしまいそうなほど疲れた。

入院している間に体がなまって、体力も相当奪われている。

「あ~ぁ、今日も疲れた~」

自分が住むアパートに帰宅してソファーに座る。

明日も仕事だ。

ヨイショと立ち上がり、シャワーを浴びに脱衣場へ。

疲れやすくなっているせいか、退院してからは早めに寝るのが当たり前になった。

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冷蔵庫で冷やしておいたビールで体を潤す。

やっぱりコレだな~♪と幸せな気分になる。

何かつまみになるものはないかな?と冷蔵庫を開けていると家の電話が鳴った。

「もしもし?」

ブツ…… プー……プー……

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受話器をとると切れてしまった。

間違い電話か?と思って受話器を置くと、留守番電話のボタンが光っているのに気づく。

押すと留守番電話の内容が再生された。

実家の両親からで、たまには帰ってこいといった内容。

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今まで親孝行しないで迷惑ばかりかけてきた俺にとって、両親の声は苦痛でしかない。

それにどうして今になって……。

留守番電話の再生が終わるとため息がもれた。

…………………………

…………………………

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『新しいメッセージが一件あります』

ピー……

『新しいメッセージが一件あります』

ピー……

頭を抱えながら内容を聞く。

どうすれば……。

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留守番電話は毎日俺が仕事から帰宅すると入っている。

その内容を聞く度につらい気持ちになる。

声だけでもいいから聞かせてくれと、泣きながら言っている内容のときも。

そして一ヶ月が経った。

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いつまでもつづく留守番電話に堪えきれなくなった。

仕事の休みを利用して俺は実家へ向かった。

両親は悲しんでいるだろうか?

怒っているだろうか?

俺が帰ってくることに。

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今更帰ったって……。

何を伝えればいいんだよ……。

どんな顔して帰ればいいか分からない……。

こんな親不孝な俺が……。

今更帰って謝っても済むはずがない……。

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実家への道を行く間、帰るのをやめた方がいいのでは?と俺は何度も考えた。

気が進まないまま実家へ向かう。

昔友達とよく遊んだ寺にきたとき。

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「おぉ! ひさしぶりだね~!」

声をかけてきたのは寺の住職だった。

よく面倒をみてくれた人で、俺も覚えている。

おひさしぶりですと頭をさげて実家へ向かおうとしたら、住職が私も一緒に行くと言う。

不思議に思いながらも二人で実家へ向かった。

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「懐かしいね~」

俺の実家を眺めながら住職が言う。

この人には全部お見通しのようだ。

俺がなぜここにきたのかが。

玄関の前には数えきれないほどの花束。

もう見ることができない幸せそうな笑顔の写真。

「もう責めるのはやめたらどうかな?」

住職の言葉が強く突き刺さり思わず涙が溢れる。

住職に背中を撫でられながら、俺はその場にしゃがみこんだ。

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もう誰も住んでいない実家の前で謝りつづける。

あの日、俺が両親と出かけなかったら……。

あの日、俺が旅行に連れて行くなんて言わなかったら……。

俺のせいで両親は死んだんだ……。

俺のせいで……。

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俺が持ってきた花束を住職が置く。

手を合わせて目を閉じる。

住職は立ち上がると、君は悪くないよと言うが涙がとまらない。

その場を去ろうとする住職は一度立ち止まって言った。

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「さよならだけは言ってはいけないよ。」

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実感があふれていて、本当に事故の怖さが伝わりました。

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